絶倫騎士さまが離してくれません!

浅岸 久

文字の大きさ
49 / 54
番外編(後日談)

番外編5−13〈完〉


 というわけで。

 波乱に満ちたお祭りも無事に終わり。
 蒼き神の停日が過ぎたら、ヒューバートもマーセリーナ王国へ戻るんだって。
 ちなみに、高密度魔力アイテール・保有植物ディエトの抽出エキスは、頂いた分はそのまま預かることになった。だって、これは彼の、これまで人生をかけてきた成果だしね。

 技術は技術。
 正直、ヒューバートの想いとかを抜きにして考えたら、商人的にはすごーく可能性を秘めた研究成果で、興味あるんだよねっ。
 魔法使いってたいていはそれなりにお金持ちが多いからさ。いざってときのために携帯しておきたい人とかいそうだもん。うまくやれば、いくらでも商品としての可能性はありそうだし。
 とはいえ、量産体制を整えるには、まだまだ時間が必要そうなのだけれど。

 ……なんてね、すっかり商売ベースで考えちゃってるけどさ。
 これじゃあわたし、ヒューバートの想いを利用したただの悪女になってるよね。
 えへへ……ごめんなさい。
 でもでもっ、これが世の中に出回ったら、救われる魔法使いっていっぱいいると思うんだ。

 みんながみんな、副作用を紛らわせるために、好きこのんで色欲に身を投じてるわけじゃない。
 だから、ヒューバートの研究は、確実に世の中の魔法使いを救うためのものなんだって、わたしは思う。


 ――――というわけで、騒動のそのあと。
 つまり、つい先ほどまで、ヒューバートと改めて話す機会をもらってさ。
 ちゃんとお互いに、落ち着いて話しあったんだよね。
 そしたら彼さ?

『シェリルさんが僕のものになってくれないなら、これはソーウェル商会で商品化します』

 ってさ。
 あはははは……さすがに販売権まではもらえないよね。知ってた。

『――魔法使いとして研究につきあってくださるなら、共同開発としてあげてもいいですよ』

 でも、ちょっと開き直るように交渉してきて。
 レオルドいわく、負け惜しみみたいなもの……らしいけれど。

『シェリルさんを好きになって……こんなものを作れたのだから、僕の恋は無駄なんかじゃなかった』

 そう言ってヒューバートは、泣きながら笑ってた。

 家族みんなに怒られて、街の人にも噂が広がって、彼にとってはとてもつらい経験になったと思う。けれど、彼はちゃんとそれを全部受けとめて、これからも研究に身を投じるんだって宣言して。

 それでこの騒動は全部おしまい。



 わたしはレオルドと手を繋いで帰路につく。
 夕焼けに染まる街を見ながら、わたしはどんどんと歩いていった。

 ソーウェル家から、馬車を出そうかって言われたけど、断った。
 もちろん、うちに迎えを寄越してもらうこともできたんだけどね。それもなし。
 だって、レオルドと一緒にお散歩したい気分だったんだ。

「夕焼けの道、一緒に歩いてるとさ……思い出すんだよね」
「なにがだ?」
「メルクルーネ橋。デガン王国の。……一緒に、歩いて渡ったでしょ?」
「ああ」

 はああと、わたしは真っ白い息を吐き、寒いねえと言いながらレオルドの手を引っ張った。

「そんなに寒いなら、やっぱ迎え呼んでもらえばよかったじゃねえか」
「わかってないなあ。レオルド、今日、わたしデートのつもりだったんだよ?」
「ん」
「せっかくのお祭りデートなのに、やっぱりバタバタしちゃって、それどころじゃなかったでしょ?」

 レオルドとはもう、いっぱいふたりでいろんなところに行ってるよ?
 でも、まだ足りない。
 もっともっと、わたしはレオルドを独り占めしたい。

「――だから、ちょっと遠回りして、かえろ?」
「へいへい、リョーカイ。オレの女神サマ?」

 そう言いながら、彼は手袋をはずして、わたしのほっぺに触れる。
 そうしたらまたほわん、と温かな空気に包まれた感覚がして、わたしは瞬いた。

 身体強化の魔法だ。
 でも、これくらいの軽いものなら、手袋をしてても余裕でかけられると思うのに。

「レオルド?」
「オレとしては、早いところ帰って? もっと直接触れたいところなんだがな?」

 手袋越しじゃ足りないって、言ってくれてる?

