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「……ハイヤード邪魔だよ。もう帰ってよ」
しっしっと手を振るエンリ。
「エンリ、私も聞きたい。どうして師匠になったの?」
「うー……」
へにょりとワンコ耳が垂れた気がした。
『当主となった自覚を持ちなさい! その無駄にあるだけの魔力のせいでシアン様は、身を引かれたのよ!』
『自覚なんてないよ! だったら魔具でもっと魔力を抜いてよ! 僕だってこんな魔力いらないんだ!』
「言い合いになって、…………その次の日」
エンリの目からいきなり生気が消えた。
ドンと、机に山積みにされた分厚い魔道書。
『その魔具の流動量の改造を行います。これからは、わたくしのことは師匠と呼びなさい』
『あなたの腕にある魔具は、あなたの自身の魔力でしか改造できないのです。できないのは知ってます! わたくしにできるのなら、とっととやってます!!』
『わたくしの学んだ全てをあなたに授けます、ひと月内で、死ぬ気で覚えなさい!』
『無理じゃない! そのまっさらな脳に刻めと言ってるのです!』
『眠い? これをお飲みなさい。“ミナギール420” 中央都の貴族専用の魔法薬店にある栄養ドリンクですわ! ふふふ、とある社畜をモニターにした結果、一日三本摂取し続け、ひと月、全く眠ることなく過ごせたそうですわ、さぁ、……うるさい、飲めっつってんの!』
「なんか無理やり飲まされて、でもさ、凄いんだよ、眠くならないんだよ。身体はずっと怠いんだけど、頭だけは冴えてるんだ、社畜ドリンク凄かったー……」
『あなたの為にわたくしの人生、棒にしたくありませんの、自由が欲しければ、死ぬ直前まで追い込み覚えろ。はい、次この術式の意味を答えなさい』
「って、閉じ込められて、無理やり……」
ガクガクブルブルと震えるエンリ。
「嘘はやめて下さい。セルリーナ様はそのような物言いをされる方では「するよ!」っ!」
「本当っ! あの人でっかい猫かぶってるし!」
「三週間、そんなことになってたの?」
「そうだよ! 怖かった、トイレ以外立つなって、まじ鬼畜! 貴族の淑女ってみんな、あんななの!? 表の顔と裏の顔の差! 王都、怖っ! めっさ怖っ!!」
「エンリ様がお一人で、魔具の術式を書き換えたのではないのですか!?」
「僕がそんなのできる訳ないじゃん! 魔術なんて習ったことないし! 師匠が教えてくれたんだよ!」
「そんな、待ってください……、では、あの術式をセルリーナ様が? シアン様の命を……」
「あ、あれは……、叔父さんの心臓潰しかけたの、まだ、魔具が安定してないのに使ったから、あの後、めっさ師匠に怒られた、怖かった、正座で五時間、怖かった……」
思い出し、カチカチ震えるエンリに、真顔になるハイヤードさん。そこ、もっと詳しく、と促され、続けた。
「あの日……」
閉じ込められて三週間、何も知らないからこそ、スポンジが水を含むようにギュンギュン術式の知識が付き、出来ること、答えられることが増え、自信も付いてきたころ。
『師匠ー! できた! 見て見て!』
『うるさいですわ』
『見てって! これ完璧じゃない?』
バンッと枕を投げつけられ、
『わたくし、月のものなの。体調も機嫌も悪いの、出ていきなさい、しっしっ』
「ってさ、追い出されて、それでやる気もガクーンって下がって……」
「それで、“うまくいかないものだな”と、言ったんですか?」
「んー? そんなこと言ったかもー?」
「…………」
私はそのあたりの件を知らないけど、頭を抱えるハイヤードさんがいた。
「完成していない魔具を使い、シアン様は死にかけたと?」
「だってあの時はっ! ……あ、うん、ごめん、なさい。あの後、師匠にも、『誰が使っていいなんて言ったぁ! この愚弟がぁっ!!』って、怒鳴られて、扇で殴られて、師匠、慌ててもう一つ魔具を作ってさ、これ」
