6 / 75
謎めいた指令
新たな指令2
しおりを挟む
皇帝から届いた指令は驚きの内容であった。
テレ・ダ・ズール公国が帝国に侵攻して来ようとしているとは、まったくの想定外だった。逆に、以前は帝国の方が公国へ侵攻しようと検討していた。しかし、旧共和国領内の統治や、予想を超える兵士の退官のための人員不足などの理由で、公国への侵攻の準備が十分にできず、実行に移せない状況だった。
公国のこの動きは、攻められる前に先手を打とうということだろうか。
たしかに、最近、帝国内は混乱している。暴動が多くなっているということも公国に伝わっているのかもしれない。その混乱に乗じて侵攻しようと考えたのだろうか。
私は、命令どおり早速、元々所属していた百三十名のほとんどと、新たに加入した隊員で、筋の良い者を七十名の合わせた二百名を選定した。
この作戦に関して情報が少ないため、出発の前に、ズーデハーフェンシュタット駐留軍の司令官ルツコイに会って話をすることにした。テレ・ダ・ズール公国の侵攻理由について何か知っているかもしれない。ルツコイにはこれまでもいろんな相談相手になってもらっていて、頼りになる人物だ。
私は馬を駆って城まで出向き、彼の執務室を訪問した。
扉をノックし中へ入ると、ルツコイはいつも通り、執務机の奥の椅子に腰かけて、何やらぶつぶつ言っていた。
彼は背は低いが、がっしりとした体格。四角い顔つきと口髭が特徴的だ。用兵では戦術に長け、巧みに戦うタイプだ。帝国軍のソローキンやキーシンと言った主流派の指揮官は、圧倒的物量にものを言わせ力押しで攻めるが、ルツコイは多様な戦略で敵を翻弄するという。
一方で彼は気さくな性格で、我々のような元共和国の人間にも一定の敬意をもって接してくれる人物だ。まだ我々が傭兵部隊の頃、彼が統括をしていたので接点も多かった。指揮命令系統がルツコイから外れた今でも、私的な交流は続いている。
私は敬礼して、あいさつした。
「司令官、失礼します」。
「ああ、クリーガーか、どうした?」
ルツコイは返事したが、なにやら不機嫌そうだ。
「陛下から命令が来ました。部隊を連れて首都まで出向けと」。
「こちらにも来た」。
ルツコイは立ち上がって、彼の手元に届いた命令書を上に振り上げた。彼は大袈裟な身振り手振りが多い。彼は話を続けた。
「此処の統治のために兵士は残さないといけない。そうすると、出発できる兵はせいぜい三千人だ。しかし、残していく五千人で、暴動などの不測に事態に対応できるかどうかわからん」。
ルツコイは、さらに不満そうに言う。
「今、公国が侵略の準備をしているとはな」。
私は疑問をぶつけた。
「なぜ、今、公国が侵略して来ようとしていると思いますか?」
「わからんな」。
ルツコイはため息をついた。彼は命令書を見つめたまま、しばらく何も話さないのを見て、私は口を開いた。
「帝国の次の侵攻目標が公国でした。公国はそれを知って先手を打ってきたのでは?今、帝国は皇帝が崩御した後で間もないため、国内が混乱しています」。
私は自ら予想した理由を開陳してみた。
「そうかもしれんが、ちょっと釈然としないな。国内が混乱しているとは言え、兵力は帝国の方が上だ」。
ルツコイは、考え込むようにうつむいて続けた。
「国内で手引きしたものがいるのかもしれん。ここでは、あまり起こっていないが、他の都市では、最近、不満住民や反乱分子の暴動も多発しているからな」。
「それは、どうでしょうか」。
私は強く否定はしなかったが、旧共和国派が動いているとは思わない。というのも私は旧共和国派ともつながりがあるからだ。もちろん、私が旧共和国派とつながりがあることは、帝国軍や帝国の関係者には知られてない。
帝国と共和国の旧国境の近くに旧共和国軍の残党が潜伏しており、私は彼らの首領であるダニエル・ホルツと極秘に手紙をやり取りしている。手紙の引き渡しの場所はズーデハーフェンシュタットからそう遠くない岩場の海岸である。
この傍の砂浜で、私は時々、弟子たちと一緒に修練を行なったりしているのは、ルツコイや帝国関係者も知っているので、私がそこに出向くのはさほど怪しまれない。
潜伏している旧共和国派と出会ったのは旅の途中の偶然であった。ホルツが、来るべき蜂起の日に備えて、各都市に同志を作りたいという。そこで、私はズーデハーフェンシュタットでの指導者の役目を頼まれることになった。
手紙の内容は、どの都市でどういった人物がいて、指導者として決まったとか、そういう内容が多い。旧共和国領内の都市では、ほとんどの都市で指導者が決まっている。幸いなことにこれ等のことは帝国に知られることなく進んでいた。
これまでのホルツとの手紙の中で、彼らが公国とつながりがあるとは書いていたことはない。ひょっとして、私の知らないことがあるのだろうか。確認する必要があるだろう。
ルツコイとは、その後、いくつか軍の編成、ズーデハーフェンシュタットの治安状態などについての話をし、部屋を出ることにした。
「我々は二百名を連れて、この夕刻に出発します」。
私は扉を開けながら言った。
「そうか。我々は明日早朝に出発する」。と言った後、「健闘を」。と、ルツコイは付け加えて敬礼した。
「司令官も」。
そう私は答えて敬礼をし、彼の執務室を後にした。
