【R18】嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

浅岸 久

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第2話 恋のライバル登場に「えっ、ベタな……」ってなるのは許してほしい。

2−20

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 そうして――翌日。

 今日は職人街での大倉庫での素材確認の日だからね?
 大討伐で集まった素材に番号や確認用のラベルを置きながら、わたしは昨日の夜の出来事を思いだしていた。

 うーっ……。
 いまさらだけど、めっっっちゃくちゃ、恥ずかしいことした……。
 ちょっと感情が高ぶってたとはいえ……自分で、誘ってさ?
 ううっ、……ラルフも、よろこんで、たよね? えーっと。はしたないって幻滅されてないよねっ。

 今朝、わたし早出だったから、ホントはね? ラルフには寝ててもらってて、ひとりででてこうって思ってたのに。見つかるし。送ってくれるって言うし。めちゃくちゃ優しいしで。

 あー……もう、ミリアムのことなんて、頭のなかからどっかへいってますよね!
 あっはっはー。
 昨日の夜はギルドホールの大勢の前で啖呵きったわけだけど、朝お仕事にでたらさ、咎められなかったし。
 むしろ、エイルズギルドとしては、首都のギルドの強引な勧誘に抗議してくれるって言ってくれたし。

「……」

 首都かぁ。
 首都……。

 別にね? ミリアムのことがなければさ、首都のギルドってやっぱり、憧れに近い感情はある。
 ラルフは新しいモノ好きだしね? 今のうちに、向こうのギルドでいろいろ経験つむのって、感情論抜きに考えたら、すごくいいなって思うんだ。
 でも、それを決めるのはラルフだもんね。
 ……まあ、わたし自身も、興味がないかっていったら嘘になるんだけど。
 
 でも――うん。
 それを無理強いするのはちがうって、思うから。


 よし、仕事だ!
 しっかり仕事して、ラルフとの時間も作りたいし。はやく終わらせよう!

 って、気合いを入れたはいいんだけど。

「ね、ちょっと、アナタ」

 ……おっと。
 うーん……聞き間違えじゃなければ、すごーく、聞きたくない声が聞こえたよ?

「もう、こっち向きなさいよ、リリー」

 あー。はい。
 向きましたとも。どうも、ミリアムですね? うん。

 わざわざ彼女がこんなところまで来るとは思わなくて、額に手を当てる。はー……仕事中なんだけど。えっと、手っ取り早く、終わらせてくれるかな?

「えーっと……昨日は、どうも」

 あやまりはしないけどね。
 でもまあ、昨日の今日なので、なんとも気まずくてとりあえず挨拶して。

「フン。別にいいわよ。ラルフを直接誘っても無駄だってことがわかっただけ、成果はあったわ」
「あー……やっぱり勧誘だったんですね」

 もう取りつくろわなくなっただけ、話はしやすい。
 わたしは肩をすくめて、小さくため息をついた。

「勘違いしないでほしいんだけど、別に、首都のギルドは優秀な冒険者を集めるだけじゃないわよ?」
「では、なんだと?」
「知識と技術の共有と、教育。ある程度首都で実力をつけた冒険者は、また地方へ勝手に帰るもの。そうやって、各地の冒険者のレベルを均等に保てるように動いているだけ」
「…………ご自分のやり方を忘れたのですか?」
「えーっ、あれは個人の趣味よ。ラルフってば普通にあたしの好みだし」

 そう言ってミリアムは、からからと笑う。

「ああいうコはね? ちょーっと色仕掛けしたら、案外のってくる子が多いんだけど。――アンタにぞっこんなんだもん」

 おそらく、首都のギルドが勧誘して、教育がどうこうっていう話も、半分くらいは本音なのだと思う。実際、そういう研修とか、人員交換の制度があったらいいなって、わたしだって思ったことがある。
 ただ、ちょっとミリアムは性格がね……? 享楽主義というか、人を焦らせて楽しんでいるというか。だからどうしても、仕事のようにも思えなかったんだよね。
 はっきり言うと、人が悪いんだろうなって、わたしのなかでは結論が出ている。
 まあ、それも、彼女なりの世渡りなのかもしれないけど。

「いまさらどうこう言っても無駄ですよ。ラルフのことはラルフが決めるのだし。――でももう、彼はあなたの言葉には耳を貸さないと思います」
「うん。それはよくわかったわよ」
「だったら――」
「でもね!」

 ミリアムは宣言する。それはもう、楽しそうに。

「だからこそ、燃えるっていうか。あ、恋愛的な意味じゃあないわよ? アンタを怒らせるのは得策じゃないって、理解したもの」
「…………は?」
「ふふふ、今日は謝りに来たの。ちょっかい出して、悪かったわね?」
「え……と?」

 まるで開き直ったかのようなもの言いに、困惑しか出てこない。
 つまり……?
 何が言いたいのだろうか……?

「アンタの、頑固なところも、はっきり物を言うところも、あたし、嫌いじゃないわよ? じゃあね」

 なんて言いたいことだけ言って、彼女はひらひら手を振りながら去っていく。
 遠ざかっていく彼女の背中を、わたしはぽかーんとしながら見つめていた。

 恋愛的な意味では、諦めた?

 ……じゃあ、勧誘は? って、こと???
 謝罪したけど、そこは全然折れる気はないってこと???

 えーっと。
 もう、ラルフを追っかけたりとかは、ないよね?
 ないってことだよね……???

 今度はどんなちょっかい出してくるのかわからなくて、途方もない気持ちになる。
 でもまあ。
 ラルフは、ちゃんとわたしのことを好きっていってくれたし。
 わたしは彼の隣にいられるように頑張るだけ。

 それを忘れないようにしなかったらさ、それでいいんだって思う。


 よーし!
 まずは明後日のデート!
 気持ちを切り替えて、いっぱい楽しんでやるんだから!




▼第3話へつづく
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