エンリの左手首には同じ細工の腕輪が二つ。
「そそそ、それ、を、作ったのは、セルリーナ様、だと?」
ブルブルと震える指で差すハイヤードさん。
「うん、叔父さんに渡す魔力を自分にも渡せって、魔具を作ってる間、ずっと横で正座させられてたんだよ。あの時の師匠の顔、まじ怖かった……」
頭を抱え、先程よりもっと床に深く沈むハイヤードさん。
「エンリ、その腕輪は何なの?」
「これは……、僕の魔力を、同じ腕輪を持つ人へ渡す魔具なんだ。僕の叔父さんって人と、師匠に」
「魔力を……渡して平気なの?」
魔力が多い術師は数百年と長く生きると。魔力を渡すということは命を削るということ。エンリの寿命は今もどんどん減って……。
「これで僕は、ロナと一緒に歳を取って、おじいちゃんになって一緒に縁側でお茶を飲めるよ!」
私のため……、でもエンリの笑顔に嘘は見えない。数百年とある時間よりも、私と一緒にいられる時間を選んでくれた。
「ロウノックの家に連れていかれて、色々言われたけど、魔力を取り出すって言われて、僕、嬉しかったんだ……、魔力がなくなれば、ロナとずっと一緒にいられるって思ったから……だから、別れて、でも離れたくなくてロナを愛人にした。魔力がなくなったらまたロナと一緒に暮らせるって、思ってたから。離れるのは少しの間だけだって、そう思ってたんだ……」
コテンと私の首筋に顔を埋めたエンリ。
屋敷に一人ぼっちだったころを思い出して正直な言葉がこぼれた。
「寂しかった……」
やっと、言えた。
視界が滲む。私もエンリの温もりに頬寄せた。
「うん、僕もずっと、寂しかったよ……、起きてるロナに会いたかった」
「え? 会いにきてくれてたの?」
「もちろんだよっ、ロナに、嫌われて、顔見たくないって、言われて……でも、こっそり寝顔だけ……」
なんだぁ……。
脱力した。私だってずっと会いたかったのに、でも私のせいだから。
「ごめんね、酷いこと言った……」
「ロナぁ「エンリ様」ハイヤード、ほんと邪魔」
甘くなりかけた空気を壊され、眉を寄せるエンリに、ハイヤードさんは丁寧に腰を折った。
「エンリ様、私はこれで失礼致します。急ぎ戻り、確認すべきことができましたので」
「うん、師匠によろしく、バイバイ」
「…………はい」
そして私へと向き直り、
「ロナさん、エンリ様を、よろしくお願い致します」
「はぁ……」
「あの屋敷で私が、“エンリ様に会いたいですか”と、お聞きした時のことを覚えていますか?」
覚えてる、あの時、貴族姿のエンリには会いたくなくて、“わからない”と、そう言ったっけ。
「あの日、エンリ様は隣の部屋にいたのです、「えぇっ!?」聞き耳立てて。あなたに言葉に、落胆したエンリ様の八つ当たりで、叔父であるシアン様はまた三日間生死を彷徨いました」
「ええぇっ!?」
あの時、会いたいって言えば会えたの!? ってそれよりも、
「エンリ何したの!? 暴力はダメよっ!」
「えぇー、僕殴ったりなんてしないよぉー」
「ほんと? なんか、ハイヤードさん物凄い顔して見てるよ?」
「ねぇ、ハイヤード、僕、殴ってないよ、ね?」
「エエ、ソウデスネ」
ハイヤードさんの目が虚ろなところが気になるけど、「どうか、どうか、エンリ様を、よろしくお願い致します」と深々と頭を下げて帰って行った。
やっと二人きりになれた。なのにエンリはガバっと土下座した。
「エ、エンリ?」
「ロナ、ごめん! 僕、色々黙ってた。魔力量のことも、そして」
エンリの髪色が、瞳の色も変わった。
灰色一色だった髪の毛先が、絵筆が色を吸ったように濃紺色に染まり、落ち着いた深緑色の瞳は光の加減で銀杏色が見えるようになった。魔力量の多い者に表れる二つの色。エンリがずっと隠していた色。
