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番外編(後日談)
番外編5−13〈完〉
しおりを挟むというわけで。
波乱に満ちたお祭りも無事に終わり。
蒼き神の停日が過ぎたら、ヒューバートもマーセリーナ王国へ戻るんだって。
ちなみに、高密度魔力保有植物の抽出エキスは、頂いた分はそのまま預かることになった。だって、これは彼の、これまで人生をかけてきた成果だしね。
技術は技術。
正直、ヒューバートの想いとかを抜きにして考えたら、商人的にはすごーく可能性を秘めた研究成果で、興味あるんだよねっ。
魔法使いってたいていはそれなりにお金持ちが多いからさ。いざってときのために携帯しておきたい人とかいそうだもん。うまくやれば、いくらでも商品としての可能性はありそうだし。
とはいえ、量産体制を整えるには、まだまだ時間が必要そうなのだけれど。
……なんてね、すっかり商売ベースで考えちゃってるけどさ。
これじゃあわたし、ヒューバートの想いを利用したただの悪女になってるよね。
えへへ……ごめんなさい。
でもでもっ、これが世の中に出回ったら、救われる魔法使いっていっぱいいると思うんだ。
みんながみんな、副作用を紛らわせるために、好きこのんで色欲に身を投じてるわけじゃない。
だから、ヒューバートの研究は、確実に世の中の魔法使いを救うためのものなんだって、わたしは思う。
――――というわけで、騒動のそのあと。
つまり、つい先ほどまで、ヒューバートと改めて話す機会をもらってさ。
ちゃんとお互いに、落ち着いて話しあったんだよね。
そしたら彼さ?
『シェリルさんが僕のものになってくれないなら、これはソーウェル商会で商品化します』
ってさ。
あはははは……さすがに販売権まではもらえないよね。知ってた。
『――魔法使いとして研究につきあってくださるなら、共同開発としてあげてもいいですよ』
でも、ちょっと開き直るように交渉してきて。
レオルドいわく、負け惜しみみたいなもの……らしいけれど。
『シェリルさんを好きになって……こんなものを作れたのだから、僕の恋は無駄なんかじゃなかった』
そう言ってヒューバートは、泣きながら笑ってた。
家族みんなに怒られて、街の人にも噂が広がって、彼にとってはとてもつらい経験になったと思う。けれど、彼はちゃんとそれを全部受けとめて、これからも研究に身を投じるんだって宣言して。
それでこの騒動は全部おしまい。
わたしはレオルドと手を繋いで帰路につく。
夕焼けに染まる街を見ながら、わたしはどんどんと歩いていった。
ソーウェル家から、馬車を出そうかって言われたけど、断った。
もちろん、うちに迎えを寄越してもらうこともできたんだけどね。それもなし。
だって、レオルドと一緒にお散歩したい気分だったんだ。
「夕焼けの道、一緒に歩いてるとさ……思い出すんだよね」
「なにがだ?」
「メルクルーネ橋。デガン王国の。……一緒に、歩いて渡ったでしょ?」
「ああ」
はああと、わたしは真っ白い息を吐き、寒いねえと言いながらレオルドの手を引っ張った。
「そんなに寒いなら、やっぱ迎え呼んでもらえばよかったじゃねえか」
「わかってないなあ。レオルド、今日、わたしデートのつもりだったんだよ?」
「ん」
「せっかくのお祭りデートなのに、やっぱりバタバタしちゃって、それどころじゃなかったでしょ?」
レオルドとはもう、いっぱいふたりでいろんなところに行ってるよ?
でも、まだ足りない。
もっともっと、わたしはレオルドを独り占めしたい。
「――だから、ちょっと遠回りして、かえろ?」
「へいへい、リョーカイ。オレの女神サマ?」
そう言いながら、彼は手袋をはずして、わたしのほっぺに触れる。
そうしたらまたほわん、と温かな空気に包まれた感覚がして、わたしは瞬いた。
身体強化の魔法だ。
でも、これくらいの軽いものなら、手袋をしてても余裕でかけられると思うのに。
「レオルド?」
「オレとしては、早いところ帰って? もっと直接触れたいところなんだがな?」
手袋越しじゃ足りないって、言ってくれてる?
