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第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。
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しおりを挟む頭がくらくらする。
っていうか、痛ったい……。
わたしが頭を押さえながら体を起こすと、そこは見慣れた家だった。
……うん、見慣れた家ではあったのよ?
「…………えー……と……」
……ただ、自分の家でなかっただけで。
間取りはうちとまったく同じ。寝室が北向きでちょっと寒い、小さなアパート。
しかも寝室になってるこの部屋には、剣やら槍やら弓やらが所狭しと並べられている。
ラルフは器用だからね……クエストによって、持っていく武器もいろいろ変えているのは知っている。
腕は若手だとナンバーワンで、相当稼いでいるはずなのにね。ラルフはいつまで経ってもこの部屋から出ていく気配はなくってさ。
……っていうかここ、どう考えても、やっぱりラルフの部屋ですよね……?
瞬間、昨日の夜のアレヤコレヤが頭によぎって、わたしはばばばっと、自分の体を弄った。
服っ!
服は、着てる……よねっ!?
だいじょうぶ!?
…………あ、大丈夫っぽい……? うん。昨日の服のまんまだ。
ちょっと、上のほうボタンゆるめてあるけど、まあ、それは寝苦しかったからだろうし……うん、体、へんなとこ、ない。だいじょぶ。だいじょうぶ。
いつもゆるっと編んである量の多い茶色い髪はほどいてあって、ぐしゃぐしゃになってる。
いつもと変わらない、地味なわたし。
そだよね。夢だ。
うん。わたし、呑みすぎ。
だから仕方なしにラルフに連れて帰られたってだけ。
「はぁー……」
安心感からか、ついつい大きなため息がでちゃった。
まあ、あのラルフが? 今さら? わたしに手を出すとか絶対ないもんね。
っていうか、本気で呑みすぎた。わたし、くっさい。
ラルフが連れて帰ってきてくれたみたいだし、寝室占拠しちゃった。それはちょっと申し訳ないなあとは思うけどさ。
いやでも、いっつも迷惑かけられてるのはわたしだもん。たまには、いいかな、とも思うわけで。
でもいまは、わたしの家に戻って、体きれいにして、はやく着替えたい。
お仕事には間に合うと思うけど……って思ったところで、となりの部屋から足音が聞こえてきた。
「お。――起きたみたいだな」
「!」
もちろんね、ラルフですよ。
そりゃあ、いるよね……。
見慣れた顔すぎて、特別感もなにも出てこない。
どうせ酔いつぶれたわたしを介抱してやったんだぞ、寝床占拠されたんだぞって、このさき1ヶ月くらいずーっと言われ続けてこき使われるんだ。
わたしにはわかってるんだからね。
だからつい身構えちゃう。
ほーら、見てみなよ。ラルフの顔。
いつものようにいたずらっ子な顔つきになってさ?
なって……なって……、
…………あれ。
ならない。
「どうだ、気分は悪くないか?」
え?
いやいやいや、なにそのやさしい顔。
「ほんと、バカだな。呑みすぎだ。今度から、オレのいないところで、そんな呑むんじゃねえぞ?」
「え……あ、の……」
ぐしゃってわたしの頭を撫でてさ?
っていうか、その手に持ったグラス、何?
「喉渇いてないか? 飲んどけ、な? いま、朝メシの用意してっからさ」
なんて、お水の入ったグラスを両手に握らせてくれてさ?
少し迷うように視線を彷徨わせたあとにさ、ちゅって。
……!?
……ちゅって、おでこに、ちゅーしてくれちゃってさ!?
「ま、オマエほど凝ったモンはつくれねーけどよ。そこは文句言うんじゃねえぞ?」
なんて、ちょっと早口にいいながら、隣の部屋に去っていく彼は――、
――え。ええ。えーっと。どなた、かな?
握らされたグラスを見つめたまま、わたしはしばし考える。
さっきのラルフの表情、あれは、なんだ。
妙に落ち着きなくて、妙に優しくて、妙に早口だった彼は、なんだ。
『信じてもらえるかわかんねーけど、オレも……ずっと、オマエのこと、好きだったからよ……?』
オレも……ずっと、オマエのこと、好きだったからよ……?
オマエのこと、好きだったからよ……?
……。
…………。
………………。
……………………ゆめじゃ、なかった……?
つまりだ。
信じがたいことだけれども、つまり。
わたしが、(嘘だけど)告白して。
彼が、(嘘だと気がつかずに)受け入れてくれて。
むしろ……告白し直してくれて?
あれ……これ、ラルフの方からしたらさ……まさかの……両想い状態、だったり、するっ!?
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