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英雄は二度死ぬ
再び旅へ
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大陸歴1710年6月7日・パルラメンスカヤ人民共和国・首都アリーグラード
「この前の皇帝の息子の件だけど、ナターシャが話をしてきてくれたみたい」。
クララはメモを取り出した。
「皇帝イリアの息子は、今、ニコライ・ブユケネンと名乗っているみたい。旧皇族、旧貴族とその支持者の実業家たち仲間で、帝政の復活を考えているフシもあるみたいって言ってた。それで、来月、プリブレジヌイで会合があるらしいんだけど、その参加者は限られていて、さすがに私たちは無関係だから参加は難しいと」。
「そうか。残念」。
「まあ、仕方ないよ」。
イリーナは急に別の件を思いついて、クララに尋ねた。
「そういえば、ヴァシリーサお婆様も元貴族じゃあなかったっけ? 何か知っていないかな?」
「そうだけど、お父さんはそういう会合に行ったことないみたい。聞いたことないし。それに、うちはもう旧貴族って感じじゃあないし」。
「そういえば、ムラブイェフさんはどうかな?」
クララはハッと思い出して姿勢を正して言った。
イリーナも同様にハッとして目を見開いた。
「そうだわ、彼の家も、もちろん旧貴族よ。何か知っているかも」
「聞いてみるだけでもしてみようよ。『何か、他にお役に立てそうなことがあれば、いつでもどうぞ』って言ってたし」。
「それは社交辞令だと思うけど」。
「まあ、大丈夫だよ。親戚だから」。
クララはそう言って微笑んだ。
こういう時に、彼女の軽さはちょっと利点だなとイリーナは思った。
クララはもう二つ目の話題に話を変えた。
「そうそう。もう一つ重要な話があるのよ」。
「何?何?」
クララが少々大声で話し出したので、イリーナは思わず前のめりになった。
「ブリュンヒルデさんから手紙が届いたのよ」。
ブリュンヒルデ・ヴィルト。プラウグルン共和国の新聞社 “プラウグルン・ツワィトゥング” の新聞記者だ。彼女もクリーガーの謎について解明をしている一人で、クララとイリーナが共和国の首都ズーデハーフェンシュタットを訪れた時に知り合った。そして、今後、情報交換しようという約束をした間柄だ。
「本当!?」
イリーナは驚いて、大声になってしまった。
「何かお爺様の事でいい資料が見つかったのかな?」
「もっと、すごい事よ」
「もったいぶらないで」
クララは鞄から手紙を取り出し、イリーナに手渡した。封筒には住所、宛名が達筆な文字で書かれていた。裏の差出人は確かにブリュンヒルデ・ヴィルトと書かれていた。
イリーナは封筒から中の手紙を取り出して読んだ。
“拝啓
クララ・クリーガー様
アグネッタ・ヴィクストレームと会う約束がとれました。私は二カ月の長期休暇を取ってヴィット王国に住むに彼女に会いに行きます。ヴィット王国の国境の街ホッグプラッツで会います。
クララさんとイリーナさんも一緒にどうかと思っています。
レテ・ダ・ズール公国のソントルヴィレに来られますか? ヴィット王国に向かう前に、私はそこにある “エマール”という宿屋に六月二八日から三十日まで泊まる予定です。もし、あなた方の都合が合えばそこで会いましょう。
敬具
ブリュンヒルデ・ヴィルト“
アグネッタ・ヴィクストレームが存命で、さらに会う約束を取り付けたとは、ブリュンヒルデさんも、なかなかやる。
「私、ヴィット王国へ行くわ」。
クララは手紙を読み終えると、彼女らしからぬ毅然とした口調で言った。
一方のイリーナは「えっ」と驚いてから、しばらく黙っていた。そして、しばらく考えてから首を傾げて唸った。
「うーん。私も、ぜひ行きたいのだけれど。ソントルヴィレまで、一週間はかかるわよ。さらに、そこからヴィット王国の首都国境まで最低一週間。行って帰って来るだけで一カ月。ヴィット王国の滞在期間も考えると最低五週間は予定を空けないと」。
