お菓子の船と迷子の鳩

緋宮閑流

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第2章

#05

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船体に多少の破損はあったものの致命的なものではなかったようで、ジャーキーが出す的確な指示のもと修繕が完了しつつあった。
船倉の資材も無事だったようだ。

船は崖の割れ目が広がってできた洞窟の中に居た。奥の奥までは入れそうもないが、船体がすっぽり収まる程度の広さ高さはあるようだ。満ち干の水位がどの程度かはわからないが、石壁にへばり付いた水の痕跡を見るにあまり心配は無いように思えた。

とりあえず息を吐く。

竜巻の行方は誰も見ていないようでわからない。音は通り過ぎたというが、後で艀船を偵察船代わりに確認したほうがよさそうだ。
「遠見の地図で見ると多分この辺りだね。船で南側から回れそうかな」
「荒地から東が切れちまってるからハッキリとは言えねぇな……大陸南の海岸線は山が落ち込んでいやがるしちょいと沖へ出ねぇと望遠鏡も効かねぇ」
ふむ。頷いて地図を確認する。

「竜巻の音が聞こえなくなってからどのくらい経つ?」
「半日は経ったと思うぜ」
腹時計がそう言っていると腹を叩くジャーキーに、仕事が詰まっているとマトモに食事も摂らないくせにと笑ってみせる。

「船から洞穴の奥は見えた?」
「……あー……いんや、ただ……行き止まりじゃぁねぇな……」
この男らしくない物言いだ。
「何か気になる?」
「ちゃんと判ってるわけじゃねぇが……奥に向かって潮の流れがある」
「奥から、じゃなくて?」
「奥へ、だ」
岩場の流れは乱れがちとはいえ、あまり良くない兆候だ。

「何にせよ迂闊には動けないね……朝になったら小舟を出して内と外を調べてみないと。今日の見張りは僕が……」
「ダぁメだダメだ」
ガシリ、と肩を掴まれる。
「大将は寝るんだ」
「でもみんな疲れてる……僕は十分休んだし」
「気絶してた時間を休んだとは言わねぇ」
陽気なジャーキーには珍しい、渋い表情が返ってきた。
「プラリネの姐さん呼んでふたりとも休みな。姐さんも避難してから働き詰めだ。見てるこっちが参っちまわぁ」
「プラリネが……そうか」 
時間の計算が合っていれば魔除けの歌もまだ効力を保っているはずだ。

たしかに、お言葉に甘えても良いかも知れない。

「身体は子供なんだ。体力仕事は大人に任せて休んだ休んだ」
色々知ってとりあえず安堵したからか、もしくは怪我をしたからか、軽い目眩を感じる。報告を書きつけたメモをまとめ、プラリネを呼んでくれるよう頼んだ。

今日は、休もう。
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