十二支たちは恋をする

初昔 茶ノ介

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ずるい鼠は真面目な牛に恋をする

5.自覚

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私が急に泣き出してしまったので、しばらく休めそうなところで休憩をとった。

「落ち着きましたか?」

「……はい」

ウシワカさんが私が泣き止んだところで声をかけてくれたが、私の内心としては今日あったばかりの、しかも男の人の前で泣いてしまったことにとてつもない羞恥心を感じていた。

(ま、まさか泣いちゃうなんて…恥ずかしい…。ウシワカさんが悪いんだよ…急にあんなこと言うから…)

私はそんなことを考えながら荷物をまとめていた。
すると日記に挟んでいたはずのペンがないことに気がついた。

(あ、あれ!?お母さんのペンがない…!?どこに…もしかして転んだ時に…)

カバンの中を全て出しても見当たらないためやはり先程の山賊のところで落としたのだと判断した。

「あ、あの…ウシワカさん。私さっきのところで落し物をしたみたいで…探しに戻ります」

「え?今からですか?もうすぐ日もくれます。今からだと夜に…」

「でも…あのペンは母の大切な…」

「ペン?もしかしてこれですか?」

ウシワカさんがそういうと母のペンを右ポケットから取り出した。

「ど、どこでこれを!?」

「先程襲われてるところに落ちていたんです。まだ使えそうだったので拾ったんですが…そんな大切な物だったんですね。よかった」

「は、はい…お母さんの形見なんです…」

「そうですか…では、もう落とさないようにしてください」

「はい!」

「それでネムさん…そろそろ手を…」

「手…?あっ」

私はペンのことで必死でウシワカさんのペンを持っている右手ごと握っていることに気がついた。

「あ、えっと…すみません!」

私はぱっと手を離して両手を顔に当てた。

(私…なんてこと……あ、ウシワカさんの匂いがする……って何考えてるの私!こんな変質者みたいなことを…!)

必死に自分の顔の熱を冷まそうとしている時にウシワカさんが私の目の前にペンを出した。

「はい、大切にしまっておいてください」

「は、はい…」

ウシワカさんの明るい笑顔を見るとまた顔が沸騰しそうな感覚になり、ウシワカさんの顔を直視できなかった。

「では、そろそろいきましょうか。もうすぐ日が落ちてしまいます」

「はい…」

私達はまた山道を進み始めた。

(あぁ…さっきから私『はい』しか言ってないよ…変な子って思われてないかな)

そんなことを考えながらウシワカさんの後ろをついていく。
ウシワカさんはちょくちょく私に足元を気をつけてとか疲れてませんかなど気を使ってくれた。

そして、しばらく進むと夕日が落ちるぎりぎりで山を抜けることができた。

「このまま近くの村までいきましょう。大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です」

「あまり無理そうなら言ってください。では…」

「ちょ、ちょっと待ってください」

「はい?なんでしょう?」

「ウシワカさん、どっちに進もうとしてますか?」

「確かこの道を南に進めば村が…」

「そっちは西です…」

私はカバンから取り出したコンパスを取り出して見せた。
ウシワカさんがものすごい方向音痴ということを聞いたためもしかしてと思い確認したのだ。

「す、すみません…」

「ふふふ…」

ウシワカさんが謝る姿を見てちょっと笑ってしまった。
その姿を見てウシワカさんが不思議そうな顔をしていたが私はすぐに謝った。

「すみません…さっきまで頼りがいのある感じだったのにほんとに方向音痴さんなんだなって思ったら…おかしくって。」

私は笑いながらコンパスを見てこっちですと南を指すと顔を少し赤くしたウシワカさんが咳払いを1回して歩き始めた。
しばらく歩くと村があり、私達は小さな宿をとった。

自分の部屋に荷物をおいて布団に横になる。

(ウシワカさん…顔赤くしちゃって可愛かったなぁ)

山を抜けたところを思い出して少しにやけてしまう自分を抑えながら寝返りをうつ。

(山賊に襲われたのは最悪だったけど、ウシワカさんに会えたからあの山賊達もグッジョブかな)

そんなことを考えながらウシワカさんの方向音痴のことをまた思い出し笑いしているとあることを思い出した。

(そういえばウシワカさん…私が山を降りるまでって言ってたよね…)

そう、ここで気がついた。
おそらく明日には『1人』になるということに。
また山賊に襲われても1人で対処しなくてはいけないし、助けてくれる人も話をしてくれる人もいない。
たった1人で乗り切らねばならないということに気がついてしまった。

ーーーズキッ

(あれ…なんで私、こんなに心が痛むんだろ…ウシワカさんは今日あったばかりの人で、もともと1人で旅をする予定だったじゃない…)

そう思っていたのに…どうして…寂しいなんて…。
ここでさらに自覚した。
私は1人が嫌いなんだと…。
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