生前SEやってた俺は異世界で…

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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3巻

3-2

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 と、いう訳でそれから数日が経ち……
〝日本式の風呂〟のサンプルが完成した。思いの外簡単に仕上がったな……
 俺だけ免除されている学校の一時間目の読み書きの時間、そして授業後の恒例となった水浴びの時間、この二つの時間を使って俺は作業に没頭した。
 勿論、グライブとリュドは十分にき使ってなっ! 
 ミーシャとタニアはどうしたかって?
 あの子たちは何も言わなくても、進んで手伝ってくれる良い子たちなので、特に何も言ってはいない。
 そうだ、今度イスュの隊商が来た時には、何か好きな物でも買ってあげよう。グライブたちは知らん。自分で好きなものを買えばいいと思う。
 で、そんなこんなで作った浴槽の数は、取り敢えず三つだ。
 浴槽部分は、大衆洗濯場を造る時に余ったレンガを流用した。ぶっちゃけ、見た目は洗濯槽そのものだ。だから追加で用意したレンガは、ボイラーに該当する加熱用の魔術陣の部分だけだった。
 設置したのは水浴びに使っていた川の近く、もっと言えばあの試作で造った生簀の近くである。
 本当は、もう少し立地の良い場所に設置したかったのだが、給水の関係上ここ以外に良い場所がなかったのだ。
 浴槽への給水は竹を使っている。これは、事前に切り倒して用意しておいた物だ。この世界の竹は、日本のそれとは違いふしがないため、切っただけでパイプのように使えるという利便性がある。
 竹には水の流れを制御する魔術陣が刻まれており、竹の口を川にぶっ込んで魔術陣を起動させれば勢い良く水を汲み上げてくれる寸法だ。
 浴槽の中には木のせんがはめられており、溜まった水はこれを抜けば排水できるという、何とも簡素な作りをしていた。
 この試作風呂の目的は、あくまで〝風呂の良さを広めること〟であるため、特別った造りはしていない。凝った物を造るのは、本格的に銭湯を建てる時でいい。
 ということで、折角完成したので試運転も兼ねて入ってみることにした。
 大人でも十分に余裕を持って入れるように、それなりの広さと高さを備えた浴槽は、子どもの俺たちが入るには多少ふちが高い。
 なので適当な石を置いて足場とした。
 ちなみに、子ども一人でも用意ができるか確かめるために、グライブとリュドには俺の真似をしてそれぞれ風呂の準備をしてもらった。
 最初の竹を使って水を浴槽に入れるところだけ多少手間取っていたが、そのあとは特に問題もなく準備は進んでいた。
 正式に銭湯を造る時は、もっと楽な給水方式を取り入れるつもりなので、今だけは我慢してもらおう。
 入れた水かさは、浴槽の七割くらいまでだ。子どもが座った時に、肩の高さまでお湯がくればいいので、これで十分だろう。
 今回、試作風呂を作るに当たって加熱システムを多少改良している。
 普通は、熱源を用意して、その熱量を水へと移すことで水の温度が上昇し、お湯となる。
 五右衛門ごえもん風呂やドラム缶風呂なんかがその分かりやすい例だ。
 しかし、この魔道具による〝加熱〟とは、従来の加熱という概念とはまったく違っていた。
 まず、〝熱源〟を必要としないのだ。
 では、どうやって加熱するのかといえば、〝水そのもの〟に熱量を直接ぶち込んでいる。
 イメージとしては、電子レンジでチンしている感覚に近いかもしれない。
 勿論、窯元かまもとで使っているような加熱魔術陣をレンガに書き込み、レンガ自体を加熱して水を温める、という方法もなくはないが、正直二度手間になるのでめた。
 レンガを加熱する熱量をそのまま水に与えた方が、魔力マナの消費も少なくて済むし、熱する時間もずっと短くなるからだ。
 俺が生簀で行っていた加熱実験とは、つまり〝水もしくは空間そのものに、熱量をそのまま付与することはできるのか?〟というものだった訳だ。
 結果は見事成功。
 そこで、今回は前回用意できなかった〝き〟機能を追加してみた。
 正直、この〝熱量を直接ぶち込む〟という加熱方式では、追い炊きができない。いや、できないようにしていた、と言う方が正確だな。
 この加熱方式には、洗濯槽と同じく〝一定以上の大きさの生物が入っている場合、機能しない〟というロックを掛けていた。
 何故かというと……
 人が加熱の効果範囲にいた場合、人体にどんな影響が出るか分からなかったからだ。
 何事もなく水だけが加熱されるならそれでいい。しかし、生卵を電子レンジでチンしたらどうなるか……
 俺はそれを人で試す気には、とてもなれなかった。
 だからこそ、追い炊きは初心に帰って基本的な方法で加熱することにした。
 そう、浴槽を構築しているレンガの一部を直接発熱させる方式を、ここで採用したのだ。
 ボイラー部分である魔道具の内部には、レンガ一つ分程の空間が浴槽と環状に繋がっていた。
 その空間の中で浴槽から一番離れた部分に発熱レンガを設置することで、追い炊き機能を得ると同時に、高温になっている発熱部分に直接触れる危険性を減らしている。
 これは日本の風呂釜とほぼ同じ機構だったりする。

