地下アイドルを推してたワープアコミュ障陰キャな僕だけど気付いたら執着系ハイスペイケメンに僕が推されて(性的にも)磨かれました?

黒川

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第一章:本編

16-マチナカ サガリ は、呼ばれたい。

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会場を後にし、キリの姿を探せば、放心しつつもスマホの画面を眺めていた。
同じく会場から出てきたファン達が、遠巻きにキリの事を見ている。
まぁ、俺からしたら限界オタクの放心状態にしか見えないが、初見(と言ってもコイツはラキの古参だがな?)からすれば憂いた美少年にでも見えるのだろう。
誰かに声をかけられるのも時間の問題だ。

「キリ」

名前を呼んで周りに牽制する。
コイツは、俺の連れだ。
話しかけたければ、俺を通す事だな。


▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪


俺が隣に立ったせいか、誰にも話しかけられることはなく、2人で帰った。
当たり前の様に俺のマンションについてくるキリ。随分と馴染んだもんだ。

「キリ、小腹空いた。ホットサンド作るけど食べるか?」

少し堅苦しかったジャケットを脱いでソファの背もたれに投げる。
それをハンガーにかけるのはキリの役目だ。
俺がホットサンドと言うと、キリの目の奥がトロリと緩むのが分かった。
餌付けも上々。
上手く行ってる……が、いつもよりソワソワしているのも丸分かりだ。
小さな頭で帰る算段でもしているのだろう。

「まさか帰るとか言わねーよな?」

突っ込めば、物凄く驚かれる。
いや、誰だって分かるだろうに。
そうはさせまいと俺も畳み掛ける。

「今日がゴールじゃねーぞ?どうせボロアパートに戻ったらまたモッサリに逆戻りだろうが」

「でも……」

「でも、じゃねーよ。どんだけ俺が手塩にかけてここまで磨いたと思ってる。今後も維持してくぞ」

「えぇ……?」

嫌がってるワケでは無さそうだ。
このまま言いくるめてやる。

「でもマチ君はさ、迷惑じゃないの?僕のこと」

「サガリ」

ついでにこっちも軌道修正だ。



呼べ。



「うん。ほら、一人の時間も必要でしょ?」

「キリ、サガリだ」

俺の主張を無視したキリに、再度念を押す。ここまで親しくなったんだ。そろそろ下の名前で呼ばれたい。

「うん、知ってるよ。マチ君の名前だね。そうじゃなくてさ」

けど、頭の小さなキリは理解出来なかったみたいだ。

「そう言う事だろキリ、サガリだ」

もう一度、念を押す。
するとキリは首を傾げた。
人間の習性上、ここまで主張すれば復唱してくれたって良いはずなのだが、

「マチ君……」

呼び方は変わらない。
なのに不安そうな表情で俺の袖を握ってくる。
握ってきた手を包み込むように握り、

「キリ、俺の名前、サガリ。なんで呼んでくれないの?ここまで親しくなってるのに」

不貞腐れた。
ここまですれば、さすがに呼んでくれるだろうと思えば、

「マチ君……」

やっぱり変わらない。なんなんだ?

「サガリ」

「マチ君……」

ここまで分かりやすく主張してるのに、頑なに呼ぼうとしない。
こんなに自分の思い通りに事が運ばなかったのは久々で、思わず舌打ちが出てしまった。
その後、少し悪い事を思い付く。

「キリ、下の名前で呼ばねーとキスするぞ?」

そう、キスするぞ?コノヤロウ。

「ままままマチ君!?なんで!?」

「ん?キリが強情だから、今俺が決めたんだけど?ほら、キスされたくなかったら呼べよ」

両手でキリの頬を包み込んで顔を近づける。
ホラ、呼べって……

「マチ君、離して……恥ずかしい」

「じゃぁ呼んで」

「マチ君……」

ここまでしてるのに呼ばない事に、苛立ちを覚えた。
はやく呼べ。
……呼ばれたい……
要求、懇願、希望、期待、この気持ちはなんだろう?
キリは俺の唇を凝視している。キスされる事でも想像してるのだろうか?嫌なら素直に俺の名前を呼べばいいのに。

「マチ君……マチ君……」

一向に呼ぶ気配は無い。

「あぁっ!!クソ!!!呼ぶ価値も無ぇってか!?」

価値が無い、なんて本気で思っていないけど。苛立ちと共に出た怒声は酷かった。勿論、キリは目を強く閉じ、体を竦ませている。怯える時の仕草だ。
最低な行為と分かっていながらも、その顔に近付き、俺はキリの唇を食んだ。
なんなら、もっと酷くしてやっても良いと脳裏を掠めたけど、童貞処女のキリの事だ。キスなんて初めてに違いない。
俺はゆっくりと、キリの唇を確かめるように擦り付けた。
乱暴な事はしてない、キリの様子を見れば、クタンと身体の力が抜けている。それでいて、俺の唇に自分から押し付けて来るから、思わず引き離してしまった。嫌じゃないのか?

「キリ……なんなの?おまえ……」

嫌がって欲しいわけではないのだが、キスよりも大切なことを確認したい。

「キス……きもちいいんだね……」

それなのに、キリの頭はキスでいっぱいになってしまったみたいだ。

「だからっ……!」

「マチ君……マチ君……」

相変わらず、俺の下の名前は呼んでくれない。それなのに、キリは俺に抱き着きながらキスを求めてきた。

……あぁ、それなのに、じゃねーな。俺の名前を呼ばねーから、キスなのか。
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