さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨

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第二章 魔王と勇者、世界消失の謎

一万年後の変化

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「い、一〇〇〇〇年……?えっ…………うそ」

「嘘じゃねぇよ」

「…………ごめん、ちょっと、冷静になるまで時間をください」



 少年は創造主になってから一番の動揺を感じていた。それは武尽が勝負を挑んできた時よりも、祈世が前世の魂に人格を乗っ取られた時よりも強い動揺で、少年は普段絶対に使わないような敬語で話すと、しばらくの間口を半開きにしたまま固まってしまった。



 だがその固まった顔についた二つの目は、少年が目覚めたことで涙を流している数名の神を確かに確認していた。



 そして、真面目なデグネフがそのような冗談を言う訳もなく。嘘ではないと明言した武尽の心を読んでも、その内容が真実だと裏付ける声しか聞こえてこなかった。



 少年の周りにあふれる様々な情報から、少年は本当に自分が一〇〇〇〇年もの間寝こけていたことを理解したのだ。



「も…………」

「「も?」」

「申し訳ありませんっでしたぁぁぁ!!!」



 少年は日本式ジャパニーズスタイル〝土下座〟をベッドの上で繰り出すと、神々に対して精一杯の謝罪の言葉を口にした。



 少年の突然の謝罪に神々は目を丸くした。少年は顔中に汗をかき、若干震え気味に土下座を断行した。



「ぼ、僕……自分がまさかここまでアホだったんなんて思ってなかった…………ごめんね皆、心配したよね?」

「吾輩は心配なんかしてねぇが、他の奴らはそうだな」



 さも自分は例外のように話した武尽に神々が白い目を向けた。流石に約一〇五〇〇年も武尽という鬼神を見ていれば、武尽が少年のことを大事に思っているか否かなど、誰の目にも明らかなのだ。



 にも拘らずそんな見え透いた嘘をつく武尽に自然とそういう目が向くのは仕方のないことだった。



「もう僕一生寝ないから安心して!……ごめんね、僕が緊急事態の時は叩き起こしてなんて言ったから、みんな遠慮しちゃったよね?」

「「…………」」



 少年の言葉は普通に図星だったので、その謝罪を否定する神はいなかった。



 だが静由はただ一人、少年の〝一生寝ない宣言〟があまりに衝撃的だったのか、今まで見たことの無いような悲痛な表情を見せていた。睡眠のために神生を謳歌していると言っても過言ではない静由には信じられない宣言だったのだろう。



「でもお前、起こしても起きなかったぞ」

「え?僕ってそんなに救いようがなかったの?」

「ああ」



 武尽のド直球な言葉に少年は意気消沈してしまい、〝ガーン〟という効果音が聞こえてくるかのような落ち込みっぷりを見せた。



「吾輩が投げ飛ばしても、禁忌魔法ぶつけても全っ然起きなかったぞ」

「そ、そうなんだ…………あれ?完全無色アブソリュートスケルは使わなかったの?」

「は?何でここで吾輩の完全無色アブソリュートスケルが出てくるんだよ」



 武尽が少年の身体を限界まで攻撃しても起きなかった事実に少年は愕然としたが、すぐに別のことが気になったようで考え込むように顎をつまんだ。因みに武尽に良いように攻撃されたことについては、少年は何も思うところは無いようで、神々は内心胸を撫で下ろした。



 武尽は少年が眠り続けていたことと、自分の最大の武器である完全無色アブソリュートスケルに何の関係があるのか理解できず首を傾げた。



「前にも説明したでしょ?完全無色アブソリュートスケルは君の望んだ通りの働きをするって。僕は創造主の力で起きないように命令したわけじゃないんだから、武尽が僕が目覚めることを願ってその武器を僕の体に当てれば、僕は簡単に起きたと思うんだけど……」

「……その発想はなかった」



 神々は少年の説明に呆然としてしまった。何故なら少年の言っていることが正しかったからである。



 完全無色アブソリュートスケルとは、少年が創造主としての力を使って創造した武尽のための武器。その為完全無色アブソリュートスケルは武尽が望めば基本的にどんなこともできてしまう最強の武器なのだ。



 完全無色アブソリュートスケルに敵がいるとすれば、それは創造主である少年だけ。いくら武尽の望み通りの働きをするとはいえ、少年が更に創造主の力を使えば、完全無色アブソリュートスケルは造り手である少年に勝つことが出来ない。



 だが今回少年はただ眠っていただけ。創造主の力で自分が起きないようにしていた訳ではない。それならば完全無色アブソリュートスケルで少年のことを目覚めさせるのも可能だったのだ。



「そんな簡単なことにも気づけなかったなんて…………申し訳ありません。創造主様」



 一〇〇〇〇年もの間、その方法を思いつけなかった不甲斐なさに今度は神々が意気消沈してしまった。立場が逆転し、今度はデグネフが少年に頭を下げた。



「もう何言ってるの?全部僕が悪いんだから、みんなが謝る必要なんてないよ。ホントにごめんね。長い間眠りっぱなしで。こんなんじゃ静由の方がまだマシだよ…………そういえば、静由はよく僕に添い寝してくれてたんじゃない?寝てても気配を感じたよ」

