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第一章 始まりは異世界転生。
7.塔での生活 ※ アディの話
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馬車で三時間の距離にある聖堂で父様達とお別れすることになった。ここからは転移魔法で移動するらしい。
馬車だとまだ数日の距離があるのと、どの塔に送られたかを伏せるためもあるそうだ。
「私はショーン・フレッド申します。こちらは伴侶のアレクシスです。王直属の魔導師をしておりました。これから私達が塔でご子息の教育係を務めます」
「義兄からお噂は伺っております。どうぞ息子をよろしくお願いします」
「こちらこそ、ウォーレン副長にはお世話になっております。ご子息のことはお任せください」
「今日から私達が君の先生だ、よろしくな」
両親がふたりと握手を交わし、俺も握手をしてよろしくお願いしますと頭をさげた。
ウォーレンは母様の実家の姓で、ロイス伯父様は魔法局の副長だった。そういえばしばらく会っていなかったな。
まあ役職的に今回のことはロイス伯父様も知っているとは思うけど、手紙を書いていいか後で聞いてみよう。
大きな旅行鞄をふたつと小さな手提げ袋をひとつで塔に転移することになる。これからどうなるんだろうか。
胸がドキドキして、すごく緊張しているのが分かる。
「済まないが、その手荷物の中を改めさせて貰うよ」
グレイからもらった香水とアンクレットや思い出深い物を入れている手提げを指差された。
見られて困るものはないけれど、これをもって行ってはいけないと言われたら寂しいものがある。
ショーン先生に仕方なく手提げ袋を渡すと、アンクレットを取り出された。
「これだ、申し訳ないがこれには追跡の魔法が掛けられているようだ」
「え、追跡ってなんですか?それ持って行っちゃダメなんですか?」
よりによってグレイからの最後の贈り物だ。それにしても追跡って一体どういうことなんだ。
「君の所在を知っていたい相手からの贈り物だね。君にとっても大切な物のようだから魔法を解除することにしよう。魔法を解除すると壊れる場合があるが、それはかまわないかい?」
「はい、壊れてもかまいません。あの、所在ってことはこれをつけていると相手に俺の居場所が分かるんですか?」
「そうだよ。伴侶や子供の居場所が分かるように装飾品や小物に掛けるんだ。君のように若くて魅力的な容姿だと危険な目にかなり遭い易いから、心配して贈って来たんだろう」
「そんな魔法が掛かっているなんて知りませんでした。解除をお願いしていいでしょうか?」
いわゆるGPS機能か。塔に送られることを知らないのに、そんな物を寄こして来たのか。魔法をかけてあるだなんて聞いてないぞ。
俺の居場所を知っていたいって過保護というか独占欲が強いというか。これは俺の方にも好意がなければストーカー案件ではないでしょうか。
見た目ほど紳士でなくてもそれでもグレイが好きとエディに言ったけど、本当にそうみたいだ。ちょっと複雑だけど、ここまで愛されているんだなあと嬉しくもある。
塔に入らずそのまま生活をしていたら、ロイス伯父様に会った時に即バレしたんだろうけど。
横目で見ると父様達は苦笑いをしている。まあ、息子の婚約者の溺愛というか執着心を知ったらそうだろうな。
「それでは・・・」
金属か何かがぶつかるような高い音と同時に一瞬だけどアンクレットが強く光った。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。壊れてもいないです、本当にありがとうございます」
「それはよかった」
今の解除は無詠唱だった。もしかしてすごい人達なんじゃないだろうか。あ、そういえば王直属って言っていたから、光属性の魔導師かもしれない。
「それでは、行こうか」
「はい、よろしくお願いします」
ショーン先生とアレクシス先生に深々と頭を下げて、父様達に手を振った。足元に魔法陣が浮かび上がり、それが天井へと向かって光り輝いたかと思えば俺達はさっきと違う場所に立っていた。