「僕たちの子供はきっと、この色を持って生まれてくるから……」
黙っててごめんと、二色のことを考えると、子供のことは迷ってたと。
「他には?」
怯えたように揺れた二色の瞳を覗く。
「他には? もう隠して「ない!!」」
言葉を被せ、抱きしめられた。
「ロナロナロナぁ、会いたかった! 結婚して! すぐに! お願いだよぉ、僕の奥さんになってぇー」
「うん」
ワンコのようなエンリの背中をポンポンとし、もちろんだと頷く。
「もっかい結婚式しよ、でも、もう菜の花色のドレスは着ないでぇー……、髪も下ろしてぇー……お願いだよぉ……」
泣き声になるエンリに記憶が繋がってしまった。私たちの結婚式は、菜の花色の鮮やか黄色いドレスに結い上げ髪に飾った花も菜の花だった。
そして、あの屋敷を訪れた、エンリを迎えるために着た、レモン色のドレスと結い上げた髪。
『綺麗だ……』と言ってくれたエンリは、きっと……。
「うん! 次はエンリが選んでね!」
一年間離ればなれになったけれど、その期間があったから、エンリと私は、これから先ずっと一緒にいられる。
縁側でお茶を飲む、そんな時間を一緒に過ごすことを楽しみにして。
***
「セルリーナ様、お聞きしたいことが、あります」
「なぁに? ハイヤード」
一児の母となっても、少女のような可憐さを持つセルリーナ様。
「エンリ様の師匠とは、ほ……」
本当のことでしょうか? と続ける言葉は出なかった。
あの綿毛のようなふわりとした微笑みのまま、発せられた魔力圧に、身体が動かなくなった。
「チッ……」
私の耳は壊れたらしい。セルリーナ様が舌打ちなどするはずないのだから。
「ロウノック家の忠実な臣下、ハイヤード」
「……はい」
信じられないほどの圧迫感に冷や汗が止まらなかった。
「ねぇ、シアン様には内緒よ?」
「……はい」
世の中には知らなくて良いことが、存在する。
しっしっと手を振るエンリ。
「エンリ、私も聞きたい。どうして師匠になったの?」
「うー……」
へにょりとワンコ耳が垂れた気がした。
『当主となった自覚を持ちなさい! その無駄にあるだけの魔力のせいでシアン様は、身を引かれたのよ!』
『自覚なんてないよ! だったら魔具でもっと魔力を抜いてよ! 僕だってこんな魔力いらないんだ!』
「言い合いになって、…………その次の日」
エンリの目からいきなり生気が消えた。
ドンと、机に山積みにされた分厚い魔道書。
『その魔具の流動量の改造を行います。これからは、わたくしのことは師匠と呼びなさい』
『あなたの腕にある魔具は、あなたの自身の魔力でしか改造できないのです。できないのは知ってます! わたくしにできるのなら、とっととやってます!!』
『わたくしの学んだ全てをあなたに授けます、ひと月内で、死ぬ気で覚えなさい!』
『無理じゃない! そのまっさらな脳に刻めと言ってるのです!』
『眠い? これをお飲みなさい。“ミナギール420” 中央都の貴族専用の魔法薬店にある栄養ドリンクですわ! ふふふ、とある社畜をモニターにした結果、一日三本摂取し続け、ひと月、全く眠ることなく過ごせたそうですわ、さぁ、……うるさい、飲めっつってんの!』
「なんか無理やり飲まされて、でもさ、凄いんだよ、眠くならないんだよ。身体はずっと怠いんだけど、頭だけは冴えてるんだ、社畜ドリンク凄かったー……」
『あなたの為にわたくしの人生、棒にしたくありませんの、自由が欲しければ、死ぬ直前まで追い込み覚えろ。はい、次この術式の意味を答えなさい』
「って、閉じ込められて、無理やり……」
ガクガクブルブルと震えるエンリ。
「嘘はやめて下さい。セルリーナ様はそのような物言いをされる方では「するよ!」っ!」
「本当っ! あの人でっかい猫かぶってるし!」