「うん。俺どうせたくさん寝るからついでに添い寝した」



 やはり少年は添い寝した神々の気配を感じ取っていたらしく、神々にお礼を述べた。静由からすればただのついでだったのだが、それでも少年にとってこれほど喜ばしいこともなかったのだ。



「ありがとう。他の皆もありがとうね、武尽の気配は一度も感じなかったけど」

「何故吾輩がお前に添い寝しなきゃいけないんだ」



 少年が眠っていた一〇〇〇〇年の間、武尽は一度たりとも少年に添い寝をしなかったのだ。最初から強制ではなかったし、武尽がそんなことをするとは思っていなかった少年も、武尽の意固地さに苦笑いを零した。



「あ、そういえば、僕の名前って決まった?」

「はい。武尽の提案が可決され、創造主様のお名前は〝みこと〟となりました」

「てめっ、あっさり裏切ってんじゃねぇよ!」



 少年――命はふと思い出したように、自分の名前についてデグネフに尋ねた。それは命が眠っている間に神々に託した事案で、命が非常に楽しみにしていたことでもあった。



 〝命〟という名前を提案したのが武尽であるということは本人から口止めされていたが、デグネフは命からの見返りなど無いにも拘らずあっさりと白状した。



 ノータイムでデグネフの裏切りに遭うことは武尽にとってはかなりの想定外で、武尽は思わず怒鳴った。



 武尽の嫌な予想通り、命は自分の名付けの事実を知ると、見るからに嬉々とした表情とキラキラとした瞳を武尽に向けてきた。



「命…………武尽がつけてくれたの?」

「………………そうだ」

「っっっっ…………ありがとうっ!!」



 命は感極まったように言葉を溜めると、お礼の言葉と共に武尽に飛びついた。武尽はそんな命の首根っこを鬱陶しそうに掴んで自分の身体から引っぺがすと床に投げつけた。



「ふふっ……なんだかんだ言っても武尽はのことが好きなんだね」

「調子に乗るな……というか何ちゃっかり一人称変えてやがる」



 命は武尽に投げ飛ばされてもその緩んだ相好を戻すことは無く、寧ろさらに緩んだ顔を武尽に向けた。普段素っ気無い武尽が自分のために頭を悩ませて名前を考えてくれたことが相当嬉しかったらしい。



「せっかくみんなが命のために名前考えてくれたんだもん。皆に呼ばれるだけじゃなくて、自分でも呼びたいから」



 命は〝僕〟という一人称を〝命〟に変えていた。それ程までに自身の新しい名前が、創造主としての名前が嬉しかったのだ。



 命は名前を付けてくれた神々にこれ以上ないような満面の笑みを向けた。



「ふふ……命かぁ……」

「創造主……命様」

「はい!命様ですっ!」



 だらしない程顔を緩ませている命をデグネフは名前で呼び直した。すると命は先刻とは一転、シャキッとしながらも嬉々とした表情で返事をした。



「命様。命様がお眠りになられている間に、前創造主様の魂が人間の身体に転生しました」

「…………ホントに?」



 デグネフから告げられた衝撃的な事実に、命は満面の笑みのまま固まった。



 命が創造主になる以前に創造主という存在だった者の魂は、世界を消失させたせいで虫や動物にばかり転生していた。それが漸く、言語を話せてある程度の思考力を持った人間に転生したのだ。



 前創造主が人間に転生したということは即ち、その人間に前世の――つまり創造主だったころの記憶を取り戻させれば、何故世界を消失させたのか。その理由が分かるということだ。



 これは命が創造主になったばかりの頃に立てた目標の一つでもあったので、訳一〇五〇〇年の時を経て、漸くその目標を達成する第一歩を踏み出せたことに、命は困惑を隠せなかったのだ。



「命の先輩、やっとそれなりの知性のある種族に転生できたんだ。良かったぁ…………それで?どこの世界に転生したの?」

「前創造主様の魂は私とクランが管理している世界――ヒューズドに転生しました」



 前創造主の魂はデグネフとクランが管理するヒューズドに転生した。ヒューズドは人以外にも様々な種族が住まう、魔法至上主義の世界だ。



 身分などは関係なく、魔法の優劣でその者の人生が決まると言っても過言ではない。その為ヒューズドは魔法に秀でていない者を差別する風潮があり、それはデグネフたちも危惧しているヒューズドの問題点だった。



「ヒューズドで前創造主様の魂を持った人間は、非常に優れた魔法の才能を持ち、勇者と呼ばれ讃えられているようです」

「へぇ……流石は元創造主の魂だね」



 世界を消失させたせいで何度も立場の低い生物にばかり転生していたが、それでも元創造主の魂。人間に転生した今、その膨大な魔力でそれを証明したというわけだ。



 もちろん他の生物に転生した時の善行のおかげでもあるのだが。



 ただ、魔法の才能に恵まれている人間を勇者などという目立った単語で讃えるところは、魔法至上主義のヒューズドの悪い部分が出ていることを命は痛感した。



「勇者かぁ……命、早速会いに行ってこようかな?」



 突然の命の呟きに、神々は相変わらずの行動力と決断能力を感じた。その久しぶりの感覚に神々は苦笑いしつつも、命が目覚めた現実を噛みしめていた。





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