「ようこそ、光の塔へ」
アレクシス先生が声を掛けるまで、俺は口をぽかんと開けていた。
「さあ、こっちが君の部屋だよ」
「は、はい!」
俺は頷きながら先生達の後に続いた。グレイがやらかしたおかげでさっきまでの不安も消えていた。今日からどんな生活になるのかと楽しくなってきた。
隠居という名のニート生活まで俺は頑張るぞ。
さっそく当日から魔法の授業が始まり俺の力量を試された。母様から魔法を学んでいたため、光属性以外の魔法は上級を学ぶことになった。
二、三日は無理でもせめて今日くらいはゆっくりさせてくれるかと思った自分が甘かった。夢のニート生活と程遠い気がする。塔から出られるまでこのペースなんだろうか。
さすがに初日からそんなことを確認するのは勇気がいるのでできない。うん、社畜生活に比べたら楽勝だよな。学生時代に戻ったようでこれはこれで楽しいかもしれない。
塔での一日は食事や睡眠の時間までもが決まっていて、自分でできることは自分でする学生の寮生活のようだった。
身の回りのことは貴族のお坊っちゃんが普通にできることではないので感心された。
代々騎士団員として従事する我が家では、誰もが戦場に行き集団生活を送ることが前提の教育と躾を受けている。
その上、前世では独り暮らしの社会人をしていた自分にとってはやれて当然なことだ。
夕食後は自由時間で、ショーン先生から許可を貰いロイス伯父様に手紙を書くことにした。
関係者のロイス伯父様と家族だけは手紙で連絡を取ってもいいそうだ。残念なことに隣国に嫁いだウェスリー兄様には国家の機密保持のために送れない。
もちろん家族以外のグレイやタイラー公爵家の方々に手紙を書くのも禁止だ。まあ、何と書いていいのか分からないのでそれはすぐに諦めれた。
手紙の内容を検める場合もあるので、家族以外の相手に伝言等を書かないようにと言われた。もしもそういった内容があったら連絡を取ることを禁止されるそうだ。
大丈夫です、書きませんよ。塔の生活で数少ない楽しみと下界との繋がりをなくすようなことは絶対にしません。
ショーン先生とアレクシス先生は容赦しないだろう。だってお仕事だもの。彼等は教育係という名の監視役なんだよな。
ロイス伯父様には、来月に遊びに行けないことと借りていた本を直接返せなくてごめんなさいと書いた。
そのロイス伯父様は母様にそっくりな俺達のことを溺愛している。 実の子より甘やかすので従兄弟のジェスロからも呆れられていた。 ジェスロとまた渓流釣りに行きたかったな。
いかん、いろいろと思い出しているとホームシックになってきた。さっさと手紙を書き終えて寝よう。
うん、寝る前に風呂に浸かってゆっくりしたい。魔法でバスタブに湯を張るのは家でもやっていたので楽勝だ。
魔法って便利だよね、電化製品がなくても楽ちんだ。ネット環境がないのだけは寂しいけどね。
髪をほどいて服を脱ぐと白い肌に花びらのようなキスマークを見つけた。
昨日、風呂も入らず直ぐに寝たので気が付かなかった。これ、誰かに見られたら大変だった。
これは絶対に確信犯だろ。グレイの独占欲に呆れるけどそこも可愛いと思ってしまう。何もかもひっくるめて大好きだ。
湯船に香水を垂らすと香りが周囲に充満した。肌に付けられた所有の証を指でなぞり、グレイの汗ばんだ肌の感触と熱さを思い出しながら鈍い痛みが残るそこを指で慰めた。
寂しい。彼がここに居ないことがこんなにも寂しいなんて。
いつの間にか涙が頬を濡らしていた。それに気が付かないふりをして自慰に浸った。
鼻の奥がツンとして喉が痛い。俺は泣きじゃくりながらグレイの名前を何度も呼んで果てた。
うん、明日からの本格的な授業が始まって良かった。忙しくすれば気持ちも少しは紛れるだろう。
今夜から足首にアンクレットをはめて眠ることにした。これからの生活に耐えれるようにと御守りの代わりにずっとつけていよう。
あれからグレイは追跡魔法で俺が移動しているのが分かったので屋敷から何度も抜け出そうとしたが、聖堂で魔法が途絶えた時に観念して大人しく部屋に戻ったそうだ。
