絶倫騎士さまが離してくれません!

浅岸 久

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番外編(後日談)

〈書籍化記念〉番外編6 ねえ、レオルド あなたはいつも、わたしを甘やかしてくれるのね?

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「シェリルさま、とてもお綺麗ですよ」
「ほ、ほんとに……? うーん、見慣れてないからかな。なんだか、ちょっと落ち着かないかも」

 鏡に映った自分の顔を確認して、わたし、シェリル・アルメニオはなんとも気恥ずかしい気持ちになった。


 ――よく晴れた春の日。
 新居での生活もようやく慣れたころ。
 今日は互いに時間がとれたから、久しぶりにレオルドとゆっくりデートする予定で、今はその支度中。

 このところ、やっぱりレオルドがちょこちょこ忙しくって。
 春はいつも、冬眠から目ざめたモンスターの動きが活発になり始める季節だからね。レオルドってなしょっちゅう借り出されてて――ついでに言うと、彼もまとまって稼ぐいい機会だからってあちこちの討伐に顔を出してて。
 ようやくそれも落ち着いて――その。魔法使いの生理現象というか。事情でね? 例のごとく、ちょーっとだけ、ゆっくりお籠もりとかもしちゃったりして。

 ……わたしとしては……それも、ね? レオルドとふたりでゆっくりできて。幸せだったりもしたんだけど。
 でもほら。いつまでも籠もってばかりじゃいられないからさ。
 ようやく解放してもらって。せっかくだから、今日は久々にふたりでお出かけすることになったんだけど。

 ――この日、わたしは、あるひとつの決心をしていた。


 街歩き用に動きやすさを意識しつつも、デートだからね? 今日は大人っぽさよりも可愛さ優先。フリルたっぷりめの春色ワンピースに、髪もちょっとアレンジなんかしちゃったりして。
 春らしいふんわりとした感じのコーディネートは久しぶりで、ちょっとやり過ぎちゃったかなとも思うんだけどさ。……いいよね? たまには、こういうのも。
 で。……当然、お化粧もね? 付き人のアンナの手で、それはもう……とっても綺麗にしてもらったんだけどさ。
 鏡に映った自分の姿を見て、わたしは、ぱちぱちと瞬いた。

「結構、変わるものなのね、わたしってば」
「ふふっ、レオルドさまもびっくりなさると思いますわよ」
「そうかな? ……ううっ、ちょっと緊張するかも」

 まじまじと、あるものがない・・・・・・・自分の顔を眺めてみる。
 っていうのも、鼻頭のところ。
 これまでずっとチャームポイントにしてきたそばかすを、今日はお化粧で綺麗に隠してるんだよね。

「変じゃ、ないよね……うん」

 最後にもう一度自分の顔をチェックしてから、勇気を出して、部屋を出て。
 わたしを待ってくれていたレオルドの元へ向かう。


 階下に降りて、玄関先で待ってくれていた彼に声をかけると、彼は振り返り――、

「――シェリル」

 ――驚いたように目を見開いた。

 赤銅色の髪を後ろに流した彼は、この日は少し気取ったようなジャケットスタイルでさ。
 カジュアルさと上品さ、どちらも感じられるきれいめのファッションで、そのスマートな立ち姿にわたしのほうがくらくらしてしまう。
 鮮やかな赤色の瞳で、じっとわたしを熱っぽく見つめていてさ。なんだかそれだけで、わたしってば茹だってしまいそう。

 気恥ずかしくてそっと目を逸らす。
 でも彼に手を差し出されると、ふらふらふらって引き寄せられちゃって。ぐいって、手を引かれ、腰を抱かれた。

「――いつもと、印象がちがうな?」
「えっと。……うん。ちょっとね? 変、かな……?」
「いいや?」

 彼は嬉しそうに口の端を上げた。
 きっと、わたしのメイクの変化にも気がついた上での言葉なんだと思う。
 片腕でぐいっと腰を抱き込まれ、もう片方の手はわたしの頬に。頬にかかった横髪を耳にかけて、もったいぶるように撫でられる。

