ミニマム男子の睦事

黒川

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番外編

ミニマム男子たちは今日も一緒。1

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俺こと新井しのぶ、29歳は自分の人生を悲観した事が無い。と言いたい所だが、今回は少しばかり考えあぐねてしまっている。
うちの会社は4月と10月に大々的な異動がある。
そして今日がその内示日だ。
今回うちの営業店舗では3名の内示が言い渡された。

1人目はうちの店舗紅一点だった浅井さん。本社は広報部へ、課長補佐に昇進して異動。
2人目が俺。本社は営業本部へ、同じく課長補佐に昇進して異動。
3人目が俺の後輩兼恋人の神田ミキ。店舗異動は無いが主任に昇進。

ちなみに、異動の通達は当事者も内示日にいきなり言い渡される。酷いと首都圏から地方、地方から首都圏、北の地方から南の地方へ、引越しを伴う異動も当日告知だ。

ここ、町田支店も本社も都内なので引越しは不要だし、交通の便も良くなるので悪い事では無いかな?とぼんやり考えていたら、周りは俺が思っている以上に困惑してた。

「新井さぁあああん!!!異動ってなんですか!?僕を……!!僕を置いて行かないでぇぇぇ!!!」

1番取り乱してるのは、ミキ。
今にも泣きそうな顔してる。
大きな目にウルウルと涙が溜まり始めてる。
そんな姿もチワワみたいで可愛い。

「新井さん、今僕の事かわいいって思ったでしょおおおお!!!」

そしてバレる。

「ああぁぁぁ……昇進喜べばいいの!?望んでた広報部異動に喜べばいいの!?でもでもでもおおお!!!アラカンペアがもう見れないなんて!!!やだあぁぁぁ!!でも異動嬉しいいいい!!嫌と嬉しいが交互に来て情緒が不安定になるぅ!!!命のママホワイト持ってきてぇ!!」

こっちは浅井さん。どうも俺らの事を小動物か何かと思ってるらしく、アニマルセラピーよろしく俺たちの観察を良くしてる。てか、俺らの事アラカンて呼んでたのか。初めて知ったわ。

「ほらほら、これから浅井さんと新井君は、引継ぎしっかりよろしくね。新井君は神田君でいいね。浅井さんは……岸村君でいいかな?」

1部阿鼻叫喚図と化してるが、店長は淡々と引継ぎの相手を名指し、元の業務に戻るように指示出しをした。

とは言え、異動かぁ……


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


「えぐっ……えぐっ……しのぶさんが本社に異動だなんて……そりゃ、しのぶさん程の人材なら本社から求められて当たり前だし昇進もおめでとうございますだけど……だけどぉぉぉ!!!僕は気持ちが追いつきません!!日々どうやってお仕事のモチベ上げればいいんですかぁぁぁ!!!!」

土曜の昼下がり、俺はミキのマンションに上がり、完全に塞ぎ込んでるミキを慰めてる。

「いや……そんな事言うけど、前の店舗じゃそつ無く仕事してたんだろ?それにもうミキは俺が居なくても十分にあの店でトップの成績も狙えるし、大丈夫だよ」

「それはそうですけど、」

うん、トップ狙えるんだな。頼もしい。

「違うんですぅ!朝、お店にしのぶさんが居るといないじゃ俺のモチベーションが全然違うんですぅ!!」

ぷくっと膨らむ頬が可愛い。

「しのぶさん、今僕のこと可愛いって思ったでしょ?」

そしてバレる。

「あーあ、これから何を楽しみに仕事に行けばいいか分かんなくなっちゃったなぁ……」

スリスリと俺に抱き着いてボヤくミキ。宥めるようにギュッと抱きしめ返し、頭を撫でた。

「遅かれ早かれ、こう言う事は必ず起こる。それが今だったんだよ。俺だって寂しいけどさ、別に付き合うのを辞める訳じゃないだろ?こうやって家を行き来したっていい。休み前に泊まったっていい。店舗が別なら同じタイミングで長期休暇だって取れるだろ?そしたらさ、一緒にどっか旅行にも行ける。悪い事ばかりじゃないと俺は思うよ」

「うぅー……」

ミキが、何とか飲み込もうと唸ってる。
あぁー。可愛いなぁ。俺の恋人。
女性と付き合ってた頃の俺は、愛玩扱いされる事が多く、『真剣なお付き合い』とは無縁で、長く付き合う事は無かった。でも、ミキとはかれこれ2年は続いてる。そして未だにお互いがお互いを好き過ぎてる。
俺だって離れる事が不安ではないかと言われれば、そりゃ不安はある。
だからと言って異動を蹴る事は出来ない。この会社に属している以上は受け入れなくてはならない事だ。

