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人民革命
交渉
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【50年前】
大陸歴1660年12月6日・ブラミア帝国・プリブレジヌイ郊外
オレガと共に現れた革命軍が帝国軍と衝突した時、逃げていた革命軍は向きを変え、帝国軍に対し攻撃を始めた。
そして、オレガによってユルゲンが討たれた後、混戦は帝国軍に不利となった。
司令官ルツコイ初め帝国軍兵士たちはユルゲンほどの腕の者が打ち取られるとは思ってもいなかったのだ。
目の前でのユルゲンの死によって帝国軍の士気は一気に下がり、革命軍に押され、結局、重装騎士団および兵士の半数が討ち取られた。
ルツコイと残存兵は撤退し、何とかプリブレジヌイに逃げ込んだ。
一方のオレガは、気が付くと戦場から少し離れた草原で気絶して倒れていた。革命軍の陣が少し先に見える。ユルゲンとの戦いの後、気絶したらしい。なぜ自分が気絶し、ここまで移動したのか理由はわからなかった。
オレガは自分の体を見回し、怪我がないことを確認して立ち上がった。
そして、ハッと思い出して、「師!」と叫んで、辺りを見回した。
何人もの兵士の遺体が転がっていた。オレガは泣きながら遺体を何体も確認していくがユルゲンの遺体は見当たらなかった。
どれぐらい経っただろうか、あたりが暗くなってきた頃、オレガはユルゲンの
遺体を探すのを諦めて、革命軍の陣に戻った。
オレガの姿を見つけた兵士の誰かが叫んだ。
「オレガだ!」
オレガの姿を見た兵たちは喜びを隠さなかった。
オレガが敵の“英雄”を倒したところを見た者が、そのことを他の者達にも伝えて、すでに全員に知れ渡るところとなっていた。
オレガを歓迎するため兵士たちが集まって来た。
じきにナタンソーンもやって来た。彼はオレガに労いの言葉を掛けた。
「心配したぞ。良く戻ってきた」。
「なぜか、気絶して倒れていました」。
「怪我はないか?」
「大丈夫です」
「よかった」
「よくユルゲン・クリーガーを倒した。大手柄だ」。
ナタンソーンは満面の笑みで言った。
オレガはうつむいて小さく頷いた。
「はい」。
ナタンソーンはオレガを士官たちのテントに招いてその帰還を共に祝った。
◇◇◇
帝国軍の司令官ルツコイは今後について重要な決断に迫られていた。
もはや残った三千の兵力ではプリブレジヌイに籠城するだけで精いっぱいだ。首都の奪還などは不可能であろう。プリブレジヌイで新たに兵を募集するか、強制的に徴兵するかだが、いずれにせよ、あまり多くの兵士を補充できる可能性はなかった。
公国軍の五千もいつまでもここに居ることはできないだろう。
ルツコイは悩んだ挙句、皇帝に一つ提案を出すことを決めた。
ルツコイは皇帝イリアに謁見した。
「陛下」。ルツコイは跪いて話を切り出す。「先ほどの戦いでユルゲンも打ち取られました。兵士たちの士気も下がってきております。そこで提案なのですが、反乱軍に休戦交渉を申し出ます。そして、帝国政府をプリブレジヌイに移し、時間を稼いで再起を図りたいと存じます」。
「クリーガーが戦死とは…、言葉も出ない」
皇帝はうつむいてしばらく考える。そして、顔を上げて答えた。
「いいでしょう。任せます」。
ルツコイは兵士二人を連れて革命軍の陣へ馬で赴いた。重装騎士の装備はせず、通常の制服で出発する。
途中の草原は帝国軍と革命軍の遺体が無残に散乱している。
しばらく進み、革命軍の陣に近づくと、見張りの兵に止められた。
「何者だ?」
「私は帝国軍の総司令官ボリス・ルツコイだ。休戦協定を結びたい、君らの指導者に会わせてほしい」。
