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50話 森へ行こう その3
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この野外教練に携わっている人の数は、意外と多い。
30名以上にも及ぶ自警団員は言うに及ばず、神父様にシスターズ、それに数名のじーさんばーさん。
んで、俺たち生徒約60名を足したら100人オーバーの大所帯だ。
さすがに、それだけの人数がまとまって行動する訳にもいかないので、森に着くなりまず行われたのが子ども達を5~6人程度の小規模なグループに分ける事だった。
まぁ、よくある「好きな子同士でグループを作りなさい」って言うあれだな。
で、結局……
「ねぇねぇ! ラビ捕まえられるかなぁ! 捕まえられるかなぁ!
捕まえたらねぇ、あたし丸焼きにして食べるんだっ!」
「今日は別にラビ捕まえに来たわけじゃねぇだろ……ってか、お前も食うこと優先かよ……」
と、俺の近くでタニアが嬉々とした表情で騒いでいたところに、リュドからそんなツッコミを受けていた。
って、ちょっと待てぃ!
もってなんだ! もって!
なんかそれ、言外に俺まで食うことしか考えない、みたいに言ってないかっ!
「むぅ! そんな事言うバカ兄貴には、分けてやんないからっ! いぃーーっだ!」
タニアはリュドに向かって、その小さい歯を目一杯剥き出しにして威嚇していたが、これまた小さな女の子がそんな事をしたところで、怖くもなんともない。
しかも相手は自分のにーちゃんだ。効果なんてあるはずもなく、リュドは“捕まえられればな”なんて鼻で笑い飛ばしていた。
ラビとは、ウサギによく似た生き物の事だ。ただし、うさぎより多少でかい。どれくらいでかいかというと、大体ネコくらいの大きさがある。
で、俺とタニアはたまに村の近くの林なんかに、罠をしかけてはこのラビをとっ捕まえるなんて事をしている。
タニアがまだ姿も見ていないラビに思いを馳せるのも、正直、分からなくはないのだ。
なにせこのラビ、とてもうまいからな。
肉は適度な弾力があるものの柔らかく、臭みもない。
焼けば肉汁が溢れんばかりに油が乗っているが、味は決してしつこくない。
ジュルリ……あっ、考えたらヨダレが……
外見がまんまうさぎっぽいので、初めの頃は潰す光景……所謂、屠殺ってやつだな……に罪悪感と言うか、心が痛むものがあったが、それも今となってはだいぶ慣れてしまっていた。
別に、殺すことになんの躊躇いもない訳でも、心が痛まない訳でもない。
だが、人は麦だけを食べて生きている訳ではないのだ。
人は、何かの犠牲なくして生きてはいけない。なんて台詞を、誰かが言っていたような気がする。
そもそも、スーパーやデパートなんかの精肉売り場にどれだけの量の肉が並んでいる事か……
あれだけの量を賄うのに、一体何頭の牛さん豚さんを屠殺したのか。
加工された“肉”には躊躇わず手が伸びるくせに、その前段階では“心が痛む”なんてただのエゴでしかない。
俺はそう割り切ったのだ。
だからといって、無意味に捕まえたり、殺したりなんて事は絶対しない。
捕まえるのはあくまで自分たちが食べる分だけに止めるし、調理して出されたものは残さず頂くようにしている。
前世では、ただただ“食物”という感覚だったが、今は“生き物を殺して食べている”という感覚が強くなったように思う。
生前、テレビでやたらと食育がどーの、健康的な食事がどーの、と流れていたが、むしろこうした“人は他の生き物を殺して生きている”って言う根源の部分をもっと教えるべきなんじゃないかねぇ? と、思ったりもする。
なんだか、異世界に来てからと言うもの、食事に対する考え方がずいぶんと変わったような気がするな……
とはいえ……
タニアの様な小さな女の子が、捕まえたラビを前に“かわいいねっ!”と言わず“これ、おいしそうだねっ!”と言う光景はなかなかにシュールなものがある。
まぁ、動物なんて可愛がる対象である以前に、食材だしな……
ペットなんて概念は自分たちが十分に生活が出来ている事が大前提になければ成り立たないのだから、当然と言えば当然か。
人類が犬を飼い始めたのだって、元は非常食目的な訳だし。
自分の生活が苦しいのに、愛玩目的だけで動物を飼うなんてなかなか出来るものじゃないしな。
だからと言って、別にタニアが血も涙もない冷血な子かと言うとそうでもない。
よく牛に乗って遊んでいたり、撫でて可愛がっていたり、子牛の世話なんてしたりしている。
“奪う命”と“養う命”の線引きを、彼女なりにつけているのだろう。本人に自覚ががあるかどうかは別として。
ミーシャでさえ、動物を潰す光景は極力見ないようにしているようだが、それでも出来上がった肉に“かわいそう”などと一言だって言ったことはない。
まぁ、泣きながら肉にかじりついて“おいしい”と言う光景もそれはそれはシュールなのだが。
存外、この村の子供たちは逞しいのだ。
で、そのミーシャはと言えば……
「本当に、だいじょうぶなのおにいちゃん……?
