傭兵部隊の任務報告2~ヴェールテ家連続殺人事件

谷島修一

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捜査16日目

捜査16日目~真相

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 倉庫で捕えられたスザンネ・ヴェールテと執事のフリッツ・ベットリッヒは、一旦、海軍の建物に連行された。ここの警察は協力的ではないので、そのまま海軍の船で二人をズーデハーフェンシュタットまで連行することにした。
 マイヤーは、スミルノワ達の協力に礼を言い海軍の建物で別れた。

 翌日の朝、 “エンデクン号” でズーデハーフェンシュタットに帰還するためオストハーフェンシュタットの港を出航した。もちろんスザンネと執事も一緒だ。彼らを厳重に見張りつつ連行する。今回の一連の事件の詳細はズーデハーフェンシュタットの警察本部で行う予定だ。

 しかし、マイヤーはこの事件の顛末の裏側を知りたいと思い、スザンネと執事が捕えられている部屋を訪れた。それにクラクスとタウゼントシュタインが同行する。彼らが素直に事件の真相を語ってくれるかはわからなったが、理由を知らずには居ても立っても居られなかった。

 彼らが捕えられている部屋の前には、水兵が見張りをしていた。彼に敬礼をして、マイヤー達は扉を開けて中に入る。
 部屋の中ではスザンネと執事は椅子に静かに座っていた。
 マイヤーとタウゼントシュタインは別の椅子にすわる。クラクスは椅子が無かったので、扉を背に立ったままで話を聞く。

「さて、お聞かせ願いたい」。マイヤーは質問を切り出した。「そもそも、なぜハーラルト、エストゥス、クリスティアーネ、召使いの四人を殺したのです?」
 執事はゆっくりと話し出した。
「私たちはヴェールテ家に対して恨みを持っておりました。それは、モルデンの一件です」。
「モルデンの一件とは、ヴェールテ家が帝国軍と通じて自分たちだけで脱出した件ですか?」。
「そうです。私の息子たちはモルデンの戦いで戦死しました」。
「それはお気の毒に。息子さんが居られたのですね」。
「ええ、二人。共和国軍の正規軍に所属しておりました。息子たちが命を懸けて戦っている最中に、金を使って自分たちだけ脱出した彼らを許すわけにはいきませんでした。その恨みをいつか果たそうと、彼らに近づこうと思っておりました。たまたま屋敷で執事を募っていると言うので、応募したら採用となりました」。
 彼が採用されたのは戦後の事だから、つい最近のことだ。
「採用されてから約三カ月間、殺害のチャンスはいくらでもありましたが、決行したのはハーラルトがパーティーに行った時です」。
 それは旧貴族たちの寄り合いパーティーだ。執事は話を続ける。
「パーティーに召使いのヴェールベンが同行するというので彼女に毒を盛らせました」。
「なぜ彼女が殺害の手助けをしたのですか?」
「彼女は実家が貧しくて金に困っていました。それで、実家が何年も生活できるような報酬を払うと約束したら手伝うと。そして数日後、エストゥスの朝食にも毒を盛らせました」。
「では、仲間の彼女をなぜ殺したのですか?」
「彼女はエストゥスに毒を盛った後、逆に我々を脅してきたのです、報酬金額を増やさないと警察にこのことを自白すると言いました。それで口封じもかねて殺害を」。
「殺害方法は?」
「彼女もハーラルト、エストゥスの二人に使ったものと同じ毒を使いました。その後、遺体を港に捨てさせました」。
「捨てさせた?」
「はい、ズーデハーフェンシュタットの帝国軍を買収し、兵士に手伝わせました」。
「モルデンのヴェールテ家の賄賂を非難しておきながら、自分たちも賄賂ですか?」
 クラクスが口を挟んだ。彼もモルデンの戦いに参加していた。執事に何か言いたくなるだろう。

 マイヤーは手でクラクス制しすると質問を続けた。
「では、クリスティアーネの殺害は?」。
「同じ毒をワインに仕込んでおきました」。
「我々の隊長が持って行ったものですね」。
「そうです」。
「隊長に罪をかぶせようとした?」
「その考えはありませんでしたが、捜査のかく乱ができるかと思いました」。
「さらには、オットー・クラクスにも罪をかぶせようとしましたね?」
「クラクスさんはヴェールテ家に恨みを持っていたようなので、警察にそのことを話しました。それも、捜査のかく乱になるだろうと」。
「やはりそうか」。
 クラクスは怒りを込めて一言言った。