「三週間、そんなことになってたの?」
「そうだよ! 怖かった、トイレ以外立つなって、まじ鬼畜! 貴族の淑女ってみんな、あんななの!? 表の顔と裏の顔の差! 王都、怖っ! めっさ怖っ!!」
「エンリ様がお一人で、魔具の術式を書き換えたのではないのですか!?」
「僕がそんなのできる訳ないじゃん! 魔術なんて習ったことないし! 師匠が教えてくれたんだよ!」
「そんな、待ってください……、では、あの術式をセルリーナ様が? シアン様の命を……」
「あ、あれは……、叔父さんの心臓潰しかけたの、まだ、魔具が安定してないのに使ったから、あの後、めっさ師匠に怒られた、怖かった、正座で五時間、怖かった……」
思い出し、カチカチ震えるエンリに、真顔になるハイヤードさん。そこ、もっと詳しく、と促され、続けた。
「あの日……」
閉じ込められて三週間、何も知らないからこそ、スポンジが水を含むようにギュンギュン術式の知識が付き、出来ること、答えられることが増え、自信も付いてきたころ。
『師匠ー! できた! 見て見て!』
『うるさいですわ』
『見てって! これ完璧じゃない?』
バンッと枕を投げつけられ、
『わたくし、月のものなの。体調も機嫌も悪いの、出ていきなさい、しっしっ』
「ってさ、追い出されて、それでやる気もガクーンって下がって……」
「それで、“うまくいかないものだな”と、言ったんですか?」
「んー? そんなこと言ったかもー?」
「…………」
私はそのあたりの件を知らないけど、頭を抱えるハイヤードさんがいた。
「完成していない魔具を使い、シアン様は死にかけたと?」
「だってあの時はっ! ……あ、うん、ごめん、なさい。あの後、師匠にも、『誰が使っていいなんて言ったぁ! この愚弟がぁっ!!』って、怒鳴られて、扇で殴られて、師匠、慌ててもう一つ魔具を作ってさ、これ」
エンリの左手首には同じ細工の腕輪が二つ。
「そそそ、それ、を、作ったのは、セルリーナ様、だと?」
ブルブルと震える指で差すハイヤードさん。
「うん、叔父さんに渡す魔力を自分にも渡せって、魔具を作ってる間、ずっと横で正座させられてたんだよ。あの時の師匠の顔、まじ怖かった……」
頭を抱え、先程よりもっと床に深く沈むハイヤードさん。
「エンリ、その腕輪は何なの?」
「これは……、僕の魔力を、同じ腕輪を持つ人へ渡す魔具なんだ。僕の叔父さんって人と、師匠に」
「魔力を……渡して平気なの?」
魔力が多い術師は数百年と長く生きると。魔力を渡すということは命を削るということ。エンリの寿命は今もどんどん減って……。
「これで僕は、ロナと一緒に歳を取って、おじいちゃんになって一緒に縁側でお茶を飲めるよ!」
私のため……、でもエンリの笑顔に嘘は見えない。数百年とある時間よりも、私と一緒にいられる時間を選んでくれた。
「ロウノックの家に連れていかれて、色々言われたけど、魔力を取り出すって言われて、僕、嬉しかったんだ……、魔力がなくなれば、ロナとずっと一緒にいられるって思ったから……だから、別れて、でも離れたくなくてロナを愛人にした。魔力がなくなったらまたロナと一緒に暮らせるって、思ってたから。離れるのは少しの間だけだって、そう思ってたんだ……」
コテンと私の首筋に顔を埋めたエンリ。
屋敷に一人ぼっちだったころを思い出して正直な言葉がこぼれた。
「寂しかった……」
やっと、言えた。
視界が滲む。私もエンリの温もりに頬寄せた。
「うん、僕もずっと、寂しかったよ……、起きてるロナに会いたかった」
「え? 会いにきてくれてたの?」
「もちろんだよっ、ロナに、嫌われて、顔見たくないって、言われて……でも、こっそり寝顔だけ……」
なんだぁ……。
脱力した。私だってずっと会いたかったのに、でも私のせいだから。
「ごめんね、酷いこと言った……」