おとうさんも、おかあさんも“北の森には絶対近づいちゃいけない”っていつも言ってるのに……」
「だから、今日だけは特別にいい日なんだって」
泣きそうな……と言うか、もう半分泣いているミーシャがグライブに文字通り泣きついているところだった。
ここに来るまでの道中では、そこまで怯えていなかったはずだが、実際に森を目の当たりにして怖気づいたのかもしれない。
「それにほら、大人の人がすごくたくさんいるだろ?
しかも、今回は団長のフェオドルおじさんと、副団長のバルディオおじさん、それにディムリオ先生も一緒なんだからぜ?
だから、ぜってー大丈夫だって」
「でもぉ……」
すがり付くミーシャに、グライブは安心できそうな材料を並べるが、ミーシャには今一つ効果が薄いようで、その曇った表情はなかなかに晴れない。
ミーシャの不安を取り除く事は出来なかったが、この面子実はかなり豪華で、村の最大戦力と言ってもいいレベルだ。
村ではおよそ右に出る者がいない、実質ナンバー1のバルディオ副団長。
で、次点でクマのおっさん。
そして、若手ナンバー1の実力者のディムリオ先生。
“先生”と付いているのは、俺達が普段剣の訓練で指導を受けている人物だからだ。
毎日来てくれている訳ではないが、その出現頻度は指導に来てくれているにーちゃんズの中では一番多い。
頻繁に来てくれている事から、子ども達の間では敬意を込めて彼を“先生”と呼んでいる。
ちなみに、他の指導役のにーちゃん達は普通に名前で呼ばれていたりする。
本名をディムリオ・バヴォーニと言い、年齢は二十歳前後とかなり若い。
“バヴォーニ”とあるように、村長の家系でバルディオ・バヴォーニ副団長の息子の一人が彼な訳だ。
金髪を風に靡かせては、白い歯がキラリッと光るナイスイケメンだが、親父であるバルディオ副団長が禿頭なので、その頭の将来はとても明るい。物理的に。ザマァ。
シルヴィの従兄弟に当たる人物でもある。
で、そのシルヴィはと言うと……
「ねぇ、ロディ! 冒険ですわっ!! 探検ですわっ!!
なんだかドキドキしますわねっ!!」
「ああ、そうね……」
と、超ハイテンションで俺の手を取ってブンブンと振り回していた。
生まれは村であるらしいシルヴィだが、物心ついた時には大きな町で暮らしていたとかで、こうして森などに踏み入った事はないのだとか。
と言うか、町から出た事すらなかったらしい。
「ラビっ!! ラビと言う生き物が見てみたいですわっ!
私未だに、ラビを見た事がありませんのっ!
