最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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六三話

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 セリカは一旦、外で待つ待機組と情報を共有してくると牢を出て行き、少しして戻って来た。
 ここからは事前の作戦通り、館の奴らが寝静まるまで俺達は待機である。勿論、それは外で待機している奴らも同様だ。

 というわけで、暫くは使わないだろう外への出入り口を形状変化シャープ・チェンジでさくっと閉じておく。
 何時、突然の見回りが来ないとも言い切れないからな。

 しかし、こうなってしまうと特にやることもなくなってしまったので、俺達はそのままムッションでのんびりと寛いで暫し。

「ところで、スグミはのんびりとしていていいのか? やることがあると言っていたはずだが?」

 セリカが、急に何かを思い出したようにそんなことを聞いて来た。
 さては、ムッションに魅了されて、今まですっかり忘れてやがったなこいつ……
 流石は人をダメにするスライム。恐ろしい子……

「勿論。こう見えて、やることはやってるよ。
 とっくの昔に百里百足を走らせて、もう既に二か所。屋敷へと続く階段を見つけた」

 何もしていないようで、実は確り仕事はする。それが俺だ。
 この牢に来た時点で、俺は既に百里百足をインベントリから取り出し探索の為に走らせていた。

 ついでに言うなら、俺のマッピング能力は使っている人形にも適用されているため、百里百足が走った道はばっちりマップに更新されている。
 これをあとで紙に書き写して、突入部隊に渡せば、迅速に屋敷に突入することが可能になる。

「そ、そうか……流石だな。
 私にもう少し力があれば、ルゥ達をもっと早くここから……あっ!」

 急にセリカが声を上げたので、何事かと思いその視線を追いかけると、今まで静かにムッションに座り壁に背を預けていたルゥが大きく傾き、倒れそうになってるところが視界に飛び込んで来た。
 ダメだ、間に合わない。倒れる……と俺が思った時には、既にセリカは飛び出しルゥの肩を手で支えていた。
 反射神経、速っ!

「あっ、すいません、私……」

 ルゥが眠そうに目を擦っている辺り、寝落ちしそうになってたみたいだな。

「無理もない。今までずっと、極度の緊張の中に居たのだ。気が緩むのも仕方がない。
 まだ、食事が運ばれて来るまでには時間があるのだろ? それまで休んでいるといい」
「でも……」
「本番は夜だ。その時、疲れて体が動きませんでは足手纏いにもなり兼ねない。
 休める時に休むのも、大事なことだ」
「そう……ですよね。それでは、お言葉に甘えて、少しだけ……」
「あっ、ちょっと待った」

 セリカに説得されて、その場で横になろうとするルゥに俺は待ったを掛けた。

「どうしたスグミ?」
「いくら慣れてるとは言っても、こんな固い地面の上に直に寝たって、疲れなんて取れやしないだろ?」
「そうは言うが、ここに手頃な寝具など……さては、何か持っているのか?」
「あるよ」

 俺はセリカに不敵な笑みを向けると、二人に少し場所を開けてもらい、またしてもチェストボックスを取り出した。
 で、中から特大サイズのムッションを一つ取り出す。全長は2メートル程で、縦長のやつだ。
 これは、スライムの欠片一〇〇〇個で交換してもらえる、ソファー型スライムクッションだ。略してムファーである。

「ほら。こいつを使えば、体も痛くはないだろ? ルゥ、ちょっとそこ退いてもらえるか?」

 俺は、チェストボックスを片付けて、ルゥが居た壁際にムファーを設置。
 ムファーは見た目はでかいが、実は片手で持てるほど軽いのだ。

「あの……大変嬉しくは思うのですが……私だけこんな立派な物を使わせて頂くわけには……」
「いいから、いいから。ほれっ」

 遠慮するルゥに、俺は無理やりムファーを勧める。というか、このままでは埒が明かなそうだったので、突き飛ばして強引にムファーに埋めてやった。

「わっ、うぷっ!」

 ムファーに倒れ込んだルゥが見る見るうちにムファーに沈んで、その姿はすぐに見えなくなってしまった。 

「そこでじっとしてなさい」
「……その、ありがとう……ございます……」

 沈み込んだムファーから、ルゥは顔だけをひょっこり出して礼を言う。

「どういたしまして」

 俺も元居た場所に戻り、ムッションに座る。
 そして、ややもしないうちに、すぅすぅというルゥの穏やかな寝息が聞こえて来た。
 そんなルゥを起こすまいという気遣いからか、それからは俺もセリカも特に何も話さないまま、時間だけが過ぎていった。

「はぁ、私はスグミの力に頼ってばかりでダメだな……申し訳なく思うよ。正直、自身の不甲斐なさに落胆するばかりだ」

 暫くの沈黙の後に、先に静寂を破ったのはセリカの方だった。

「俺はクッションと寝床を出しただけだ。大したことはしてない」
「大したことはしていない……か。よく言えたものだな。
 今回の作戦はすべて、スグミの協力を前提に組まれている。
 そもそもスグミがいなくては、到底成し得なかったことばかりではないか。
 内通者の炙り出しも、屋敷への潜入も、地下水路からの強襲も……すべて、な。
 本当に、スグミ、貴殿には感謝している」