「でもまあ。今はこれで満足しておいてやるよ」
それから彼が顔を寄せてきて、ふにっと唇が触れあった。
「着込んでるから大丈夫なのに……まっ、魔力の無駄遣いっ。あとで、反動来るよ?」
「知ってるよ。つか、お前の方だろ、ヤバいのは。魔力使いすぎ」
「うっ」
……レオルドの言葉はもっともだよね。
久しぶりにすっごく大規模な魔法を使ったせいで、家に帰るころにはいろいろ反動が来ちゃいそうだ。
「つーわけで、お互い慰めあって…………いや、ちがうな?」
「?」
「あのヒューバートに勝るっつう? お前の渾身の愛ってやつを? 見せてくれよ」
たっぷり奉仕たのむわ、と、あけすけに言い放つ。
「ちょ! レオルド!?」
「くくくっ――何してくれるのか楽しみだ」
上に乗ってくれるのか、それともしゃぶってくれるのか――って、下品な言葉を続けながら、レオルドはカラカラと笑って歩く。
もうっ! 誰かに聞かれてたらどうするのっ。
た、たしかに、愛してる気持ちはだれにも負けるつもりないけれど。
レオルドったら、もうちょっと……ほら、表現……あるじゃない?
わたしはぷりぷり怒りながら、それでもレオルドの腕にぎゅっとしがみつく。
そしたら彼と目があってさ、じっと、優しい目で見つめられるから、わたしは何も言えなくなった。
なにその目。
なんだかすごく……熱っぽいっていうか。……あれ……頬が熱くなってきちゃった。えーっと……副作用もう出てきちゃった? ちがう? 身体強化魔法のおかげ?
「…………」
見つめられて、自覚する。
あのさ……レオルドも、すっごく……わたしのこと、好きだよね……?
どれくらい好き? なんて、子供っぽいこと、さすがに聞きにくいけどさ。
「レオルド? あのね」
「ん?」
「わたしは。……その。だれにも、負けないよ?」
この日何度も好きを伝えすぎて、改まるのが逆に気恥ずかしい。
だけどね。わたしだって聞きたい。
レオルドは、どうかな? 言葉にはしてくれないのかな……?
――なんて、つい期待を込めた目で見つめちゃう。
そしたらレオルドってば、わたしがなにを言ってほしいのか気付いたんだと思う。
あー、とか、うー、とか言葉を濁して、がしがしと頭を掻いていた。
「あれだけ大勢の前でタンカきらせといて、まだ足りないのかよ?」
「うん」
すぐ抱きたいとか、そういう遠回しな表現はしてくれるけどさ。
レオルドって、改まった言葉、恥ずかしがってなかなか言ってくれないもん。
「……」
「……」
「…………」
「…………ああもう、わかった。わかったよ!」
じいいいと見つめると、彼が顔を真っ赤にしながら目を逸らす。
だけど繋いだ手をぐいって引っ張って、わたしの身体、強く抱きしめてくれた。
「オレだって、あんなガキには、負けねえよ。ちょっかい出してくるたびにイラつく程度にはお前に惚れてる」
「……」
「…………こ、これでも駄目なのかよっ!?」
もう一押し。と期待に満ちた目で見つめると、レオルドが観念したように、眉を寄せ――それから、キスが落ちてくる。
「あんなのに絡まれても、お前が見向きもしないことくらい、理解してる。つーか……信じてる、つーか。…………まあ。つまり、そういうことだ」
「ん」
「くそ、……はずい。もういいだろっ! 遠回りもしねえ。とっとと帰るぞっ!」
そうガシガシわたしの頭をなで回しながら、彼が全身に魔力を張り巡らせるのがわかった。
んー……これは、夕食も食べずに部屋籠もり……かな。
ふふっ、レオルドってば、気恥ずかしくなるとすぐ身体で誤魔化そうとするよね。
でも、わたし知ってるよ?
裸で抱きあっているときは、レオルドは惜しみなく愛の言葉をくれる。わたしがほしい言葉、これからたっぷり、言ってくれるんだよね?
「デートの続きはまた今度だね」
「祭りは明日以降もまだ続くんだろ? 仕切り直ししようぜ。――が、その前に、ほら。することがあるだろ?」
「もう……っ」
仕方がないなあとわたしはくすくす笑う。
でもね、わたしだって、早く彼といっぱい触れあいたい。
副作用?
……ううん、たぶん、本能。
わたしはぎゅっと彼にしがみつき、頬にキスをする。
もっと近く触れあいたくて、わがままばかりが膨らむけれど、きっとそれはレオルドも一緒だ。
ね、レオルド。
ベッドの中でなら、もっとあなたの本音、聞かせてくれるよね?
たくさん、愛してるって言ってね?
――――――――――――――――――――
〈あとがき〉
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
これにてシェリルとレオルドの物語はいったん区切りとさせて頂きます。
とはいえ、また番外編等を思いついたおりには、なにか綴りたい気持ちはあります。
それくらいに、書いていて楽しいふたりでした。
ここまでふたりを見守ってくださった読者のみなさま、本当にありがとうございました。
浅岸 久
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