テレ・ダ・ズール公国が帝国に侵攻して来ようとしているとは、まったくの想定外だった。逆に、以前は帝国の方が公国へ侵攻しようと検討していた。しかし、旧共和国領内の統治や、予想を超える兵士の退官のための人員不足などの理由で、公国への侵攻の準備が十分にできず、実行に移せない状況だった。
公国のこの動きは、攻められる前に先手を打とうということだろうか。
たしかに、最近、帝国内は混乱している。暴動が多くなっているということも公国に伝わっているのかもしれない。その混乱に乗じて侵攻しようと考えたのだろうか。
私は、命令どおり早速、元々所属していた百三十名のほとんどと、新たに加入した隊員で、筋の良い者を七十名の合わせた二百名を選定した。
この作戦に関して情報が少ないため、出発の前に、ズーデハーフェンシュタット駐留軍の司令官ルツコイに会って話をすることにした。テレ・ダ・ズール公国の侵攻理由について何か知っているかもしれない。ルツコイにはこれまでもいろんな相談相手になってもらっていて、頼りになる人物だ。
私は馬を駆って城まで出向き、彼の執務室を訪問した。
扉をノックし中へ入ると、ルツコイはいつも通り、執務机の奥の椅子に腰かけて、何やらぶつぶつ言っていた。
彼は背は低いが、がっしりとした体格。四角い顔つきと口髭が特徴的だ。用兵では戦術に長け、巧みに戦うタイプだ。帝国軍のソローキンやキーシンと言った主流派の指揮官は、圧倒的物量にものを言わせ力押しで攻めるが、ルツコイは多様な戦略で敵を翻弄するという。
一方で彼は気さくな性格で、我々のような元共和国の人間にも一定の敬意をもって接してくれる人物だ。まだ我々が傭兵部隊の頃、彼が統括をしていたので接点も多かった。指揮命令系統がルツコイから外れた今でも、私的な交流は続いている。
私は敬礼して、あいさつした。
「司令官、失礼します」。
「ああ、クリーガーか、どうした?」
ルツコイは返事したが、なにやら不機嫌そうだ。
「陛下から命令が来ました。部隊を連れて首都まで出向けと」。
「こちらにも来た」。
ルツコイは立ち上がって、彼の手元に届いた命令書を上に振り上げた。彼は大袈裟な身振り手振りが多い。彼は話を続けた。
「此処の統治のために兵士は残さないといけない。そうすると、出発できる兵はせいぜい三千人だ。しかし、残していく五千人で、暴動などの不測に事態に対応できるかどうかわからん」。
ルツコイは、さらに不満そうに言う。
「今、公国が侵略の準備をしているとはな」。
私は疑問をぶつけた。
「なぜ、今、公国が侵略して来ようとしていると思いますか?」
「わからんな」。
ルツコイはため息をついた。彼は命令書を見つめたまま、しばらく何も話さないのを見て、私は口を開いた。
「帝国の次の侵攻目標が公国でした。公国はそれを知って先手を打ってきたのでは?今、帝国は皇帝が崩御した後で間もないため、国内が混乱しています」。
私は自ら予想した理由を開陳してみた。
「そうかもしれんが、ちょっと釈然としないな。国内が混乱しているとは言え、兵力は帝国の方が上だ」。
ルツコイは、考え込むようにうつむいて続けた。
「国内で手引きしたものがいるのかもしれん。ここでは、あまり起こっていないが、他の都市では、最近、不満住民や反乱分子の暴動も多発しているからな」。
「それは、どうでしょうか」。
私は強く否定はしなかったが、旧共和国派が動いているとは思わない。というのも私は旧共和国派ともつながりがあるからだ。もちろん、私が旧共和国派とつながりがあることは、帝国軍や帝国の関係者には知られてない。
帝国と共和国の旧国境の近くに旧共和国軍の残党が潜伏しており、私は彼らの首領であるダニエル・ホルツと極秘に手紙をやり取りしている。手紙の引き渡しの場所はズーデハーフェンシュタットからそう遠くない岩場の海岸である。
この傍の砂浜で、私は時々、弟子たちと一緒に修練を行なったりしているのは、ルツコイや帝国関係者も知っているので、私がそこに出向くのはさほど怪しまれない。
潜伏している旧共和国派と出会ったのは旅の途中の偶然であった。ホルツが、来るべき蜂起の日に備えて、各都市に同志を作りたいという。そこで、私はズーデハーフェンシュタットでの指導者の役目を頼まれることになった。
手紙の内容は、どの都市でどういった人物がいて、指導者として決まったとか、そういう内容が多い。旧共和国領内の都市では、ほとんどの都市で指導者が決まっている。幸いなことにこれ等のことは帝国に知られることなく進んでいた。
これまでのホルツとの手紙の中で、彼らが公国とつながりがあるとは書いていたことはない。ひょっとして、私の知らないことがあるのだろうか。確認する必要があるだろう。
ルツコイとは、その後、いくつか軍の編成、ズーデハーフェンシュタットの治安状態などについての話をし、部屋を出ることにした。
「我々は二百名を連れて、この夕刻に出発します」。
私は扉を開けながら言った。
「そうか。我々は明日早朝に出発する」。と言った後、「健闘を」。と、ルツコイは付け加えて敬礼した。
「司令官も」。
そう私は答えて敬礼をし、彼の執務室を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる