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番外編(後日談)
番外編5−7
しおりを挟むびゅうう、と冷たい風が吹き付けてきて、わたしは震える。
「さ、寒いっ……!」
「くくっ、ほら、シェリル。ほっぺ真っ赤だぞ?」
今日から一年でもっとも寒いと言われている、蒼き神の停日だ。
〈停滞〉と司る蒼き神の祝福がもっとも強まる一週間で、比較的雪が少ないフォ=レナーゼも、気温だけはひどく低くなる日が続く。
そんな凍える一週間を、この街では少しでも楽しく過ごそうと、お祭りがとり行われる。
どれだけお祭り好きなんだって思うけど、神の祝福のおかげで、不思議な自然現象もたまに見られたりもするからね。
だからどんなに寒くても、人は神の祝福をその目で見るために、外に出る。
空気中に氷が舞ったり、オーロラが見られる地方じゃないのに、空に蒼い光のカーテンが輝いたり。
わたしは黒き神の祝福を受けた魔法使いだからあんまり影響はないけど、魔法使いによっては、ひどく魔力が高まるひともいるんだって。
で、そんな蒼き神の停日として毎年恒例なのが、この中央公園で執り行われる、氷像祭なんだよね……!
国の北部からわざわざ大きな氷を切りだしてきて、彫刻して美しさを競うの。
氷の鳥の大群とか、お城とか――あとは、白き神の像なんかは人気の題材だよね。
芸術家も、そうじゃない人も団体で参加して、凍れる彫像を彫りだして。すっごくすっごく寒いけど、澄んだ透明な氷は、この日は蒼き神の祝福を受けるせいか、綺麗に蒼く発光したりもしてさ。
神さまの存在をつよく感じることができるから、みんなこぞって参加する。
すごく見応えがあるし、中にはへんてこなアイデアの像も出展してる人もいるから、いろんな発想が楽しくて、ついつい興味を持っちゃうんだよね。
ついでに、屋台で売っているぽかぽかスープを嗜むのも忘れない。
ふふふっ、寒いお外で飲むスープは格別だもの。
いわば冬の風物詩。フォ=レナーゼにいたらはずせないお祭りだ。
「ひゃあっ……!」
――って、ひとりで浮かれてたら、ひときわ冷たい風が吹いて、わたしはぎゅっと縮こまった。
「アア、マジで寒いな。――なんなら身体強化、いるか?」
あ、そういえばレオルドってば、寒さを感じにくくする魔法使えたっけ。
「いいよ。この寒さも、お祭りの醍醐味だもん」
強がると、横からにゅっと手が伸びてくる。
革の手袋に包まれた大きな手――それがわたしの両頬を包んで、冷たい風から守ってくれた。
ふふっ、そのままほっぺたむにむにするの、くすぐったい。
見上げると赤い瞳とばっちり目があって、互いに目を細める。
レオルドったらわたしで遊んでるよね?
でも、かまってもらえるのが嬉しくて、ついついはにかんだ笑顔を浮かべてしまう。
お祭りの賑わいもあいまって、まだ会場に入る前だっていうのに、わたしもるんるんと心が浮き立っちゃう。
うん、なんだかお祭りデートなんて、今までなかったもん。ウキウキしちゃうのは、仕方ないよね。
「あなたたち、ほんと平和よね。こっちはずっと、心臓痛かったのに」
って。
しまった。ちょっと浮かれすぎてたよね、人前で。
一緒に歩いていたケリーの呆れたような、ほっとしたような声が聞こえてきて、わたしは彼女に視線を送った。
「――って、ごめん。私が言える言葉じゃないよね」
なんて、すぐにケリーは訂正してくれるけどさ。
あはは、今日はケリーも一緒なのに、わたしのほうも浮かれ過ぎちゃったよね。
……実はね? 今日はケリーから誘ってくれたんだよね。
このお祭り、協賛でソーウェル家もかなり出資してるみたいで、顔が利く。
だから一緒にお祭りに行かないかって。レオルドとふたりのデートを邪魔して悪いけれど、今日は、ケリーに時間をくれないかって。
いつもぐいぐいくるケリーが妙にしおらしくて、調子が狂う。
いつもみたいに笑って、堂々と誘ってくれてよかったのにね?
でも、最初に送ってくれたお誘いの手紙を見て、彼女の心境はわたしだって理解している。
「気にしないで、ケリー。ちゃんと、終わらせましょ」
ケリーはきっと、ヒューバートのことを気にしているのだろう。
でも、わたしの気持ちは決まっているし、揺るぎない。だから、堂々としていようって決めた。
…………ううん、ほんとはね。
ヒューバートのためにも穏便にすませなきゃって……わたしだって、すっごく都合のいいことを考えてた。
けれどそれを、レオルドだけじゃない――ヒューバートの姉であるケリーにまで止められたのよね。
きちんと白黒つけましょうって。
ヒューバートのためにもそうしてあげてって。
だから、今日はケリーも一緒。
半分はお祭りを楽しむために、そしてもう半分は、ヒューバートのことをケリをつけるために、わたしたちはここに来たってわけ。
ケリーはなかば確信しているみたい。
今日、ここで、ヒューバートが行動を起こすって。
……うん。ケリーを通して、ヒューバートの気持ちは聞いたんだ。
わたしのことをね? 好きでいてくれたってことだけじゃない。
家族との関係性もよくなかったから、こんなヤケに走ってるんだって、教えてくれた。
わたしにとってはヒューバートは大切な従兄弟だもん。
一生懸命勉強して、これから大学を出てさ? ――卒業後はたぶん、研究や開発の方向へ進むと思うんだけど、そんな彼の未来を、こんなことで閉ざしてほしくない。
だから、ちゃんと決着をつける。
噂になってるこの街の人々の前で、白黒つけて、全部終わらせる。
うん。わたしだって、腹を括った。
「うし。ぼやっとしてねえで、行くぞ、シェリル」
レオルドだってその気だもんね。
まあ、レオルドの場合は、ヒューバートの未来とかはあんまり配慮してないっぽいんだけど。
どっちかっていうと、最近ヒューバートにはモヤモヤさせられっぱなしだったからね。
今日で決着つけられるっていうから、わりと乗り気なんだよね。……なんだかちょっと、上機嫌なんだもん。
「ヤツに好き勝手言わせるのは気にくわねえが――いいか? 今日はオレから離れんじゃねえぞ?」
「わかってるよ。ヒューバートには触れさせない、でしょ?」
「ん」
……このあいだ、手に触れさせたのをよっぽど根に持ってるね?
フォ=レナーゼだと握手とかハグの文化、普通にあるのに、ヒューバートに触れさせるのは嫌みたいなんだよね。
「……」
じーっと、レオルドの顔をまじまじと見つめて、わたしは考える。
「な、なんだよ……?」
「レオルドってば、意外と嫉妬深いよね?」
「!」
あ。
言葉にはされたくなかった?
さっと頬を赤くしたレオルドは視線をふいっと逸らして、わたしの頭をがしがしとなでた。
「るせ。お前は、オレのだろ?」
「…………うん」
後ろを歩くケリーが吹き出すのがわかった。
ううっ。でも、事実じゃないかなって思うんだけど……自惚れじゃ、ないよね……?
「じゃ、とっととそれを証明してやる。ほら、行くぞ」
どこにヒューバートがいるかなんてわからない。
けれど、きっと、一番人が多いところだと思う。
レオルドがわたしの手を引いた。それから、ケリーが横に並び、会場に向かって指を指す。
浮き足だった人々の進行方向に添うように、わたしたちもまた、会場の方へと歩いていった。
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