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三〇三話
しおりを挟むとはいえ、一応の警戒は必要だろうと、マレアとセレスは安全も兼ねて遺跡外の通路へと退避させておく。
取り出して、いきなり爆発しても怖いからな。
で、俺はといえば、障害物代わりに黒騎士を取り出し、その背後へと隠れるように退避する。
しかも、普段は滅多に使わない黒騎士用の巨大な盾を二枚持ちさせる、という念の入れようだ。
亜空間倉庫からの取り出しには制限距離があるため、俺はセレス達の様に物理的に距離を取る、ということが出来ないからな。
そのうえで安全を考えるとなると、これしか方法が思い浮かばなかったのだ。
これで準備ヨシっ!
これなら、喩え百貫百足が目の前で爆発しても、破片の直撃は免れる……はずである。
ちなみに、事前に聞いていた遺跡の通路の広さだと、普段の直立姿勢状態の黒騎士では必要空間が確保出来ずに取り出すことが出来ないと予想し、黒騎士の取り出し時の基本姿勢をコンパクトもの……膝を抱えて座り込む、所謂、体操座りスタイルに変えていた。
これなら、取り出しに必要な高さも1メートルちょいで済み、直立時の半分程の空間で取り出しが出来るようになる。
とはいえだ。この姿勢、取り出しに必要な空間の省スペース化が出来るというメリットこそあれど、同じくデメリットも存在していた。
というのも、取り出し時の初期状態が座っている姿勢であるため、何か行動をさせる為には、どうしても一度立ち上がらせなければならず、行動に相応性が欠けてしまうのである。
取り出して即行動に移せない、というのは場合によっては致命的なタイムロスに繋がり兼ねない問題だ。
なので、そうした多少のデメリットがあったとしても、それでも普段、直立姿勢を基本姿勢に登録しているのはそうした理由があるからだった。
あとはまぁ、単純にダサい、というのもあるがな。
取り出した時に、巨躯な騎士がちょこんと体操座りしている……なんてシュール過ぎるだろ?
そこには威厳も威圧もあったもんじゃない。見かけというのも大事な要素なのだ。
なので、普段はこんなダッサい姿勢を基本姿勢にはまずしないのだが、今回は状況が状況ということで苦肉の策である。
さて、準備も万端整ったところで、いざ、取り出しだ。
………………
…………
……
「アカン……多分、脚かどっかが干渉して空間が確保出来へん……」
「ダメじゃん……」
と、マレアからの容赦ないツッコミが入る。
どれだけ取り出し場所を微調整してみても、AR表示された仮想枠がずっと赤のままで、まったく緑にならない……
通路の対角線なら長さが稼げるはずだと、百貫百足を斜めにしてみたりと五分程あれやこれやと色々と試してみたのだが、結局何処かが干渉してしまうようで、取り出すことが出来なかった。
多分、一部横幅が通路の幅を超えてしまっているのだろう。
こうなるかもしれないからと、百貫百足の取り出し時の基本状態には十分気を付けたつもりではあったんだが……恐れていことが起こってしまった。
なので、セレス達に事情を説明し、一旦外へ出ることに。
あの長くて低い通路をもう一度通るのか……と、激しく鬱になるが仕方がない。
長く険しい戦いの末、腰に二度目の致命的な致命傷を受けながらもなんとか地上に帰還。
で、そこで一度百貫百足を取り出し、展開時の基本姿勢を再設定。
今回は極力足を折りたたみ、限界まで省スペース化に努めた。
これでダメなら基礎設計からやり直しである。作り直しだけは絶対に御免なので、なんとか上手くいってほしいと切に願う。
まぁ、うちは代々無宗教なんすがね。困った時だけ神頼み、というやつだ。
それが終わったところで、また来た道を戻ることになるのだが……
「……で、スグミくん何してんの?」
さて戻るか、ともう一度通路に入ろうとした矢先。
俺にジトっとした目を向けて、マレアがそんなことを聞いてきた。
「何って……戻るんだろ?」
「いや、そうだけど……あたしが聞いてるのは、なんで箱の中に入ってるの? ってことなんだけど?」
確かに、マレアが言うように、俺は手ごろなサイズの箱の中に入っていた。
「何故、俺が箱に入っているか? だって? んなもん、あの天井の低いトンネルをもう一度通ったら、俺の腰が死ぬからだよっ!」
というわけで、百貫百足を再調整してすぐ、手持ちの適当な木箱に取っ手と車輪を付けて、大型の乳母車の様な物を作ったのだ。
名付けて、俺運搬用トロッコ、である。
