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第2章 絹の十字路
シェランの憂鬱
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ぼおっとして部屋の外を眺めるシェラン。窓の外はタルフィンの街並み。いつもと違わない騒がしさが遠くのこの王宮にもひびいてくる。
「あれから、1週間かぁ......」
シェランはため息を漏らす。
『あれ』というのは当然、結婚式である。国王と王妃の結婚式において、みごとシェランは『王妃のつとめ』をクリアすることができた。
一仕事終えての脱力感なのか、それとも無力感なのか。
「そのあとの生活も大して変わんないし。まあ、やることないのはいいけどね」
正式に王妃、となった後もあまり生活は変わらなかった。
夫婦であるから同じ部屋に住むのかと思いきや
『しばらくの間は別居ということで、国王陛下から命令が出ております』
女官のすげない報告に、へぇーと納得せざるを得ないシェラン。
「まあ、そもそもあいつと一緒にあんまりいたいわけでもないし」
机の上に積まれた本をめくりながらそうつぶやく。
あいつ――タルフィン王国現国王ファルシード=クテシファンその人である。
「なんか無関心だし。まあ、むこうも大鳳皇国からのお姫様をお迎えならもっとこうひらひらしたような」
ひらひらするような動きをしながらシェランはつぶやく。
「はかない感じの上品なお姫様を欲しかったんだろうけど......まあ、期待はずれなのはわかるけど」
シェランはため息をつく。
どうも自己評価が低い王妃である。
またファルシードは仕事に忙しいらしく、一緒に話す時間もないのが事実でもあった。
「この王宮にいるのも結構つらいし」
後宮、というほどではないが女官が数多くいる王宮の一角。自分よりはるかに大人できれいな女官に囲まれると思わず顔を覆いたくなってしまう。
『王妃様、今日もおきれいね』
『あの銀の髪の神々しいこと』
『結婚式の花火、いまだに瞼の裏に焼き付いておりますわ。さすがは大鳳皇国の皇女殿下、完璧ですわね』
実際は褒めまくりなのだが、シェランの耳には届かない。
「出入りの商人ガレッツィさまが面会を希望されております」
ぱああとシェランの顔が明るくなる。ルドヴィカ=ガレッツィ。数少ないこの国での友達であった。
「いやぁ、儲けさせてもらってるわ。ありがとう王妃殿下」
王宮の噴水の一角でそうルドヴィカは挨拶する。
『王妃のつとめ』の一件により王宮の取引を認められたルドヴィカ。
「いや、私こそ助かったし。ルドヴィカちゃんがいなかったら――ああ、二人の時はシェランでいいよ。王妃殿下とか、困ってしまう」
うん、とうなづくルドヴィカ。
「国王陛下は美少年だし、順風満帆ってやつじゃ?なんでそんな元気がないんだよ?」
「うーん。いまいち自信が持てないっていうか」
ルドヴィカは足をバタバタさせる。
「シェランほどいろいろ恵まれているのに満足しないのはよくないよ」
「よくないか」
「そうだよ。自信をもって」
言われればいわれるほど自信がなくなっていくような気がする。
それを見ていたルドヴィカは、思いつく。シェランを元気づけるための方法を――
タルフィン王国の都、その市場の中心部。
人ごみの中に女性が二人。一人は商人の服装。もう一人は裕福そうな町娘の身なりをしていた。
「どうだ、このにぎやかさ。どんな悲しいことがあってもここに来れば、幸せになれる」
ルドヴィカは両手を挙げてそう叫ぶ。それを見つめるシェラン。ばれる心配はない。王妃の顔などまだ誰も知らないのだから。特徴的な銀色の髪はベールで隠していた。
確かににぎやかである。
(ここに来ると、自分なんかどうでもいい気になれるな。こんなにいっぱい人がいるのに、自分一人のことなんか考えててもしょうがなく感じるし)
屋台で売っている食べ物をルドヴィカは買ってきて、シェランに差し出す。
ふと沸き起こる疑問。思い切ってそれを口にしてみる。
「あのさ、ルドヴィカちゃん」
「?なんだ?」
「なんで......私にそんな優しくしてくれるの?確かに王宮に出入りできるのは儲けになると思うけど、そんなにまでして......」
正直デリケートな質問だとは思った。意を決してシェランは口に出す。感じ続けていた疑問。それに対して、ルドヴィカはまずため息をついてから。
「あー、まあ確かに王宮に出入りができる、っていうのはあったよ。でもな、それ以上になんというか、シェランが見てらんないというか......」
ごもごもしながらルドヴィカは続ける。
「妹がいたんだ」
少し間をおいて。
「小さいときに死んじゃったけどな。かわいくて、おどおどした奴だった。まあ、見捨てられないよな。シェランみたいに心細いやつ」
シェランは最初はその話をただ聞いているだけだったが、だんだんと目から――
「ありがとう......ルドヴィカちゃん......ううう......」
おもわずルドヴィカに飛びつくシェラン。うれしかった。この異国の地で自分を気にしてくれる存在があることが。
そんなシェランの頭をよしよししながらルドヴィカは考え込む。
(こいつ、私より年上だったよな。それに国王陛下だってお前のこと結構心配していると思うぞ。いまだって――ほら)
ルドヴィカが後ろを振り向く。人ごみの中に消える気配。
