最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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一六九話

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「ふぅ~ん、なるほどぉ。それで遺跡に入りたいってわけなのねぇ……」

 一通り話が終わったところで、ジュリエルド……じゃなかった、ジュリエットはそう言うと、手にしていたブルックからの手紙を机の上へと投げ出した。
 ブルックの手紙には俺について大まかな概要しか書かれていなかったらしく、改めて俺が遺跡へと入りたい理由を補足説明することになったのだ。
 ついでに、今しがた神秘学研究会の学部長セレスから推薦をもらったことも話しておいた。
 
「スグミちゃんが自由騎士という制度をよく理解していないみたいだから説明してあげるけど、本来、金級証というのは実力を示すものでも、ましてや地位を示すものでもないわ。
 多大な功績や大きな社会貢献をした人達に、敬意を以て表彰する勲章の様な物なの。
 随分昔の話しだけれど、それを分かっていなかった所為で、自由騎士組合は大怪我を負ったこともあったわ。
 だぁかぁらぁ、金級証が欲しいから推薦してくれ、なんてそんなちゃちなものなんかじゃないのよぉ~?」

 セレスから聞いた、無能金級自由騎士増殖事件のことだろうな。
 ジュリエットは軽い感じでそう話しているが、目は意外と真剣だった。

「いくら昔馴染みのブルックちゃんからの推薦があるからってぇ~、なんの実績もない、何処の誰とも分からない輩を、はい分かりましたって推薦出来るものじゃないのよ?」
「それについては、少なからず理解しているつもりだ。
 だから“推薦してくれ”じゃなくて、“どうすれば推薦してもらえるか?”という話しをしたいんだ。
 現に、神秘学研究会のセレス女史からは、各種条件付きの上でなら、ということで推薦をしてもらえることになったわけだしな。
 俺の目的はあくまで遺跡に潜って、俺が自分の国に帰るための方法があるのかを調べことだ。
 地位にも名誉にもカネにも、興味はない」
「あら、随分と大きく出るじゃない。私、豪快な男って嫌いじゃないわよ?」

 質量を持った流し目で全身を撫でられ、ゾワワワっと一瞬で全身の毛穴が開くのを感じた。
 例えるなら、学生時代、引っ越しのバイトをしている時、冷蔵庫を持ち上げた際に、その下から大量のGが飛び出して来た時並みにゾワっとした。
 つまり、ジュリエットの流し目イコールG数十匹分、という等式が成り立つわけだ。
 ジュリエットの流し目、コワっ!

「それにしても、条件を聞く限りじゃ、随分足元を見られて吸われているみたいだけどねぇ~」
「それは別にいいんだ。本人も少し吹っ掛け過ぎた、ってバツが悪そうにしていたよ」

 と、神秘学研究会の研究棟で、去り際のセレスの顔を思い出した。

「そうね……そういうことなら、まずはいくつか自由騎士として仕事を受けてもらおうかしら?
 ブルックちゃんの手紙には、あの小生意気なギュンターをシバいたみたいなことが書いてあったけど、私は自分の目で見た物しか信じないタイプなのよね。
 だから、これは試験みたいなものだと思ってちょうだい。
 私直々に、スグミちゃんが金級証に相応しい人物なのかどうかの見極めてあげるわん」
「試験……ねぇ。昔かに試験ってのは苦手なんだが……まぁ、お手柔らかにな」
「安心して。金級証を目指してるっていうからには、飛び切り面倒で厄介な案件を用意してあげるわよん」

 それの何処に安心出来る素材があるというのか……

 ジュリエットはそう言うと、机の上に置かれていハンドベルを手に取ると、リリンリリン、と数度振って見せた。
 ほどなくして……

「お呼びでしょうか」

 ガチャリと、ノックもなく部屋の扉が開けられ、もう見るからに「仕事が出来ますけどなにか?」的なオーラを匂わせる女性が部屋へと入って来た。
 互いに目が合ったので、二人して軽く会釈だけしておく。

「忙しいところごめんなさいねユーノちゃん。
 確か未確認依頼がいくつかあったと思うのだけど、資料を持って来てくれるかしら?」
「お気遣いありがとうございます。では、直ちに」

 ジュリエットからそう指示を受けたユーノと呼ばれた女性は一礼すると、入って来た時同様キビキビとした動きで部屋を出て行った。
 で、本当にすぐに戻って来た。

「こちらが現在報告を受けている未確認依頼、全三件になります」
「ありがとう、通常業務に戻っていいわよ」
「それでは失礼します」

 踵を返す立ち去るユーノ女史を見送りつつ、彼女が部屋から出て行ったタイミングを見計らい、ジュリエットが口を開き始めた。

「まっずっはぁ~、スグミちゃんにはこの依頼を受けてもらいたいの」

 と、今しがたユーノ女史が持って来た書類を、机の上を滑らせながら俺へ向かって差し出した。

「未確認依頼、とか言っていたけど……悪いが、正式に自由騎士として依頼を受けるのは今回が初めてなんだ。
 すまんが説明してくれると助かる」
「勿論よん。
 未確認依頼というのは、所謂、魔獣や野盗なんかの駆除討伐依頼に分類される仕事のことなのん」

 で、ジュリエットの説明によれば、そもそも、まず魔獣や野盗の討伐という仕事は自由騎士組合が受けるものではなく、本来は国が務める義務であるのだと、そう語った。
 しかし、国が直に対処するには、実態調査の為に騎士団を派遣したり、現地調査をしたりと、とにかく色々と手間が掛かるため即応性が悪く、そのうえ費用も掛かる。

