傭兵部隊の任務報告2~ヴェールテ家連続殺人事件

谷島修一

文字の大きさ
47 / 58
捜査14日目

捜査14日目~報告

しおりを挟む
 ズーデハーフェンシュタット駐留の帝国軍第五旅団の旅団長ボリス・ルツコイは自分の執務室で、部下で副旅団長のレオニード・コバルスキーから軍の内部の調査の途中経過を聞いていた。
 ヴェールテ家のから金をもらっていたものは、現状で三十名ばかりわかっているという。これの数はさらに増えそうだという。多くが一般の兵士でヴェールテ家の付近の通りを監視に当たっている者がほとんどだった。ヴェールテ家に出入りする人物がいても報告がされないということだ。また、兵士で現状、数名の行方が分からなくなっているという。

 ヴェールテ家がモルデンにいたころ、やはり金を使って一部隊丸ごと百名近い兵士を買収し街を脱出していた。これは、連続殺人の前に亡くなっているスザンネの夫、ブルクハルトが主導してやったものだ。今回の件は別の男が金を渡していたそうだ。ヴェールテ家の者で男性は長男ハーラルト、次男エストゥス、三男マルティンだが、長男、次男は殺害された。すると残るはマルティンだが、金を渡してきた人物は白髪の老人だったという。
 そうなると、ヴェールテ家の関係者で老人と言えば執事だ。
 まさか本当に執事が犯人なのか。
 先日のマイヤーの報告からは執事が行方不明になっているという。そうなると、執事は逃亡を図ったとも考えられる。
 ルツコイは行方が分からなくなっている兵士数名の行方を追うようにコバルスキーに指示を出した。

 コバルスキーの報告がほぼ終わろうとするとき、執務室の扉をノックする音が聞こえた。
 入ってきたのはマイヤーとタウゼントシュタインだった。ルツコイは敬礼をする二人を見て目を見開いた。
「絶妙なタイミングだな。ちょうど君たちと話をしたいと思っていたところだ」。
「司令官の方から?」
「うむ。副司令官が軍の内部でヴェールテ家の者から賄賂をもらっていた者を特定している。かなりの人数が金をもらっているようだ」。
「そうでしたか」。
「これを機会にまずは第五旅団全体で汚職状況を調べ上げて、関係者を処分しようと思っている」。ルツコイは自分の旅団内の汚職状況が思いのほか酷いので、顔をしかめて話す。「それで、賄賂を渡していた人物だが、白髪の老人だということだ」。
「白髪の老人?」
「おそらく執事だ」。
「やはりそうですか。執事を始め妻のスザンネなども姿をくらませております」。
「待ってください」。タウゼントシュタインが話に割って入った。「白髪の老人と言えば、顧問弁護士のハルトマンもそうです」。
 マイヤーはハッとなった。確かにそういわれればそうだ。
「顧問弁護士?」
 ルツコイは尋ねた。
「そうです。遺言状に従って財産分与をする予定ですが、長男たちが財産の配分に不満で訴えると言っていたそうで、そのゴタゴタが終わるまで弁護士が財産を預かっているそうです。ですので、ヴェールテ家の人たちは現状、大金を動かすことはできません」。
「まさか顧問弁護士が連続殺人と汚職に関わっていると」。
「あくまでも可能性です」。

 マイヤーが身を乗り出して言った。
「確認します。早速、顧問弁護士に会って来ます」。
「待て、待て」。
 ルツコイはあわてて出ていこうとするマイヤーを制した。
「君らも何か話があったのではないのか?」
「ああ、そうでした」。
 マイヤーはルツコイに向き直った。
「実は、ヴェールテ家の奥さんや執事たちが貨物船でズーデハーフェンシュタットから逃走したそうです。彼らを追跡するために海軍の船をお借りできないかと」。
「いいだろう」。ルツコイは即答した。「執事も容疑のかかっている者だ。汚職の実態も把握しなければならなし、それにヴェールテ家の者と言えども許可なく都市間の移動は許されない」。

 ルツコイは姿勢を正し、副司令官コバルスキーに命じる。
「君は、引き続き失踪兵士の捜索と内部の調査を」。
 次に、ルツコイは立ち上がってマイヤー達のほうを向く。
「今から私は、海軍の司令官ベススメルトヌイフに会いに行く。船を一隻借りることができるように命じておく。君らが顧問弁護士に会った後、夕方までには話がついているようにしておくから、直接向かってくれてもよい」。
「ありがとうございます、感謝いたします」。
 マイヤーとタウゼントシュタインは敬礼して執務室を後にした。続いてコバルスキーも執務室を出ていった。ルツコイも剣を持って身なりを整え、港の海軍の兵舎に向かい出発した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...