婚約破棄を承諾しないのでしばらく謹慎させられることになり、執事が食事を持っていく以外に誰とも接触を許されずにいた。
三日目の朝、グレイは重大な告白があると宰相閣下にお話をしたいと懇願した。
そう、グレイは別れを知らずに俺を抱いたことを宰相閣下に告白したのだ。指輪を渡したのは愛しているのはもちろんだが、ちゃんと責任を取り将来の約束をはっきりさせるためだったと。
それでなくとも成人したばかりの妊娠は危険なうえに塔の生活では無事に出産できるかも分からないと心配し、何も喉を通らずやつれ果てていたそうだ。
指輪を投げたのは別れることが決まっていたので、諦めさせるためにわざと嫌われるためにやったことだから許してやってほしいと。
はい、大正解です。まあ、公爵家のみなさんはご存知でしたが。
ということは、グレイには猿芝居もすっかりばれているよね。
ふふ、恥ずかしくて辛い。信じてくれていたのは嬉しいけどな。
もちろん、俺の父様に散々殴られたそうだ。塔で涙の別れを終えたばかりに言われたら瞬間的に手は出るわ。騎士団長のあの太い腕で殴られるのはきついよなー。まあそれは仕方ないよね。
結婚前の幼い我が子の純潔を散らされ、命の危険にさらされたら冷静でいられるわけがない。愛息子は最愛の伴侶にそっくりだから憎さも増すよ、うん。
父様の気持ちを考えたら穏健派な母様がすぐには止めに入らなかったのも理解できる。
ふたりだけの秘め事を話して相手に恥をかかせるとはあるまじき行為で、妊娠しているかもしれないからエディと交代させるための懺悔かと父様は怒髪天だったらしい。
グレイは肋骨にひびが入っても抵抗もせず殴られ続けて、俺が自ら志願したことを無碍にもできないし、ジョイスも悲しむことになるからそんなことは望んでないと言ったそうだ。
それならば、公爵家の跡取りとして新しい婚約者を迎えて早く結婚をして欲しいという俺の要望を叶えるようにと諭して帰らせたそうだ。容赦ないな父様、ぐうの音も出ませんよ。
それとどうなるか心配していたけど、エディがジョイスを誘って遊びに行くそうでよかった。俺の言葉を気にしてくれたんだな。上手くいくように塔から祈るよ。俺の電池としての力がエディに届きますように。
なぜそれらを知っているかというとキース兄様からの現場リポートな手紙と母様の手紙を読んでいるからだ。
グレイとセックスしたのが家族に知られたのは本当に恥ずかしい。最後の思い出作りに俺が身体を許しましたってバレバレだもんな。
病気で静養地に行っている俺をダニエル様は心底心配しているそうだ。いくら婚約者とはいえ塔のお役目のことは絶対話すわけにはいかないので困っているそうだ。
やっぱり喧嘩ばかりだけれどキース兄様はダニエル様が大好きなんだよなあ。事細かく事情を聴きたがっているのをごまかすのが大変だとか、ダニエル様主体で書き綴っている内容から伝わってくる。
あれだ、ツンデレだ。この世界はツンデレか激甘しかいないのか。『今回のことでつくづく判った。婚約者が側に居てくれることに感謝して意地を張るのをやめる』と最後を締めくくっていた。
それってお前の尊い犠牲を忘れないってことか?もしやこれって単なる惚気の手紙じゃないのか。新春一番の今年の抱負じゃあるまいし、そんな意気込みなんぞ書かんでも。
もしかして、キース兄様は脳筋なのか?ちょっと酷くない?失恋して傷心の弟に送る内容じゃないだろう。
もう、お前が産め。ダニエル様にアンアン言わされてたっぷりと種付けされてしまえ。
母様の手紙にはグレイとのことを親に言えなかったのは仕方がない、子供が生まれたら母様の子として育てるから安心するようにとあった。
心配させないためか父様がグレイを殴ったことが一切触れられていない。父様ごめんよ。
先生達にも妊娠しているかもしれないと知らせたそうだ。この件については内密にしてもらえるので大丈夫だと。無理せずにちゃんと頼るようにと、母としての愛情が痛い程に伝わってきた。