「ロナぁ「エンリ様」ハイヤード、ほんと邪魔」
甘くなりかけた空気を壊され、眉を寄せるエンリに、ハイヤードさんは丁寧に腰を折った。
「エンリ様、私はこれで失礼致します。急ぎ戻り、確認すべきことができましたので」
「うん、師匠によろしく、バイバイ」
「…………はい」
そして私へと向き直り、
「ロナさん、エンリ様を、よろしくお願い致します」
「はぁ……」
「あの屋敷で私が、“エンリ様に会いたいですか”と、お聞きした時のことを覚えていますか?」
覚えてる、あの時、貴族姿のエンリには会いたくなくて、“わからない”と、そう言ったっけ。
「あの日、エンリ様は隣の部屋にいたのです、「えぇっ!?」聞き耳立てて。あなたに言葉に、落胆したエンリ様の八つ当たりで、叔父であるシアン様はまた三日間生死を彷徨いました」
「ええぇっ!?」
あの時、会いたいって言えば会えたの!? ってそれよりも、
「エンリ何したの!? 暴力はダメよっ!」
「えぇー、僕殴ったりなんてしないよぉー」
「ほんと? なんか、ハイヤードさん物凄い顔して見てるよ?」
「ねぇ、ハイヤード、僕、殴ってないよ、ね?」
「エエ、ソウデスネ」
ハイヤードさんの目が虚ろなところが気になるけど、「どうか、どうか、エンリ様を、よろしくお願い致します」と深々と頭を下げて帰って行った。
やっと二人きりになれた。なのにエンリはガバっと土下座した。
「エ、エンリ?」
「ロナ、ごめん! 僕、色々黙ってた。魔力量のことも、そして」
エンリの髪色が、瞳の色も変わった。
灰色一色だった髪の毛先が、絵筆が色を吸ったように濃紺色に染まり、落ち着いた深緑色の瞳は光の加減で銀杏色が見えるようになった。魔力量の多い者に表れる二つの色。エンリがずっと隠していた色。
「僕たちの子供はきっと、この色を持って生まれてくるから……」
黙っててごめんと、二色のことを考えると、子供のことは迷ってたと。
「他には?」
怯えたように揺れた二色の瞳を覗く。
「他には? もう隠して「ない!!」」
言葉を被せ、抱きしめられた。
「ロナロナロナぁ、会いたかった! 結婚して! すぐに! お願いだよぉ、僕の奥さんになってぇー」
「うん」
ワンコのようなエンリの背中をポンポンとし、もちろんだと頷く。
「もっかい結婚式しよ、でも、もう菜の花色のドレスは着ないでぇー……、髪も下ろしてぇー……お願いだよぉ……」
泣き声になるエンリに記憶が繋がってしまった。私たちの結婚式は、菜の花色の鮮やか黄色いドレスに結い上げ髪に飾った花も菜の花だった。
そして、あの屋敷を訪れた、エンリを迎えるために着た、レモン色のドレスと結い上げた髪。
『綺麗だ……』と言ってくれたエンリは、きっと……。
「うん! 次はエンリが選んでね!」
一年間離ればなれになったけれど、その期間があったから、エンリと私は、これから先ずっと一緒にいられる。
縁側でお茶を飲む、そんな時間を一緒に過ごすことを楽しみにして。
***
「セルリーナ様、お聞きしたいことが、あります」
「なぁに? ハイヤード」
一児の母となっても、少女のような可憐さを持つセルリーナ様。
「エンリ様の師匠とは、ほ……」
本当のことでしょうか? と続ける言葉は出なかった。
あの綿毛のようなふわりとした微笑みのまま、発せられた魔力圧に、身体が動かなくなった。
「チッ……」
私の耳は壊れたらしい。セルリーナ様が舌打ちなどするはずないのだから。
「ロウノック家の忠実な臣下、ハイヤード」
「……はい」
信じられないほどの圧迫感に冷や汗が止まらなかった。
「ねぇ、シアン様には内緒よ?」
「……はい」
世の中には知らなくて良いことが、存在する。
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