346 / 353
三四七話
しおりを挟むそんな感じで、何だかんだあったものの、ようやく環境が整ったので早速調薬の実演をすることに。
ヴィヴィオ女史の研究室には、いくつもの研究用のテーブルが置かれていたので、その一つを拝借して作業を行うことにした。
と、その前にだ……
「ああ、そうだ。まずは竜の血を回収してこないと……」
竜の血を使って作る竜血晶は秘薬丸を作る上での必須アイテムである。
とはいえ、作業の工程上では竜血晶が必要になるのは最後の段階になってからなので、別に今すぐ竜血晶が必要というわけではない。
が、必要になってから取りに行くというのも面倒なので、事前に用意しておいた方がいいだろうな、と思ったのだが……
「ああ、それならいくらか既に研究室に運び込んでもらったいるよ」
と、ヴィヴィオ女史はそう言うと、部屋の一角を指差して見せた。
指先を目で追うと、そこには見覚えのある木製の樽が一つ。
俺が自分で作ったのだから見間違うはずがない。
あれはベルヘモスの素材を収納するためにと、学者のジジイ共に強制的に作らされた忌まわしき樽である。
ということは、だ。ヴィヴィオ女史の発言も相まって、中身は十中八九竜の血だろう。
「随分と用意がいいな」
「まぁな。バレーノから話しを聞いた時に必要になると思って、運び込んでおいたのさ」
そう言うと、ヴィヴィオ女史が誇らしげにドヤる。トラル女史の背中に隠れながらではあったがな……
「なに、如何にも自分で運びました、みたいに言ってんのよ?
実際に樽を運んだのはメイドさん達でしょうに……」
「うぐっ……」
で、そんな他人の手柄を横取りしようとしたヴィヴィオ女史に対して、トラル女史が呆れたようにあっさり真相を暴露する。
が、まぁ、だろうな。というのが素直な感想だ。
樽は結構なサイズなので、セリカの様な特殊能力持ちでもない限り、端からヴィヴィオ女史の様な細腕の女性が一人でこの樽を運べるとは思ってなどいない。
正直、このサイズは大の男でもかなり辛いのではないだろうか?
俺なら亜空間倉庫で一発だが、腕力で運べと言われたら絶対に無理だ。
にしても、メイドさん達スゲーな。
いくら騎士としての訓練を受けているとはいえ、あの樽を人力で運ぶとは……
トラル女史の話しだと、三人で運んでいたらしいが、それでもだ。
もしかしたら、セリカみたいな身体強化能力とかあるのかもな。
なんてことはさておいて。
では、材料が揃ったということで、いざ調薬を開始することに。
今回は秘薬丸だけを作るわけではなく、秘薬丸に至るまでの全工程を実演するという話しになっていた。
正確には、【病気】レベル4を治療する秘薬丸を作るには、前工程で【病気】レベル2と3に対応した治療アイテムを作る必要があった。
『アンリミ』では特定のアイテムを単品でポンと作れるわけではなく、一つずつ上の段階へと変換していくステップアップ式になっているので、それらを一つずつ作っていくことになる。
つまり、上位アイテムになればなるほど、必要になる素材数が増加し、作るのが大変になるのだ。
まぁ、その分価値が付き、高額で販売が出来るというわけだ。
おかげで、色々と荒稼ぎさせてもらっていたのは昔の話し。
それでは、まず【病気】治療系のアイテムのスタート地点である【病気】レベル2の治療アイテム“養命水”から作っていくことにする。
ということで、テーブルの上には調合用の調薬セットと錬金窯(小)を並べ、必要になる素材も並べていく。
ちなみにだが、【病気】レベル1、というか状態異常のレベル1はすべて状態回復ポーションで回復出来るため、専用のアイテムは存在していない。
なので、状態異常専用の回復アイテムは、すべてレベル2からのスタートとなっている。
俺は使う素材や工程などを二人に説明しつつ、出来る限りゆっくり作業をしてアイテムを完成させる。
本来ならじっくり時間を掛けて説明したいところだが、作業時間には制限時間があり、それをオーバーすると品質が低下してしまうのだ。
なのであまりゆっくりもしていられない。
出来ることなら品質の高い完成品を見せたいし、なにより素材を無駄にしたくはない。
そんなこんなで完成したのが“養命水 品質レベル10”である。
まぁ、この辺りは工程も少なく作業も楽なので、10くらいは作れて当然といった感じだ。
むしろ、この程度で10が作れないならこの先のアイテムを高品質で作るのは無理だと断言してもいい。
ちなみに、養命水の素材は“清らかな水”と“幼樹木人の枝”の二つだけだ。