 セリカはそう言うと、座ったままではあったが、恭しく頭を下げた。

「ははっ、こんなことでは父上達に笑われてしまうな……」

 不意にセリカの口を衝いて出た家族の話題。
 ここで俺は、今まで気になっていたことを少し聞いてみることにした。
 作戦決行までにはまだ時間もあるし、世間話でもして時間を潰そう。

「なぁ、言いたくなければ話さなくてもいいんだが……ひょっとすると、セリカって良いとこのお嬢様だったりするのか?
 例えば、貴族……とか」
「…………まぁ、スグミならいいか」

 どうするか、少し悩む素振りを見せた後、セリカがぽつりとつぶやいた。

「確かに、私は貴族階級の出身だ。今名乗っている“セリカ・ウォーレン”は、有名すぎる家名を隠すための偽名だ。
 本名は……職務の関係上話すことは出来ない。そこは理解して欲しい」

 やっぱり。思った通り、セリカはお貴族様のご令嬢だったか。
 本名が話せないというのも、普段は自由騎士として活動しているから、情報が漏れて身バレすることを警戒してのことだろうな。
 ちなみに、グリッドやコーナー、他の騎士達も皆、本名ではなく偽名らしい。
  
「言っただろ? 無理に聞こうとは思わないって。
 でも、なんでまた貴族のお嬢様が騎士なんてやっるんだ?
 もしかして、この国だと割と普通なことだとか?」
「そんなわけなかろう。貴族の子女が刃物を持つなど、普通はあり得んことだ。
 ただ、私の家は代々武門の名家でな。今までにも名だたる騎士を、数多く輩出して来ている。
 父も、そして兄も立派な騎士で、私はそんな家族の背を見て育って来たのだ」
「ああ、なんとなく分かった。そんな家族に憧れて自分も……ってクチか?」
「簡単に言ってしまえば、な……」

 セリカは、少し恥ずかしそうにしながら、視線を逸らして頷いた。
 こういうところを見ると、セリカも年相応の女の子だと実感する。
 よくよく考えずとも、セリカは日本でいうなら女子高生くらいの年齢でしかなないんだよな。
 そんな子が、己が使命だと、大の大人を率いて事件を追っている……
 今回みたいに、助かった命もあるだうろ。そして、助からなかった命もあっただろう。
 どういう経緯で、彼女が部隊長をやることになったのかは知らないが、そうした命を背負って、セリカは今、ここにいる。
 それがどれだけ険しく苦しい道か、俺には想像も付かんよ。
 ホント、大した娘さんだ。

「ただ、父も兄も、私が剣を取ることを良しと思っていなくてな。
 事ある事に“家に帰って来い”“騎士の真似事など止めろ”と言われている。
 私は“真似事”で騎士をしているつもりはないのだが……それを分かってもらえないのが、悲しくはある」
「まぁ、親御さんの気持ちも分からんでもないけどな」
「っ! スグミも、が騎士を務めるのは無理だと、そう言いたいのかっ!」

 何か地雷でも踏んだか、俺の言葉にセリカが今にも噛みつかんばかりのえらい剣幕で睨み付けられてしまった。

「男が、とか、女が、じゃなくてな。父親や兄貴から見れば、娘や妹が危険な仕事に就くのが心配なんだろう、ってことだよ。
 俺にも妹がいるけど、男親にとって、娘っては特別な存在らしいぞ?
 それこそ、妹のことは俺なんかと違って、目の中に入れても痛くないってくらい溺愛してたからな。
 扱いの差が酷いもんだったよ……」

 子どもの頃は、何故にこうも扱いが違うのかと腹を立てたものだ。
 “お兄ちゃんなんだから、我慢しなさい”なんてセリフは、世の兄姉なら耳にタコが出来る程聞いたことだろう。

「騎士なんて切った張ったの世界なわけだろ? そんな危ない職場に、愛娘を置いておきたくない、ってそう思っての反対じゃないのか?
 父親も騎士を勤めしてるなら、その危険性だって骨身に沁みて分かっていることだろうしな。
 大切だからこそ、娘には普通に結婚して、家庭に入って、んで子どもでも生んで……っていう、普通の幸せな生活を送って欲しいんじゃないかね。
 ほれ、オジだと言っていたブルックなんて、仕事で片足無くしてるわけだろ?
 まぁ、とは言っても本当のところは知らんけど」

 俺だって、妹とはそこまで仲が良かったわけではないが、それでも危険な仕事に就くというのならやっぱり心配だし、多分、止めると思う。
 
「……最後の最後で締まらん男だな」
「人様の家のことなんて、分かるわけないだろ? 俺が言ったのは、経験談と一般論だ」
「そういうもの、なのだろうか……」
「そういうもんなんじゃないか? 親になったことなんてないから知らんけど」
「またそれか」

 セリカはふふっと小さく笑うと、それきりぱったりと会話が途切れてしまった。
 なんだか話を続ける雰囲気でもなくなってしまったので、俺達は無言のまま、作戦を決行するその時を待つことにした。
 時刻をオプション画面で確認すると、午後の五時少し前。作戦を実行するのは、まだまだ先のようだ。
 それまで、出来る限り地下水路のマップを埋め埋めしてますかね。
 実は、こういう未踏破領域を埋めていくのって、結構好きだったりするんだよな。マップに空白地帯があると、落ち着かない性格なのだ。
 さて、時間までにどれだけ埋められるかね。
 
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