「では、入ってみますかねぇ~。えいこらしょっと……」

 前回の生簀の実験機では完全に手動まかせだった加熱時間を、今回は一定時間だけ加熱するタイマー式にした。
〝ぬるい〟と思う奴は、勝手に追い炊きしろということだ。

「あったし、ロディと一緒には~いるっ!」
「じ、じゃわたしもっ! 一緒に入るっ!」

 俺が浴槽に入るや、何故かタニアとミーシャが二人して競うように同じ浴槽へと飛び込んできた。
 まぁ、別にいいけどね……
 大人だってゆったり入れるくらいのサイズにはしてあるから、子ども三人が入ったところでどうということはない。
 が、三人も入ってしまったことで一気に水かさが増してしまった。
 今は三人とも立っている状態だからいいが、これって、皆で座ったらザッパーするんじゃないか?
 勿体ない……とも思ったが、水道代を出している訳でもないから別にいいのか?
 まぁ、結局タニアが浴槽内でまたまた派手に暴れ回った所為で、水かさはあっという間に激減。
 こぼれる前に掻き出されてしまった訳だが……この子はもう少し落ち着きを持つべきだな、うん。
 片やミーシャは、我関せずとばかりにほけーっとした顔で俺の隣で静かに座っていた。
 この子はこの子で何だか大物になりそうな気がするな……
 何だかんだで、グライブやリュドにもそれなりに好評だったようで、俺たちは作業の後のひとっ風呂を浴びてから、家に帰ることになった。
 帰りは勿論俺の愛車で送ることになったのだが、〝動かしたいっ!〟というグライブとリュドのたっての頼みで、運転は彼らに任せることにした。
 二人で分担したため一人当たりの距離が短かったおかげか、それとも以前の経験から耐性が付いたのか、グライブも魔力欠乏症に陥ることなく家まで辿り着けた。
 リュドは何でも、簡単な魔術は日頃から使っているとかで、魔力マナを消費することには慣れているらしい。
 まぁ、別に神父様から魔術を教えてもらっている者以外、魔術を使ってはいけない、なんて決まりがある訳でもないからな。
 親や知り合いから、魔術を教えてもらうことだってあるだろう。
 さて、では、早速今日の夜辺りから親父や妹たちを連れて入浴に行くとしますかね。
 ママンは……女の人なので流石に野外で全裸というのは抵抗があるだろうから、誘うのは止めておこう。
 そう考えると、簡単な衝立ついたてくらいは用意した方がいいかな。
 女性陣から、自分たちだけ入れない、という苦情が来るかもしれないしな。
 でも、それは追々おいおいでいいだろう。
 まずは今日家族を連れて行って感想を聞いてから、後日村人を案内して反応を確認して……
 要望があれば、その時にでも衝立を作ることを考えればいい。全てはそれからだ。



