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ずるい鼠は真面目な牛に恋をする
10.気がつけばデート中
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ウシワカさんと街に出ると外はもう夕焼けが少し沈みかけて薄くオレンジがかっていた。
「さて、どこへ行きましょうか」
ウシワカさんが私に行き先を聞いてきたが私もこんな街初めてで正直どこへ向えばいいのかもなにがあるのかもわからないため、返事に困っていた。
「そこのお2人さん」
返事に困っているところ後ろから声をかけられて振り向くと変わった服を着た男の人がいた。
「行くところを探してるならこれに乗ってみないかい?」
そう言って男の人が指さしたのはよくわからないもの。
黒くて椅子に屋根と車輪をつけたような馬車よりも少し小さいもの。
「これは…どういうものですか?」
ウシワカさんがちょっと興味あり気に聞くと男の人は丁寧に答えてくれた。
「これは人力車っていって、簡単に言うと馬の代わりに人が引く乗り物さ。馬より遅いぶん、街をあっしが色々と説明しながら回るから行く場所がないなら乗ってもいいんじゃないかな?」
「なるほど…面白そうですね。ネムさん、これに乗ってみましょう」
「そうですね、面白そうです!」
「お!ノリがいいねぇ!それじゃあこちらへどうぞ!あ、俺の名前はギンジっていいやす!何か聞きたいことがあったらなんでも聞いてくだせぇ!」
ギンジさんはそう言って私達を人力車へ誘導する。
私とウシワカさんが人力車に乗ると意外と中が狭いことに気がついた。
そう、ウシワカさんぴったりくっついているのだ。
「それではいきやすね!」
ギンジさんが声とともにぐいっと前の棒を持ち上げ、出発する。
「すごい力ですね。重たくないんですか?」
「前の棒を持ち上げるのはそんなに重たくないんですが、やっぱり慣れるまでは押す方が大変でしたよ。お嬢さん方は全然軽いほうです」
そう言って軽々と私達を乗せた人力車は街を回って、今まで見たことのない景色を見た。
さっきのほてるよりも大きな建物。リボンが素敵な服が飾られたきらきら輝くお店。そして多くの人。どれも私の街にはない、魅力的なものだった。
そして、最後についた場所は海の見える丘だった。
「あっしはここで待ってるんで、お二人であの丘を見てきたらいいですよ。座りっぱなしで疲れたでしょう?」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて。ネムさん、どうぞ」
ウシワカさんは先に人力車から降りて、私に手を伸ばして優しくおろしてくれた。
そして、私とウシワカさんはそのまま丘のほうへと歩き出した。
「わぁ…きれい…」
私に語彙力があれば、もっと気の利いた感想が出てきたかもしれない。でもその景色を見てまずその単純な言葉がでてきてしまうほどに、素晴らしいものだったのだ。
海の向こう側は何も見えず、遮るものもなく、まるで空と海を斬ったようにまっすぐ別れさせ、その真ん中には赤燈色の夕日が隠れようとしているところだった。
そして、聞こえるのは心地いい波のさざめく音のみだ。
「この場所は恋人の方々に人気の場所らしいです。夕日に照らされてる時に愛を告げると、その恋は実るという伝承まであるそうです」
「へぇ…そうなんですか……ん?」
ここで私はあることを思い出した。
それは昔、ミスズから借りた本の内容で、若い男と女の恋愛を書いたものだった。そこで、二人が街を楽しく歩くのを『デート』と呼んでいたことだ。
(こ、こ、これってもしかして…デート、しちゃってる!?)
