陰法師 -捻くれ陰陽師の事件帖-

佐倉みづき

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Case.2 吸血鬼

奮起

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 私とミカドクンは揃って屋上前の階段に腰を落ち着けた。今は始業前の時間帯。ここなら誰も来ないだろう、と選んだ場所だった。
「これ。今日のニュース。小山コヤマ華、ってアンタのことだろ」
 証拠を見せろとせがむ私に、ミカドクンは無慈悲な現実を突きつけてきた。手にしたスマートフォンの液晶に表示されたニュース画像には『女子高生連続失血死事件、新たな犠牲者が』の見出しと、私の中学の卒業写真が添えられていた。大掛かりなドッキリという訳でもなさそうだ。
 私、本当に死んじゃったんだ……それにしても、中学の卒アルの写真、あんまり可愛く写ってないな。それはともかく。
「えっと……それじゃ今の私って、幽霊になるの? それなら、ミカドクンは何で私が視えてるの?」
 解らないことだらけで頭が混乱する。私の問いに、ミカドクンは辟易した表情でぼそりと呟いた。
「質問が多いな……」
「いいから答えてよ!」
 私が噛みつくと、彼は渋々口を開いた。
「まず、アンタが視える理由は俺が陰陽師だから」
「陰陽師……」
 漫画や小説の中では聞いたことがあるけれど、実物を目の当たりにするのは初めてだ。安倍晴明のイメージとは程遠い。
「俺達陰陽師は人の負の感情から生じた陰法師と呼ばれる存在を祓うためにいる。その中でも幽霊ってのは、未練を遺した人間の残留思念、言わば残り滓みたいなモンだ。今のアンタも、未練があるからここにいるんだろ」
「未練を……」
 私が遺した? だとしたら、それはいったい……? 考え込む私を、ミカドクンはボサボサの前髪の隙間から睥睨しながら訊ねてきた。
「俺もアンタに聞きたいことがある。誰に殺された?」
「し、知らないよ!」私は首をぶんぶんと横に振った。「自分が死んだことも覚えてなかったのに、誰に殺されただなんてもっと覚えてるワケないじゃん! 逆に私が聞きたいくらいだよ」
 するとミカドクンは急に冷めた目つきになって背を向けた。
「あっそ。じゃ、もう用はないわ。サヨナラ」
「うぇえ!?」
 しかし、私だってここですごすごと引き下がるわけにはいかない。せっかく私を視てくれる人を見つけたんだ。このまま「はいサヨウナラ」は嫌だ!
「み、ミカドクンは何か知ってて話しかけてくれたんじゃないの!?」
 振り向いたミカドクンは露骨に顔を顰めた。
「アンタが覚えてないことを俺が知るワケないじゃん。ってことで、じゃあな。潔く成仏しろよ」
「ちょっと待ってよ!」取りつく島もない。堪らず、声を張り上げる。「どうして死んだのかも……こうして未練を遺してまで幽霊になった理由も、何も思い出せないまま、また死ぬのは嫌だよ!」
 朝に感じた違和感を思い出す。そうだ、私はきっと、を忘れている。きっとそれが私の未練。思い出さないと、死んでも死に切れない!
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