大変かわいらしい生き物と聞いていますので、今から楽しみですわっ!」
「いや、まだ見られると決まった訳じゃないし……」
ってか、見つけるだけならそれでいいだが、もし捕まえようものなら喰っちまう訳で……
そのためには当然“潰す”必要がある訳で……
瞳をキラッキラさせてまだ見ぬラビに思いを馳せるシルヴィには悪いが、ラビとの出会いがトラウマにならない事を祈るばかりである。
これも“食育”の一環であると覚悟してもらおう。
方や、まだ見ぬ出会いに心をときめかせ、方や、まだ見ぬ食材に目を輝かせる……
はてさて、少女の対応としてはどちらが正しいのか……
と、まぁ、代わり映えもなくこうしていつもの面子が集まっている、と言う訳だ。
なんだかんだで、グループ的にはバランスはいいんだよな。
グライブ、リュド、それにシルヴィとあと(精神年齢的に)一応俺の年長組に、ミーシャ、タニアの年少組。しかも内二組は兄妹だから、面倒を見る人間が決まっているしな。
「みなさん楽しそうなのは結構ですが、森は大変危険な場所です。
今は構いませんが、森に入る際には遊び心は捨てて、気を引き締めて行かねばなりませんよ」
そんな感じでガヤガヤしていたら、俺達の所に神父様がやって来た。
神父様が来た事で、各自おしゃべりを止めて一斉に神父様の下へと集まる。
神父様の姿を見るのは、これが今日初となる。
教会前の集合場所でも姿を見なかったところから、たぶん先行組としてこっちで待機していたのかもしれない。
「みなさんの引率は私が引き受ける事になりました。今日はよろしくお願いしますね」
いつもの見慣れた法衣姿ではなく、他の自警団の面々同様、軽装鎧に身を包み、しかもその腰には一振りの剣が吊るされていた。
見慣れない姿だけに、なんだか新鮮だ。
「おおっ! カッコイイですね神父様」
「あまりからかわないで下さい……こんな格好をするのなんて数十年振りですから、どうにも落ち着かなくていけませんね……
それに、碌に使えもしないのに、こんなものまで持たされてしまいましたよ」
神父様は苦笑いを浮かべると、腰に差していた剣の柄を軽く叩いてみせた。
「私の場合、何かあれば剣を抜くより、魔術を使った方が早いのですが……
一応護身用に、と無理やり持たされてしまいました」
神父様は昔、王都で魔術に関連した仕事をしていたらしい。
なので、剣で切った張ったをするよりは、魔術を使う方が性に合っているのだろう。
辺りを見回してみると、子どもグループ一つに付き一人の大人が引率している様だった。
その大人は皆、今の神父様の様な格好をしていた。
先ほど神父様自身も言っていたが、俺達のグループの引率は神父様が担当してくれるらしい。
神父様とはマブダチの様なものなので、俺としては気を置かなくていいので願ったり叶ったりだ。
シスター・エリー……が引率を担当しているかどうかは知らないが、彼女の場合ちょっとした悪ふざけで即説教なので、ちょっとやり難いんだよなぁ……
嫌いじゃないし、悪い人でももないんだが、こう……真面目過ぎると言うか融通が利かないと言うか何と言うか……
まぁ、シスター・エリーの話はさて置いて……
集合場所でクマのおっさんが話していた様な事を、再度神父様から丁寧に説明されてたところでいよいよ出発と相成った。
「それでは、今日一日、よろしくお願いしますね」
『よろしくおねがいしまーすっ!!』
子供たち(俺を含む)が一斉に挨拶をして頭を下げると、先頭を歩く神父様について森の中へと入っていったのだった。
30名以上にも及ぶ自警団員は言うに及ばず、神父様にシスターズ、それに数名のじーさんばーさん。
んで、俺たち生徒約60名を足したら100人オーバーの大所帯だ。
さすがに、それだけの人数がまとまって行動する訳にもいかないので、森に着くなりまず行われたのが子ども達を5~6人程度の小規模なグループに分ける事だった。
まぁ、よくある「好きな子同士でグループを作りなさい」って言うあれだな。
で、結局……
「ねぇねぇ! ラビ捕まえられるかなぁ! 捕まえられるかなぁ!
捕まえたらねぇ、あたし丸焼きにして食べるんだっ!」
「今日は別にラビ捕まえに来たわけじゃねぇだろ……ってか、お前も食うこと優先かよ……」
と、俺の近くでタニアが嬉々とした表情で騒いでいたところに、リュドからそんなツッコミを受けていた。
って、ちょっと待てぃ!
もってなんだ! もって!
なんかそれ、言外に俺まで食うことしか考えない、みたいに言ってないかっ!