「じゃ、あっちでもっとよく見せてもらうとするか」

 それから彼はわたしの腰に腕を回したまま、玄関を出ると、待たせていた馬車に乗り込んだ。
 そうしてわたしを自身の膝の上に乗せたまま、馬車を出すように声をかける。

 レオルドってば、いまだにデガン王国を旅していたときと同じで、馬車に乗るときはいつもわたしを膝の上に座らせたがるのよね。
 気恥ずかしいけれど、でも……全然、嫌とかじゃなくて。
 むしろ、いつまで経っても気恥ずかしい。


 扉が閉まり、ふたりきりになって。
 動きはじめた馬車の中、彼とはすごく顔が近くて。
 いつも通りのカラッとした彼の笑顔に、わたしはどきどきしっぱなし。
 そして彼はじっと、そばかすのないわたしの顔を見つめ続けていた。

「で? どういう風の吹き回しだ?」
「えっとね――」

 聞かれると思ってた。
 レオルドはとってもストレートだから。思ったことは、ちゃんと口にする。
 だからわたしはこくりと頷いて、つっかえながらも、これまで考えていたことを口にした。


 ――ずっとね。
 いつか、きっかけさえあればとは思っていたんだ。
 だったらはじめてのときは、レオルドと一緒に出かけるときがいい。

 生まれたときから、髪の色も、瞳の色も、わたしひとりだけが家族と違っていてさ。大好きな家族とお揃いのものっていったら、このそばかすだけだったから。
 アルメニオ家の証明とでもいうのかな。
 このそばかすだけはどうしても隠したくなくて。お化粧も薄くして、あえてそばかすが見えるようにしてきたんだけどさ。

 レオルドと結婚して。
 彼が、どんな姿でも、どんな色彩でも、わたしがアルメニオ家の一員だって言ってくれて。
 だからね? わたしも、ふっきれたんだと思う。
 そばかすが見えなくても、わたしはシェリル・アルメニオ。
 だから、今日のお出かけをきっかけに、ちょっとだけ変わってみようかなって思ったの。


 そういうことを、ぽつぽつとね。言葉にしたらさ。
 彼は良くやったと言わんばかりに、がしがしってわたしの頭を撫でて、甘やかしてくれた。

「別に、難しく考える必要なんざねえと思うがな?」
「え?」
「隠すも、隠さないも、その日の気分でいいんじゃねえの? 見せたいときは見せればいいし、しっかり化粧したけりゃそうすりゃいい。
 ――女ってのは、気分で化粧も変えたりするだろ? どっちも楽しめたほうがいいじゃねえか」
「レオルド」
「オレからすりゃあ、どっちのシェリルも、シェリルらしいぜ?
 まあ、そこいらの男にとっちゃ、綺麗に隠してた方が魅力的かもしれねえからなあ。そういう意味では、いつものお前の方が、オレも安心できるといえばそうなんだが……」

 そう言いながらも、レオルドは耳元に口づけを落とす。

「でもまあ。寄ってくる虫はオレが追い払えば済むことだし。お前のやりたいようにすりゃあいいさ」
「――ふふっ」

 彼のあまりの自信に、つい、わたしの笑みもこぼれる。

「胸張ってろ。どうあっても、お前は綺麗だよ」
「……レオルドったら」

 綺麗だ、なんて。
 いつから彼は、こんなにもストレートにわたしの容姿を褒めてくれるようになったのだろう。
 気恥ずかしくて。でも、誇らしくて。

 わたしの黒髪を梳くって口づけてみせる気障な彼に、わたしも笑ってみせる。
 あ。レオルドの顔がちょっと赤い。
 ふふっ、自分でやっておいて、恥ずかしいんだ?

 わざと気障なことして、おどけてみせるところとか、とても好き。


「ふふっ、ありがと」

 彼の胸もとにもたれかかるようにして、擦り寄ってみせる。
 彼も満足そうに喉の奥で笑って見せて、髪を――そして、頬を撫でてくれて。

 いっぱい、いっぱいわたしを甘やかしてくれるんだ。


 がららら、と馬車は街中へと向かっていく。
 目的地までもうしばらく。
 彼には甘やかしてもらっちゃおうと思う。

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