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二七〇話
しおりを挟む気付けばすっかり日も傾いていたので、今日の作業はここまでとして、お開きとすることにした。
のだが……
「あたしたちはこのままここに泊まって作業を続けるから、スグミくんとセレっちは帰っていいよぉ~」
と、そう言ったのはマレアだった。
なんでも、侍女組はこのまま泊まり込みで作業を続行する気のようだ。
だから一応、現状の家主である俺の許可が欲しい、と言っていたので、即了承した。別に断る理由もないしな。
ただ、無理しなくてもゆっくり進めればいいんじゃね? みたいなことを言ったら、近くにいた侍女さん達から猛反発が飛んで来てしまった……
曰く、あの道を何度も往復したくない、とのことらしい。
キャリッジホームで移動していると大して気にならないが、王都からここまでの道は決して良い状態といえるものではなかった。
以前、多少、俺が道に手を加えはしたが、まぁ、それも焼け石に水といった感じだしな。
そんな荒れた道を、なんの衝撃吸収機構も搭載していない普通の馬車で移動する、というのが相当辛いらしいのだ。
しかも、結構な時間もかかるっていうね……
俺はそんな普通の馬車ってのに乗ったことがないから知らんけど。
観光気分で一度くらいは、その普通の馬車ってやつに乗ってみたい、という思いもなくはなかったのだが、彼女達の反応を見るに、なんか一気に乗るのが怖くなって来たな……
まぁ、それはさておき。
で、だ。
泊まり込みをする、とはいっても、現状では彼女達が使う予定の東棟はまだまだ整備段階でまともに使えたものではなく、当然、寝る場所なんてありはしなかった。
現状、使える部屋を解放したとしても、今ある部屋は俺とイースさんミラちゃん母娘、そしてセレスの部屋の三部屋だけ、使えるベッドの数に至っては、たったの四つだ。
これでは大した足しにもならず、殆どの子達が床で雑魚寝になってしまう。
流石にそれは可哀想だなと思い、まだ伽藍洞のままになっているベルへモス解体場を解放して、そこに人数分のベッドを仮置きし、好きに使ってもらうことにした。
こうすれば少なくとも、寝る所がないから床で寝る、という事態は回避することが出来る。
ちなみに、このベッドは必要になることを見越して、クラフトボックスで事前に大量生産しておいたものである。
「というわけで、だ。取り敢えず人数分くらいのベッドは用意したから、ここにあるのは好きに使ってくれ」
「うわぁ~、これはマジで有難いわぁ~。みんな集めてお礼言わせようか?」
と、そんなことをマレアが言う。
まだ作業中の子とかもいたので、解体場に連れて来たのはマレアとレインちゃんボゥちゃんの侍女姉妹とセレスだけである。
「別にいいさ。仕事の邪魔なんてしたくないし」
「そ? でも、こういうのホント助かるわぁ~。あたしは侍女長特権で、スグミくんのベッドでも使うつもりだったけど、他の子は床寝確実だったからねぇ~」
こいつ、今さらっととんでもないことを言ってなかったか?
この際、俺のベッドを無断で使おうとしていたことには目をつぶるとして、自分だけベッド使って部下は床とか、どんなブラック上司だよ……
「マレア侍女長~、それはちょっと酷くないですかぁ~! 職権乱用だと思いますっ!」
とは、ボゥちゃんからの抗議の声である。当然だ。
しかし……
「ふっ、侍女長とはそれくらい偉い立場なのだよボゥちゃん。悔しければ偉くなるのだっ!」
そんなボゥちゃんに、マレアはない胸を張り威張り散らすのだった。
まぁ、言っていること自体は間違っちゃいないのかもしれないが、何か違う気もするんだよなぁ……
「あの、ありがとうございます旦那様。これでみんなもゆっくりと休めると思います。
一同を代表し、御礼申し上げます」
で、レインちゃんはレインちゃんで、俺に深々頭を下げてお礼を言っていた。
なんかマレアよりレインちゃんの方がよっぽど確りしているような気が……
「これから一緒に暮らす仲なんだから、そんな気にすんな。
ああ、そうだマレア。風呂とか厨房も好きに使っていいからな」
前半をレインちゃんに、そして後半を未だにボゥちゃんに謎マウントを取っているマレアに向かって言う。と……
「マジでぇっ!」
そんな大袈裟とも取れるほど大きな反応がマレアから返って来て、俺の方へとすっ飛んで来た。
「ホントに使っていいのアレ!?」
「お、おう……別に減るもんじゃないし、あるんなら使えばいいと思うが……」
「よっしゃゃぁぁぁーーー!」
で、俺がそう言うと、マレアは謎の雄たけびを上げるとガッツポーズを取り、小躍りまで始めたのだった。
「??」
そんな謎行動を疑問に思っていると、すっと俺の横に誰かが立つ気配がしたので、視線を移すとそこには俺を見上げるセレスがいた。
「よく分かっていないみたいだから一応説明しておくと、普通、屋敷内の施設っていうのは当主一家か、招かれた客人くらいしか使っちゃいけないことになっているのよ。
使用人が使うなんて以ての外で、使用人が使う物は、それ用に別に用意するのが普通なの。
だから、マレア様も自分達が使えるなんて思っていなかったのでしょうね」
ということらしい。なるほど。
「別に俺は貴族様でもないし、その手の社会通念的なものもないから、あまり気にしなくていいぞ?
ああ、勿論、セレスも住むようになったら好きに利用してもらって構わんからな?」
「そう? それじゃあ有難く使わせてもらうことにするわ」
「あの、マレア様? その、お風呂とは一体……?」
で、謎の小躍りをしているマレアに対して、レインちゃんが不思議そうな顔でそんなことを聞いていた。
そうか。そういえば、レインちゃんはまだ風呂場を見ていなかったんだったな。
「ん? ああ、そっか。レイっち達はあそこ、まだ見てないんだっけ? それじゃ、それは後で教えてあげるよ。見たらマジでビビるから覚悟だけはしておくようにっ!」
「はぁ?」
そう言って、何故かドヤるマレアに、レインちゃんが曖昧に頷いていた。
てか、風呂を見るのにどんな覚悟が必要なんだって、ツッコミたいところではあるが、マレアの気持ちも、まぁ、分からなくはないからな……
敢えて、何も言うまい。
というわけで、俺達はマレア達侍女組を置いて、お暇させてもらうことにした。
帰りの道中、擱座したという馬車を見つけたので、ついでにピックアップしていくことに。
その後、セレスとはいつも通り街門で別れて、俺も宿屋へと帰るのだった。
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