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番外編(後日談)

番外編4−4

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 ふと、彼のにおいがした気がして、瞼をもちあげる。
 遠い意識の向こう側で、誰かがこそこそ言い争っているような声がする。ただ、ぼんやりした頭にはどうにも入ってこない。
 今は、あったかくて、ふわりと彼のにおいがして、幸福な気持ちに満たされていた。
 でも、ちょっとだけ空気にさらされている頬だけが冷たかったから、熱を求めてわたしは頬をすり寄せる。

「ん……」

 赤褐色の髪が、目に映る。
 ああ、レオルドのうなじ。この感覚、どうやらわたしはレオルドに背負われているみたいで。

(あったかい……)

 ふにゃふにゃと笑いながら、わたしは彼の首元にキスをする。
 なんだか向こうから、誰かが慌てたような声が聞こえた気がして、それから、レオルドの笑い声が続いた。

「なんだ、起きちまったのか?」
「ん……ぅ……? レオ、もっと……」

 いつもだったら、朝目覚めたら、ぎゅっと抱きしめてキスしてくれるのに。
 物足りなくておねだりすると、ますます上機嫌の笑い声が聞こえてくる。

「くっく! そんな可愛いおねだりは、ふたりきりのときにしとけよな? お前、人に見せる趣味なんざねえだろ?」
「ひと……みせる?」
「後で後悔するから、もうしゃべんな。ほら、もうちょっと寝てていいから、な?」
「ん……」

 レオルドの言葉に甘えてもう一度目を閉じようとしたその時、急に情報が頭に入ってきて、わたしは一気に覚醒する。

(まって? いま、レオルド、誰かと話して……って……!?)

 目を開けてびっくりした。レオルドの肩越しに、キースとアンナのふたりと、ばっちり目があったからだ。
 ついでに、周囲の環境も昨日の夜とは全然ちがっていて、家が見える。雪深い地であることには変わりないけれど、少し小洒落たお店の玄関とか、宿の入り口とか、そういうの。わけがわからなくて、わたしはぱくぱくと口を開け閉めする。

「な……な? レオ、ルド?」

 ここは、どこ? と、頭の中がハテナでいっぱいになった。

「視界さえひらけりゃあな。雪山なんて、どうとでもなるだろ?」
「え? えと……?」
「キースたちが迷いなくこの街まで来てくれてて助かったよ。おかげで、なんなく合流できた」

 つまり?
 朝起きて、わたしが眠りこけている間に、身体強化して雪山を走り抜けてきたとか……そういうこと?

「は? え? あれ???」
「んでも、早朝からオレ、めちゃくちゃ魔力使ったからな? 昨日も夜通し使ってたし。この街で仕事する前に、一日オレにお前の時間、くれるよな?」
「えっ? え?? え???」
「つーわけだ。キース、アンナ。疲れたから今日は休み。宿はもう、決めてあんだろ? ほら、案内たのむわ」

 目が覚めたら街にいたことも驚いたし、相変わらずのレオルドの非常識なほどの能力にだって驚いた。
 けれども、寝ぼけたまま彼に甘えちゃったところをバッチリアンナたちに見られて、全部全部吹き飛んでしまう。
 急に頬が熱くなって、涙で視界が潤んだ気がした。

「…………っ!! もう! レオルドの、馬鹿っ!!!」

 つい彼のせいにしてしまって、わたしは悲鳴をあげた。
 いや、無事に助かって、よかったといえばよかったんだよ?
 そもそも、緊張感知らずのレオルドにかかったら、わたしだって、いつもの朝みたいに感じちゃうのは当然なわけで。となると、キスが欲しくて甘えちゃうのも、仕方がないでしょ? うん、仕方がない!!
 ……のだけど、それをバッチリアンナやキースに見られたのは予想外すぎた。
 気恥ずかしくて、わたしは顔面真っ赤にして、全力で彼の背中に顔を隠した。

 晴れた空に、彼の笑い声が抜けていく。
 とんでもない一夜を過ごしたはずなのに、彼はいつもどこ吹く風。
 そしてわたしだって、結局そんな彼が好きで仕方ないのだ。
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