「でもまあ。今はこれで満足しておいてやるよ」

 それから彼が顔を寄せてきて、ふにっと唇が触れあった。


「着込んでるから大丈夫なのに……まっ、魔力の無駄遣いっ。あとで、反動来るよ?」
「知ってるよ。つか、お前の方だろ、ヤバいのは。魔力使いすぎ」
「うっ」

 ……レオルドの言葉はもっともだよね。
 久しぶりにすっごく大規模な魔法を使ったせいで、家に帰るころにはいろいろ反動が来ちゃいそうだ。

「つーわけで、お互い慰めあって…………いや、ちがうな?」
「?」
「あのヒューバートに勝るっつう? お前の渾身の愛ってやつを? 見せてくれよ」

 たっぷり奉仕たのむわ、と、あけすけに言い放つ。

「ちょ! レオルド!?」
「くくくっ――何してくれるのか楽しみだ」

 上に乗ってくれるのか、それともしゃぶってくれるのか――って、下品な言葉を続けながら、レオルドはカラカラと笑って歩く。

 もうっ! 誰かに聞かれてたらどうするのっ。
 た、たしかに、愛してる気持ちはだれにも負けるつもりないけれど。
 レオルドったら、もうちょっと……ほら、表現……あるじゃない?

 わたしはぷりぷり怒りながら、それでもレオルドの腕にぎゅっとしがみつく。
 そしたら彼と目があってさ、じっと、優しい目で見つめられるから、わたしは何も言えなくなった。

 なにその目。
 なんだかすごく……熱っぽいっていうか。……あれ……頬が熱くなってきちゃった。えーっと……副作用もう出てきちゃった? ちがう? 身体強化魔法のおかげ?

「…………」

 見つめられて、自覚する。
 あのさ……レオルドも、すっごく……わたしのこと、好きだよね……?
 どれくらい好き? なんて、子供っぽいこと、さすがに聞きにくいけどさ。

「レオルド? あのね」
「ん?」
「わたしは。……その。だれにも、負けないよ?」

 この日何度も好きを伝えすぎて、改まるのが逆に気恥ずかしい。
 だけどね。わたしだって聞きたい。
 レオルドは、どうかな? 言葉にはしてくれないのかな……?
 ――なんて、つい期待を込めた目で見つめちゃう。

 そしたらレオルドってば、わたしがなにを言ってほしいのか気付いたんだと思う。
 あー、とか、うー、とか言葉を濁して、がしがしと頭を掻いていた。

「あれだけ大勢の前でタンカきらせといて、まだ足りないのかよ?」
「うん」

 すぐ抱きたいとか、そういう遠回しな表現はしてくれるけどさ。
 レオルドって、改まった言葉、恥ずかしがってなかなか言ってくれないもん。

「……」
「……」
「…………」
「…………ああもう、わかった。わかったよ!」

 じいいいと見つめると、彼が顔を真っ赤にしながら目を逸らす。
 だけど繋いだ手をぐいって引っ張って、わたしの身体、強く抱きしめてくれた。


「オレだって、あんなガキには、負けねえよ。ちょっかい出してくるたびにイラつく程度にはお前に惚れてる」
「……」
「…………こ、これでも駄目なのかよっ!?」

 もう一押し。と期待に満ちた目で見つめると、レオルドが観念したように、眉を寄せ――それから、キスが落ちてくる。

「あんなのに絡まれても、お前が見向きもしないことくらい、理解してる。つーか……信じてる、つーか。…………まあ。つまり、そういうことだ」
「ん」
「くそ、……はずい。もういいだろっ! 遠回りもしねえ。とっとと帰るぞっ!」

 そうガシガシわたしの頭をなで回しながら、彼が全身に魔力を張り巡らせるのがわかった。
 んー……これは、夕食も食べずに部屋籠もり……かな。

 ふふっ、レオルドってば、気恥ずかしくなるとすぐ身体で誤魔化そうとするよね。
 でも、わたし知ってるよ?
 裸で抱きあっているときは、レオルドは惜しみなく愛の言葉をくれる。わたしがほしい言葉、これからたっぷり、言ってくれるんだよね?