まだ妊娠しているかどうかは判らないけど、俺はどうしようもなく無謀なことをしたと後悔で涙が止まらなかった。
うん、決めた。もうあまり悲観的なことばかり考えずできることをやろう。その代わり今だけは思いっきり泣こう。明日もまた素敵なニート生活を目指して頑張るんだ。
馬車だとまだ数日の距離があるのと、どの塔に送られたかを伏せるためもあるそうだ。
「私はショーン・フレッド申します。こちらは伴侶のアレクシスです。王直属の魔導師をしておりました。これから私達が塔でご子息の教育係を務めます」
「義兄からお噂は伺っております。どうぞ息子をよろしくお願いします」
「こちらこそ、ウォーレン副長にはお世話になっております。ご子息のことはお任せください」
「今日から私達が君の先生だ、よろしくな」
両親がふたりと握手を交わし、俺も握手をしてよろしくお願いしますと頭をさげた。
ウォーレンは母様の実家の姓で、ロイス伯父様は魔法局の副長だった。そういえばしばらく会っていなかったな。
まあ役職的に今回のことはロイス伯父様も知っているとは思うけど、手紙を書いていいか後で聞いてみよう。
大きな旅行鞄をふたつと小さな手提げ袋をひとつで塔に転移することになる。これからどうなるんだろうか。
胸がドキドキして、すごく緊張しているのが分かる。
「済まないが、その手荷物の中を改めさせて貰うよ」
グレイからもらった香水とアンクレットや思い出深い物を入れている手提げを指差された。
見られて困るものはないけれど、これをもって行ってはいけないと言われたら寂しいものがある。
ショーン先生に仕方なく手提げ袋を渡すと、アンクレットを取り出された。
「これだ、申し訳ないがこれには追跡の魔法が掛けられているようだ」
「え、追跡ってなんですか?それ持って行っちゃダメなんですか?」
よりによってグレイからの最後の贈り物だ。それにしても追跡って一体どういうことなんだ。
「君の所在を知っていたい相手からの贈り物だね。君にとっても大切な物のようだから魔法を解除することにしよう。魔法を解除すると壊れる場合があるが、それはかまわないかい?」
「はい、壊れてもかまいません。あの、所在ってことはこれをつけていると相手に俺の居場所が分かるんですか?」
「そうだよ。伴侶や子供の居場所が分かるように装飾品や小物に掛けるんだ。君のように若くて魅力的な容姿だと危険な目にかなり遭い易いから、心配して贈って来たんだろう」
「そんな魔法が掛かっているなんて知りませんでした。解除をお願いしていいでしょうか?」
いわゆるGPS機能か。塔に送られることを知らないのに、そんな物を寄こして来たのか。魔法をかけてあるだなんて聞いてないぞ。
俺の居場所を知っていたいって過保護というか独占欲が強いというか。これは俺の方にも好意がなければストーカー案件ではないでしょうか。
見た目ほど紳士でなくてもそれでもグレイが好きとエディに言ったけど、本当にそうみたいだ。ちょっと複雑だけど、ここまで愛されているんだなあと嬉しくもある。
塔に入らずそのまま生活をしていたら、ロイス伯父様に会った時に即バレしたんだろうけど。
横目で見ると父様達は苦笑いをしている。まあ、息子の婚約者の溺愛というか執着心を知ったらそうだろうな。
「それでは・・・」
金属か何かがぶつかるような高い音と同時に一瞬だけどアンクレットが強く光った。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。壊れてもいないです、本当にありがとうございます」
「それはよかった」
今の解除は無詠唱だった。もしかしてすごい人達なんじゃないだろうか。あ、そういえば王直属って言っていたから、光属性の魔導師かもしれない。
「それでは、行こうか」
「はい、よろしくお願いします」
ショーン先生とアレクシス先生に深々と頭を下げて、父様達に手を振った。足元に魔法陣が浮かび上がり、それが天井へと向かって光り輝いたかと思えば俺達はさっきと違う場所に立っていた。
「ようこそ、光の塔へ」
アレクシス先生が声を掛けるまで、俺は口をぽかんと開けていた。