 一応、中規模以上の街には国の騎士団の駐屯地はあるが、これらはあくまで都市防衛が主任務であり、自ら打って出るだけの兵力は備えてはいない。
 となれば、何処か余裕のある場所から、もしくは王都からの援軍を派遣してもらう他ない。
 これが、国が対処するのに時間もカネも掛かる理由だった。

 勿論、これは国がケチだからだとか、国民を蔑ろにしているからという訳ではない。
 単純にリソースの問題だ。
 騎士とて、無尽蔵にいるわけでもなければ、何処かの国のように定期的に畑から採れるわけでもない。
 限られた人員を巧く使い、効果的に運用しても、どうしても手の届かない場所というのは出て来てしまうものなのだ。
 ならば国が大量に騎士を雇い入れればいいじゃないか、という話しが出そうだが、国だってカネが無尽蔵にあるわけでは無い以上限界がある。
 無賃金で国の為に奉仕したい、なんていう奇特な輩が大量にいれば話しは違うのだろうが、現実的に考えてそんなことがあり得るかってことだよな。

 とまぁ、そんな感じで国がもたもたと対応していては、準備をしている間に魔獣や野盗に簡単に逃げられてしまうだろうし、最悪、被害の拡大だってあり得る話だ。
 仮に、防衛用の騎士を無理やり派遣して、防衛が手薄になったところを攻められるなんてなれば、二次被害の可能性すらあるわけで、逃げられた上に、本来守るべき街まで襲われたのでは、もう目も当てられない。

 そこで、国の代わりに自由騎士組合が下請けとして、こうした被害への対処に当たっているのだと、ジュリエットが軽く説明してくれた。

 で、ここからが本題だ。
 こうした魔獣、野盗被害に関しては、その依頼料は国が補助金を出して負担している。
 つまり、被害に遭った村や街が直に費用を払う必要はない、ということだ。
 ただ……
 この制度には一つ大きな問題点があった。それが、被害が実際に出てからでなければ補助が受けられない、という点だった。
 
 本来なら、怪しい人影を見た、とか、魔獣がいた痕跡がある、というだけでまずは調査の為に騎士を派遣するなり、自由騎士を雇うための補助金を支給するなり出来るのが理想ではある。
 だが、実際問題として、そうした報告のすべてが正しいということはなく、実のところその多くが、複数人の旅人を野盗と勘違いしたとか、大型の獣を魔獣と見間違えたとか、そうした単純な勘違いであることが多かった。
 無数に上がる報告のその一つ一つを確認するなど、とてもではないが出来るものではない。
 騎士の人数は有限であり、国とてカネが無尽蔵にあるわけでもないからだ。

 となると、どうしても何か明確な証拠があったり、実際に被害が出てからでなければ対応出来ないと、対処が後手に回らざるを得ない状況であった。

 そこで出て来るのが未確認依頼だ。
 要は、何か怪しい感じがするけど証拠はない、だけど不安だから調査をしてくれ、ということだな。
 この段階で魔獣や野盗の存在が確認出来れば、実被害が出ていなくとも被害申請が受理され、補助の対象となることが出来る……のだが……
 この制度も、実はそこまで有効なものではないのだと、ジュリエットは語る。

「結局は、誰がその依頼料を払うかって話しなのよね」

 当然、未確認の段階では国からの補助金はでないため、確認を依頼するためには誰かが自腹を切らねばならない、ということなのだ。
 魔獣や野盗の被害に遭うのは、主に都市から離れた農村部が殆どだ。
 ともなれば、金銭的に裕福ではない者も多く、まとまった依頼料など払えるはずもない。
 勿論、ここで当たり……つまり、本当に魔獣や野盗を確認出来れば、国からの補助金もありそこそこの実入りが期待できるが、外れた時は最悪だ。
 調査に掛かった、例えば移動費や滞在費など、負担金は全て自腹になるうえ、その引き換えに貰える物はといえば、子どもの小遣い程度の報酬だけ。

 しかも、だ。
 こうした未確認調査は、複数人で受けて外れた時の損失を考えると、どうしても基本は一人で行うことになってしまう。
 だが、そんな状態でもし本当に魔獣や野盗が居たとしたら……

 依頼主や自由騎士組合への報告などは当然として、場合によっては増援が来るまで一人でそれらと対峙しなくてはいけない事態に陥る可能性もある、ということだ。
 つまりは、いざとい事態にも対応出来るだけの実力が求められるのである。

 報酬がやや博打気味なうえに、実際にいるかどうかも分からない魔獣や野盗を探し、かつそれで本当にいた場合は一人で対処しなくてはいけない。
 これでは流石に割に合わないわなぁ……

 実際、それだけの腕があれば、こんな面倒な依頼なんぞ受けずに、もっと別の実入りの良い仕事を選ぶという話しだ。

 実入りは運次第、面倒、危険、となればそりゃ受ける奴なんていやしないだろ……
 で、その塩漬けになっている依頼を俺に回して来た、とそういうことのようだ。
 それも三件もな。

「で、どうするのかしらん?」
「どうするもこうするも、こっちに選択肢はないだろ……受けなきゃ推薦をもらえないんだからな」

 というわけで、俺は机の上にあった依頼用紙三枚を手に取った。
 内容は……どれも村の近くの森の中で見慣れない人影を見た、というもののようだ。
 ということは、野党関連だろうか?
 ただ、目撃報告自体はどれも一度きりなので、勘違いの可能性も高そうではあるな。

 しかし、村の名前は載っていたが、肝心の場所が俺には分からなかった。
 というわけで、だ。
 まずは手始めに周辺の地理を知る為、地図があれば見せて欲しいとジュリエットに頼むことにした。
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