で、“幼樹木人の枝”を粉砕、乾燥後、この二つを適量、適温、適時間で煮だしたのが養命水である。
いってしまえば、木の枝を煮出したお茶だな。
ただし、色が長時間煮詰めた麦茶のような、とんでもなく濃い茶色をしているので、飲むには若干の忌避感があるが、味はそれほど悪くはない。
で、今度はこの養命水を材料に、【病気】レベル3を治療する漢方ドリンクを作っていく……ことになるのだが……
ここでヴィヴィオ女史に、養命水もサンプルとして欲しいと言われたので、今しがた作った物をサンプルとして提出し、新たにもう一つ……作ろうかと思ったが、この先同じことを言われるだろうと確信し、少し多めに作っておくことにした。
そしてようやく次の工程へ。
次は漢方ドリンクだ。
今回は単なる素材なので、飲みやすくした漢方ドリンク(ハチミツ味)にする必要はない。
なので材料は次の通りとなる。
“養命水”“古茸人の傘”“古樹木人の苔むした皮”“アルラウネの蜜”の、四点だ。
んで、これらを手順に則り正確に調合していく。
どうせ、サンプルに一つ欲しい、とか言われるだろうから予め少し多めに作っておく。
デキる男は違うのだ。
ちなみに、漢方ドリンク(ハチミツ味)にするには、完成した漢方ドリンクにハチミツを加えるだけでいい。
ただし、適正分量というのがあるので適当に混ぜると品質低下の原因になるので要注意となる。
そして次がいよいよ秘薬丸の調薬となる。
材料は、“漢方ドリンク”“竜血晶”“最古樹木人の根”“千年人参”“麒麟の角”だ。
しかし、その前に竜血晶がないのでまずは竜血晶の精製からとなる。
以前、エルフの村で秘薬丸を作った時は、既に結晶化していたのでそのまま使うことが出来たが、今回はまだ血の状態だからな。
実をいうと、竜の血から竜血晶を作るのは意外と手間なのだ。というか、一番面倒だといってもいい。
なにせ、この一つのアイテムを作るためだけに、複数の素材と、専用の機材が必要となるうえ、細かい作業が続くので神経も使うからだ。
で、まず、その竜血晶を作るのに必要な素材というのが“超純水”“世界樹の種”“不死鳥の骨”の三つ。
そして機材というのが、純度100パーセントのミスリルで作った鍋となる。
勿論、鍋の品質が完成品の品質にダイレクトに影響するので、使うミスリル鍋の品質は10の物を使う。
手順は、世界樹の種、不死鳥の骨を砕いて超純水で煮出して特殊な溶液を作る。
次いで、ミスリル鍋に竜の血を注ぎ、適温で煮ながら作った溶液を加え、混ぜる。
この時、溶液を一度に多くを入れてしまうと品質が低下してしまうので、ゆっくりと少量ずつ加えていくのが鉄則だ。
すると、竜の血と溶液の混合液、そしてミスリルが反応し、鍋の表面に小さな結晶が無数に生成される。これが竜血晶である。
正確には竜血晶の元となるミニ竜血晶、といった感じだ。
反応は、混合液とミスリルが触れている部分でどんどん起きるため、鍋に付着した結晶を丁寧に掃ぎ落していく。
放っておくと反応自体が鈍化し、品質の低い結晶が生まれてしまうので、この作業は手早くかつ丁寧に行わなければならない。
混合液が無色透明になったら反応は終了。
反応が終わった混合液はお役目終了なので破棄……しようとしたら、例によりヴィヴィオ女史からサンプルに欲しい、と言われたので適当なビンに詰めて譲渡した。
残ったミニ竜血晶を回収し、錬金窯(小)に放り込み、MPを加えて錬金窯でチン……通称・錬チンすれば、完成品の竜血晶の出来上がりとなる。
ここから先はエルフの村で行った調薬の再現となり、こうしてようやっと秘薬丸の完成となったのだった。
久しぶりに一からの制作となったが、やっぱめんどくせーなこれ……
「実に面白い講習だったよ。これは研究が楽しみだね」
こうして、出来上がったアイテム、また使った調合素材を少量、ヴィヴィオ女史に渡し、今日の調薬実演はようやく終了を迎えることになった。
まぁ、ヴィヴィオ女史がご満悦そうなので、まぁ、ヨシとしようじゃないか……
俺はめっさ疲れたけど……
そんなわけで、秘薬丸の上に更に二つの上位アイテム、【病気】レベル5の治療薬である“神命酒”と、完全回復薬である“エクストラ・エリクシル”があることは黙っておくことにした。
下手に話して、作れ、って言われたら面倒だからな。
言わぬが華、というヤツである。……違うか?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる