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第1章:別れと出会い
11.いつもは聞かない音
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「よし、こんなもんか」
いつもの体力作りを終えて、俺は水浴びをしに川へ向かう。こうして朝のうちに汗を流すまでが俺の最近の日課だ。
「さて、今日は昨日見つけた文字の解読を……」
「だ、誰か! 誰か助けてくださーい!」
「ん?」
いつもなら動物の鳴き声や、植物の揺れる音くらいしか聞こえない森の中に、男の声が響いた。
というか、この世界に来てから初めての人の声が叫び声とか……物騒な世界だな。そんなことを呑気に考えながら、俺は声のした方へ走る。
しばらく進むと、おそらく声の主であろう男が木の上に登り半べそをかいている。
そしてその男が落ちてくるのを今か今かと待ち侘びている狼が四匹。
この森に来て知ったことだが、野生の動物たちはとても賢い。鹿や兎、小さなリスまで自分が襲われないために感覚を研ぎ澄ましているし、逆に狩る側の狼なんかは群れを作り、リーダーや囮を作って確実に獲物を仕留めている。
だが、流石に木の上に逃げられる人《えもの》は難しかったようだ。
とりあえず、あの四匹をなんとかするか。
「おい、そこのあんた! 落ちないようにもう少し待ってろ!」
俺の声に気がついて、狼たちの視線が一気に俺の方へと向いた。
俺は両手をパンっと合わせ、指から糸を伸ばし、続けて兎から盗った脚力強化、鹿から盗った角生成を使い、俺の右手にまっすぐの小さな角が10本生成された。
「よっと」
俺は襲ってきた狼たちをかわすために大きく跳躍し、空中で身を翻す。
そしてそのまま狼たちの頭上から、作り出した糸を角にくっつけて木や地面に向けた投げ刺し、糸に触れた狼たちは体を急に固めその場に倒れた。
「危ない!」
俺が着地したところで、木の上にいる男が大声を上げる。そして草むらからもう一匹の狼が襲いかかってきた。
なるほど、あの四匹に襲わせて取りこぼしはこいつが拾うのか。
だが……。
「そこ、気をつけろよ」
狼が俺の一歩手前に足を置いた瞬間、地面がベコっと凹んで、狼は突如現れた大穴に沈んでいった。
「前に作った落とし穴が残ってたんだ。残念だったな」
俺は動けない狼たちの間を抜けて、木の上でポカンとしている男に声をかけた。
「おい、大丈夫か」
「あ、は、はい! 僕はなんとも……ただ」
「ただ?」
「どうやってここから降りたらいいでしょうか」
「……」
「……」
そんな素っ頓狂なことを言うもんだから、じゃあどうやって登ったんだよってツッコミを入れるタイミングを見失ってお互い無言の時間が流れた。
いつもの体力作りを終えて、俺は水浴びをしに川へ向かう。こうして朝のうちに汗を流すまでが俺の最近の日課だ。
「さて、今日は昨日見つけた文字の解読を……」
「だ、誰か! 誰か助けてくださーい!」
「ん?」
いつもなら動物の鳴き声や、植物の揺れる音くらいしか聞こえない森の中に、男の声が響いた。
というか、この世界に来てから初めての人の声が叫び声とか……物騒な世界だな。そんなことを呑気に考えながら、俺は声のした方へ走る。
しばらく進むと、おそらく声の主であろう男が木の上に登り半べそをかいている。
そしてその男が落ちてくるのを今か今かと待ち侘びている狼が四匹。
この森に来て知ったことだが、野生の動物たちはとても賢い。鹿や兎、小さなリスまで自分が襲われないために感覚を研ぎ澄ましているし、逆に狩る側の狼なんかは群れを作り、リーダーや囮を作って確実に獲物を仕留めている。
だが、流石に木の上に逃げられる人《えもの》は難しかったようだ。
とりあえず、あの四匹をなんとかするか。
「おい、そこのあんた! 落ちないようにもう少し待ってろ!」
俺の声に気がついて、狼たちの視線が一気に俺の方へと向いた。
俺は両手をパンっと合わせ、指から糸を伸ばし、続けて兎から盗った脚力強化、鹿から盗った角生成を使い、俺の右手にまっすぐの小さな角が10本生成された。
「よっと」
俺は襲ってきた狼たちをかわすために大きく跳躍し、空中で身を翻す。
そしてそのまま狼たちの頭上から、作り出した糸を角にくっつけて木や地面に向けた投げ刺し、糸に触れた狼たちは体を急に固めその場に倒れた。
「危ない!」
俺が着地したところで、木の上にいる男が大声を上げる。そして草むらからもう一匹の狼が襲いかかってきた。
なるほど、あの四匹に襲わせて取りこぼしはこいつが拾うのか。
だが……。
「そこ、気をつけろよ」
狼が俺の一歩手前に足を置いた瞬間、地面がベコっと凹んで、狼は突如現れた大穴に沈んでいった。
「前に作った落とし穴が残ってたんだ。残念だったな」
俺は動けない狼たちの間を抜けて、木の上でポカンとしている男に声をかけた。
「おい、大丈夫か」
「あ、は、はい! 僕はなんとも……ただ」
「ただ?」
「どうやってここから降りたらいいでしょうか」
「……」
「……」
そんな素っ頓狂なことを言うもんだから、じゃあどうやって登ったんだよってツッコミを入れるタイミングを見失ってお互い無言の時間が流れた。
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