 マイヤーは落ちついた口調で話す。
「確かに、クラクスが捜査から外れた。目論見は達成されたようですね。それに隊長もオストハーフェンシュタットの警察に疑われました」。
 それについては執事は無言だった。マイヤーは続けて質問をする。
「それで、警察に捜査を中止させた内務局の長官については何か知っていますか?」
「長官に金を送っていたのも私です。ヴェールテ家は戦前から共和国の政府内に賄賂を贈っていたようですから、政府内でヴェールテ家からの依頼という事であれば、それを聞くものは多いです」。
「長官が行方不明になっている件は?」
「彼が屋敷に訪れて、軍の司令官が殺人と賄賂について調査をしているようだと言いました。彼も怖気づいて我々の秘密をばらすようなことを仄めかしたので、その場で殺害しました」。
「毒殺ですか?」
「飲み物などに毒を盛る余裕がなかったので、応接室にあった美術品の小さな石膏像で殴りました」。
「遺体はどうしたのですか?」
「やはり、軍の兵士に依頼して運び出しました。そして、貨物船に乗せ沖に捨てさせました。あなた方の隊長が乗っていた時の貨物船です」。
「そういえば、隊長が船に二人の不審な男がいて、オストハーフェンシュタットで襲われたと言っていました。関係があるのですか?」
「ええ、その二人が軍の兵士です。彼らに長官の遺体を海へ捨てさせました」。執事は一呼吸おいて続けた。「そして、隊長を襲うように言いました」。
「それはなぜ?」
 マイヤーは驚いて声を上げた。
「やはり捜査をかく乱するためです。我々の事を調べている者が一人で遠出をする。事件を調べている者は殺されると思わせるためのチャンスだと思いました」。
「しかし、たった二人で隊長を襲わせるとは。彼なら十人を相手にしても勝てるでしょう」。
 十人は言い過ぎだったかもしれない。

 マイヤーは再び口を開いた。
「マルティンも殺害しようとしていたのですか?」
「いいえ、彼は殺害をしようと思っていませんでした。もし警察やあなた方が遺産目当ての連続殺人という事で疑うならば、家族が全員亡くなって遺産の大半が手に入る彼に疑いがかかると思ったからです」。
「それでは、スザンネさんにも疑いがかかるとは思わなかったのですか?」
「スザンネはきょうだいが殺害されても遺産はさほど増えませんから、遺産目当てということであれば疑いはかけられません」。

「そういえば、弁護士のハルトマンの殺害には関与を?」
 タウゼントシュタインが尋ねた。
「疑いが我々にかかっていることで国外に逃亡をすることにしました。しかし、帝国軍に短期間で多額の賄賂を使ったので使える金が少なくなっていました。きょうだいとの遺産相続の揉め事が終わるまで、遺産は弁護士が管理していましたから、我々がすぐに自由に使える金はさほど多くなかったのです。それで、弁護士からは禁止されていたのですが、屋敷の美術品を売って金を作ろうと思っていました。しかし、美術品はすぐに現金化することは難しい。それで、他に思いついたのは屋敷です。屋敷の権利書は弁護士が持っていたので、彼から奪い取ろうとしました。当然、彼は拒否しましたので殺害して奪いました。ちょうど屋敷を欲しがっていた他の旧貴族に売却して、逃亡資金を調達しました」。
「そうですか。それで、あなた方と、一緒にいた男たちは?」
「彼らも帝国軍の兵士です。金を払って我々の逃亡の手助けと美術品を運ぶのを手伝わせました」。
「美術品?」
「ええ、船で逃走するのは最初から考えていたので、一旦、船に乗せてしまえば多めの荷物を移動させるのはさほど難しくないと思いました。美術品を逃亡先で少しずつ売却して、何年も生活していく予定でした。しかし、船の火災ですべて海の底です」。
 それを聞いたクラクスは自分の放った炎が美術品を灰にしてしまい、かなり後ろめたさを感じた。屋敷にあった美術品で、あの屋敷何個分もの価値があると聞いていたからだ。歴史的価値のある物もたくさんあったようだ。
「召使いは?」
「いざという時の人質にと考えていました。しかし、彼女も船と一緒に海の底です」。
「彼女は救出されて生きています」。
 執事は少し驚いたような表情をした。
「そうでしたか」。
「罪が一つ減りましたね」。
 マイヤーは嫌味ともとれる台詞を口にした。

 これで大体の疑問は解消されただろうか、正式な取り調べはズーデハーフェンシュタットの警察に任せよう。
 この会話の中で、違和感を覚えていたことがあった、執事がスザンネの事を“奥様”と呼ばずに“スザンネ”と言ったからだ。
 マイヤーは最後にそれを確認する。
「スザンネさんはこの犯罪にどの程度関与していたのですか?」
「スザンネは犯行の計画も実行されたことも知っていました。しかし、実行したのはすべて私です」。
「なるほど。それで、スザンネさんと執事の本当の関係は?」
「スザンネは私の娘です」。
 その言葉に一同は驚いた。
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