見張りは敵の総司令官が来たので慌てて、士官たちのいるテントに向かった。そして、戻って来ると、付いて来いという。
ルツコイ一行は、革命軍のテントに入った。
六,七名のリーダーたちと思われる者達が待ち構えていた。
ルツコイはその中に、キーシンの姿を見つけて驚愕した。
「キーシンか?」
「久しぶりだな、ルツコイ司令官」。
「牢にいたのではないのか?」
その質問にナタンソーンが答えた。
「私が解放した。そして今は我々の指揮官として働いてもらっている」。
なるほど、急に反乱軍に統率が出たのはそのせいか。これは予想していなかった。
テントの隅にオレガ・ジベリゴワも居るのが目に入った。自分の部下で、彼女自身の師でもあるユルゲン・クリーガーを斬った女だ。キーシンが居たこともそうだが、ルツコイは不快感を覚えた。
「私が革命軍のリーダーのヴィクトル・ナタンソーンだ」。
「私は帝国軍の総司令官のボリス・ルツコイだ」。
「休戦をしたいと聞いたが」。
「その通りだ」。
「いいだろう。ただし、それには条件がある」。ナタンソーンはニヤリと笑った。「プリブレジヌイを明け渡せ」。
「それは無理だ」。
「もし我々が攻め込めば、もうプリブレジヌイは落ちてしまうだろう」。
「それはわからないぞ」。
「君らの“英雄”ユルゲン・クリーガーも討ち取った。これ以上は無駄な戦いなのではないかな?」
「帝国の体制維持が保障されなければ意味がない。それには拠点となる都市が無ければだめだ」。
「では交渉決裂だな。我々は帝国の完全な崩壊まで戦うつもりだ」。
ルツコイはそれには答えず、立ち去ろうとした。ナタンソーンはその背中から声を掛けた。
「我々は帝国軍でも歯向かわず投降したものは、キーシン司令官の様に革命軍として登用するぞ。自身の為に何が得かよく考えてくれ」。
ルツコイはプリブレジヌイに帰る馬上で再び今後の事を考えた。
大陸歴1660年12月6日・ブラミア帝国・プリブレジヌイ郊外
オレガと共に現れた革命軍が帝国軍と衝突した時、逃げていた革命軍は向きを変え、帝国軍に対し攻撃を始めた。
そして、オレガによってユルゲンが討たれた後、混戦は帝国軍に不利となった。
司令官ルツコイ初め帝国軍兵士たちはユルゲンほどの腕の者が打ち取られるとは思ってもいなかったのだ。
目の前でのユルゲンの死によって帝国軍の士気は一気に下がり、革命軍に押され、結局、重装騎士団および兵士の半数が討ち取られた。
ルツコイと残存兵は撤退し、何とかプリブレジヌイに逃げ込んだ。
一方のオレガは、気が付くと戦場から少し離れた草原で気絶して倒れていた。革命軍の陣が少し先に見える。ユルゲンとの戦いの後、気絶したらしい。なぜ自分が気絶し、ここまで移動したのか理由はわからなかった。
オレガは自分の体を見回し、怪我がないことを確認して立ち上がった。
そして、ハッと思い出して、「師!」と叫んで、辺りを見回した。
何人もの兵士の遺体が転がっていた。オレガは泣きながら遺体を何体も確認していくがユルゲンの遺体は見当たらなかった。
どれぐらい経っただろうか、あたりが暗くなってきた頃、オレガはユルゲンの
遺体を探すのを諦めて、革命軍の陣に戻った。
オレガの姿を見つけた兵士の誰かが叫んだ。
「オレガだ!」
オレガの姿を見た兵たちは喜びを隠さなかった。
オレガが敵の“英雄”を倒したところを見た者が、そのことを他の者達にも伝えて、すでに全員に知れ渡るところとなっていた。
オレガを歓迎するため兵士たちが集まって来た。
じきにナタンソーンもやって来た。彼はオレガに労いの言葉を掛けた。
「心配したぞ。良く戻ってきた」。
「なぜか、気絶して倒れていました」。
