マカロニ・オブ・バックウィード

八島唯

文字の大きさ
10 / 10
第1章 二人の出会い

新たなる旅立ち

しおりを挟む
「飛び道具は結局、接近戦では役に立たん。多勢であれば、勝ち目もあるが一対一の戦いであれば刀が勝つのが当然だ。拳銃の弾丸は線、それに対して刀の身は面を貫く」
 背中の大太刀の位置を正しながら、リズはマルカムを見下ろす。
「くそ......鍵束などに木をとられなければ......私の腕なら......」
「気づかなかったのか?」
 きょとんとした表情でリズはマルカムを見つめる。
 呆然とするマルカム。何に気づかなかったというのか。
「モールス信号だ」
 マルカムは思い出す。何でも最新式の通信方法――
「まばたきでリズに送ったのさ。『throw the key』とね」
 ほこりを払いながらベルテが立ち上がる。
「上院議員を目指そうというものが、無学では困ってしまうね。まったく」
 ベルテの皮肉めいた言葉にマルカムは打ちのめされる。
「なぜ......東の小国の野蛮人が......そんな......」
「居敬窮理、東洋にも科学の精神はござる」
 なんでもリズは祖父に手ほどきを受けたらしい。
「わが藩は常に新しいものを導入してきたのだ。しかし――なぜ薩長どもに――」
「話が変な方向に行きそうだからやめようか」
 そういいながら、ぽんとマルカムの前に袋を投げ出す。
「二日分の食料と水。それと薬だ。運が良ければ助かるかもね」
「武士の情け、情けは人の為ならず。巡り巡ってわが身なるかな。マルカムどのわかるかの?
?」
「なぜ、見逃す。とどめをささない」
 まあ、とベルテは遠くを見つめる。
「私たちもあんたの手下にひどいことしてしまったし。これでお互いちゃら、ということで」
 マルカムが何やら呪いのつぶやきを放つと、その場にばたんと倒れこむ。
「行こうか、リズ
 振り返りそう促すベルテ。
「もう馬が一頭しか残ってないな」
 それにひょいと乗るベルテ。そして手をリズに差し伸べる。
「一緒に行こうよ。リズ
 首をかしげるリズ
「――リズの家族を探しに。私の責任はもう果たしたようだし」
 そういいながら、燃えてしまった家を見つめるベルテ。
 無言でリズは馬に飛び乗る。そしてぎゅっとベルテを抱きしめた。
 「よかったのか?」
 |静(リズ)が馬をいなしながら背中のベルテにそう問う。
 うん、と頷くベルテ。
「武器商人として――まだ再興できるのでは」
 手綱を握りながら、そっと横にベルテは首を振る。
「大丈夫。武器を売る以外の生き方を教えてもらえそうだから。|静(リズ)に」
 そういいながらリズに背中を寄せる。
「路銀は十分にあるし、リズの家族を探すこともできる。新しい旅としては最高だね。これでパスタがあれば更に最高なんだけど」
「我が国には――」
 リズがそう答える。
「そば粉《バックウィード》で作ったパスタがある」
「そば粉《バックウィード)?そんなんでパスタが作れるの?」
「私は父に教えてもらった。次の街で手に入ったら、早速打ってやろう」
 ニコッとベルテが微笑む。

 乾燥した風が吹く。
 有刺鉄線が荒野を分断し、かつて西部劇の時代は終わろうとしていた――
 十九世紀末の、アメリカ西部の物語である。 

第1章完 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...