陰法師 -捻くれ陰陽師の事件帖-

佐倉みづき

文字の大きさ
92 / 165
Case.5 橋姫

貴船の鬼女

しおりを挟む
 私の実家の近くには、橋姫の伝承がある。
 宇治の橋姫――嫉妬に狂い鬼と化し、愛した男を殺した鬼女。恐ろしい執念と嫉妬心だ。しかし、共感している自分がいた。私自身、嫉妬深いタイプだからだ。
 重いと言われてフラれたことも多々あった。どうして解ってくれないのだろう。私はただ、彼の一番になりたかっただけなのに。憎い。私はこんなに尽くしているのに。彼が大事にしているもの全てが憎い。見て、私だけを見てよ!
 新しく付き合った彼氏、貴史はルックスも頭の出来も一流とは言い難い。それでも、彼ならば私を大切にしてくれる、そんな予感がした。気が弱そうだったので、こちらが強気に出れば、私だけ見てくれるはず。そんな淡い期待はすぐに裏切られた。
 貴史の浮気癖が発覚したのは、付き合い始めて二、三日経たない内だった。私という彼女がいながら、あろうことかそれを隠して合コンに参加していたのだ。
 事実を知った私が詰め寄ると、貴史は「友人に誘われて仕方なく」としどろもどろに言い訳を募り、許しを乞うた。しかしその後も懲りることなく、合コンに参加しては頭を下げ続けていた。それでも愛想が尽きることはなく、どうすれば私だけを見てくれるか試し続けた。
 けれど、今度という今度は許せない。自らの非を認めないばかりか、私を殺そうとするなんて――!
 目が覚めると、貴史の姿は消えていた。アイツは小心者だから、臆病風に吹かれて慌てて帰ったのだろう。貴史と揉み合ってから、いったいどれくらいの時が経っていたのか。突き飛ばされて強かに頭を打ちつけたため、思考が定まらない。けれども、頭の中は貴史への憎悪でいっぱいだった。今すぐにでも殺しに行く。私はフラつく足を引き摺りながら外へ出た。
「あれ、木船さんどうしたの? 怪我してるみたいだけれど、大丈夫?」
 貴史のアパートに向かう途中、声を掛けられた。確か、貴史の友人だという青沼だ。お金持ちのボンボンだと聞いていたが、私は貴史以外の男に興味はなかった。
「もしかして、また喧嘩でもした? そりゃあ確かにアイツはだらしないけれど、根は良い奴だからさ。大目に見てあげてくれると嬉しいな」
 何も知らない青沼は、呑気にへらりと笑った。まるで自分が一番貴史を理解しているような口振り――殺してやろうと思った。私より大事な友達いちばんなんて、貴史には要らない。そうでしょう?
 気づくと、青沼は血溜まりに倒れ臥していて、私の手には血塗れの包丁が握られていた。この包丁は以前、貴史が私の部屋で簡単な手料理を振る舞ってくれた時に使ったもの。貴史の物は大事に大事に取っておいた。そうだ、これで貴史を殺そうと家から持ち出したんだった。でも、もう要らない。貴史じゃない男の血で汚れたモノなんて必要ないの。
 愛しにくい貴史。いとしい貴史。もうすぐ殺しに行くから待っててね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

睿国怪奇伝〜オカルトマニアの皇妃様は怪異がお好き〜

猫とろ
キャラ文芸
大国。睿(えい)国。 先帝が急逝したため、二十五歳の若さで皇帝の玉座に座ることになった俊朗(ジュンラン)。 その妻も政略結婚で選ばれた幽麗(ユウリー)十八歳。 そんな二人は皇帝はリアリスト。皇妃はオカルトマニアだった。 まるで正反対の二人だが、お互いに政略結婚と割り切っている。 そんなとき、街にキョンシーが出たと言う噂が広がる。 「陛下キョンシーを捕まえたいです」 「幽麗。キョンシーの存在は俺は認めはしない」 幽麗の言葉を真っ向否定する俊朗帝。 だが、キョンシーだけではなく、街全体に何か怪しい怪異の噂が──。 俊朗帝と幽麗妃。二人は怪異を払う為に協力するが果たして……。 皇帝夫婦×中華ミステリーです!

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...