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第1章 歴史への旅
隆王朝の最後
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じっと灰簾を見下ろす男性。しかしその視線はすぐに外される。
「女官か――幼いのに逃げ遅れたか。哀れな。もはや逃げるところもない。反乱軍に殺されるのが怖いなら、この奥に隠れるがよい。毒もある。好きなようにするが良い」
弱々しい男性の声。
灰簾はその男性を見上げる。
衣服に乱れはあったが、それは高貴なもののみが着ることできる装束である。色は紫。冠は虎の頭を模していた。
『そう、彼こそが隆朝最後の皇帝廃残帝 隆靭である』
頭の中に響く声。灰簾は無言で皇帝を見つめる。
「いかがした。かしこまる必要もない。朕はもはや一人の家臣もおらぬ、あわれな王じゃ」
「......他の方々は何処に」
「逃げてしまった。我先にとな。朕の人徳が致さぬところであろう......ふむ、そちは何者じゃ」
「皇帝陛下、私は別な世界からまいった灰簾と申します。亜理斯(アリス)の業により、真実を探るため」
なるほど、と皇帝はため息をつく。
「さぞかし朕は悪者とされているのではないか。そなたの世界では」
「......」
「偽る必要はない。想像するにあまりある。朕がこの王朝の崩壊を食い止められなかったのは事実であるからな。ちなみに宰相 鹿範(ロクハン)めはどういう結末を迎えたか、知っていれば教えてほしい」
目を閉じる灰簾。『隆朝紀伝』の内容を思い出す。
「宰相は――王宮を庶民に化けて逃げようとしたけど、兵に捕まり万民の前で八つ裂きの刑に処せられたそうです」
「ならば朕も同じ刑であろう。朕も同罪であろうからな。ただ、先祖に対しそれはあまりにも申し訳ない。ここで自死し、火災の中に消えることとしよう」
あまりに悲しい皇帝の言葉。多分王朝が変わるたびに繰り返されてきた悲劇なのだろう。
はっ、と灰簾はあることに気づく。胸元にしまっていた懐紙。
「......皇后陛下は」
皇帝はすっと左に視線を泳がせる。
走り出す灰簾。
左の大きな部屋の扉を開ける。
ふかふかの絨毯。そして、その上に広がる――赤い川――血である。
「皇后陛下!」
灰簾はそう叫ぶ。床の上に倒れた泉皇后を抱きしめながら。
毒を飲んだらしい。どうやら喉で毒を受け止めてしまったらしく、大量に吐血している。
目を少し開ける泉皇后。灰簾の姿を見ると、右手をゆっくりと上げ揺らす。ここから早く逃げなさい――と言うかのごとく。
涙があふれる灰簾。
今まで偉い人が死んでも涙など流すことはなかった。十分に人生を楽しんだんだろうから、未練はなかろうと。
しかし、そうでない存在があることを知る。
死後も必要以上に辱められ、そして否定される存在があることを。
炎がこの広間まで広がってきた。
天井の布にも燃え移る。
すでに玉座は火の中にあった。
轟音。
天井が崩れ、そして灰簾の上に――
「女官か――幼いのに逃げ遅れたか。哀れな。もはや逃げるところもない。反乱軍に殺されるのが怖いなら、この奥に隠れるがよい。毒もある。好きなようにするが良い」
弱々しい男性の声。
灰簾はその男性を見上げる。
衣服に乱れはあったが、それは高貴なもののみが着ることできる装束である。色は紫。冠は虎の頭を模していた。
『そう、彼こそが隆朝最後の皇帝廃残帝 隆靭である』
頭の中に響く声。灰簾は無言で皇帝を見つめる。
「いかがした。かしこまる必要もない。朕はもはや一人の家臣もおらぬ、あわれな王じゃ」
「......他の方々は何処に」
「逃げてしまった。我先にとな。朕の人徳が致さぬところであろう......ふむ、そちは何者じゃ」
「皇帝陛下、私は別な世界からまいった灰簾と申します。亜理斯(アリス)の業により、真実を探るため」
なるほど、と皇帝はため息をつく。
「さぞかし朕は悪者とされているのではないか。そなたの世界では」
「......」
「偽る必要はない。想像するにあまりある。朕がこの王朝の崩壊を食い止められなかったのは事実であるからな。ちなみに宰相 鹿範(ロクハン)めはどういう結末を迎えたか、知っていれば教えてほしい」
目を閉じる灰簾。『隆朝紀伝』の内容を思い出す。
「宰相は――王宮を庶民に化けて逃げようとしたけど、兵に捕まり万民の前で八つ裂きの刑に処せられたそうです」
「ならば朕も同じ刑であろう。朕も同罪であろうからな。ただ、先祖に対しそれはあまりにも申し訳ない。ここで自死し、火災の中に消えることとしよう」
あまりに悲しい皇帝の言葉。多分王朝が変わるたびに繰り返されてきた悲劇なのだろう。
はっ、と灰簾はあることに気づく。胸元にしまっていた懐紙。
「......皇后陛下は」
皇帝はすっと左に視線を泳がせる。
走り出す灰簾。
左の大きな部屋の扉を開ける。
ふかふかの絨毯。そして、その上に広がる――赤い川――血である。
「皇后陛下!」
灰簾はそう叫ぶ。床の上に倒れた泉皇后を抱きしめながら。
毒を飲んだらしい。どうやら喉で毒を受け止めてしまったらしく、大量に吐血している。
目を少し開ける泉皇后。灰簾の姿を見ると、右手をゆっくりと上げ揺らす。ここから早く逃げなさい――と言うかのごとく。
涙があふれる灰簾。
今まで偉い人が死んでも涙など流すことはなかった。十分に人生を楽しんだんだろうから、未練はなかろうと。
しかし、そうでない存在があることを知る。
死後も必要以上に辱められ、そして否定される存在があることを。
炎がこの広間まで広がってきた。
天井の布にも燃え移る。
すでに玉座は火の中にあった。
轟音。
天井が崩れ、そして灰簾の上に――
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