 三話 風呂の反響


「おっふっろ~♪」
「おふっろー♪」
「「ふぅーー!!」」

 俺の後ろで、妹たちがヘンな歌を歌っている……
 昨日、初めて日本式の風呂を堪能たんのうした妹たちは、即日で風呂の魅力にハマり、今ではすっかり風呂のとりこになっていた。
 今日も〝お風呂に行くぞー〟と声を掛けるや、〝散歩に行くぞー〟と言われた犬のような勢いで俺に向かって突っ込んで来たからな。
 気に入ってもらえたのなら嬉しいが、喜びを体当たりで表現するのはいい加減めて欲しいところだ。
 にーちゃん、痛くてそろそろ泣きそうだよ……
 ちなみに、親父からもそれなりの好評を受けてはいるが、レティやアーリー程ではなかった。
 今日も、自分から進んで風呂へ行く、というよりは〝子どもたちの付き添いとして同行している〟といった感が強い。
 と、いう訳で俺たちは今、日の沈んだ道を昨日出来たばかりの風呂場の方へと移動している最中だった。勿論、荷車クララで、そして運転は俺で、だ。
 妹たちは荷車クララが大のお気に入りなようで、事ある毎に〝のせてー! のせてー! のせろー!!〟とせがんでくる。
 本来なら、歩いても十分に近いので――だって、教会の近くだしな――わざわざ荷車クララで行く必要はないのだが、妹たちのそんな〝おねがい〟コールに俺が折れてしまった。
 ウチの妹たちは宇宙一カワイイから、これは仕方がないことなのだ……うん。
 そんな訳で、妹たちは大好きな荷車クララに乗ってご機嫌きげん、お風呂が楽しみで期待感アゲアゲ、興奮状態二倍というステータス異常を起こしている所為で、テンションが少しおかしな方へ飛んでいた。
 そんな歌ってはしゃぐ妹たちを、親父が〝ご近所の迷惑になるからめなさい〟とたしなめている姿が、目のはしにちらりと映った。
 おっ? たまには父親らしいこともするじゃないかパパン。
 昼間ならどんなに騒ごうが気にすることはないが、流石に夜ともなると辺りが静まり返る分、音が響きやすくなる。
 先日も〝あんたっ! いい加減におしよっ!〟〝ご、ごめんよ、かぁちゃ~ん(パリーン!!)〟というどこぞのご家庭の夫婦喧嘩の声が、ウチまで届いてきたくらいだからな。
 あれは正直恥ずかしい。
 そんな賑やかしい荷車クララの荷台には、他に三人の乗客が乗っていた。
 ハインツ一家の、ミーシャちゃん、グライブ君、ガゼインおじさんの三名だ。俺たちが丁度家を出るタイミングでかち合い、ご一緒することになったのだ。

「ロディくん、わたしに手伝えることってある?」

 後ろで妹たちが、そして親父たちが楽しそうに談笑する中、ミーシャが俺の元へとやって来てそう声をかけてきた。
 ホントええ子やねぇ~。

「んじゃ、悪いんだけど、そのランプでもう少しだけ手前を照らしてくれるか? 暗くって、道がよく見えないんだ」
「うん、分かった!」

 ミーシャは一つ頷くと、俺の横に置かれていた魔術陣式石ランプを掲げて、進行方向の地面を照らしてくれた。そして、そのまま俺に引っ付くようにして隣に座る。
 今は夜の七時だか八時だか……まぁその辺りの時間だった。外灯の一つもないこの村じゃ、陽が沈めば辺りはすっかり真っ暗だ。
 多少改良を加えて、光量を増すことに成功した石ランプ・改ではあったが、流石に一つでは心許こころもとないか……
 もう一つ用意するか、荷車クララに本格的な前照灯ヘッドライトを装備する必要があるかもしれないな。これからは風呂に入りに、夜間の外出も増えるだろうし……
 この時間帯は、いつもならそろそろベッドの中に入る時刻なのだが、昨日から寝る前に風呂に入る時間と決められていた。
 この村はとにかく夜が早い。石ランプの普及にともない、若干夜更よふかしできるようになったとはいえ、基本、日が沈んだら〝寝る〟以外にすることがないからな。
 しかし、昨日からは〝寝る〟以外に〝風呂に入る〟という楽しみが出来た。
 娯楽にとぼしいこの村では、〝入浴〟さえも一種の娯楽になる。てか、〝スーパー銭湯〟なんてまんま〝娯楽施設〟に分類されてる訳だから、そもそも入浴も立派な娯楽か……
 なんてことを考えながら、荷車クララを転がすこと数分。
 目的地に辿り着くと、そこには一種異様な光景が広がっていた。