「異動したら毎日会えなくなりますね」

「そうだな」
同じ店舗じゃなくなるしな。

「毎日手が握れません」

「そうだな」
ビジネスショタカップルに擬態して毎日職場で手を繋いでたな。

「毎日抱き締めることも出来ません」

「うん」
これもビジネスショタカップルに擬態して毎日抱き着いてたな。

「キスも……」
は、流石に職場ではしてないが。

チュッと口にキスをされる。
それに応えるように俺からもムニュっと押し付ける。触れるだけのキス。

「一緒に居たいです……」

「俺もだよ」

俺も、素直な気持ちを伝え、しばらく無言で抱き合っていた。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


時間の流れと言うのは残酷で、内示を受けてから、あれよあれよと引継ぎを済ませ、あれよあれよと私物を移動先に送り、あれよあれよと支店のみんなから送別品を渡され、あれよあれよと営業本部に着任してしまった。

「はーい!身長154センチ、体重41キロ、年齢は秘密!ちっちゃい策士家!新井しのぶでーっす!よろしくおねがいしまーっす」

俺も何だかんだミキに影響を受けてるらしい。着任当日の挨拶、そう言えばミキが異動してた時にこんな事してたなぁと思い出し、プレゼン大会のネタで自己紹介した。

「新井君?自己紹介ってそういう事じゃなくてね?」

直属の上司が苦笑いしている。
俺はキョトン顔してから、

「てへっ。違ったみたい」

と、拳を作って自分の頭をコツンと叩いた。
もちろんコレもミキの持ちネタ?だ。

「新井しのぶです。ずっと営業の現場におりました。本社の配属は初めてなので、分からない事ばかりですが、早く戦力になれるよう頑張ります。ご指導のほど、よろしくお願いします」

ぺコンっと頭を下げるとパラパラと拍手を貰った。

「転入の手続きを最初にして、そのあとは中本君が君の指導係だから、彼にこれからの事を聞いてね」

そう言われると、あまりパッとしない中肉中背の男性が、無表情で手を挙げて俺と視線を合わせてペコっと軽く会釈をしてくれた。
恐らく、彼が中本さんなんだろう。俺は彼に笑顔を向けた。最初の愛想は大事だからな。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


「ミキ君……」

「はい♡しのぶさん♡」

時は、俺らが異動した、しばらく経ってからの休みだ。俺は休みの前日にお泊まりセットを抱えて、ミキのマンションに転がり込んだ。
しかもこれが、異動後の初めてのデートだ。

「耐えられない……」

グリグリとミキの腹に顔をねじ込んでスーハースーハーとミキの匂いを嗅いでいる。

「しのぶさん可愛いっ!弱ってるしのぶさん可愛いっ!!!」

出来た後輩兼恋人はとことん俺を甘やかしてくれる。
正直、仕事は現場とはまた違う大変さがあるが、環境は悪くないし、新しい事を覚えられるのでやり甲斐を感じており楽しい。あと今までの歩合が無くなったが基本給がだいぶ上がったので収入も総合的に増えた。
仕事は順風満帆だ。が、ミキと会える時間が劇的に減ってしまった。ミキもミキで、俺の仕事を引き継いだ後、俺らが抜けた後に入ってきた社員の教育係をしてる。
「ペットの調教みたいで面白いです!僕、教育に向いてるのかも?」
と、不穏な事を言ってるが、総合的には楽しく仕事をしてるようだ。内示を受けたあの頃と比べれば、だいぶモチベーションが保たれてる。

とは言え……とは言え……


「お互い休日出勤が続いて休みが合わなくなるなんて思いませんでしたね……」

ヨシヨシと俺の頭を撫でてくれるミキ。
そう。異動の時期は何かと忙しくなり、一時的に休日出勤も増える。それはそれで良いのだが、おかげでミキと会えるタイミンが合わなくなってしまった。
そこで実感してしまったミキロス。俺がこんなにもミキに会えないとダメになるとは思わなかった。
いや、仕事は仕事できちんとこなしてる。しかし家に帰った後の喪失感が半端なかった。
俺は、こんなにもミキに依存してたんだなぁと離れて初めて知った。

「俺……ミキが居ないとこんなにダメになるとは思わなかった……」

「うふふー。確かに、僕もビックリしてます。だって内示の時は、僕の方が取り乱していたし、半泣きでしたもんね。しのぶさんは今よりずっと冷静だったのに……立場逆転しちゃいましたね」

「うん」

「でも、それだけ僕の事を求めてくれてるって事ですよね。弱ってるしのぶさんを前にして言うのもアレですが、俺はちょっと嬉しいです」

ベッドの上では可愛がられる俺だが、普段は俺の方が年上なので何かとミキを可愛がる傾向がある。それが、ベッドの上以外でも逆転するのが嬉しいらしい。まぁ、俺も3個下の後輩にこんなに甘える日が来るとは思わなかったが。

「そんな弱ってるしのぶさんにつけこむのは卑怯だって事は重々承知してるのですが……もう、いっその事、一緒に住んじゃいませんか?」

「いいな、それ」

パッとオレは顔を挙げて、ミキの提案に即答した。


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続きます
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