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第1章:別れと出会い
19.この子たちが職を得るには
しおりを挟む「私、ロネットって言います。街の北……私たちは北通りって呼んでるところに住んでます。捨て子で親がいないので……。北通りのそういう子供が集まってる建物があるんですが、そこにあの大人の人がきて、もしこっそりと街を抜け出して薬草が取れたら他のところよりも高い値段で買い取るって言われて……。私を含めて比較的歳の高い子供だけで門番の人の目を盗んで外から薬草を取ってました……」
ロネットはそこから表情を暗くして続きを話す。
「でも、いつからか私だけが薬草を取りに行くように指示があって、それからは私だけで……みんなの分の食べ物を買うにはなんとかあの人に言われているのるま? の量を回収しないといけなくて……」
「それで今日は集めきれなかったのか」
俺が聞いた質問にコクリとうなづくロネット。
「それに今日はルッテ……他の子が怪我をしちゃったから、薬草が少し分けて欲しくて……でもそれだといつもの半分のお金しか渡せないって……のるまよりは少なかったけど、ちゃんと決められた量の近くまでは集めたつもりだったの。でも、契約書にはそういうふうに書いてあるからって言われて……どうしよう、薬草も全部持っていかれちゃったし、お金も半分。これじゃあルッテの怪我も治せないし、みんなもお腹を空かせちゃう……」
現状を口に出すたびにロネットは泣き出しそうに声が萎んで目には涙が浮かんできた。
「うーん、なんとかしてあげたいのは山々なんだけどなぁ」
「なんとかできないのか?」
俺が聞くと、悔しそうにリオネルは頭を掻いた。
「僕も何かこういう子達にできる事業を考えていたんだけど、どうしても問題が起きてくるんだ」
「問題?」
「あぁ、保護者と監督役の不在。それと、できることの不透明さだね」
「できることの不透明さ?」
「そう。どうしても、こういう事業をするときは出資者っていうお金を出してくれる人が必要なんだよ。これ自体は僕の商会がなってもいいんだけど、僕の商会のメンバーにもちゃんとした説明や今後の見通し、利益の見込み、色々と必要なんだ。要は、この子達が何をできるのかっていうことがわからなさすぎるんだ」
なるほど。つまり、この子達に金を出させるだけの価値があるのかってことだな。
俺は泣き出しそうなロネットの方を見る。
「ロネット、みんなが得意なことはないか? ロネットが得意なことでもいいし、一緒にいるみんなが得意なことでもいい」
「得意なこと……えっと、ルッテは手先が器用で編み物の本をよく読んでて、前にお花の冠を綺麗に作ってくれました。トニーはお料理が得意です。材料がないので作ってもらったことはないけれど、匂いと見た目だけでなんの具材が入っているか当てることができるんですよ。それからレイラは小さな子たちのお世話がとても上手だし、それからそれから……」
「えっと、わかったよ。ありがとう」
そのまま続いていきそうだと思ったのか、リオネルがロネットの話を止めてさらに頭をひねる。
「困ったな。まったく事業を思いつかないよ」
「この子達の得意なことじゃなくてもいいんじゃないか?」
「とは言っても、教育も受けていない子どもたちにできることとなると余計に説得力に欠けちゃうんだ」
「その事業に沿った教育をするというのは?」
「それこそ誰が指導するのかって話になってくるよ」
「うまくいかないもんだな。ん? でも、おかしいだろ」
「おかしいって何が?」
「なんでこの子達は教育も受けてないのに、薬草の判別ができたんだ?」
「……あ」
「ロネット、どこで薬草の見分け方なんて覚えたんだ?」
「えっと……最初はあの男の人が薬草の絵を持ってきて、それに近い草をみんなでこっそり持ってきたの。最初は普通の雑草も混ざっていたけど、それでもノルマに行けば買い取ってはくれたから。そうしていくうちにみんな薬草の見分けができるようになって……」
「そんなにうまくいくものかな?」
「というと?」
「薬草の判別は、いうほど簡単なものじゃないんだ。ベテラン冒険者でも薬草を見つけるのって時間がかかったりするし」
「へぇ」
「それに、薬草のと一言に言っても、種類の違い、純度の違い、そういうのも含めて薬草探しはすごく難しいんだ」
「それじゃあ、この子達も薬草探しで稼げるんじゃないか?」
「いいや、年齢的に無理だね。今回は目を瞑るけど、本来なら薬草の採取は、薬絶防止法って言って、冒険者や薬師、治療師の資格がないと採取を許可されないんだ」
「じゃあそれを取れれば」
「最短の冒険者資格でも取得は13歳からだよ。薬師や治療師だって、有資格者のもとで修行をしなきゃいけないし、現実的じゃない」
「はー、頭が痛くなってくるな」
13歳からじゃないと冒険者資格を取れない。せっかく持ってる薬草探しの技術も違法じゃ手が出しにくい……か。
行動しないと何事も変わらないよな、俺も、この子も。
「それじゃあ俺が冒険者になって、薬草探しを手伝ってもらうっていうのはどうだ?」
俺の提案に、リオネルが顎に手を当て考える。
「……いい案だけど少し弱いかな。薬草はさっきも言った通り薬絶防止法で採りすぎちゃいけないんだ。それに、薬草は高値で取引をされるけど、ライバルが多いよ。薬草を売るのは僕たちみたいに商会か薬師に限られるし、すでにお得意様がいるからね」
「……だめかぁ」
一気に色々考えすぎて、頭が疲れてきた。
とにかく……。
「一旦、そのルッテっていう子の傷を治そう」
「ほ、ほんとに!? ほんとに治してくれるんですか!?」
「あぁ、薬草はまだ残ってるし、構わない。だから俺のことを信じて欲しいんだ」
俺の言葉を聞いて、ロネットは表情をパッと明るくした。
「ありがとう! シノお兄ちゃん! こっちだよ」
ロネットは目を輝かせて俺の手を引き、北側通路に入って行った。
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