「……人がいっぱいいるね」
「……そうだな」

 その光景を見たミーシャがこぼした呟きに、俺はそう答えるしかなかった。
 そこには、人垣ひとがきが出来ていた。
 しかも、普段なら真っ暗で何も見えなくなるような場所が、日中のように煌々こうこうと輝いていた。
 集まった人たちが、手に手に普通のランプや俺が作った石ランプなどを持っていたのがその原因だ。
 一応、風呂は夜間利用がメインということで、石ランプを風呂の周囲に数点設置しておいたものの、これなら必要ないかもしれないな。
 しかし……
 人気が出てくれればいいなぁ~、と思っていたのは確かだが、これは流石に色々と……おかしいだろ。
 だって、完成したのは昨日で、俺はまだこのことを村人たちには告知していないのだ。
 使い方を書いた立て看板がまだ完成していないので、その完成を待ってから発表するつもりでいたのに……
 何でもう、人がこんなに来てんだよ?
 あの風呂の存在を知っているのなんて、あの場にいた俺を含めた五人を除けば、神父様くらいなものだ。
 神父様には、今日の朝、試作風呂が完成したことを話していたが、そこから村人たちに話したとしても情報の拡散速度が速すぎる。
 いや、たとえ話を聞いたとして、いきなりこれだけの大人数が大挙して押し寄せるだろうか? まずは様子見をするのが普通だ。
 で、評判が良ければ次第に足を運ぶ人たちが増えていく……それが通常の流れだと思うんだが。
 取り敢えず俺は、この人だかりの先にある風呂が、今どういう状況になっているのかを確かめるべく、奥に向かって足を進めた。

〝おいっ! いつまで入ってんだ! 早く出やがれ!〟〝うるせぇ! おらぁ、今入ったばっかだってんだ!〟〝後ろが詰まってんだから、早くしろよな!〟〝てか、なんで三つしかないんだよこれ!?〟

 集団の先頭部分に近づくにつれて、聞こえて来たのはそんな怒号だった。
 人の隙間をって、ようやく風呂を設置した川縁かわべりまで辿り着くと、そこに広がっていたのは……裸祭りの光景だった。
 数十人にも及ぶ男たちが、裸でひしめき合っていたのだ。
 ……あまり見ていて気分のいい風景じゃないな。これが全部美人のねぇーちゃんだったら、ホクホクできたかもしれないが。
 取り敢えず、誰か何かを知っているかもしれないので、近くに立っていた若いにーさん辺りにお話を伺ってみることにした。

「あのー、ちっとばっかしいいですか?」
「ん? おお、ロランドさんとこの坊主じゃないか。どうしたよ? お前も〝風呂〟の話を聞いて……って、そういえばこれを作ったのも坊主なんだってな?」
「あー、その話はまた今度ということで……それよりも、この人だかりは一体なに? そもそも、皆どーやってここのことを知ったんだよ?」
「ん? ああそいつは昨日な……」

 にーさんの話をまとめるとこうだ。
 この一件の犯人は、リュドとタニア、そしてその親父であるらしい。
 ここからは、にーさんの話を元にした俺の憶測おくそくだが……
 昨日、俺たちと別れた後、リュドとタニアは農作業をしていた父親の元に向かったと思われる。そして、何らかの理由で父親と共に風呂のある川辺へと戻り、風呂を使った。
 タニアたちのことだ。父親に作った風呂を自慢したかったのかもしれない。
 その際、たぶん一緒に作業をしていた他の村人数名も一緒に連れて行ったのだろう。
 タニアとリュドが、ドヤ顔で風呂の使い方をレクチャーしている姿が目に浮かぶようだ……
 で、風呂を利用した村人たちが情報を拡散した。
 この時の情報が〝こんな物があったよ〟程度であったなら、〝ふーん、珍しい物が出来たんだ〟と話のタネになるだけで、ここまでの盛況ぶりを見せることもなかったのだろうが……
 どうやら、この時風呂を使った人たちは、かなり自慢げに吹聴ふいちょうして回ったらしい。
〝あれは、良いものだ〟とか〝一度は使ってみるべきだ〟とかね……
〝そうまで言うなら、自分も一度は……〟ということで、話を聞いた人たちが集まり、この状態を作っている、ということらしい。
 ちなみに、サイクルが悪過ぎて夕方くらいからずっとこの状態なんだとか……まぁ、浴槽三つしかないしね……

