お菓子の船と迷子の鳩

緋宮閑流

文字の大きさ
10 / 26
第2章

#03

しおりを挟む

流石に軍船を流用している調査船の離脱は早かった。そもそも船員の多くは訓練された軍人であるから行動も情報も船足も早い。それなりに隻数を抱える艦隊であるにもかかわらず、竜巻が湾に到着する頃には既に沖へと避難していた。
商船達も続々と後へ続く。キャンディストライク号も辛うじて湾を離れることができた。

できた……のだが。

波間を縫って迫り来る竜巻に目を移す。
キャンディストライク号の船足は決して遅いほうではなかった。魔石ブースターを積んだ大商船の比ではないが、小さく軽い船体と特殊な動力、行き届いた整備、そして有能な操舵者が速い移動と細やかな立ち回りを実現可能にしている。

それなのに、竜巻はもう目の前。

全ての原因は衝突事故だった。
湾を出ていくらか進んだところで追走してきた他の商船に衝突されたのだ。

黒い竜巻は明らかに船団を標的にしていた。
自然物には害を及ぼしていないにもかかわらず、逃げ遅れた船を数艘巻き込んで引き裂いた。パニックに陥った船もあったがキャンディストライク号はガナッシュやジャーキーの指示のもと、比較的スムーズに湾を離れた……筈だった。
横波を受けた船体が大きく揺れ、ガナッシュの眉が歪んだ。
「……っく……」
握った伝声管からグランマの焦りが伝わってくる。パニック寸前になった船の意思に引きずられそうになる。
「お願いだから落ち着いて……グランマ……!」
進路が衝突コースまっしぐらであったような気もするが……相手の船も慌てていたのだと思いたい。

そんなこんなで、グランマの力を受けて動作する動力装置の一部を破損してしまった。幸いにして舳先を突き刺されるようなことは無かったが船足は格段に落ちた。
『大将!どうすりゃいい?!次はどっちだ?!』
「……ジャーキーさん……進路……」
そうだ。しっかりしなくては。
「……しん……ろ……」
……しっかり……

どうすればいい……どうすれば……
どうすればみんなを守れる……?!

パニックに陥りかけたガナッシュを現実に引き戻したのは伝声管から微かに響くプラリネの声だった。
しきりにグランマへと話しかけている。
悲鳴にも似た金属音を奏でていたグランマが心なしか落ち着きを取り戻してきたようだ。

ごくりと喉を鳴らし、拳を握り締めて海上を見渡す。

「……速度……落として……!」
『いいのか?!』
「ギリギリまで岸壁に寄るよ……左舷確認して貰って……!」
波の反射で見間違えたのでなければ、あれは。
「左前方12分の1刻、窪みか横穴がある。この船ならなんとか入れるはず……そこで竜巻を遣り過ごすよ」
伝声管と共に巻貝を握り締める。
ガナッシュの指示に応えて船体は静かに岸壁へと向かい速度を落とし始めた。グランマも落ち着きつつあるのだろう。
しかし、思ったよりも隙間は狭い。

ともすれば浅くなる呼吸を制御する。


「……総員衝撃に備えて……!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...