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三〇一話
しおりを挟むなんて、昨日のことを思い出しつつ、俺達はマレアを先頭に洞穴を奥へ奥へと進んで行く。
「ここってもう遺跡の内部なのか?」
先頭を行くマレアが手にしているランプの淡い光だけを頼りに、真っ暗な洞窟の中を結構な距離テクテク歩く。
……もう一〇分くらいは歩いただろうか? 正直、中腰での移動なのでかなり腰がキツイ。
「いえ、まだよ。
元々、この第七号遺跡はこの辺りの地質調査をしている時に、偶然発見されたものなの」
そんな俺のぼやきにも似た言葉に、前を行くセレスがそう返してきた。
なんでも、王都周辺に何か鉱物資源はないかと地面を掘っている時に、偶然遺跡の横っ腹にガツンっとブチ当たったらしい。
最初はそれが何なのかわからず、取り敢えず破壊したら中が空洞になっており、遺跡だと気づいたのだという。
で、今、俺達が歩いてるこの洞窟が、その時掘られた地質調査用の穴ということだ。
「てか、よく破壊出来たな。魔術とか効かないんだろ?」
「それとこれとは話しが別ね」
そう前置きしたうえで、セレスが色々と解説してくれた。
なんでも、抗魔鉱は魔術的な抵抗値は非常に高いのだが、物理的な強度に関してはそこまでではなく、よくて固い鉱石程度しかないそうだ。
なのでその時は、普通にツルハシとかを使い、物理的に破壊したという話しだ。
だから、土方のおっちゃん達でも破壊することが出来たらしい。
そういえば、ソアラの首に着けられた首枷も、結局は物理で破壊してたっけか。
「ということは、正規の入り口は別にある、と?」
「ええ。ただ、その本来の入り口の方も、今は埋まってしまっているけどね。
入り口を増やすと侵入防止対策に手間が掛かる、ということでそっちはそのまま埋めておくことにしたみたいよ」
護る場所は少ない方がいい、ということなんだろうな。
そういえば、侵入防止、といえば……
「なぁ? そういえば結界がどうとか、厳重に守られてるとか、そんな話しをしてたと思うが、それってまだ先なのか?」
ここに来るまで、それらしいものを見てないのでなんとなく聞いてみる。
「あのねぇ? 何のためにあたしが先頭を歩いていると思っているのかな? かな?」
「既に三つ、結界を解除してここまで来ているわ」
そう不満そうに言うマレアに続き、補足する様にセレスが付け加える。
そうか。もう通過して来ていたのか。
こう、見るからにここに結界がありますっ! とか、 今、結界を解除しましたっ! 的な視覚的変化が一切無かったので、全然気が付かなかったな。
「なぁ? 実はちょっと気になってたんだが、その結界って解除せずに触れるとどうなるんだ?」
「あばばばばっ! ってなる」
と、前々から気にはなっていたが、中々聞き出すタイミングなかった件について聞いてみることにした。のたが……
マレアから返ってきたのはそんな言葉だった。
なんだよ? あばばばばっ! って……
「こうした遺跡を始め、侵入防止に施されている結界には、精神干渉術式という魔術が使用されているの」
俺の頭の上に無数の?マークが湧くのを感じ取ったのか、セレスがそう補足してくれた。
「精神? 干渉?」
なんか以前に似たような話を聞いたような気もするが……はて? あれはいつのことだったか?
「簡単に言えば、身体的な外傷は一切与えないけど、代わりに精神的苦痛、所謂、幻痛を侵入者に与える、っていうものよ」
俺がまったく理解出来ていないことを察して、セレスが追加でそう説明する。
ふ~ん、幻痛ねぇ……
手足を失った人が感じるという、幻肢痛と似た様なものだろうか?
しかし、だ。
「そんなんで侵入者を撃退出来るのか? いうて怪我はしないわけだし、精神的なものなんだろ?
なんか根性がある奴なら耐えそうな気もするが……」
「ほぉ、言うじゃない……なら、次の結界喰らってみる?」
俺の何気ない感想に、マレアが挑発的にそんなことを言ってきた。
位置的に顔こそ見えないが、なんだかニヤケながら言ってるような気がする。
「やめておいた方がいいわよ?
そもそも、精神的苦痛って肉体的なダメージと違って耐えれるとかそういう物じゃないから」
とは、セレス先生のお言葉である。
「どゆこと?」
「例えば、息が出来ない苦しみ、ってあるでしょ?
溺れた、とか、口や鼻を押さえられた、とか。
あれは生物なら等しく苦しいのよ。大人も子供も、男も女も、そこに肉体的な屈強さは関係ないの。
まぁ、多少は訓練でなんとかなるけど、だからって一刻も二刻も耐えられる人はいないわ」
ちなみに、刻とはこの世界での時間の単位で、一刻大体二時間くらいである。
「まぁ、普通は死ぬな」
「そう誰だって死ぬの。この精神的苦痛っていうのは、そうした肉体的に耐えられない苦しみを継続的に対象者に与え続ける、そういう代物よ」
なにそれコワイ……
死にはしないが、死ぬのと同じ苦しみを生きたまま与えるって、そっちの方がヤバないか?
