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第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。
3−1(ラルフ)
しおりを挟むあー……。
寝ちまったか。
ぐったりと、体に力が入らなくて崩れ落ちたリリーを抱きとめて、そっと寝かせた。
そうして、穏やかに眠るリリーの髪を梳く。
昨日まで仕事も忙しかったみたいだし、今日も歩き回ったし……かなり疲れていたんだろうな。
くうくうと平和な顔で眠るリリーが可愛くて、オレはついつい、彼女の唇にキスを落とした。
大討伐が終わって、リリーがミリアムに啖呵を切ってから数日。
つきあいはじめてかなり経つっていうのに、今日ようやく、オレはリリーと一日デートができた。
オレのわがままにつきあってくれて、一日中、街をつれまわしてさ? 夜も、2発はつきあってくれたけど――今、まるで糸が切れたみてーに眠っちまった。
このところ、少し思いつめた顔ばかりしてたからさ。いっぱい笑ってくれて、ほっとしたっつーか、なんつーか。
コートが欲しいっていうから、女向けのブティックをはしごして、ついでに一式。ブーツだの、スカートだの、オレが着せたい服全部着せてさ。そのままふたりで、ちょっと雰囲気のあるバーに飲みにいって……。
コイツ、普段から結構飲むのに、雰囲気あるバーははじめてだったみたいでさ。少しはにかみながら笑うだけで、オレは心の中で雄叫びをあげそうだった。
……ようやくだよなあ。
なんか、ほんとに恋人らしいことしてる実感というか。
あ。
もちろん、夜にヤることはヤってたんだけどな?
同じアパート内に住んでるから、互いの家はしょっちゅう行き来してるし。別に、ふたりの時間がなかったわけじゃないんだぞ?
でも、幼なじみのままだった頃から、少し変わった……っつーか。
なんかオレばっかわがままいってるみてーでさ。
もしかしたら、今日だってオレのわがままにつきあわせた形になるのかも、だけど。
でも、今日はいっぱい笑って、楽しんでもらえて、よかったなーって思う。
……ほんとはさ?
これ、本音な?
今日、コイツつれて、街の不動産回れたらいいなってずっと思ってたんだ。
結局、提案もせずにやめたんだけど。
だって、ほら。このアパート、小せーし。風呂も、狭いしな?
どーせ毎日、どっちかの狭い部屋に籠もるんだからさ、もう少し広いところで一緒に住んでも同じだろう?
だから、ふたりで住めるような家に引っ越せたらなってのがオレの希望だったんだ。そのために金も貯めたし。
家を選んでさ? 家具を見てさ? あれこれ相談するの、楽しいだろうなって。けっこー、自分に都合のいい妄想ばっかしてたっつーか。
でもな。
こないだ、コイツがミリアムと言いあってるときにさ。
『そのときは、わたしもついていくから』――って。
もしもの話だけど、オレが首都へ行ったらついてきてくれるって、コイツは言ってくれて。
少し考えを改めたんだ。
強引に一緒に住むのは、まだ急がないほうがいいかもって。
……ちょっと、勘に近い思いかもしれない。
でも、オレにはわかるんだ。幼い頃から、コイツについてきたオレには。
「ん……ぅ、ラルフ……」
むにゃむにゃ寝返りうつコイツがマジでかわいい。
ほんと、平和な顔しやがって。
普段は目を吊り上げたり、きりってしている表情はしているけどな。
コイツ、基本は年齢よりも幼く見えるから、眠っているときなんか特にな……年下なんだよなーって思う。
オレの方が兄ちゃんなんだけどな。
いつもオレばっかり、面倒見てもらっててさ?
……くくくっ。そうなんだよな。
こいつ、オレのことよくわかってるようで、肝心なところが全ッ然わかってないよな。
リリーがオレについてくる、じゃないんだよ。
いつも、オレが。オレの方が、リリーについていってんだ。
オレは別に首都なんかぜんぜん興味がなくてさ。ただ、リリーのそばに居られたらいいのによ。場所なんて、どこでもいいんだ。
リリーは自覚ないだろうが、コイツ、オレよりも全然行動力あってさ。
懐かしいこと、いろいろ思いだした。
このエイルズの街に出てきたときのこととかさ。
あはは、あれはまあ……焦ったよな。
俺たちの生まれ育った村はさ、この国の端っこの、本当に小さな村でさ。オレは羊飼いの家の息子。3人兄弟の真ん中。
で。リリーはっつーと、村長の娘でさ。上にも、下にも、いっぱい兄弟がいた。
リリーは昔からスゲエ真面目でさ。面倒見良くって。
家のことを一手に引き受けて、ずーっと弟、妹たちの世話ばっかしてて。
で、村長の家つっても、別に普通の家だからさ。金持ちでもねーし、兄弟のことばかり優先して、自分は損ばかり。
ひとり自主的にいろんなことを我慢してさ――影でそっと泣いてるような――オレからすると考えられないようないじらしいヤツだった。
でも、明るくて。やんちゃな兄弟たちをぷりぷり怒って躾けてるのは相変わらずっつったら相変わらずだけどよ?
オレがちょっかい出してもすぐ怒って、――でも、オレの前だと結構、素直に泣いたりするんだ。
そんなリリーが可愛くてさ。……オレもバカだったから、アイツの兄弟と同じで、リリーにいっぱい迷惑をかけた。
でも、こっちを向いて、怒ってくれるのが嬉しくてオレはアイツに構ってほしくて必死だった。
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