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Case.5 橋姫
ビックリビッグニュース
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ポケットに突っ込んでいたスマートフォンのバイブレーションに気づいて画面を見ると、神崎先輩からの着信だった。
『御子柴ちゃん久しぶり! いきなりやけどビッグニュースやで!』
電話に出ると、やけに嬉しそうな声音で先輩は言った。
『カゲリが殺人犯の人質に取られた』
「はぁ!?」
テンションにそぐわない台詞に、思わず素っ頓狂な声を上げていた。大声を出してしまったことに気づき、慌てて口を噤む。
「どうかしたかな?」
霧雨篠の怪訝な視線が痛い。僕は曖昧な苦笑いでお茶を濁した。彼女の声が聞こえたのか否か、先輩は言う。
『せや、霧雨篠にも伝えとき。おたくのカゲリくんが可哀想に人質になった、ってな。どうもおたくら向きの事件やっちゅうから、御崎署の管轄の資産家長男殺害事件で調べてみぃ。ほんならボクも忙しいから切るで』
「え、ちょっ」
電話口の向こうから、「神崎ィ、何をしとるんだ馬鹿者!」と喚く池田警部の怒鳴り声が聞こえた。言いたいことだけ言った先輩は、電話を一方的に切った。池田警部の苛立ちぶりから、忙しいと言うのは嘘ではないようだ。
「キミが驚くような何かがあったみたいだね? 話してごらん」
「実は……」
通話を終えたところを霧雨篠に促され、僕は先ほど神崎先輩から聞いた話をそのまま伝える。とはいえ「カゲリが殺人犯の人質にされた」程度しかめぼしい情報がないため、話はすぐに終わった。
「成程ね」霧雨篠は顎を摘んで頷いた。「それは災難だな、犯人が」
「そうですね……って、え?」
思わず聞き返した僕を無視して、霧雨篠はスマートフォンを取り出すと、流れるような手つきで画面を操作する。そのまま液晶画面を耳に当てたため、誰かに電話を掛けたようだ。
「もしもし、カゲリ? 面白いことになってるようだけれど、何があったか聞かせてくれるかい?」
『うわ、どっから聞きつけてきたんだよ……』
電話の相手はカゲリのようだ。通話はスピーカーモードになっていて、僕にもげんなりとした声が聞こえた。確かに声はカゲリのものだが、いつもの道化じみたハイテンションとは異なる、アンニュイな声だった。
「神崎クンと池田警部に喧嘩売ったんだって? いやあ、私もその場面に遭遇したかったよ」
『笑い事じゃねえんだよ、こっちは足手纏い抱えて大変なんだけど』
『え、足手纏いってオレ!? いや確かにそうだけどさぁ、もうちょっと言い方ってモンが……』
『うるさいな、アンタは引っ込んでろよ』
電話口から聞こえる知らない男の声が、カゲリを人質に取ったという殺人犯だろう。どこか軟派な印象を受ける。断片的だが二人のやり取りを聞くに、人質のはずのカゲリの方が立場は上にあるらしい。霧雨篠が犯人が災難だと言っていた理由があっという間に理解できてしまった。
『まあいいや。どうせ篠に聞こうと思ってたし、手間が省けたってことにしとく』
うんざりと重い溜息を落としたカゲリは、要件を切り出した。
『コイツ、怨霊に取り憑かれてんだよ。何すればこんだけ怨まれんの? ってレベルで怨み買ってるっぽい』
コイツ、というのは人質にした殺人犯のことだろう。男は声だけでも判るほど狼狽えた。
『お、おお怨霊!? 取り憑かれてるって、オレが!? そ、そういうのはもっと早く言って』
『はぁ? 最初に言っただろ、この鶏頭。で、そんな怨み買うような何をやらかしたんだよ』
『ゔ……それは……』
しどろもどろに言い淀む男を、霧雨篠がバッサリと切り捨てた。
「殺人だろ? 池田警部達が逮捕しにきた件が原因じゃないのかい?」
『ちっ、違います! いや違くないけど、招太の件はマジでオレじゃないっす。濡れ衣っす、冤罪っす!』
泡を食って叫ぶ声は切実で、彼は本当に某招太を殺していないのだろう、と伝わってくる。ならば、彼が犯人だと疑われた資産家長男殺害は、誰の犯行によるものだろう……?