それに確か、溺死とか窒息死って、死に方としては一番苦しい、なんて聞いたことがあるんだが?
「まぁ、そもそも精神干渉魔術って捕らえた捕虜を殺さない様に拷問する為に使われるくらいだしね」
セレスのあとに、今度はマレアがそう続けた。しかも、どこか楽しそうに、だ。
「昔、プレセアっちを暗殺しに来た賊とっ捕まえて、黒幕吐かせる為にこういうの使ったことがあるんだけどさ。
その時、全身の穴という穴から変な汁垂れ流しながら、殺してくれって懇願すんの。もう、笑っちゃったわ」
いやいや……そこ笑うとこと違くないか? こえーよ……
「…………」
ほら見ろ。セレスもなんか引いてんじゃねぇか。
「で、そいつが結構強情な奴でね? 吐けば楽になるよ? って言ってんのになかなか吐かないもんだから、そのあと上位種の精神支配魔術をかけて洗い浚い全部吐かせたんだけど、結局、精神負荷が強過ぎて廃人になっちゃったんだよねぇ~。
まぁ、全部聞いた後だから、どうでもいいんだけどさ」
だから、なんでちょっと楽しそうに話してんだこいつは……なんというか、もうマレアが怖いわ。
「あっ! 誰にでもこんなことしてるわけじゃないからねっ! 悪い奴らだけだからねっ! そこ、勘違いしないでよねっ!」
で、なんでちょっとツンデレ風なんだよ……内容が内容だけに笑えねぇよ。
ちなみに、なんで最初から精神支配魔術を使わなかったのか聞いたら、なんでも精神的に抵抗力がある状態では、この精神支配魔術というのはほぼ成功しないらしい。
相手が精神的に弱っていて初めて成功するもののようなので、まずは精神を徹底的に追い詰める必要があるそうなのだ。
というようなことを、マレアが実に楽しそうに教えてくれた。
だから、そういうのを楽し気に話すんじゃないっての……
「で? スグミくんどする? もうすぐ四枚目が来るけど、食らってみる?」
「……遠慮しておきます」
そんな話を聞いて尚、そんなもんにチャレンジするほど俺は勇者ではないのだ。
「賢明な判断ね。
基本的にだけど、生きている遺跡より普段警備とか置けない枯れている遺跡の方が守りが厳重になっていて、ここ、第七号遺跡では王都に近いということもあって、遺跡中最も多い合計六枚の結界が張られているの。
で、遺跡の入り口に近くづくにつれ結界の出力が上がっていく仕様になっているわ。
最初の一枚、二枚は低出力設定になっているからそこまで酷いことにはならないけど、次の四枚目は拷問に使われるのとほぼ同出力になっているから、間違っても触れない方がいいわよ?」
と、セレス先生が懇切丁寧に説明してくださいました。
ちなみに、最初の結界の出力が低く設定されているのは、侵入者への警告、という意味合いもあるが、それ以外にも、事故防止、という側面があるのだとセレスは言っていた。
遺跡付近一帯は王家の直轄地指定を受けてはいるため、勝手に入ってはいけない、という立札はそこかしこに建てられているみたいなのだが、それでもどうしても知らず知らずに入ってしまう、という人が年に数人ペースで出てしまうようなのだ。
で、そういう人たちがこれまたうっかり遺跡に踏み入ってしまうこともあるらしく、そうした人たちに、ここは入ると危険な場所だ、という認識を持たせる為の処置なのだという。
まぁ、何も知らない奴が穴倉に入って、突然、あばばばばっ! なんてことになれば、そりゃ、ここなんかヤベーぞ! ってなるわな。
にしても、マジかよ……次から拷問レベルって……
てか、多分だがマレアはそれ知ってたよな? それを知っていて、食らってみる? とか気軽に聞いて来る辺り、こいつも随分といい性格をしているもんだ。
しかし、四枚目で拷問レベルってことは、そのあとに続く五枚目と六枚目のレベルってどんだけだよ?
触ったら発狂死とかするんじゃないか?
……考えるだけで怖くなって来たので、俺はそれ以上、考えるのをやめるのだった。
それからは、特に会話らしい会話もないまま、俺たちはただ黙々と穴倉を進み続けるのだった。
そして、ようやく遺跡の入り口に着いたのは、それから更に三〇分程進んでからのことだった……
その頃には俺の腰が致命的な致命傷で寿命がマッハだったわけだが……死ぬ前に辿り着けたのだけは幸運だったと、そう思うことにしよう。
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