色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

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英雄は二度死ぬ

旧貴族のパーティー

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 一行は駅馬車を乗り継いで進み、出発から二日後、プリブレジヌイに到着した。アリーグラードより北にあるので少々涼しい気候で過ごしやすい。
 先日のオレガ・ジベリゴワの話では、ここで革命軍と帝国軍との最後の戦いがあったということだ。そう思うと少々感慨深い。オレガがユルゲンを討ったのもこの辺りだろうか。
 今では、ここで激しい戦いが起こったとは思えない。街の周りは草原と麦畑が広がる平和な雰囲気だ。

 街壁の門を通り抜け、一行は、安い宿屋を探しそこに泊まった。数日ここに泊まる予定だ。

 旧皇族たちの会合は明日の夜。
 それまでは、街を観光でもしようかという事になった。

◇◇◇

 次の日。
 イリーナ、クララ、ナターシャの三人は、今夜のパーティーに着ていく服を借りるため、貸衣装店へ出向いた。
 クララとナターシャは金持ちパーティーには慣れているようなので、イリーナは衣装などもほぼ二人の言いなりで決めた。まあ、クララが貸衣装代も出してくれるということなので、ありがたく言う通りにした。

 夜、招待状を持ってパーティー会場に行く。そこはプリブレジヌイの中央にある城からさほど遠くない大きな屋敷。皇帝イリアの息子、ニコライ・ブユケネンの住む屋敷だという。
 会場には着飾った人々が大勢入って行くのが見えた。

 三人もそれに続いて屋敷に入った。
 イリーナはこういう場所は来たことがないので、どぎまぎしていたが、クララとナターシャは慣れているようで、余裕の雰囲気だ。

 会場の部屋の入り口でホスト夫妻が待ち構えていた。
 あの人物がニコライ・ブユケネンだ。貫禄のある口ひげを生やし、長身であるため少し離れていても目立った。

 三人はニコライ・ブユケネンに近づいて挨拶する。
「私は、クララ・クリーガーです。こちらは、イリーナ・ガラバルスコワとナターシャ・ストルヴァです」。クララは頭を下げた。「本日はご無理を聞いていただいてありがとうございます」。
「いやいや。あの“英雄”のお孫さんに会えるとは私も光栄です。あなたのお爺様のことは、母からたびたび聞かされておりました」。
「後程、改めてお話させてください」。
「構いませんよ。では楽しんでください」。
 ブユケネンは笑顔で答えた。

 三人は会場の中に入り、料理や飲み物を食べながら談笑していた。
「こういう場は緊張する」。
 イリーナが言うとクララが答えた。
「なんで?」
「だって、こういうところに来ることないもの」。
「そうかー。私はたまにあるからね」。
「さすがはお嬢様」。
「別にお嬢様じゃあないよぅ」。
「私に比べると圧倒的にお嬢様だよ」。
「じゃあ、イリーナも今日、ここに来たからお嬢様仲間だね」
「いや、私んちは金持ちじゃあないから、そうはいかないでしょう」。
 ナターシャが皿に料理を取り分けて取ってきてくれた。
「どうぞ」。
「ありがとうございます」。
 イリーナは皿を受け取った。このパーティーは料理も豪勢だ。イリーナがいつも食べる庶民の食事とはだいぶ違う。

 しばらくすると、見知った人物は声を掛けて来た。
 イワン・ムラブイェフだ。傍らに奥さんのマリアと、十歳ぐらいの子供も連れていた。
「やあ。皆さんも、お越しになっていたんですね」。
「イワンさん!」。
 三人とムラブイェフ夫妻はお互いに挨拶を交わした。
「こちらは息子のミーシャ」
 イワンは息子を紹介した。
「こんばんは」
 三人はミーシャに挨拶する。
「こんばんは」。
 ミーシャは少し恥ずかしそうに挨拶を返した。
「かわいー」。
 そういって、クララがミーシャの頭を撫でた。

 イリーナはイワンに向き直って改めて頭を下げた。
「今晩はありがとうございました。イワンさんが言ってくださったおかけで、来ることができました」。
「よかったです。お爺さんのことも何かわかるといいね」。
「はい。後程、ブユケネンさんと話をして、お話を伺おうと思っています」。
「うん。いい話が聞けるといいね」。
「はい、ありがとうございます」
「では、パーティーを楽しんで」。
 そういうと、ムラブイェフ一家は立ち去った。

 しばらく三人が談笑していると、ブユネケンが話し掛けてきた。
「皆さんは、いつまで、ここに滞在を?」
「明後日の朝には出発します」。
「では、明日、改めて屋敷に来ませんか? 母の遺品がいくつかありますから、それをお見せしましょう」。
「遺品はどういうものですか?」
「日記とメモらしきものがいくつか。私も大体読んだけど、日記は帝国から脱出した後のものがほとんどです。あと、母が死ぬ前に、母の生涯を本にしたいということで、出版社の人と話をしたことがあって。その時に母は昔のことを思い出して、いくつかメモを残しているよ。それもあります」。
「それは楽しみです」。

イリーナとクララは期待に胸を膨らませた。
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