最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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一六八話

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 実は、俺はブルックから三通の手紙を預かっていた。
 一つは、学術庁神秘学研究会学部長様宛への紹介状が一通。
 さっきセレスに渡したやつだな。

 二つ目は、神秘学研究会がダメだった時用に、ブルックの弟であり実家フューズ家の現ご当主様に便宜を図ってもらうための手紙が一通。

 ちなみに、セレスから聞いた話しではブルックの弟さんから直接推薦をもらう、というのは無理らしい。
 それが出来れば楽々三人分の推薦ゲットじゃね? と思ったのだが、貴族家の当主であっても金級証への推薦資格はないので無理なのだと、そう教えてくれた。

 なんでも、昔は貴族の当主にも推薦資格はあったようなのだが、当時、金級自由騎士を配下に持つことがステータスになる、なんて変なブームが貴族の間で流行った所為で、貴族特有の無駄な見栄の張り合いも相まって、実力の伴わない金級自由騎士が大量発生したことがあったそうだ。
 右を見ても左を見ても金級金級金級ばかり。
 その所為で、タグは立派な金だとしても、中身は所詮ただの破落戸ゴロツキであるため、金級証を傘に料金を払わず店の物を持っていったり、無銭飲食や暴力事件など、金級証保持者による事件が激増したことがあったらしい。
 しかも自由騎士でありながら依頼は受けない、受けたとしても実力がないため失敗ばかり。
 長期間、依頼を受けないために資格を剥奪しても、すぐにまた貴族の推薦で金級として復活する。
 そうなれば当然、自由騎士組合の業務に大きな支障を来し、一時大きな混乱が起きたのだとか。
 それ以降、貴族の推薦資格は剥奪されたとか云々。
 そんなこともあり、推薦した人物が何か犯罪を犯した場合、推薦人にも同様の罰が与えられるという決まりが出来て行ったらしい。

 話が脱線した。
 で、最後の三つ目が、自由騎士組合王都マリアーダ本店の組合長宛に一通。
 の、計三通だ。

 ブルックからは王都で仕事を受けるなら見せるといい、と言われていた程度のものだが、まさかこんな形で利用することになるとは思いもしなかった。

 で、金級証への推薦をもらうため、正確にはもうらためにはどうすればいいかを尋ねるため、三通目の手紙を手に、俺は王都の自由騎士組合へと足を込んで来たのだが……

「おお……すげー人だな、おい……」

 以前、ミラちゃんと外からちらっと見た時にも思ったが、流石は王都本店。
 自由騎士組合の賑わいは、アグリスタとは比べ物にならない程、人でごった返していた。
 いくつかある受付も、すべてがパンパンなので暫し待つ。
 ある程度人が掃けたところで、受付嬢にブルックからの紹介状を渡し、ここのギルマスとの面会を取り次いでもらうことに。
 暫し待つように言われたので、他の人の邪魔にならないように脇に退いてまた暫し待機。

 数分もしない内に受付嬢が戻って来て、ギルマスとの面会が許可されたことを知らされた。
 なので、受付嬢の案内で組合長室へ。

「ギルマス、お客様をご案内しました」
「どぉ~ぞぉ~、入ってちょうだぁ~い」

 扉を数度ノックした後、受付嬢が要件を告げると、中から野太いオネェ声が返って来た。
 今、中から聞こえて来たこの声は何だ? もお、なんか凄く嫌な予感しかしないんだが……

「失礼します」

 受付嬢はそう言うと、組合長室の扉を開き、どうぞと俺を案内する。
 正直、入りたくない気持ちでいっぱいだが、入らないわけにもいかないので意を決して部屋の中へと足を踏み入れることに。
 おかしいな……ブルックからは昔、肩を並べて戦った戦友だと、歴戦の猛者だと、そう聞いていたんだが……
 今のはどう聞いても、新宿二丁目辺りのバーのマスター(もしくはママ)の声だったぞ。
 まぁ、実際には行ったことはないから知らんけど。

 で部屋に入ると、概ね造り自体はアグリスタのそれと殆ど同じな様で、正面に大きな事務机が据えられ、そこには一人の男……男? が座っていた。
 長く伸びるブロンドの髪。
 彫りの深い顔には厚手の化粧が施されてはいたが、それでも口の周りに浮かぶ青髭は全然隠しきれてはいなかった。
 そして鍛え抜かれた筋骨隆々な上半身。
 腕など子どもの胴体くらいはありそうなくらいに太いうえ、胸板とかチョー分厚い。
 そんな彼が着ている服は、今にもはち切れんばかりにパツンパツンになったピンク色のキャミソールだった……

 こいつはへん……げふふんっ! みなまでは言うまい……

 そういえば、ブルックが王都のギルマスについて、昔の怪我が原因で性格が変わっとかなんとか、何か凄く言い難そうにぼやいていたが……
 なるほど。こういうことだったのか。
 しかし、どういう怪我を負ったら歴戦の猛者がオネェに変わるのだろうか?
 謎は深まるばかりである。

「それでは失礼します」

 俺が目の前の光景に言葉を失っている最中、受付嬢がパタリと閉めた扉の音で我に返る。

「ふぅ~ん……貴方がブルックちゃんからの紹介状にあったスグミちゃん……でよかったかしらぁ~?」

 まるで……いや間違いなく、値踏みをするような視線が俺の頭からつま先へ、そしてつま先から頭へと往復する。
 うわっ! なんかゾワっとしたぞ!  ひえぇぇ~!
 そこに物理的な接触はないにも関わらず、ネットリした何かで全身をまさぐられたような嫌な感覚に悪寒が奔った。

「あ、ああ……そ、そういうあんたがブルックから聞いてるマリアーダ本部のギルマス、ジュリエルド・ロメロ殿本人でよろしかったか?」

 ギルマスの下に案内すると言われ、組合長室へと通され、その部屋の事務机に座っていのだからこの男がギルマスなのは間違いのないのだろうが、もしかしたら微粒子レベルで違う可能性もあるので、一縷の望みに掛けて確認だけはしてみることにした。のだが……

「んもぅぉっ!! ジュリエルドなんて男臭い名前で呼ばないでちょ~だいっ!
 私の名前はジュリエットよっ! ジュ・リ・エッ・トっ! 今度は間違えないでちょうだいねっ!
 もうっ! ブルックちゃんも昔の名前・・・・なんて教えないでよねっ!
 ジュリエットはプンプンなんだからぁっ!」

 筋骨隆々なおっさんが、身をくねらせながら「プンプン」とか言うなや……
 その光景たるや、最早ちょっとしたホラーでしかない。もう全身鳥肌が立ちまくりである。
 ぶっちゃけ、今の一撃だけで俺のSAN値に深刻なダメージを受けていたくらいだ。
 
 だが、どうやら俺の望みは無残にもその筋肉に打ち砕かれたらしく、この目の前のオネェが、ブルックが言っていたジュリエルド改めジュリエットで間違いないようだった。

 てか、一体どのツラ下げてジュリエットとか言ってんだこのおっさんはっ!
 取り敢えずシェークスピア先生に土下座で謝って来いやっ!
 
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