(多分、お前のこと心配であとついてきてるんだろうな。忙しいのに国王は)
はあというため息。
ルドヴィカはふと思いつく。シェランをあるところに連れて行こうと――
「あれから、1週間かぁ......」
シェランはため息を漏らす。
『あれ』というのは当然、結婚式である。国王と王妃の結婚式において、みごとシェランは『王妃のつとめ』をクリアすることができた。
一仕事終えての脱力感なのか、それとも無力感なのか。
「そのあとの生活も大して変わんないし。まあ、やることないのはいいけどね」
正式に王妃、となった後もあまり生活は変わらなかった。
夫婦であるから同じ部屋に住むのかと思いきや
『しばらくの間は別居ということで、国王陛下から命令が出ております』
女官のすげない報告に、へぇーと納得せざるを得ないシェラン。
「まあ、そもそもあいつと一緒にあんまりいたいわけでもないし」
机の上に積まれた本をめくりながらそうつぶやく。
あいつ――タルフィン王国現国王ファルシード=クテシファンその人である。
「なんか無関心だし。まあ、むこうも大鳳皇国からのお姫様をお迎えならもっとこうひらひらしたような」
ひらひらするような動きをしながらシェランはつぶやく。
「はかない感じの上品なお姫様を欲しかったんだろうけど......まあ、期待はずれなのはわかるけど」
シェランはため息をつく。
どうも自己評価が低い王妃である。
またファルシードは仕事に忙しいらしく、一緒に話す時間もないのが事実でもあった。
「この王宮にいるのも結構つらいし」
後宮、というほどではないが女官が数多くいる王宮の一角。自分よりはるかに大人できれいな女官に囲まれると思わず顔を覆いたくなってしまう。
『王妃様、今日もおきれいね』
『あの銀の髪の神々しいこと』
『結婚式の花火、いまだに瞼の裏に焼き付いておりますわ。さすがは大鳳皇国の皇女殿下、完璧ですわね』
実際は褒めまくりなのだが、シェランの耳には届かない。
「出入りの商人ガレッツィさまが面会を希望されております」
ぱああとシェランの顔が明るくなる。ルドヴィカ=ガレッツィ。数少ないこの国での友達であった。
「いやぁ、儲けさせてもらってるわ。ありがとう王妃殿下」
王宮の噴水の一角でそうルドヴィカは挨拶する。
『王妃のつとめ』の一件により王宮の取引を認められたルドヴィカ。
「いや、私こそ助かったし。ルドヴィカちゃんがいなかったら――ああ、二人の時はシェランでいいよ。王妃殿下とか、困ってしまう」
うん、とうなづくルドヴィカ。
「国王陛下は美少年だし、順風満帆ってやつじゃ?なんでそんな元気がないんだよ?」
「うーん。いまいち自信が持てないっていうか」
ルドヴィカは足をバタバタさせる。
「シェランほどいろいろ恵まれているのに満足しないのはよくないよ」
「よくないか」
「そうだよ。自信をもって」
言われればいわれるほど自信がなくなっていくような気がする。
それを見ていたルドヴィカは、思いつく。シェランを元気づけるための方法を――
タルフィン王国の都、その市場の中心部。
人ごみの中に女性が二人。一人は商人の服装。もう一人は裕福そうな町娘の身なりをしていた。
「どうだ、このにぎやかさ。どんな悲しいことがあってもここに来れば、幸せになれる」
ルドヴィカは両手を挙げてそう叫ぶ。それを見つめるシェラン。ばれる心配はない。王妃の顔などまだ誰も知らないのだから。特徴的な銀色の髪はベールで隠していた。
確かににぎやかである。
(ここに来ると、自分なんかどうでもいい気になれるな。こんなにいっぱい人がいるのに、自分一人のことなんか考えててもしょうがなく感じるし)
屋台で売っている食べ物をルドヴィカは買ってきて、シェランに差し出す。
ふと沸き起こる疑問。思い切ってそれを口にしてみる。
「あのさ、ルドヴィカちゃん」
「?なんだ?」
「なんで......私にそんな優しくしてくれるの?確かに王宮に出入りできるのは儲けになると思うけど、そんなにまでして......」
正直デリケートな質問だとは思った。意を決してシェランは口に出す。感じ続けていた疑問。それに対して、ルドヴィカはまずため息をついてから。
「あー、まあ確かに王宮に出入りができる、っていうのはあったよ。でもな、それ以上になんというか、シェランが見てらんないというか......」
ごもごもしながらルドヴィカは続ける。
「妹がいたんだ」
少し間をおいて。
「小さいときに死んじゃったけどな。かわいくて、おどおどした奴だった。まあ、見捨てられないよな。シェランみたいに心細いやつ」
シェランは最初はその話をただ聞いているだけだったが、だんだんと目から――
「ありがとう......ルドヴィカちゃん......ううう......」
おもわずルドヴィカに飛びつくシェラン。うれしかった。この異国の地で自分を気にしてくれる存在があることが。
そんなシェランの頭をよしよししながらルドヴィカは考え込む。
(こいつ、私より年上だったよな。それに国王陛下だってお前のこと結構心配していると思うぞ。いまだって――ほら)
ルドヴィカが後ろを振り向く。人ごみの中に消える気配。
(多分、お前のこと心配であとついてきてるんだろうな。忙しいのに国王は)
はあというため息。
ルドヴィカはふと思いつく。シェランをあるところに連れて行こうと――
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