「私は、お爺様の秘密がわかるかもしれないから絶対行くわ。カレッジもちょうど夏休みに入るし、ちょうどいいわ」。
確かに時期的にはちょうどいいだろう。
「確かに、死んだはずのお爺様がなぜ生きていたのかということも気にかかるけど、それをヴィット王国のヴィクストレームとかいう人物が知っているとは限らないでしょう」。
そして、イリーナは思い切って本当のことを言った。
「ズーデハーフェンシュタットを訪問した時の旅費で、貯金はあまり残っていないのよ」。
五週間の旅行をする大金があるわけないし、クララとの家と違って中流階級であるイリーナの両親に相談しても断られるのがおちだ。
しかし、クララは、けろっとした表情でいう。
「お金なら、私が出してあげるわよ」
「ええ!いいの?」
「いいよ」。
「じゃあ、行く」。
イリーナは即答した。
クララの家は祖父ユルゲンの遺産があってまあまあ裕福だ。遺産のほとんどは “回想録”や彼の著作が売れた印税だが。クララが金持ちで助かった。
◇◇◇
旅に出ると決まったら、旅の準備だ。
イリーナは、出発までの数日をかけて準備をし、自室で大きなカバンに着替えやら日用品やら詰め込んでいく。
なんといっても五週間の旅だ、荷物の量が多い。
「これは運ぶのは大変ね」。
内容物が満載の鞄を持ち上げてみて、ため息をついた。
出発の日、イリーナとクララは駅馬車の停車場に集まるのを約束していた。
クララは屋敷から召使いのナターシャを連れて行くと言っていた。途中、行く先々でいろんな用事を言いつけるつもりのようだ。停車場に現れた召使いは両手に大きな荷物を二つ持っている。
一方のクララは大きな旅行鞄を一つ。
イリーナは自分の鞄を引きずりながら言った。
「ナターシャさんの荷物は?」
「私はこの鞄の中に入っています」。ナターシャは大きなカバンを襷掛けにして持っていた。「途中の宿などで洗濯もできるでしょう。ですので、着替えは少なめにしました」。
ナターシャはいつものメイド服を着ていた。
「なるほどね」。
イリーナは納得して、そう呟いた。
プリブレジヌイ行きの駅馬車が到着すると、三人は乗り込んだ。
さあ、“雪白の司書”に会いに行こう。
「この前の皇帝の息子の件だけど、ナターシャが話をしてきてくれたみたい」。
クララはメモを取り出した。
「皇帝イリアの息子は、今、ニコライ・ブユケネンと名乗っているみたい。旧皇族、旧貴族とその支持者の実業家たち仲間で、帝政の復活を考えているフシもあるみたいって言ってた。それで、来月、プリブレジヌイで会合があるらしいんだけど、その参加者は限られていて、さすがに私たちは無関係だから参加は難しいと」。
「そうか。残念」。
「まあ、仕方ないよ」。
イリーナは急に別の件を思いついて、クララに尋ねた。
「そういえば、ヴァシリーサお婆様も元貴族じゃあなかったっけ? 何か知っていないかな?」
「そうだけど、お父さんはそういう会合に行ったことないみたい。聞いたことないし。それに、うちはもう旧貴族って感じじゃあないし」。
「そういえば、ムラブイェフさんはどうかな?」
クララはハッと思い出して姿勢を正して言った。
イリーナも同様にハッとして目を見開いた。
「そうだわ、彼の家も、もちろん旧貴族よ。何か知っているかも」
「聞いてみるだけでもしてみようよ。『何か、他にお役に立てそうなことがあれば、いつでもどうぞ』って言ってたし」。
「それは社交辞令だと思うけど」。
「まあ、大丈夫だよ。親戚だから」。
クララはそう言って微笑んだ。
こういう時に、彼女の軽さはちょっと利点だなとイリーナは思った。
クララはもう二つ目の話題に話を変えた。
「そうそう。もう一つ重要な話があるのよ」。
「何?何?」
クララが少々大声で話し出したので、イリーナは思わず前のめりになった。
「ブリュンヒルデさんから手紙が届いたのよ」。
ブリュンヒルデ・ヴィルト。プラウグルン共和国の新聞社 “プラウグルン・ツワィトゥング” の新聞記者だ。彼女もクリーガーの謎について解明をしている一人で、クララとイリーナが共和国の首都ズーデハーフェンシュタットを訪れた時に知り合った。そして、今後、情報交換しようという約束をした間柄だ。
