前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~(原文版)

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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70話 麦

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 遂にこの日がやってまいりました!
 今日は、待ちに待った麦の収穫日だ。
 なので、いつもなら学校に行かなければいけない日なのだが、今日だけは全員畑仕事に駆り出されている。
 かく言う俺も、今日は他の子たち同様、朝から大人たちのお手伝いだ。
 とはいえ、麦の刈り入れ自体は二~三日前に終わっている。
 刃物を使う、という理由で子どもである俺やミーシャ、それにタニアは特に作業はなかったが、同じ子供でも、年長組のグライブやリュドは鎌を片手に麦をザクザク刈っていた。
 ちなみに、シルヴィたち移住組は年長組であっても作業には加わらず、後学のための見学だったらしい。
 まぁ、多少の手伝いなどはしていたらしいけど何をしていたかまではよく知らん。
 その頃の俺ってば、神父様と一緒になって、健康椅子ヘルスチェア作ってたからな……
 グライブたちが作業をしているのも、教会への道すがらちらっと見た程度なのだ。

 では、今日俺たちが行う作業は何かというと、脱穀だ。
 刈り入れからのこの数日は、麦の実離れをよくするための乾燥日だったらしい。
 俺は農業の事など何も知らないのだが、刈ったばかりの麦はまだ水分が多く、実が取れにくいのだとか。
 で、乾燥を終えた麦をこれから脱穀するのだが……

 その脱穀機というのが、これがまた何というか超レトロ感漂う道具だったりする。
 こういう農具を何といったか……
 確か、“輪転機りんてんき”……だったっけか?
 木製の箱の中に、これまた木製のドラムが取り付けられていて、そのドラムには細い棒をU字型にしたものが無数に取り付けられていた。
 このドラムが回転している状態で、穂を押し付けると実が吹き飛ぶっていう……
 でかい櫛の様なものに、穂を通して実を落とす方式のものもあったような気もするが……あれはなんて名前がだったか……“千把扱せんばこき”?
 よく分からんし、まぁ、どうでもいいか……

 とにかく、知識としては知っていたが、この世界に来るまで現物なんて見たことなかったからな。
 昔テレビで見た“輪転機りんてんき”と違う点があるとすれば、回す方式だろうか。
 テレビで見たやつは、足踏み式でドラムを回転させていたので一人で作業をしていたようだが、こっちのものはハンドル式で、ドラムを回す人と穂を押し付ける人とで二人一組で作業することになる。
 で、この農具を使って穂から麦を回収するのが俺たちの仕事、という訳だ。

 作業は完全分担制になっていて、俺たち脱穀組以外にも、畑から麦束をここまで運ぶ運搬組に、俺たちが脱穀した麦をごみと分ける選別組。
 俺たちの工程では、本当に脱穀しか出来ないので、集めたものの中には麦以外のごみが大量に含まれている。
 選別組は、それらのごみと実を綺麗に分ける仕事を担当している。
 藁屑などの大きなごみをふるいに掛ける工程と、そこから更に籾殻など細かいごみを除去する工程に分かれていて、前半は大きなざるを使い、後半は箱型の農具を使って行う。
 こいつのことは知っている。
 唐箕とうみだ。
 箱の内部にあるプロペラを回すことで風を起こし、上から籾を落とすことで重い籾が手前に、軽い籾が中間に落ちて分けられ、屑が遠くに飛んで行くようになっている。
 勿論、このプロペラを回す作業をしているのも子どもたちである。

 で、最後に綺麗に選別出来た麦だけを、木製の樽に積めて倉庫にしまえば、作業完了だ。
 樽に詰めるのは、ネズミなどの害獣対策と、運搬のしやすさからだ。
 最悪、転がせば運べるからな。
 それに木自体が湿気を吸収してくれるので、湿度も一定に保てるうえ、木材は熱伝導率が低いので密閉した状態で冷暗所に保管すれば、内部の温度も変化しにくい。
 しかも使われている木材が、ヒノキやヒバの様に防虫・防カビ効果のあるものらしく穀物を保管するには最適なんだとか。

 基本、麦は精麦や製粉はせずに保管する。
 その方が品質を長く維持しながら保存することが出来るからだ。
 税金として、領主に収める時も基本そのまま渡すことになる。
 勿論、樽は村の所有物なので渡すのは中身だけだ。

 と、まぁ、これが今日の作業の一連の工程となる訳だ。
 実際に参加するのは今年が初めてだが、去年の収穫作業は一通り見ているのでなんとかなるだろう。

 脱穀作業は、倉庫の真ん前で行う。
 麦を詰めた樽の運搬距離を短くするためだ。
 子どもが丸々一人、すっぽり入ってしまうような樽だ。
 こいつに一杯になるまで、麦を詰めたらそりゃ相当な重量になるだろうよ。
 代わりに、畑で乾燥作業を行っている麦藁をここまで運ぶことになるのだが、その担当をしてるのが大人に混じって作業をしているグライブたちだ。
 ヤムに引かせた荷車に、乗せれるだけの麦藁を乗せて畑と倉庫を行ったり来たりすることになる。
 しかし……
 もし、この乾燥作業中に雨でも降ったらどうするつもりなのだろうか?
 じーさんなんかは“この時期に雨なんざ降らんっ!”と断言していたが、その自信は何処からくるのだろうか……百姓の経験と勘ってやつか?
 まぁ、実際降らなかった訳だけどさ。

