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Case.1 祟り
雨降って地固まる
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結局、木嶋と岡副が罪に問われることはなかった。大和の死の原因は木嶋になく、岡副の隠蔽工作も祟りの噂を流しただけ。司法では裁けないと判断された。
事件は事故として処理され、大和建設工業は倒産した。脱税やら何やら、数えきれない裏金で多額の負債を背負っていたのだ。大和の無理な開発は、社運を賭けた大博打だったようだ。それで命を落としたのだから、大和の命運はそこまでだったのかもしれない。
開発の際に取り壊された祠も、岡副が建て直し丁寧に祀り上げるのだと聞いた。岡副は地元に戻り、せめてもの罪滅ぼしとして、死ぬまで祠を守っていくのだと言う。
岡副は更に、木嶋の再就職先の斡旋まで行ったそうだ。彼女の心の傷はなかなか癒えないだろうが、新天地でどうにか立ち直れるよう願わずにはいられなかった。
さて、事件は無事に解決した。捜査本部は解体され、僕の出向も終わる。色々とあったがこの経験も僕の今後の刑事人生の役に立つ、と信じたい。報告書を作成しながら、ふと未解決の事柄に気づいた。
「結局、大和社長が亡くなった原因は判りませんでしたね。居合わせた木嶋さんによると、気がついたら大和社長にだけ雷が落ちていた、との話ですが、そんなこと本当にあり得るんですか?」
「さあ? それこそ、天神の祟りだったりしてね」
霧雨篠があまりにもあっけらかんと言い放つものだから、僕はたまげてしまった。
「え!? で、でも、霧雨さんだって事故だって……」
霧雨篠はそんな僕を揶揄うように、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。
「異論は挟まないとは言ったが、私自身は事故だと断定していないよ。御子柴クン、キミは我らが特怪のポリシーをお忘れかな? 霊的アプローチから事件解決を目指すのが私達だ。死因に科学的根拠がないのなら、原因は霊的なモノだと結論づけるのが我らが特怪の役目。実に単純明快だろう?」
霊的なモノ、つまりは祟り……。いや、でも……。納得しかねる僕に、
「原因が何であれ、今回の件は祟りを利用しようとした人間がいたから事態がややこしく見えた、それだけのことだ。私とカゲリで祠跡を徹底的に祓ったし、祠も建て直されるようだから、あの祟り神が現れる心配はもうないだろう。誰かが同じように利用しない限り、ね」
無責任に言い放ち、霧雨篠はカラカラと笑う。なんだか狐に化かされた気分だ。不思議な彼らとも、もう二度と会うことはないだろう――そう、思っていたのだが。
× × ×
「おはようございます」
僕が久しぶりに御崎署に出勤すると、署員達はザワザワと賑わっていた。
「何かあったんですか?」
犇めく頭の隙間から同僚達の好奇の視線の先を覗き込み、僕は「げっ」と呻いた。掲示板には辞令が貼ってあった。
辞令
御子柴悟巡査
配属先:本庁特殊怪奇対策班
解任:御崎署刑事課一係
「やー、栄転やないの! おめでとさん」
ニヤニヤ笑いながら僕を小突く神崎先輩。つい先日、特怪に対する忠告をくれた人と同一人物とは思えない。
「あの、神崎先輩……」
僕の抗議を、先輩は「ドンマイ!」と爽やかに笑って受け流した。だから表情と台詞が微塵も合っていないじゃないか!
どうやら、僕の刑事人生はこの先も波乱に満ちたものになりそうだ。……後で胃薬を買ってこよう。
事件は事故として処理され、大和建設工業は倒産した。脱税やら何やら、数えきれない裏金で多額の負債を背負っていたのだ。大和の無理な開発は、社運を賭けた大博打だったようだ。それで命を落としたのだから、大和の命運はそこまでだったのかもしれない。
開発の際に取り壊された祠も、岡副が建て直し丁寧に祀り上げるのだと聞いた。岡副は地元に戻り、せめてもの罪滅ぼしとして、死ぬまで祠を守っていくのだと言う。
岡副は更に、木嶋の再就職先の斡旋まで行ったそうだ。彼女の心の傷はなかなか癒えないだろうが、新天地でどうにか立ち直れるよう願わずにはいられなかった。
さて、事件は無事に解決した。捜査本部は解体され、僕の出向も終わる。色々とあったがこの経験も僕の今後の刑事人生の役に立つ、と信じたい。報告書を作成しながら、ふと未解決の事柄に気づいた。
「結局、大和社長が亡くなった原因は判りませんでしたね。居合わせた木嶋さんによると、気がついたら大和社長にだけ雷が落ちていた、との話ですが、そんなこと本当にあり得るんですか?」
「さあ? それこそ、天神の祟りだったりしてね」
霧雨篠があまりにもあっけらかんと言い放つものだから、僕はたまげてしまった。
「え!? で、でも、霧雨さんだって事故だって……」
霧雨篠はそんな僕を揶揄うように、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。
「異論は挟まないとは言ったが、私自身は事故だと断定していないよ。御子柴クン、キミは我らが特怪のポリシーをお忘れかな? 霊的アプローチから事件解決を目指すのが私達だ。死因に科学的根拠がないのなら、原因は霊的なモノだと結論づけるのが我らが特怪の役目。実に単純明快だろう?」
霊的なモノ、つまりは祟り……。いや、でも……。納得しかねる僕に、
「原因が何であれ、今回の件は祟りを利用しようとした人間がいたから事態がややこしく見えた、それだけのことだ。私とカゲリで祠跡を徹底的に祓ったし、祠も建て直されるようだから、あの祟り神が現れる心配はもうないだろう。誰かが同じように利用しない限り、ね」
無責任に言い放ち、霧雨篠はカラカラと笑う。なんだか狐に化かされた気分だ。不思議な彼らとも、もう二度と会うことはないだろう――そう、思っていたのだが。
× × ×
「おはようございます」
僕が久しぶりに御崎署に出勤すると、署員達はザワザワと賑わっていた。
「何かあったんですか?」
犇めく頭の隙間から同僚達の好奇の視線の先を覗き込み、僕は「げっ」と呻いた。掲示板には辞令が貼ってあった。
辞令
御子柴悟巡査
配属先:本庁特殊怪奇対策班
解任:御崎署刑事課一係
「やー、栄転やないの! おめでとさん」
ニヤニヤ笑いながら僕を小突く神崎先輩。つい先日、特怪に対する忠告をくれた人と同一人物とは思えない。
「あの、神崎先輩……」
僕の抗議を、先輩は「ドンマイ!」と爽やかに笑って受け流した。だから表情と台詞が微塵も合っていないじゃないか!
どうやら、僕の刑事人生はこの先も波乱に満ちたものになりそうだ。……後で胃薬を買ってこよう。
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