「本当!?」
イリーナは驚いて、大声になってしまった。
「何かお爺様の事でいい資料が見つかったのかな?」
「もっと、すごい事よ」
「もったいぶらないで」
クララは鞄から手紙を取り出し、イリーナに手渡した。封筒には住所、宛名が達筆な文字で書かれていた。裏の差出人は確かにブリュンヒルデ・ヴィルトと書かれていた。
イリーナは封筒から中の手紙を取り出して読んだ。
“拝啓
クララ・クリーガー様
アグネッタ・ヴィクストレームと会う約束がとれました。私は二カ月の長期休暇を取ってヴィット王国に住むに彼女に会いに行きます。ヴィット王国の国境の街ホッグプラッツで会います。
クララさんとイリーナさんも一緒にどうかと思っています。
レテ・ダ・ズール公国のソントルヴィレに来られますか? ヴィット王国に向かう前に、私はそこにある “エマール”という宿屋に六月二八日から三十日まで泊まる予定です。もし、あなた方の都合が合えばそこで会いましょう。
敬具
ブリュンヒルデ・ヴィルト“
アグネッタ・ヴィクストレームが存命で、さらに会う約束を取り付けたとは、ブリュンヒルデさんも、なかなかやる。
「私、ヴィット王国へ行くわ」。
クララは手紙を読み終えると、彼女らしからぬ毅然とした口調で言った。
一方のイリーナは「えっ」と驚いてから、しばらく黙っていた。そして、しばらく考えてから首を傾げて唸った。
「うーん。私も、ぜひ行きたいのだけれど。ソントルヴィレまで、一週間はかかるわよ。さらに、そこからヴィット王国の首都国境まで最低一週間。行って帰って来るだけで一カ月。ヴィット王国の滞在期間も考えると最低五週間は予定を空けないと」。
「私は、お爺様の秘密がわかるかもしれないから絶対行くわ。カレッジもちょうど夏休みに入るし、ちょうどいいわ」。
確かに時期的にはちょうどいいだろう。
「確かに、死んだはずのお爺様がなぜ生きていたのかということも気にかかるけど、それをヴィット王国のヴィクストレームとかいう人物が知っているとは限らないでしょう」。
そして、イリーナは思い切って本当のことを言った。
「ズーデハーフェンシュタットを訪問した時の旅費で、貯金はあまり残っていないのよ」。
五週間の旅行をする大金があるわけないし、クララとの家と違って中流階級であるイリーナの両親に相談しても断られるのがおちだ。
しかし、クララは、けろっとした表情でいう。
「お金なら、私が出してあげるわよ」
「ええ!いいの?」
「いいよ」。
「じゃあ、行く」。
イリーナは即答した。
クララの家は祖父ユルゲンの遺産があってまあまあ裕福だ。遺産のほとんどは “回想録”や彼の著作が売れた印税だが。クララが金持ちで助かった。
◇◇◇
旅に出ると決まったら、旅の準備だ。
イリーナは、出発までの数日をかけて準備をし、自室で大きなカバンに着替えやら日用品やら詰め込んでいく。
なんといっても五週間の旅だ、荷物の量が多い。
「これは運ぶのは大変ね」。
内容物が満載の鞄を持ち上げてみて、ため息をついた。
出発の日、イリーナとクララは駅馬車の停車場に集まるのを約束していた。
クララは屋敷から召使いのナターシャを連れて行くと言っていた。途中、行く先々でいろんな用事を言いつけるつもりのようだ。停車場に現れた召使いは両手に大きな荷物を二つ持っている。
一方のクララは大きな旅行鞄を一つ。
イリーナは自分の鞄を引きずりながら言った。
「ナターシャさんの荷物は?」
「私はこの鞄の中に入っています」。ナターシャは大きなカバンを襷掛けにして持っていた。「途中の宿などで洗濯もできるでしょう。ですので、着替えは少なめにしました」。
ナターシャはいつものメイド服を着ていた。
「なるほどね」。
イリーナは納得して、そう呟いた。
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