【R18】嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

浅岸 久

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第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。

3−2(ラルフ)

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 オレはさ?
 リリーは少し勘違いしているみてえだが、今が楽しけりゃいいって思ってるところがある。だから、昔も、今も、将来の夢とかぜんぜん曖昧でさ。
 マジでリリーとのことしか考えてなくて、リリーの興味をひきたくてさ――アイツが好みそうな夢をでっち上げただけなんだよな。

 旅の行商人が話してくれたような、どこか、人がいっぱい集まる街で暮らしてみたいって。
 商人でも冒険者でもなんでもよかった。けど、この村の変わらない生活に身を置くんじゃなくて――なんか、村の子供にとって特別に映るような――珍しい仕事がしたいって言ったんだ。
 で、オレはバカだからそんなこと言ったことも忘れてたのによ。
 ……リリーの方が、覚えていやがったんだよな。

 リリーは真面目で、努力することを知っている。
 ひとりで真面目に勉強をして――一方で、どうせ叶わないだろうなって諦めながら――それでも努力せずにはいられなくて――でも、手を伸ばさない。
 昔からそうだった。
 コイツは、肝心なところで、手にするのを諦める。自分には手に入らないって心の中に溜め込んで。ひとりでじっと、耐えて、苦しんで、――でも、折れないんだ。


 ある日――どうも、コイツが両親と大げんかしたらしくてさ。
 自分の荷物をまとめて鞄に入れて、オレに挨拶に来た。

 家を出る。街へ行って、仕事を探す。
 ばいばい――って。

 オレは思い知らされた。
 ずっとずっと、手に入れるのを諦めていたけれど――――コイツは人一倍努力家で、その気になれば、すぐに外に出られるんだって。
 仕事だってすぐに見つけて、まわりにも認められて、オレなんかいなくたって、ひとりで生きていくこともできる。だから。

 追いかけなければ。
 そう思った。
 彼女が向かう先へ。オレも一緒に行って。彼女に置いて行かれないように、オレが、必死でついていかないとって、マジで焦って。

 ――で、アイツはギルド嬢になって、オレは冒険者になった。
 正直、冒険者でもそれ以外でもなんでも良かったんだ。コイツの役に立てる仕事だったら、本当になんでも。ただ、比較的冒険者が向いていたってだけで。

 ……もちろん、そのあと、リリーは家族に謝罪の手紙を送ってたんだけどな。でも、仕事は続けたいから、頑張らせてって。
 たまに仕送りなんかをしてるのも知ってる。
 ほんとうに真面目で、自己犠牲だって自覚していても悔いのないように頑張る。
 苦労を選んで、わたし損してるよねって笑って、ひとりで泣きながら、でも、納得できるまで努力をする。

 コイツは、オレに釣りあってないって悩んでいるようだけど、そんなことありえない。
 オレの方が、コイツの足もとにも及ばなくて。
 虚勢ばかりの情けない野郎で。
 すごく惨めで――リリーに相応しくないって身を引こうって考えて、フラフラしている時期もあった。
 でも、やっぱりリリーのことが諦められなくてさ。コイツにちょっかい出そうとするヤツは追い落として、自分ばっか、フラフラして。
 都合良くて、最低なことばかり。

 ……だから、今の関係は、本当に奇跡なんだ。


 あーーーー。
 好きだなあ……。
 すごいよ、オマエは。ほんとに。

 だから、こないだミリアムに啖呵切っている姿とかさ?
 このところ、ずーっと勉強頑張っているところとかさ?
 そういうリリーの姿見てると、どうも昔の――村を出たときのリリーの姿と重なっちまってさ。
 思うんだ。
 ――次は、どこを目指しているんだ? って。

 多分、コイツは、オレに言ってない本音がある。
 ミリアムとの言いあいからなんとなく予想はできるけどよ?

 言ってくれていいんだぜ、リリー。
 オレは、オマエの目指す未来を歩きたいんだ。

 だって、オレの夢は、オマエの旦那……つーか。うん。まあ、そういう感じで。うん、言っちまえば、それだけだからさ。
 それで、オマエの夢を叶えられたら最高だって思うんだ。


「……くふふ……」

 っく! ははは!
 くっそ、こっちはなあ、真面目にいろいろ考えてるっつーのに、突然へんな笑い顔すんじゃねえっ。

 まったく。なんの夢みてんだか。
 普段まじめくさった顔して、たまに思考が変なとこ、飛ぶもんな?

 あー、かわい。なんだよ、締まらねえヤツ。
 こんなリリーの寝姿知ってんのも、オレだけとか、最高だよな。まったく。


 さて、年末まであと少しか。
 聖夜――今年は、一緒に過ごそうな。
 はぁー……いまからもう緊張するな。

 でも、待ってろよ、リリー。
 絶対オマエに最高のプロポーズするからな。
 石は、とっくの昔に用意してるし……オレだって、今までのオレとはちがうんだぜ!

 絶対……絶対にッ、完璧なプロポーズしてやるからな!!
 たのむからそれくらいは、かっこつけさせてくれよ!!
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