俺がこのトロッコに乗った状態でエテナイトに牽かせて移動すれば、あの中途半端な中腰姿勢で歩く必要もなくなる、という寸法である。
我ながらのナイスアイデアだな。
ちなみに、俺が百貫百足の調整を行っている時、セレスは近くで見学を、マレアはその辺の草の上でゴロゴロしていたので、この俺謹製トロッコの製作は見ていなかった。
「さて、戻ろ戻ろ」
というわけで、俺はトロッコをエテナイトにキュラキュラと牽かせながら、遺跡へのトンネルへと向かう。
非力なエテナイトでもちゃんと牽けるがどうかやや不安なところはあったが、車輪に組み込んだボールベアリングのおかげか、思いの外すんなりと牽けていた。
ちなみに、このボールベアリングは、先日、馬車を改造する時に使ったやつの残り物である。
エテナイトの出力的におそらく登りは無理だが、好都合なことにトンネルは遺跡に向かって下り坂になっている。
これなら、ある程度速度が出ればエテナイトなしでも自走しそうな気がする。
一応、簡易ブレーキは取り付けているので、暴走事故が起きるということもないだろう。
なんてことを考えながら移動していると……
「あっ、ちょっとそれずっこくない!? なに一人だけ楽しようとしてるのかな!? かなっ!?」
なんて、それを見たマレアが途端喚き始めた。
「ずっこくないっ! お前は普通にあのトンネル歩けるだろっ! こちとら変な中腰やぞ! あれがどれだけしんどいと思ってやがる! 生粋のデスクワーカーの体の弱さ舐めんなよっ!」
「そんなの自慢になんないよねっ! 単に体鍛えてないだけじゃん!
自分ばっか楽してないで、あたしにも楽させなさいって!」
なんて言うや否や。
動くトロッコに、華麗な身のこなしでマレアが文字通り飛び乗って来たのだった。
「あっ、バカっ! この箱小さいんだから二人は無理だって!」
大型の乳母車サイズとはいえ、一般的なそれのサイズと比べて、だ。しかもそこに乗っているのは成人男性。
現状、俺一人で結構パンパンな状態であり、当然、そこに他の誰かが乗れるスペースなどあるはずもなく……
「行ける行ける! ほら、あたし小柄だし! 諦めんなって!」
「諦めるとかそういう話しじゃないんだわ! 物理的に無理だって……
イデっ! イデデデデデっ! 潰れてるっ! ムスコが潰れてるからっ!
尻を無理やり押し込むのマジ止めれっ! 潰れるっ! 潰れてるっ! 尻を退けろっ!」
「イケるイケるっ! がんばって! がんばって!」
ナニをがんばれと?
こちらの苦痛など知らん顔で、お構いなしにギュウギュウと体を押し込もうとするマレアだったが……
「アカンアカンっ! マジ無理だってっ! いいから一度退けっ!」
「……あれ? ヤバ……なんか体が変にハマって動けなくなっちゃったんですけど?」
「バカなのかなっ!?」
で、今度は逆に体を抜こうとモゾモゾするマレアなのだが、しかしそれが余計俺の下腹部を圧迫することに。
「ちょっ! スグミくん暴れないでって! 足っ! 足が抜けないからっ!」
「だから潰れてるんだってっばっ! ちょっとでいいからスペース開けろっ!」
「だからっ!」
「とにかくっ!」
なんて、不毛な言い合いをしながらの押し合い圧し合いをしていると……
メキメキメキっ! という不吉な音が聞こえて来たのは正にその時だった。
やばっ! と思った時には、時すでにお寿司。
バキッ! という派手な音を立てて、トロッコは大破した。
所詮は急拵えな上に、適当な空き箱の再利用品である。
強度なんてあってないようなものなので、箱の中で暴れればこうなるのも然もありなん、だ。
となれば……
「あぶっ!」
「ぷぎゃ!」
乗っていた俺達二人は支えを失い、見事に外へと放り出されることになったっていうね……
「……大の大人が二人して一体何をやっているのよ?」
で、そこには地面に転がる二七歳と二三歳、そしてバラバラになったトロッコの残骸を、呆れたように見下ろす冷静な一三歳が一人立っていたのだった……
いや……これ、俺悪くない……よな?
と、心の中で言い返すのだがその前に、だ。
俺が悶絶することになったのは百歩譲って許してやってもいいが(許すとはいっていない)、あれだけ無茶するなって言ってんのに、結局トロッコまで破壊しやがって……
あとで覚えやがれこの合法ロリっ!
押しつぶされて苦悶に喘いだムスコの恨み……何時か晴らしてやるからなっ!(結局、許してない)
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