陰法師 -捻くれ陰陽師の事件帖-

佐倉みづき

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Case.3 形代

望まぬ願い・2

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 差し込む陽光が瞼の上から覚醒を促す。ハッと気がつくと、時刻は既に昼を回っていた。昨夜、デスクに突っ伏したまま寝落ちしてしまったらしい。パソコンの電源も点けっぱなしだ。
「何やってんだろ、私……」
 寝惚け頭を軽く振り、洗面所で顔を洗う。変な姿勢で寝てしまったため、身体が痛い。
 リビングに戻る。何か腹に入れようと思いながらテレビをつけた私は、たまたま流れたニュースを見た途端、再び恐怖に襲われた。

『全国で変死体の発見相次ぐ』

 ショッキングなテロップを前に、男性アナウンサーは神妙な面持ちで原稿を淡々と読み上げる。内容はこうだ。
 今朝未明から、全国で変死体が相次いで発見された。被害者は皆刃物で数十箇所以上切りつけられており、疫神と同じ手口で殺されたらしい。警察は先日起きた同様の手口の殺人事件――恐らく疫神の事件だろう――との関連を探る方針でいるという。
 まさかと思い慌ててツイートゥーを開くと、いつもキモいコメントを飽きずに送って寄越す信者リスナー達の声が、昨夜を境にぷつりと途絶えていた。彼らのアカウントをチェックしてみると、私に対するリプライを最後に投稿がない。それも「疫神が死んでせいせいした」など、疫神の死を喜ぶコメントばかりだ。
 十数人の呟きが揃って途絶えるなんて、何かがあったとしか思えない。その、何かとは――
 ――みんな、疫神みたいに死んじゃえばいいのに。そう願ってしまったことを、思い出した。
 恐怖に身体が震える。これも私が望んだから起きたことなの? 誰がこんなことをしたの? もしかして、知らない内に私が疫神達を呪い殺してしまったの? わからない、何もわからない!
「誰か……助けてよッ……!!」
 ――どうしたの、麻実ちゃん?
 もう、何もわからないの。
 ――麻実ちゃんはどうしたい?
 ……わからない。どうしていいか、わからない。どうしてこうなったんだっけ? 私は何か過ちを犯してしまったのだろうか?
 ――麻実ちゃんは何も悪くないの。気にすることはないよ。何があっても、私が守ってあげるからね。
 本当に? 嬉しいな――
 その時、ポコン……と新着通知の音が鳴り響いて、ふと我に返る。今、私は誰と会話していた? 精神がよっぽど参っていたのか、幻聴が聞こえたようだ。
 ディスプレイに目をやると、私宛にツイートゥーの個別メッセージが届いている。こんな時でも条件反射とは恐ろしいもので、靄がかかった鈍い思考回路のままそれを開いた。

『mammyとか名乗ってイキってるの、アンタ?』

 途端に視界に飛び込む毒の込められたメッセージ。ハンドルネームは〈shadowシャドウ〉とあった。
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