「怪我はないか?」
「大丈夫です」
「よかった」
「よくユルゲン・クリーガーを倒した。大手柄だ」。
ナタンソーンは満面の笑みで言った。
オレガはうつむいて小さく頷いた。
「はい」。
ナタンソーンはオレガを士官たちのテントに招いてその帰還を共に祝った。
◇◇◇
帝国軍の司令官ルツコイは今後について重要な決断に迫られていた。
もはや残った三千の兵力ではプリブレジヌイに籠城するだけで精いっぱいだ。首都の奪還などは不可能であろう。プリブレジヌイで新たに兵を募集するか、強制的に徴兵するかだが、いずれにせよ、あまり多くの兵士を補充できる可能性はなかった。
公国軍の五千もいつまでもここに居ることはできないだろう。
ルツコイは悩んだ挙句、皇帝に一つ提案を出すことを決めた。
ルツコイは皇帝イリアに謁見した。
「陛下」。ルツコイは跪いて話を切り出す。「先ほどの戦いでユルゲンも打ち取られました。兵士たちの士気も下がってきております。そこで提案なのですが、反乱軍に休戦交渉を申し出ます。そして、帝国政府をプリブレジヌイに移し、時間を稼いで再起を図りたいと存じます」。
「クリーガーが戦死とは…、言葉も出ない」
皇帝はうつむいてしばらく考える。そして、顔を上げて答えた。
「いいでしょう。任せます」。
ルツコイは兵士二人を連れて革命軍の陣へ馬で赴いた。重装騎士の装備はせず、通常の制服で出発する。
途中の草原は帝国軍と革命軍の遺体が無残に散乱している。
しばらく進み、革命軍の陣に近づくと、見張りの兵に止められた。
「何者だ?」
「私は帝国軍の総司令官ボリス・ルツコイだ。休戦協定を結びたい、君らの指導者に会わせてほしい」。
見張りは敵の総司令官が来たので慌てて、士官たちのいるテントに向かった。そして、戻って来ると、付いて来いという。
ルツコイ一行は、革命軍のテントに入った。
六,七名のリーダーたちと思われる者達が待ち構えていた。
ルツコイはその中に、キーシンの姿を見つけて驚愕した。
「キーシンか?」
「久しぶりだな、ルツコイ司令官」。
「牢にいたのではないのか?」
その質問にナタンソーンが答えた。
「私が解放した。そして今は我々の指揮官として働いてもらっている」。
なるほど、急に反乱軍に統率が出たのはそのせいか。これは予想していなかった。
テントの隅にオレガ・ジベリゴワも居るのが目に入った。自分の部下で、彼女自身の師でもあるユルゲン・クリーガーを斬った女だ。キーシンが居たこともそうだが、ルツコイは不快感を覚えた。
「私が革命軍のリーダーのヴィクトル・ナタンソーンだ」。
「私は帝国軍の総司令官のボリス・ルツコイだ」。
「休戦をしたいと聞いたが」。
「その通りだ」。
「いいだろう。ただし、それには条件がある」。ナタンソーンはニヤリと笑った。「プリブレジヌイを明け渡せ」。
「それは無理だ」。
「もし我々が攻め込めば、もうプリブレジヌイは落ちてしまうだろう」。
「それはわからないぞ」。
「君らの“英雄”ユルゲン・クリーガーも討ち取った。これ以上は無駄な戦いなのではないかな?」
「帝国の体制維持が保障されなければ意味がない。それには拠点となる都市が無ければだめだ」。
「では交渉決裂だな。我々は帝国の完全な崩壊まで戦うつもりだ」。
ルツコイはそれには答えず、立ち去ろうとした。ナタンソーンはその背中から声を掛けた。
「我々は帝国軍でも歯向かわず投降したものは、キーシン司令官の様に革命軍として登用するぞ。自身の為に何が得かよく考えてくれ」。
ルツコイはプリブレジヌイに帰る馬上で再び今後の事を考えた。
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