その本でも最後は夕日を見て、男が女に告白して、晴れて結ばれた二人が唇を重ねて完結だったと思う。
「ネムさん?どうかされました?」
「は、はい!」
変なことを考えていたせいか、つい大きな声を出してしまった。
「どうしました?ぼーとされて」
「い、いえ!つい景色に見とれちゃって…」
「あぁ…たしかにこんなキレイな海はなかなかないですからね」
なんとか誤魔化せて内心ホッとしてしまった。
「私、海って初めて見たんです。鼠族の領地に海はないので」
「そうだったんですか…俺は2回目ですね。牛族の街の近くには海があるんです」
「へぇ…でも近くなら何度も行くんじゃないですか?」
「道に迷うから危ないと家族に止められまして…」
「あぁ…」
(そう言えばそうだったね…)
近くと言っているのに心配されるとはウシワカさんの方向音痴は筋金入りなのだろう。私は今後の旅でもウシワカさんを一人で動かせてはいけないと強く心に刻んだ。
「そろそろ戻りましょうか。夕日も落ちてしまいましたし」
ウシワカさんに言われて気が付いたが、日はもう半分以上姿を隠して、あたりは薄暗くなっていた。
私たちはギンジさんのところへ戻ったが、どことなくギンジさんがにやにやしていることにイラっとしつつ、私たちはほてるへの帰路についた。
「さて、どこへ行きましょうか」
ウシワカさんが私に行き先を聞いてきたが私もこんな街初めてで正直どこへ向えばいいのかもなにがあるのかもわからないため、返事に困っていた。
「そこのお2人さん」
返事に困っているところ後ろから声をかけられて振り向くと変わった服を着た男の人がいた。
「行くところを探してるならこれに乗ってみないかい?」
そう言って男の人が指さしたのはよくわからないもの。
黒くて椅子に屋根と車輪をつけたような馬車よりも少し小さいもの。
「これは…どういうものですか?」
ウシワカさんがちょっと興味あり気に聞くと男の人は丁寧に答えてくれた。
「これは人力車っていって、簡単に言うと馬の代わりに人が引く乗り物さ。馬より遅いぶん、街をあっしが色々と説明しながら回るから行く場所がないなら乗ってもいいんじゃないかな?」
「なるほど…面白そうですね。ネムさん、これに乗ってみましょう」
「そうですね、面白そうです!」
「お!ノリがいいねぇ!それじゃあこちらへどうぞ!あ、俺の名前はギンジっていいやす!何か聞きたいことがあったらなんでも聞いてくだせぇ!」
ギンジさんはそう言って私達を人力車へ誘導する。
私とウシワカさんが人力車に乗ると意外と中が狭いことに気がついた。
そう、ウシワカさんぴったりくっついているのだ。
「それではいきやすね!」
ギンジさんが声とともにぐいっと前の棒を持ち上げ、出発する。
「すごい力ですね。重たくないんですか?」
「前の棒を持ち上げるのはそんなに重たくないんですが、やっぱり慣れるまでは押す方が大変でしたよ。お嬢さん方は全然軽いほうです」
そう言って軽々と私達を乗せた人力車は街を回って、今まで見たことのない景色を見た。
さっきのほてるよりも大きな建物。リボンが素敵な服が飾られたきらきら輝くお店。そして多くの人。どれも私の街にはない、魅力的なものだった。
そして、最後についた場所は海の見える丘だった。
「あっしはここで待ってるんで、お二人であの丘を見てきたらいいですよ。座りっぱなしで疲れたでしょう?」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて。ネムさん、どうぞ」
ウシワカさんは先に人力車から降りて、私に手を伸ばして優しくおろしてくれた。
そして、私とウシワカさんはそのまま丘のほうへと歩き出した。
「わぁ…きれい…」
私に語彙力があれば、もっと気の利いた感想が出てきたかもしれない。でもその景色を見てまずその単純な言葉がでてきてしまうほどに、素晴らしいものだったのだ。
海の向こう側は何も見えず、遮るものもなく、まるで空と海を斬ったようにまっすぐ別れさせ、その真ん中には赤燈色の夕日が隠れようとしているところだった。
そして、聞こえるのは心地いい波のさざめく音のみだ。
「この場所は恋人の方々に人気の場所らしいです。夕日に照らされてる時に愛を告げると、その恋は実るという伝承まであるそうです」
「へぇ…そうなんですか……ん?」
ここで私はあることを思い出した。
それは昔、ミスズから借りた本の内容で、若い男と女の恋愛を書いたものだった。そこで、二人が街を楽しく歩くのを『デート』と呼んでいたことだ。
(こ、こ、これってもしかして…デート、しちゃってる!?)
その本でも最後は夕日を見て、男が女に告白して、晴れて結ばれた二人が唇を重ねて完結だったと思う。
「ネムさん?どうかされました?」
「は、はい!」
変なことを考えていたせいか、つい大きな声を出してしまった。
「どうしました?ぼーとされて」
「い、いえ!つい景色に見とれちゃって…」
「あぁ…たしかにこんなキレイな海はなかなかないですからね」
なんとか誤魔化せて内心ホッとしてしまった。
「私、海って初めて見たんです。鼠族の領地に海はないので」
「そうだったんですか…俺は2回目ですね。牛族の街の近くには海があるんです」
「へぇ…でも近くなら何度も行くんじゃないですか?」
「道に迷うから危ないと家族に止められまして…」
「あぁ…」
(そう言えばそうだったね…)
近くと言っているのに心配されるとはウシワカさんの方向音痴は筋金入りなのだろう。私は今後の旅でもウシワカさんを一人で動かせてはいけないと強く心に刻んだ。
「そろそろ戻りましょうか。夕日も落ちてしまいましたし」
ウシワカさんに言われて気が付いたが、日はもう半分以上姿を隠して、あたりは薄暗くなっていた。
私たちはギンジさんのところへ戻ったが、どことなくギンジさんがにやにやしていることにイラっとしつつ、私たちはほてるへの帰路についた。
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