絶倫騎士さまが離してくれません!

浅岸 久

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番外編(後日談)

番外編5−10

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 不機嫌そうな顔を通りこして、目が爛々としだした。いったい今の主張に、何を爛々とするところを見いだしたのだろう。

「でも。やっぱり……諦められない! 僕は、僕の人生をかけて、あなたを手に入れるために結果を出した。
 だからお願いだ。僕とのことも考えて……! 僕の……っ、僕の方がっ、きっと!」

 ヒューバートの声が震える。
 不安を覆い隠して、それでも彼は宣言する。

「僕の方が、きっと! その人よりも、あなたを大切にする! だから……だからっ……」

 ああ、いよいよ。
 彼は口にする。

「レオルドよりも、僕を選んで。お願い! します!」

 そう言って彼は、長年の研究の成果を前に突き出す。

 それは彼の全てだった。今まで贈られてきたお菓子やお花とは比べものにならないほどに想いのこもった贈り物。
 きらきらと輝くそれらの瓶を見つめて、わたしはごくりと唾を飲み込んだ。


 こたえは、ここに来る前から決まっている。

 ごめんなさい。
 あなたの想いに報いることはできない。一生。

 はっきりその言葉を告げたら、すべてが終わる。
 だから、ちゃんと告げようとして、わたしは唇を開いた。

 けれども、レオルドがわたしの手を引き、言葉を遮ったのだ。

「ふぅーん。ほぉー。なるほどなあ。
 つまり――テメエは今日まで、その高密度魔力アイテール・保有植物ディエトの抽出エキスとやらの研究にかまけていたら、横からオレにシェリルをかっさらわれたと? そう言いたいわけだな」

 ニイイ、と、それはもういい笑みを浮かべて、レオルドはわたしの肩を抱き寄せた。
 な、もういいよな?
 レオルドはわたしにそう囁いて、ヒューバートに視線を送る。

 その有無を言わせない様子に、わたしがこくりと頷くなり、彼は満足したようにわたしの肩をぽんぽんと叩いた。

「で、オレよりもシェリルに相応しいってか? くくくっ、言ってくれるぜ」

 そう言いながらレオルドは一歩二歩と前に進み、ヒューバートの目の前に立つ。

「ふぅーん。高密度魔力アイテール・保有植物ディエト……なあ」
「……! まっ……!?」

 そうぼんやり言いながら、パシッと彼の手の中からその瓶の入った箱をかっぱらい、蓋を閉める。

「よかったな、シェリル。もらってやれ。
 調べて問題なさそうだったら、ありがたく使ってやろうぜ」
「ちょ!? レオルド……!?」

 ものすっごくずうずうしいもの言いに、わたしは目を白黒させる。
 いや……うん! ヒューバートの研究はすごいものだと思うよ!? けどさあ、愛の告白とともにこれまでの人生をかけたといってもいいくらいの想いのこもった研究成果に対する扱いじゃないような気がするけど!?
 これじゃあレオルド、完全に悪人じゃないのっ。

「待て。それは、お前へのものじゃなくて」
「シェリルに、だろ? わかってるよ。まあ、アンタの心配してたシェリルの食事事情はな、オレだって気にはなってたからな」
「……っ」

『――もちろん、もう、高密度魔力アイテール・保有植物ディエトなんて必要なくなったが、な?』――なんて、彼はわたしとヒューバートにだけ聞こえるような声で続けて。

 その意味を理解できないヒューバートでもない。
 彼の頬はさっとあかく染まって、わたしから目を逸らす。
 ……もちろんわたしだって気はずかしい。
 けれど、そういうことだ。
 わたしには、レオルドがいる。もうあの食事にはもどらない。

「だが残念だな。お前は圧倒的に負けている。そんなんじゃあ、シェリルは手にはいらねえぞ?」
「なんだと……!? お前に負けはしな――」
「アア? 勘違いしてんじゃねえぞ? オレじゃねえだろ?」
「は?」
「シェリルにだよ。当のシェリルに負けてるっつってんだ。なっさけねえ」

 ………………ん?

 その言葉にヒューバートだけじゃない。わたしまで目を丸くして、ぱちぱち瞬く。

「……だからよ。なんでお前まで驚くんだよ」
「だ、だって」
「あの男が、お前にかなうはずがねえだろ。――つまりあれだろ? こんなチンケなブツの研究にかまけて、お前のことなんててんで見られてなかったじゃねえか」
「……」
「結婚することすら知らなかっただなんて、なんのいいわけもできねえだろ? お前がオレを迎えに来て半年くらいか? 一度も、お前のことを気にかけて、どこにも調べを出さなかったってコトだろ?」

 ……た、たしかに。
 言われてみれば、そうだ。
 ヒューバートはわたしが結婚したことすら知らなかった。

「家族に連絡してもらえなかったとかいうのも、ただのいいわけじゃね?
 金持ちみてえだし、こんな研究に金つぎ込む暇があったら、情報屋のひとりやふたり雇えるだろ? 未成年だからって甘えて、動かなかった馬鹿はどいつだ?」
「そ、それは……」
「シェリルはオレのこと、調べてただろ? ずっと探して、見つけて」
「う、うん……」

 当たり前だ。
 わたしは全てをかけて、レオルドのことを探し回っていた。
 ううん、レオルドが行方不明になる前も、ずっと彼の動向をうかがって――っていったら、ちょっとやり過ぎな気がするけれども、でも、彼の情報を少しでも手に入れて、彼の存在を感じたかった。

「この男は、結局テメエに自信がねえだけじゃねえか。こんな贈り物でおぎなわねえと、お前に釣りあわないっていいわけも、結局は臆病者だからだろ?
 こんな薬に頼る必要ねえじゃねえか。ぶつかって、愛してやればさ、肉体一つでどうにでもなることだぜ?
 この男は結局、シェリルのためだって言いながら、ずっと自分を守ってただけだろう? ぶつかる勇気がなくて、遠回りしてたのを正当化して、テメエの姉貴や親父に責任押しつけて、今はこうやってわがまま言ってお前を困らせてる。
 ――身一つでオレにぶつかってきて、怖くてもちゃんと向きあって口説き続けてきたシェリルの勝ち。圧勝だろ、どう見ても」
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