「ロディくん」

 くいくいっ、と後ろから服の裾が引っ張られ、ついでに聞き覚えのある声が俺を呼ぶので振り返ると、そこには案の定ミーシャが立っていた。

「どうした?」
「んっと……おとーさんたちが〝帰るから、戻ってこい〟って……」

 だろうな……この状態じゃ、今から並んだとして入れるのはいつになることか。
 仕方ない、今日は風呂を諦めるしかないみたいだな。俺は渋々しぶしぶ親父たちの所へと戻ったのだが……

「「……おふろ入れないの?」」

 と、寂しげな表情でいうレティとアーリーを見て気が変わった。

「よしっ! 今からにーちゃんが製作者権限でもって、今入ってるおっさんども叩き出して一つ確保してくるっ! だから、ちょっと待っているがいい! 妹たちよ!」
「おふろ入れる?」
「入れるともっ!」
「「わーいっ! おっふっろ! おっふっろ!」」

 ではさっさとおっさん共を叩き出すために、また風呂の設置してある場所まで戻ろうとした時、突然ガバッとミーシャに背後から抱きつかれた。


「ちょ! ダ、ダメだよ! ロディくん! そういうズルは良くないよ! 順番は守らないとダメなんだよ!?」

 どうやら、俺のことを止めようとしているらしい。
 何故だ? 何故止めようとする? 妹たちが悲しい顔をしているんだぞ?
 あの太陽のような笑顔がくもるなど、あってはならないことなのだ!
 もし、あの子たちの笑顔をかげらせるものがあるのならば、俺が全力をもってそれを排除するのみだぁ!

「ええいっ! 放せっ、ミーシャよ! 妹たちの笑顔を守るためには仕方がないことなんだ!」
「ダ、ダメだよぉ! そういうのは良くないよぉ!?」

 こんな体ではあるが、力ずくでやろうと思えば、力のないミーシャくらい簡単に振りほどくことができる。だが、そんなことをしてミーシャに怪我なんてさせたくない。
 必死にしがみついて俺を止めようとするミーシャに、結局俺は何もできないまま、〝放せ!〟〝ダメだよ!〟という押し問答だけがしばらく続いた。そしてふと、あることを思い出した。
 加熱魔術陣の実験に使ったあの生簀のことだ。
 大人は浅すぎて無理にせよ、子どもである俺たちなら十分……とはいえないが、使えないこともない。
 俺はミーシャに考えたことを話すと、四人……俺とレティ、アーリー、それとミーシャで生簀に向かった。
 一応、グライブと親父たちにも話は振ったが、三人揃って〝止めておく〟という答えが返ってきた。
 んで、〝先に帰る〟と言って俺たちを置いたまま帰ってしまった。
 こんな時間に子どもだけにするのかよ? とも思ったが、大きな町ならいざ知らず、な~んにもないこんな村では、今が夜で暗いことを除けば危ないことも特にないか?
 俺はさっさと生簀の準備を終えると、四人で仲良く風呂を堪能したのだった。
 多少浅くはあったが、反面何倍も広い〝風呂〟に、妹たちも終始ご機嫌で、これはこれで彼女たちに受け入れられたらしい。
 ちなみに……
 こっちの生簀の方の加熱魔術陣だが、普段は俺以外の人間が使えないようにレンガの一部を組み替えていた。
 たったそれだけのことで、この魔道具は動かなくなってしまうのだ。
 これは、こっちは試作風呂の方の魔道具と違って一切の安全装置がないため、危険だからに他ならない。
 俺がいない間に、勝手に使ってチンされたのでは寝覚めが悪すぎるからな……


 帰り道、妹たちも大満足の中、揺れる荷車クララの上でミーシャが、

「ロディくんって、レティちゃんとアーリーちゃんのことになると、時々おかしくなるよね……」

 と呟いていたが……
 別におかしいところなんてどこにもないよな? これって普通だよな?
 ミーシャの言葉に少し引っかかるものを感じながら、俺は家に向かって荷車クララをコロコロと転がしたのだった。


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