NEXCL ONLINE

daidroid

文字の大きさ
上 下
145 / 148

魔神は再び、嗤う

しおりを挟む
「どうです?ユウキ准将?裏切られた気分は?」

「一体……何故……」

「何故?逆に裏切られる自覚がなかったとでも言うのですか?愚かなモノですね。まぁ、だからこそ、カナを裏切ったように見せた意味があったわけですが……それにしてもあなたは本当に愚かな女ですよ。あなたは、カナが触媒になるとでも思ったのですか?カナはあなたのような穢れた女とは違うのですから、そんな訳がないでしょう。その自尊心には本当に呆れてしまいますよ」


 ユウキには分からなかった。
 あまりに唐突過ぎて理解が追い付かなかった。
 分かっているのはシュウが裏切ったと言う事実だ。
 それには如月すらオープンチャンネルで声を張り上げる。



「シュウ殿!これを一体どういう事だ!」

「どういう事も何もないですよ?わたしはスフィアクリーチャーを産み出した“存在”を打倒すべくそれに加担した眷属であるユウキ准将を生贄に捧げる事にした。ついでにアーリア社のテロに偽装したあなた方の破壊工作における新潟条約の一方的な破棄に対する制裁処置ですよ」



 訳が分からない空気が漂っていたが東連合の艦隊はGCが裏切ったと判断して即座に反撃行動を取ろうとした。



「あいにく、その行動も織り込み済みです」



 シュウは自爆コードを入力した。
 ノウソリスを新潟基地で発見した時に気付いた。
 アレはシュウ達が造ったノウソロスが母体となったAPだと……“英雄”であったユウキがその因果を読み取り量産した機体であると理解するまでそう時間はかからなかった。
 なので、事前の取り決め通り、英雄が乗ったと思わしき機体の自爆コードを起動させた。

 そして、盛大に自爆した。
 核融合炉を臨界状態で起爆させた事で艦隊は大打撃を受けた。
 その唐突な爆発に多くの機体も連鎖的に呑まれた。
 それは阿部や如月とて例外ではない。



「えぇ?」

「一体何が……」



 ノウソリスの爆発に巻き込まれ、如月達も戦死した。
 また、ユウキが用意した因果決戦兵器も自爆した。
 ルオの工作によりシュウの指示でコンピューターウイルスが流れるように細工され、リアクターを暴走させる仕掛けを施していた事で大規模な爆発が起きた。
 結果、ユウキが乗った艦以外の全てが全滅した。



「何故……こんな……」



 ユウキですら理解が追い付かず手当を受けながら茫然としていた。



「何故、ですか?言わないと分かりませんか?全く、天才を自称するだけあって本当に馬鹿ですね」



 この世の中で一番面倒なのは自分を天才だと自惚れた馬鹿に他ならない。
 そんな馬鹿は自分の所為でこんな事態になった事すら説明しないと自覚しない。
 だからこそ、ここから絶望させる意味がある。



「なら、馬鹿でも分かるように説明してあげましょう」



 シュウは今まで起きた経緯を説明した。
 そもそも、この事件はどこから始まったかと言えば、9年前のシュウへの“英雄因子”注入事件に差し上る。
 それはシュウジの因果を保有する事で大きな破壊を齎すと考えた“存在”とそれに同意したユウキの策略だった。

 ユウキが直接願った訳ではないがユウキの因果律がユウキにとって“都合の良い世界”にする為に他世界に干渉しその過程で白井 修也と言う男子にシュウジの因子を入れる事が効率的と判断しそれに“存在”が手を加え、修也の意志に反した強制的な英雄因子注入を行った。
 その策は結果的に失敗したが修也はそれにより苦しむ事になった。
 そして、月日は流れ、ユウキは今度は別の手で妨害を仕掛けた。
 
 リオの因果力に干渉しアメリカ軍NOTO軍との戦闘直後から妨害策に及んだのだ。
 リオが導く因果がユウキにとって不都合だった為にリオの因果律を妨害したのだ。
 それによりボストンでの量子ウイルスの治癒が遅れたとも言え、それにより一時的に苦しんだボストン市民によりSWNが大幅に増加し邪神の侵攻を許した。

 だが、そこでリオの因果も負けていなかった。
 理の魔眼により把握した因果律によるとリオは「皆の役に立ちたい」「シュウにいの役に立ちたい」「そのために妨害した奴を見つけたい」「そして、妨害した奴を倒したい」と願った。

 その因果を叶える為に彼女は無意識化で最適化な選択を取り月に向かい、エンパシーをゲットした。
 そして、エンパシーを再起動する際に仕様上、因果律を司る機関部を起動させねばならなかった。
 その影響でリオの因果が大幅に増幅される形で他世界に波及した。

 それによりまず、起きたのは“荒廃の文明”との接続だった。
 本来、僅かコンマ数%にも満たない極小の確率でしか起きない時空トンネルの形成をリオの因果律が干渉した事で爆発のエネルギーをトリガー(原因)に時空トンネル(結果)を導き出し、「そのために妨害した奴を見つけたい」と言う因果を叶える形妨害者であるユウキの世界を炙り出す。

 だが、それだけでは不足していた。
 妨害者であるユウキを倒すには“存在”とも戦わないとならないとリオは因果律的に把握していた。
 その為に“存在”を倒す力と「シュウにいの役に立ちたい」……強いてはシュウがこれらの事を気づく力を手に入れる可能性と戦力が必要だった。

 だから、“存在”を恨み、倒す力と気づく可能性が高い魔王タダーノンとの邂逅が必須だった。
 だからこそ、“魔王の文明”と接続する必要があったので同様な現象を引き起こし時空トンネルを造り出した。
 結果的にシュウは魔王を吸収しその力を得、リオが敷いたレールを見極める可能性を得た。

 しかし、ユウキや“存在”はそれを嫌悪した。
 なので、ユウキは無意識化で新潟条約を違反する形で現実世界に干渉しSWNを増大させた。
 それにより“存在”を復活させ、都合が悪くなりつつあったシュウやNO世界そのものを破壊しようと動いた。
 
 だが、それもアイカの超人的な精神力の前に上手くいかなかった。
 あのノーマルモードの戦いすらアイカが潜在的に手加減していたからこそ勝てた戦いでありアイカのシュウ達を思う気持ちがあったからこそ為せたと言える。
 
 そして、“存在”は再封印され、その莫大な経験値はシュウの理の魔眼を起動させ、莫大なエネルギーはゴッドアイテムへと変わりトドメを刺したシュウにそのアイテムを与えた。
 結果、シュウは全てを理解し行動に移した。
 自分の復讐と同時に世界を守る為、そして、家族に危害を加えるであろう不穏分子から家族を守る為に……。



「そんな……嘘……」

「嘘ではありませんよ。あなたが顕在的に知らなくても知っているはずです。あなたは新潟条約を一方的に破棄したではありませんか?」



 ユウキがどれだけ言い訳しようとそれはただの言い逃れに過ぎない。
 NOプレイヤーに対する規制に目が行きがちだが、新潟条約には「東連合とこの条約に著名した加盟国がNO世界とそれに連なる世界に敵対行動を示した場合、宣戦布告の意志があると見なす」と書かれている。

 ユウキはそれを知った上で現実世界を攻撃しアーリア社の名を騙りテロ行為に及び、結果的に“存在”の復活を増長した。
 これを知らなかったで済ませても言い訳に過ぎない。



「現にあなたの量子因果律理論には人の意志が因果律を導き世界を導き選択させる。故に人類は強い意志を持たなければならないと書いていたではないですか?故にこうなったのはあなたの高慢で怠惰な強い意志が結んだ結果でしょう?それはこちらでも証明されている」



 そう言いながら、シュウはボイドセクターに頼んだ証明を艦に転送してユウキに見せつけるように見せた。
 それを見たユウキは愕然とした。
 学者だから、分かるのだ。

 この理論は完璧であり彼らの主張は正しいと……。

 ユウキの意志がこの結果を導いたと証明されたのだ。
 だからこそ、これには“理不尽”はなくSWNも発生しない。



「よって、新潟条約に基づき“荒廃の文明”世界をNO世界に対する外敵と認定し……ユウキ准将の意志に賛同した世界を消滅させます」



 シュウは“荒廃の文明”に設置した爆弾の起爆コードを送信した。
 それにより地表に設置された特大杭打機が核エネルギーの爆発を利用して射出され地球の外殻を破壊して新潟を中心に亀裂を奔らせ、地面を割った。

 これにより地殻にある岩石蒸気が噴出し新潟を中心に岩石蒸気が噴き出し、炎の津波が世界を呑み込み、それに伴い地球は割れ、完全に砕け散った。
 地球すら残さずに消えた。
 その様子は艦のモニターに映し出されていた。



「そんな……嘘よ……」

「認める認めない等感情論であり物事の正当性はそこにはない。あなたの言葉ですよ。あなたが抱いた上っ面だけの「人類存続」の意志がこの結果を招いた。何の覚悟もないただの聖母願望の高慢で愚かな女がこの結果を招いた。そう、



 その事実を悟ったユウキの心は真っ黒に染まり、その絶望に発狂した。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」




 ユウキから紫色の靄が大量に噴出し艦を呑み込んだ。



「さぁ、いよいよですね。総員、戦闘配置!」



 GCの面々は武器を構えた。



「さぁ、復讐を始めるとしましょう」



 シュウは再び、不敵にかつ恍惚に嗤った。
しおりを挟む

処理中です...