「さあ、こっちが君の部屋だよ」
「は、はい!」
俺は頷きながら先生達の後に続いた。グレイがやらかしたおかげでさっきまでの不安も消えていた。今日からどんな生活になるのかと楽しくなってきた。
隠居という名のニート生活まで俺は頑張るぞ。
さっそく当日から魔法の授業が始まり俺の力量を試された。母様から魔法を学んでいたため、光属性以外の魔法は上級を学ぶことになった。
二、三日は無理でもせめて今日くらいはゆっくりさせてくれるかと思った自分が甘かった。夢のニート生活と程遠い気がする。塔から出られるまでこのペースなんだろうか。
さすがに初日からそんなことを確認するのは勇気がいるのでできない。うん、社畜生活に比べたら楽勝だよな。学生時代に戻ったようでこれはこれで楽しいかもしれない。
塔での一日は食事や睡眠の時間までもが決まっていて、自分でできることは自分でする学生の寮生活のようだった。
身の回りのことは貴族のお坊っちゃんが普通にできることではないので感心された。
代々騎士団員として従事する我が家では、誰もが戦場に行き集団生活を送ることが前提の教育と躾を受けている。
その上、前世では独り暮らしの社会人をしていた自分にとってはやれて当然なことだ。
夕食後は自由時間で、ショーン先生から許可を貰いロイス伯父様に手紙を書くことにした。
関係者のロイス伯父様と家族だけは手紙で連絡を取ってもいいそうだ。残念なことに隣国に嫁いだウェスリー兄様には国家の機密保持のために送れない。
もちろん家族以外のグレイやタイラー公爵家の方々に手紙を書くのも禁止だ。まあ、何と書いていいのか分からないのでそれはすぐに諦めれた。
手紙の内容を検める場合もあるので、家族以外の相手に伝言等を書かないようにと言われた。もしもそういった内容があったら連絡を取ることを禁止されるそうだ。
大丈夫です、書きませんよ。塔の生活で数少ない楽しみと下界との繋がりをなくすようなことは絶対にしません。
ショーン先生とアレクシス先生は容赦しないだろう。だってお仕事だもの。彼等は教育係という名の監視役なんだよな。
ロイス伯父様には、来月に遊びに行けないことと借りていた本を直接返せなくてごめんなさいと書いた。
そのロイス伯父様は母様にそっくりな俺達のことを溺愛している。 実の子より甘やかすので従兄弟のジェスロからも呆れられていた。 ジェスロとまた渓流釣りに行きたかったな。
いかん、いろいろと思い出しているとホームシックになってきた。さっさと手紙を書き終えて寝よう。
うん、寝る前に風呂に浸かってゆっくりしたい。魔法でバスタブに湯を張るのは家でもやっていたので楽勝だ。
魔法って便利だよね、電化製品がなくても楽ちんだ。ネット環境がないのだけは寂しいけどね。
髪をほどいて服を脱ぐと白い肌に花びらのようなキスマークを見つけた。
昨日、風呂も入らず直ぐに寝たので気が付かなかった。これ、誰かに見られたら大変だった。
これは絶対に確信犯だろ。グレイの独占欲に呆れるけどそこも可愛いと思ってしまう。何もかもひっくるめて大好きだ。
湯船に香水を垂らすと香りが周囲に充満した。肌に付けられた所有の証を指でなぞり、グレイの汗ばんだ肌の感触と熱さを思い出しながら鈍い痛みが残るそこを指で慰めた。
寂しい。彼がここに居ないことがこんなにも寂しいなんて。
いつの間にか涙が頬を濡らしていた。それに気が付かないふりをして自慰に浸った。
鼻の奥がツンとして喉が痛い。俺は泣きじゃくりながらグレイの名前を何度も呼んで果てた。
うん、明日からの本格的な授業が始まって良かった。忙しくすれば気持ちも少しは紛れるだろう。
今夜から足首にアンクレットをはめて眠ることにした。これからの生活に耐えれるようにと御守りの代わりにずっとつけていよう。
あれからグレイは追跡魔法で俺が移動しているのが分かったので屋敷から何度も抜け出そうとしたが、聖堂で魔法が途絶えた時に観念して大人しく部屋に戻ったそうだ。
婚約破棄を承諾しないのでしばらく謹慎させられることになり、執事が食事を持っていく以外に誰とも接触を許されずにいた。