 で、こうして倉庫前でスタンばっている俺たちだが、なかなか麦を乗せた荷車がやってこない……
 こちらの準備が完了して、かれこれ十分ほどは経っただろうか。

「おっそいな~、ひ~ま~、ひま~、ひ~まぁ~!」

 タニアなんぞ、もう待ちくたびれたのか、まだ何もないのに輪転機りんてんきのハンドルを一人グルグル回して遊んでいた。
 まったく、堪え性のない子だ。
 確か、遠い所から順に運ぶとか言っていたので、その関係だろう。
 まぁ、待っていればそのうち来る。

 村には輪転機りんてんきが全部で三台あり、一台につき数人の子どもと一人の若者が付いていた。
 俺たちのグループはミーシャにタニア、それにシルヴィといった相も変わらずのメンバーと他数名だ。
 唐箕とうみの方も大体似たようなものだ。

 当初、これら輪転機りんてんき唐箕とうみの駆動を魔術陣を使って効率化できないか、と村長から相談を受けたのだが、悪いが今回は断ることにした。
 技術的には勿論可能なのだが、敢えてしないことにしたのだ。
 というのも、これらの農具を使って子どもたちが麦を収穫するというのは、ある種の風物詩、恒例行事の様になっていて、輪転機りんてんき唐箕とうみのハンドルを回すことを楽しみにしている子たちが少なくないのだ。
 村での数少ない楽しみを、彼らから取り上げるようなことはしたくなかった。
 村長も俺の意見に反対することもなく、すんなりと受け入れてくれたしな。
 とは言っても、俺自身体験したことがないことなので、少しだけ楽しみだったりするのだが……

 タニアが“遅い遅い”と言い始めて数分……
 ようやく一台目の荷車の姿が見えて来た。
 その荷台には、こんもりと麦が乗っているのがここからでも見てとれた。
 さてさて、俺たちもお仕事を始めますかね。

 ………
 ……
 …

「うおおおぉぉーーー!!」

 ガラガラガラガカラ!!

 なぜにそんなにムキになって回してんだこいつ……

 麦が届くと、早速タニアのやつがあらん限りの力で輪転機りんてんきを回し始めた。
 いや……別にそんなに高速回転させんでも……
 今は、俺が穂を当てる担当で、タニアがハンドル担当だ。
 で、俺が回転するドラムに穂先を当てるとバラバラバラっと、麦の粒が弾け飛んで行った。

「おおっ!? 何これっ! チョー気持ちいいんですけどっ!」

 麦は、飛び散らないように周囲を覆った囲いの内壁にあたって真下へと落ちていく。
 出口には、あらかじめ竹で出来たと呼ばれるザルのようなものが置いてあり、これが一杯になったら、次の選別の工程の人たちに渡すのだ。
 まぁ、勢いが強すぎて、穂先が丸々千切れたやつもあったような気が……

「こらっ! 速すぎだっ!
 速すぎると、穂から麦が取れる前に、千切れるから速度には注意するようと手本を見せただろ!
 そんなだと、あとで作業するやつが大変になるからもっと丁寧にやれっ!
 交代っ!!」
「え~、なんでだよぉ~……速い方がかっこいいじゃん……」

 あっ、やっぱりダメだったか……ってか、かっこいいってなんだよ……
 俺たちの監督をしているにーちゃんにより、敢え無く選手交代を言い渡されるタニア。
 渋々といった様子でハンドルから手を放すタニアに、にーちゃんは俺の隣に行くように指示を出した。
 で、タニアは俺と一緒に麦を落とす側になった。
 たぶん、体で速さを覚えろ、ということなのだろうな。
 元々は大人用の道具であるため、子どもなら二人並んだところでまだ余裕があるから問題はない。

「それじゃ、回すね?」

 と、次の回し手はミーシャだった。
 が……

「んっ! しょっ! んっ! しょっ!」

 カラ……カラ……カラ……

 懸命に回すミーシャだったが、その回転速度はすこぶる遅かった……
 ってか、穂先をフックが撫でるだけで、一向に麦が落ちる気配がないのだ。

「交代っ!! 次っ!」
「え~……」

 まぁ、だろうな……
 速すぎだったり、遅すぎだったり……中間はないのか中間は……

「次はわたくしですわね……
 では、参りますっ!」

 で、次の回し手はシルヴィか。
 ミーシャより少し年上ということもあって力はあるだろうし、タニアと違い、物事の良し悪しを判断するだけの機転もある子だ。
 これは期待が出来そうだな。

「いっち、に! いっち、に!」

 カラカラカラカラ……

 シルヴィの掛け声に合わせて、ドラムがカラカラと小気味よい音を立てて回転を始めた。

「おっ! いいぞ、その調子だっ!
 お前らっ! これくらいの速度だぞ? 覚えておけっ!」 
「「はーい」」

 それを見ていた他の子たちが一斉に返事を返した。

 そのあとは、麦を落とす係とハンドルを回す係なんかを適当に入れ替えながらお昼までこの作業は続いたのだった。
 とはいえ、それで全部終わった訳じゃない。
 午後からは、輪転機りんてんき唐箕とうみのグループを入れ替えて続きの作業だ。
 だがその前に……取り敢えず昼飯な。
 今日はよく体を動かしたので、腹がへってしょうがないのだ。

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