「デートの続きはまた今度だね」
「祭りは明日以降もまだ続くんだろ? 仕切り直ししようぜ。――が、その前に、ほら。することがあるだろ?」
「もう……っ」

 仕方がないなあとわたしはくすくす笑う。
 でもね、わたしだって、早く彼といっぱい触れあいたい。

 副作用?
 ……ううん、たぶん、本能。

 わたしはぎゅっと彼にしがみつき、頬にキスをする。
 もっと近く触れあいたくて、わがままばかりが膨らむけれど、きっとそれはレオルドも一緒だ。


 ね、レオルド。
 ベッドの中でなら、もっとあなたの本音、聞かせてくれるよね?

 たくさん、愛してるって言ってね?







――――――――――――――――――――
〈あとがき〉

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

これにてシェリルとレオルドの物語はいったん区切りとさせて頂きます。
とはいえ、また番外編等を思いついたおりには、なにか綴りたい気持ちはあります。
それくらいに、書いていて楽しいふたりでした。

ここまでふたりを見守ってくださった読者のみなさま、本当にありがとうございました。


浅岸 久

感想 150

あなたにおすすめの小説

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

捨てられ王女は黒騎士様の激重執愛に囚われる

浅岸 久
恋愛
旧題:愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜 初夜、夫となったはずの人が抱いていたのは、別の女だった――。 弱小国家の王女セレスティナは特別な加護を授かってはいるが、ハズレ神と言われる半神のもの。 それでも熱烈に求婚され、期待に胸を膨らませながら隣国の王太子のもとへ嫁いだはずだったのに。 「出来損ないの半神の加護持ちなどいらん。汚らわしい」と罵られ、2年もの間、まるで罪人のように魔力を搾取され続けた。 生きているか死んでいるかもわからない日々ののち捨てられ、心身ともにボロボロになったセレスティナに待っていたのは、世界でも有数の大国フォルヴィオン帝国の英雄、黒騎士リカルドとの再婚話。 しかも相手は半神の自分とは違い、最強神と名高い神の加護持ちだ。 どうせまた捨てられる。 諦めながら嫁ぎ先に向かうも、リカルドの様子がおかしくて――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

一妻多夫の獣人世界でマッチングアプリします♡

具なっしー
恋愛
前世の記憶を持つソフィアは、綿菓子のような虹色の髪を持つオコジョ獣人の令嬢。 この世界では男女比が極端に偏っており、女性が複数の夫を持つ「一妻多夫制」が当たり前。でも、前世日本人だったソフィアには、一人の人を愛する感覚しかなくて……。 そんな私に、20人の父様たちは「施設(強制繁殖システム)送り」を避けるため、マッチングアプリを始めさせた。 最初は戸惑いながらも、出会った男性たちはみんな魅力的で、優しくて、一途で――。 ■ 大人の余裕とちょっと意地悪な研究者 ■ 不器用だけど一途な騎士 ■ ぶっきらぼうだけど優しい元義賊 ■ 完璧主義だけど私にだけ甘えん坊な商人 ■ 超ピュアなジムインストラクター ■ コミュ力高めで超甘々なパティシエ ■ 私に一生懸命な天才年下魔法学者 気づけば7人全員と婚約していた!? 「私達はきっと良い家族になれます!」 これは、一人の少女と七人(…)の婚約者たちが、愛と絆を育んでいく、ちょっと甘くて笑える逆ハーレム・ラブコメディ。 という異世界×獣人×一妻多夫×マッチングアプリの、設定盛りだくさんな話。超ご都合主義なので苦手な人は注意! ※表紙はAIです

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。