三日目の朝、グレイは重大な告白があると宰相閣下にお話をしたいと懇願した。
そう、グレイは別れを知らずに俺を抱いたことを宰相閣下に告白したのだ。指輪を渡したのは愛しているのはもちろんだが、ちゃんと責任を取り将来の約束をはっきりさせるためだったと。
それでなくとも成人したばかりの妊娠は危険なうえに塔の生活では無事に出産できるかも分からないと心配し、何も喉を通らずやつれ果てていたそうだ。
指輪を投げたのは別れることが決まっていたので、諦めさせるためにわざと嫌われるためにやったことだから許してやってほしいと。
はい、大正解です。まあ、公爵家のみなさんはご存知でしたが。
ということは、グレイには猿芝居もすっかりばれているよね。
ふふ、恥ずかしくて辛い。信じてくれていたのは嬉しいけどな。
もちろん、俺の父様に散々殴られたそうだ。塔で涙の別れを終えたばかりに言われたら瞬間的に手は出るわ。騎士団長のあの太い腕で殴られるのはきついよなー。まあそれは仕方ないよね。
結婚前の幼い我が子の純潔を散らされ、命の危険にさらされたら冷静でいられるわけがない。愛息子は最愛の伴侶にそっくりだから憎さも増すよ、うん。
父様の気持ちを考えたら穏健派な母様がすぐには止めに入らなかったのも理解できる。
ふたりだけの秘め事を話して相手に恥をかかせるとはあるまじき行為で、妊娠しているかもしれないからエディと交代させるための懺悔かと父様は怒髪天だったらしい。
グレイは肋骨にひびが入っても抵抗もせず殴られ続けて、俺が自ら志願したことを無碍にもできないし、ジョイスも悲しむことになるからそんなことは望んでないと言ったそうだ。
それならば、公爵家の跡取りとして新しい婚約者を迎えて早く結婚をして欲しいという俺の要望を叶えるようにと諭して帰らせたそうだ。容赦ないな父様、ぐうの音も出ませんよ。
それとどうなるか心配していたけど、エディがジョイスを誘って遊びに行くそうでよかった。俺の言葉を気にしてくれたんだな。上手くいくように塔から祈るよ。俺の電池としての力がエディに届きますように。
なぜそれらを知っているかというとキース兄様からの現場リポートな手紙と母様の手紙を読んでいるからだ。
グレイとセックスしたのが家族に知られたのは本当に恥ずかしい。最後の思い出作りに俺が身体を許しましたってバレバレだもんな。
病気で静養地に行っている俺をダニエル様は心底心配しているそうだ。いくら婚約者とはいえ塔のお役目のことは絶対話すわけにはいかないので困っているそうだ。
やっぱり喧嘩ばかりだけれどキース兄様はダニエル様が大好きなんだよなあ。事細かく事情を聴きたがっているのをごまかすのが大変だとか、ダニエル様主体で書き綴っている内容から伝わってくる。
あれだ、ツンデレだ。この世界はツンデレか激甘しかいないのか。『今回のことでつくづく判った。婚約者が側に居てくれることに感謝して意地を張るのをやめる』と最後を締めくくっていた。
それってお前の尊い犠牲を忘れないってことか?もしやこれって単なる惚気の手紙じゃないのか。新春一番の今年の抱負じゃあるまいし、そんな意気込みなんぞ書かんでも。
もしかして、キース兄様は脳筋なのか?ちょっと酷くない?失恋して傷心の弟に送る内容じゃないだろう。
もう、お前が産め。ダニエル様にアンアン言わされてたっぷりと種付けされてしまえ。
母様の手紙にはグレイとのことを親に言えなかったのは仕方がない、子供が生まれたら母様の子として育てるから安心するようにとあった。
心配させないためか父様がグレイを殴ったことが一切触れられていない。父様ごめんよ。
先生達にも妊娠しているかもしれないと知らせたそうだ。この件については内密にしてもらえるので大丈夫だと。無理せずにちゃんと頼るようにと、母としての愛情が痛い程に伝わってきた。
まだ妊娠しているかどうかは判らないけど、俺はどうしようもなく無謀なことをしたと後悔で涙が止まらなかった。
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