魔法の数字

初昔 茶ノ介

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2章:学園生活

最終段階

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ヴェルくんが付加を成功させた次の日。私は訓練室にヴェルくんの他に、クレアちゃん、ルナちゃん、ハナちゃん、レインを呼んでいた。

「あ…あの…リンさん?この人達は…」

「これから…最後の特訓…。今日から…試験まで…みんなと練習」

「え!?全員と!?」

「リン様にご教授頂いてるだけでも、ありがたいと思ってください」

ヴェルくんが驚いているところに、レインが睨みつけた。

「レイン…睨まない…の」

「はい、リン様」

私に返事はしたものの、レインは半ば納得いかない様子だった。

「それで、私達は何をしたらいいのかしら?」

ハナちゃんも、ヴェルくんをレインほどではないけど、じとーと睨みながら私に聞いた。

「1日1回…全員と模擬戦…」

「…へぇ」

ハナちゃんはにやっと笑みを浮かべ、ヴェルくんの前に立った。

「リンの頼みならしょうがないわ。でも、手加減はしないから。協力してあげる以上は、絶対に合格しなさい!いいわね?」

「は、はい…」

「じゃあ、最初は私が相手をしてあげる」

ハナちゃんが最初の相手ということで、とりあえず私達は、防具を着て二人の模擬戦を見ていることにした。

「それじゃあリン。合図よろしく」

「ん……。始め」

私の合図と同時に、ヴェルくんは私の教えた通り前に出ながら式を立てた。
しかし、ハナちゃんも式を立てながら前に出て、魔法を発動すると同時に魔筆をしまった。
ヴェルくんが剣をハナちゃんの胸の防具に向かって突きを出す。

「甘いわよ」

「えっ…?」

ハナちゃんは一瞬でヴェルくんの後ろに回り、背中の防具を思いきり殴り飛ばした。

「はい、私の勝ち」

「あ…ありがとう…ございました」

背中を殴り飛ばした衝撃が強かったのか、地面に思いきり叩きつけられたヴェルくんは、ふらふらと立ち上がってハナちゃんにお礼を言った。

「別に。このままだと面白くないから頑張って強くなってね」

そう言い残して、ハナちゃんは私のところにきた。

「リン~私、かっこよかった?」

「ん…かっこよかった…」

「えへへ~それほどでもないけど~」

ハナちゃんは私が褒めるとなんだか嬉しそうだった。
その様子を見て、レインがむっとしたように手を上げた。

「次は私がやります!」

レインが意気揚々とヴェルくんの前に立ち、ヴェルくんもそれに合わせて構える。

その後も順番に模擬戦をしていき、ヴェルくんは見事、全戦全敗だった。
まぁ、当たり前だと思う。今の段階でこの中の誰かに勝てるなら苦労しない。
こうして放課後も、ヴェルくんと特訓をしているとはいえ、私達だって授業をして、魔法や戦闘技術を磨いているのだ。

「これで今日の分の練習は終わりよね?リン、これから私とお茶でも…」

「ずるいですよ!?リン様、私と一緒に…」

「これから…ヴェルくんと…反省会…」

私はみんなにまた明日よろしくと言って、訓練室の出入口まで引っ張っていった。
今日からやるのは戦闘になった時の戦術の立て方を考えること。私も授業で習ったことしか教えてあげられないけど、試験までの1ヵ月、二人で考えればあの中の誰かに、1回くらい勝てるようになるのではないかと考えている。

とりあえず私はボロボロになって倒れているヴェルくんのところまで行く。

「ヴェルくん…?大丈夫…?生きてる…?」

「な、なんとか…」

私は授業で習った応急処置の治癒魔法をヴェルくんにかけると、ヴェルくんはなんとか立ち上がった。

「ありがとう、リンさん。それにしても…みんな強いね…あんな人達がいるクラスに僕なんかが入れるのか、また不安になってきたよ…」

ヴェルくんはそう言ってハハハと苦笑いしていた。
そういうのも仕方ないと思う。
ハナちゃんに嫉妬してかレインもほぼ瞬殺。ルナちゃんは得意の土魔法を駆使して、近づくこともできずに敗北。クレアちゃんはもうお遊び半分で、空間魔法でぴょんぴょん飛び回って、最後は操作魔法でヴェルくんの剣が防具に当たって負けると、全員にしてやられていたわけだ。

「大丈夫…一人ずつ…考えていこ…?」

私とヴェルくんは訓練室のイスに座って、一人一人の対策を順番に考えていき、私が可能な限りそれを再現して対策を練ることを繰り返すうちに、少しずつではあったけどヴェルくんはみんなに瞬殺されにくくなっていった。

そして、試験まで残り三日。

「このっ!」

ハナちゃんがヴェルくんの剣を避けて、防具に拳を向けた瞬間、ヴェルくんの剣から突風が吹いて、ハナちゃんの体勢が後ろへ崩れる。
そのスキをついて、ヴェルくんは剣をハナちゃんの胸の防具に振り下ろす。

「まだまだっ!」

「くっ!」

後ろに体勢を崩しながらも、ハナちゃんは地面に手をついて、ヴェルくんの剣を蹴り飛ばした。

ヴェルくんが新しい剣を作ろうとしたところで、ハナちゃんの逆の足が防具に当たった。

「今日もダメか…ありがとうございました」

お礼を言って、ヴェルくんはぶつぶつと自分で反省を始めた。
この一ヶ月でヴェルくんは、ルナちゃんに一回勝ち、ハナちゃんとレインに勝つことはできなかったが、本気を出させるところまで追い詰めることができるようになった。
クレアちゃんについては、戦い方をコロコロと気分で変えてしまうため本気を出しているのかもわからなかった。

「ヴェルくん…」

私が呼ぶとヴェルくんはハッとして私の方を向いた。

「なに?リンさん」

「今日で…特訓は…おしまい」

「え?どうして?」

「休むのも…大切…。あと、ヴェルくんは…もうじゅうぶん強い…から…」

「そ、そんな。僕なんてまだまだ…」

ヴェルくんが弱気なことを言うので、私は魔筆を取り出して、初めてヴェルくんと模擬戦をした時のように、剣を錬成して攻撃した。
ヴェルくんはそれにちゃんと反応して、剣を錬成し、私の剣を弾き飛ばした。

「ほら…ね?前は細切れ…だったのに…」

「……」

ヴェルくんは無言で自分の剣を見つめ、私の方を向いた。

「弱気になっちゃ…ダメだよ?」

私がそう言うと、ハナちゃんが思いきりヴェルくんの背中を叩いた。

「そうよ!あんたは私達が一ヶ月も相手してあげたんだから!自信くらいもちなさい!」

「そうですね、あなたがそれでも自信がもてないなら、リン様への侮辱として私があなたを細切れにします」

「レインさん、それはちょっと物騒すぎませんか?」

みんなでわいわい言っていると、ヴェルくんもいつのまにか和やかな顔をしていた。
三日後の試験、上手くいくといいな…。
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