「むぅ! そんな事言うバカ兄貴には、分けてやんないからっ! いぃーーっだ!」
タニアはリュドに向かって、その小さい歯を目一杯剥き出しにして威嚇していたが、これまた小さな女の子がそんな事をしたところで、怖くもなんともない。
しかも相手は自分のにーちゃんだ。効果なんてあるはずもなく、リュドは“捕まえられればな”なんて鼻で笑い飛ばしていた。
ラビとは、ウサギによく似た生き物の事だ。ただし、うさぎより多少でかい。どれくらいでかいかというと、大体ネコくらいの大きさがある。
で、俺とタニアはたまに村の近くの林なんかに、罠をしかけてはこのラビをとっ捕まえるなんて事をしている。
タニアがまだ姿も見ていないラビに思いを馳せるのも、正直、分からなくはないのだ。
なにせこのラビ、とてもうまいからな。
肉は適度な弾力があるものの柔らかく、臭みもない。
焼けば肉汁が溢れんばかりに油が乗っているが、味は決してしつこくない。
ジュルリ……あっ、考えたらヨダレが……
外見がまんまうさぎっぽいので、初めの頃は潰す光景……所謂、屠殺ってやつだな……に罪悪感と言うか、心が痛むものがあったが、それも今となってはだいぶ慣れてしまっていた。
別に、殺すことになんの躊躇いもない訳でも、心が痛まない訳でもない。
だが、人は麦だけを食べて生きている訳ではないのだ。
人は、何かの犠牲なくして生きてはいけない。なんて台詞を、誰かが言っていたような気がする。
そもそも、スーパーやデパートなんかの精肉売り場にどれだけの量の肉が並んでいる事か……
あれだけの量を賄うのに、一体何頭の牛さん豚さんを屠殺したのか。
加工された“肉”には躊躇わず手が伸びるくせに、その前段階では“心が痛む”なんてただのエゴでしかない。
俺はそう割り切ったのだ。
だからといって、無意味に捕まえたり、殺したりなんて事は絶対しない。
捕まえるのはあくまで自分たちが食べる分だけに止めるし、調理して出されたものは残さず頂くようにしている。
前世では、ただただ“食物”という感覚だったが、今は“生き物を殺して食べている”という感覚が強くなったように思う。
生前、テレビでやたらと食育がどーの、健康的な食事がどーの、と流れていたが、むしろこうした“人は他の生き物を殺して生きている”って言う根源の部分をもっと教えるべきなんじゃないかねぇ? と、思ったりもする。
なんだか、異世界に来てからと言うもの、食事に対する考え方がずいぶんと変わったような気がするな……
とはいえ……
タニアの様な小さな女の子が、捕まえたラビを前に“かわいいねっ!”と言わず“これ、おいしそうだねっ!”と言う光景はなかなかにシュールなものがある。
まぁ、動物なんて可愛がる対象である以前に、食材だしな……
ペットなんて概念は自分たちが十分に生活が出来ている事が大前提になければ成り立たないのだから、当然と言えば当然か。
人類が犬を飼い始めたのだって、元は非常食目的な訳だし。
自分の生活が苦しいのに、愛玩目的だけで動物を飼うなんてなかなか出来るものじゃないしな。
だからと言って、別にタニアが血も涙もない冷血な子かと言うとそうでもない。
よく牛に乗って遊んでいたり、撫でて可愛がっていたり、子牛の世話なんてしたりしている。
“奪う命”と“養う命”の線引きを、彼女なりにつけているのだろう。本人に自覚ががあるかどうかは別として。
ミーシャでさえ、動物を潰す光景は極力見ないようにしているようだが、それでも出来上がった肉に“かわいそう”などと一言だって言ったことはない。
まぁ、泣きながら肉にかじりついて“おいしい”と言う光景もそれはそれはシュールなのだが。
存外、この村の子供たちは逞しいのだ。
で、そのミーシャはと言えば……
「本当に、だいじょうぶなのおにいちゃん……?
おとうさんも、おかあさんも“北の森には絶対近づいちゃいけない”っていつも言ってるのに……」
「だから、今日だけは特別にいい日なんだって」
泣きそうな……と言うか、もう半分泣いているミーシャがグライブに文字通り泣きついているところだった。
ここに来るまでの道中では、そこまで怯えていなかったはずだが、実際に森を目の当たりにして怖気づいたのかもしれない。
「それにほら、大人の人がすごくたくさんいるだろ?
しかも、今回は団長のフェオドルおじさんと、副団長のバルディオおじさん、それにディムリオ先生も一緒なんだからぜ?
だから、ぜってー大丈夫だって」
「でもぉ……」
すがり付くミーシャに、グライブは安心できそうな材料を並べるが、ミーシャには今一つ効果が薄いようで、その曇った表情はなかなかに晴れない。
ミーシャの不安を取り除く事は出来なかったが、この面子実はかなり豪華で、村の最大戦力と言ってもいいレベルだ。
村ではおよそ右に出る者がいない、実質ナンバー1のバルディオ副団長。
で、次点でクマのおっさん。
そして、若手ナンバー1の実力者のディムリオ先生。
“先生”と付いているのは、俺達が普段剣の訓練で指導を受けている人物だからだ。
毎日来てくれている訳ではないが、その出現頻度は指導に来てくれているにーちゃんズの中では一番多い。
頻繁に来てくれている事から、子ども達の間では敬意を込めて彼を“先生”と呼んでいる。
ちなみに、他の指導役のにーちゃん達は普通に名前で呼ばれていたりする。
本名をディムリオ・バヴォーニと言い、年齢は二十歳前後とかなり若い。
“バヴォーニ”とあるように、村長の家系でバルディオ・バヴォーニ副団長の息子の一人が彼な訳だ。
金髪を風に靡かせては、白い歯がキラリッと光るナイスイケメンだが、親父であるバルディオ副団長が禿頭なので、その頭の将来はとても明るい。物理的に。ザマァ。
シルヴィの従兄弟に当たる人物でもある。
で、そのシルヴィはと言うと……
「ねぇ、ロディ! 冒険ですわっ!! 探検ですわっ!!
なんだかドキドキしますわねっ!!」
「ああ、そうね……」
と、超ハイテンションで俺の手を取ってブンブンと振り回していた。
生まれは村であるらしいシルヴィだが、物心ついた時には大きな町で暮らしていたとかで、こうして森などに踏み入った事はないのだとか。
と言うか、町から出た事すらなかったらしい。
「ラビっ!! ラビと言う生き物が見てみたいですわっ!
私未だに、ラビを見た事がありませんのっ!
大変かわいらしい生き物と聞いていますので、今から楽しみですわっ!」
「いや、まだ見られると決まった訳じゃないし……」
ってか、見つけるだけならそれでいいだが、もし捕まえようものなら喰っちまう訳で……
そのためには当然“潰す”必要がある訳で……
瞳をキラッキラさせてまだ見ぬラビに思いを馳せるシルヴィには悪いが、ラビとの出会いがトラウマにならない事を祈るばかりである。
これも“食育”の一環であると覚悟してもらおう。
方や、まだ見ぬ出会いに心をときめかせ、方や、まだ見ぬ食材に目を輝かせる……
はてさて、少女の対応としてはどちらが正しいのか……
と、まぁ、代わり映えもなくこうしていつもの面子が集まっている、と言う訳だ。
なんだかんだで、グループ的にはバランスはいいんだよな。
グライブ、リュド、それにシルヴィとあと(精神年齢的に)一応俺の年長組に、ミーシャ、タニアの年少組。しかも内二組は兄妹だから、面倒を見る人間が決まっているしな。
「みなさん楽しそうなのは結構ですが、森は大変危険な場所です。
今は構いませんが、森に入る際には遊び心は捨てて、気を引き締めて行かねばなりませんよ」
そんな感じでガヤガヤしていたら、俺達の所に神父様がやって来た。
神父様が来た事で、各自おしゃべりを止めて一斉に神父様の下へと集まる。
神父様の姿を見るのは、これが今日初となる。
教会前の集合場所でも姿を見なかったところから、たぶん先行組としてこっちで待機していたのかもしれない。
「みなさんの引率は私が引き受ける事になりました。今日はよろしくお願いしますね」
いつもの見慣れた法衣姿ではなく、他の自警団の面々同様、軽装鎧に身を包み、しかもその腰には一振りの剣が吊るされていた。
見慣れない姿だけに、なんだか新鮮だ。
「おおっ! カッコイイですね神父様」
「あまりからかわないで下さい……こんな格好をするのなんて数十年振りですから、どうにも落ち着かなくていけませんね……
それに、碌に使えもしないのに、こんなものまで持たされてしまいましたよ」
神父様は苦笑いを浮かべると、腰に差していた剣の柄を軽く叩いてみせた。
「私の場合、何かあれば剣を抜くより、魔術を使った方が早いのですが……
一応護身用に、と無理やり持たされてしまいました」
神父様は昔、王都で魔術に関連した仕事をしていたらしい。
なので、剣で切った張ったをするよりは、魔術を使う方が性に合っているのだろう。
辺りを見回してみると、子どもグループ一つに付き一人の大人が引率している様だった。
その大人は皆、今の神父様の様な格好をしていた。
先ほど神父様自身も言っていたが、俺達のグループの引率は神父様が担当してくれるらしい。
神父様とはマブダチの様なものなので、俺としては気を置かなくていいので願ったり叶ったりだ。
シスター・エリー……が引率を担当しているかどうかは知らないが、彼女の場合ちょっとした悪ふざけで即説教なので、ちょっとやり難いんだよなぁ……
嫌いじゃないし、悪い人でももないんだが、こう……真面目過ぎると言うか融通が利かないと言うか何と言うか……
まぁ、シスター・エリーの話はさて置いて……
集合場所でクマのおっさんが話していた様な事を、再度神父様から丁寧に説明されてたところでいよいよ出発と相成った。
「それでは、今日一日、よろしくお願いしますね」
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