「だったら、それだけ怨まれるような何をやらかしたんだい? 怒らないから言ってごらん」
電話越しでも伝わるであろう霧雨篠の有無を言わさぬ圧力に負け、男は電話口からボソボソと自らの罪を告白した。
『じ、実は一週間前、付き合ってた彼女と言い合いになって、思わず突き飛ばしてその、こ……殺してしまって……』
全員、声を揃えて叫んだ。
「それだ!」
『御子柴ちゃん久しぶり! いきなりやけどビッグニュースやで!』
電話に出ると、やけに嬉しそうな声音で先輩は言った。
『カゲリが殺人犯の人質に取られた』
「はぁ!?」
テンションにそぐわない台詞に、思わず素っ頓狂な声を上げていた。大声を出してしまったことに気づき、慌てて口を噤む。
「どうかしたかな?」
霧雨篠の怪訝な視線が痛い。僕は曖昧な苦笑いでお茶を濁した。彼女の声が聞こえたのか否か、先輩は言う。
『せや、霧雨篠にも伝えとき。おたくのカゲリくんが可哀想に人質になった、ってな。どうもおたくら向きの事件やっちゅうから、御崎署の管轄の資産家長男殺害事件で調べてみぃ。ほんならボクも忙しいから切るで』
「え、ちょっ」
電話口の向こうから、「神崎ィ、何をしとるんだ馬鹿者!」と喚く池田警部の怒鳴り声が聞こえた。言いたいことだけ言った先輩は、電話を一方的に切った。池田警部の苛立ちぶりから、忙しいと言うのは嘘ではないようだ。
「キミが驚くような何かがあったみたいだね? 話してごらん」
「実は……」
通話を終えたところを霧雨篠に促され、僕は先ほど神崎先輩から聞いた話をそのまま伝える。とはいえ「カゲリが殺人犯の人質にされた」程度しかめぼしい情報がないため、話はすぐに終わった。
「成程ね」霧雨篠は顎を摘んで頷いた。「それは災難だな、犯人が」
「そうですね……って、え?」
思わず聞き返した僕を無視して、霧雨篠はスマートフォンを取り出すと、流れるような手つきで画面を操作する。そのまま液晶画面を耳に当てたため、誰かに電話を掛けたようだ。
「もしもし、カゲリ? 面白いことになってるようだけれど、何があったか聞かせてくれるかい?」
『うわ、どっから聞きつけてきたんだよ……』
電話の相手はカゲリのようだ。通話はスピーカーモードになっていて、僕にもげんなりとした声が聞こえた。確かに声はカゲリのものだが、いつもの道化じみたハイテンションとは異なる、アンニュイな声だった。
「神崎クンと池田警部に喧嘩売ったんだって? いやあ、私もその場面に遭遇したかったよ」
『笑い事じゃねえんだよ、こっちは足手纏い抱えて大変なんだけど』
『え、足手纏いってオレ!? いや確かにそうだけどさぁ、もうちょっと言い方ってモンが……』
『うるさいな、アンタは引っ込んでろよ』
電話口から聞こえる知らない男の声が、カゲリを人質に取ったという殺人犯だろう。どこか軟派な印象を受ける。断片的だが二人のやり取りを聞くに、人質のはずのカゲリの方が立場は上にあるらしい。霧雨篠が犯人が災難だと言っていた理由があっという間に理解できてしまった。
『まあいいや。どうせ篠に聞こうと思ってたし、手間が省けたってことにしとく』
うんざりと重い溜息を落としたカゲリは、要件を切り出した。
『コイツ、怨霊に取り憑かれてんだよ。何すればこんだけ怨まれんの? ってレベルで怨み買ってるっぽい』
コイツ、というのは人質にした殺人犯のことだろう。男は声だけでも判るほど狼狽えた。
『お、おお怨霊!? 取り憑かれてるって、オレが!? そ、そういうのはもっと早く言って』
『はぁ? 最初に言っただろ、この鶏頭。で、そんな怨み買うような何をやらかしたんだよ』
『ゔ……それは……』
しどろもどろに言い淀む男を、霧雨篠がバッサリと切り捨てた。
「殺人だろ? 池田警部達が逮捕しにきた件が原因じゃないのかい?」
『ちっ、違います! いや違くないけど、招太の件はマジでオレじゃないっす。濡れ衣っす、冤罪っす!』
泡を食って叫ぶ声は切実で、彼は本当に某招太を殺していないのだろう、と伝わってくる。ならば、彼が犯人だと疑われた資産家長男殺害は、誰の犯行によるものだろう……?
「だったら、それだけ怨まれるような何をやらかしたんだい? 怒らないから言ってごらん」
電話越しでも伝わるであろう霧雨篠の有無を言わさぬ圧力に負け、男は電話口からボソボソと自らの罪を告白した。
『じ、実は一週間前、付き合ってた彼女と言い合いになって、思わず突き飛ばしてその、こ……殺してしまって……』
全員、声を揃えて叫んだ。
「それだ!」
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