鳳朝偽書伝

八島唯

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第1章 歴史への旅

亜理斯(アリス)の業の依代

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 静かな夜。
 鳥の声が聞こえる。
 目を開ける灰簾カイレン。冷たい床の上に横たわっていた。
「よくぞ、つとめを果たした。上出来だ」
 聞こえるのは翔極ショウゴクの声。頭の中ではなく、耳から響く。
 はっとして起き上がる灰簾カイレン。服は使用人の服。宮女服ではない。
「......戻ってきた!」
 そう言いながら、両手をバンザイする。
 あの燃える宮殿から、間一髪、この世界に生還することができたのだった。
 亜理斯アリスの業が解かれた瞬間、灰簾カイレンはこの世界に呼び戻されたのだ。
「私の説もこれで立証された。隆朝が滅びたのは皇帝夫妻というよりも宰相 鹿範ロクハンの悪政によるものと。もっとも皇帝としての資質から言うと、そのような佞臣に権力を握られる事自体が罪かもしれないが」
「そんなことない!」
 灰簾カイレンは叫ぶ。
「一生懸命......一生懸命生きていたはずだぜ!あの二人!確かに、皇帝としてはだめだったかもしれないけど......」
「まあ、泣くな」
 そう言いながら翔極ショウゴクは懐紙を取り出す。それを奪い取り、鼻をかむ灰簾カイレン
「人間は生まれた運命から逃れられん。皇帝には皇帝の。庶民には庶民の。それらすべてが歴史であるからな」
 胡散臭いと思っていた翔極ショウゴクであるが、少し灰簾カイレンは見直す。
 彼がやっていることが、決して道楽とも思えなくなったからである。
「いずれにせよ、そなたはかけがいのない存在だ。私にとって」
 翔極ショウゴクは真面目な顔で灰簾カイレンそう告げる。整った顔立ちが灰簾カイレンの眼の前でそう、つぶやくのである。
 (......)
 悪い気はしない灰簾カイレン。この様子であれば、給料の値上げにも応じてくれそうだ。
「まあ、あんまり危険なことはやらないでくださいよ。まだ子供なんだし」
「そうだな、あんまり女の子にすることではないと思ってはいるのだが」
「はい?」
「?」
「いま、俺のこと――」
「女の子であろう。灰簾カイレンは」
 頭がパニックになる灰簾カイレン。今まで、誰にもバレなかったのに――
「もももも、もしかしたらなにか俺のことを、こう、覗いたとか!!」
 首をふる翔極ショウゴク
「そういう趣味はない。見ればわかる。人目な」
「そっちのほうがいやらしいじゃねえか!この変態宦官!」
「私は宦官ではないぞ」
「それはそれで、まずいじゃねぇか!」
 それまで静かだった翔極ショウゴクの家が大騒ぎとなる。
 床にある香炉などを翔極ショウゴクに投げつける灰簾カイレン
 それを簡単に受け止める翔極ショウゴク
 このあとも不思議な二人の関係は続いていくこととなる。

 
 亜理斯アリスの業――それは見ることのできない過去の歴史を呼び戻す唯一の方法。
 それは、類まれなる記憶力を持った灰簾カイレンという少女を依代として――
 
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