127 / 165
Case.8 通り悪魔
連続通り魔事件
しおりを挟む
御崎署の管轄内では近頃、通り魔事件が頻発していた。止められない犯行に世間からのバッシングは止まず、署内の空気は張り詰めている。
そんな彼らを嘲笑うように、通り魔は新たな凶刃を振るった。最新の事件の犯人は未だ捕まっておらず、捜査員達の顔をますます険しくしている。
「自分、許せないっす。通り魔の奴ら、誰でもよかった、魔が差しただなんて……そんな言い訳が通じるとでも思ってるんですかね?」
神崎の隣で、後輩の霜月純二が憤慨していた。彼は御子柴が移動になってから配属された若手の警官で、御子柴と同等――否、それ以上の熱血漢だった。通り魔の身勝手な言い分にカッカと憤る霜月を神崎は宥める。
「まーまー霜月、そないアツくならんといてや。部屋の温度まで暑なってまう」
「なりませんよ! 先輩、明らかにおれ達舐められてますよ。おれは悔しいです」
「まあ、な……」
霜月がいきり立つのも無理はない。新たな凶刃に倒れたのは現職の警察官。警察への挑発としか思えない。
被害に遭った警察官の名は御子柴悟。本庁に設られた特務部署〈特殊怪奇捜査班〉の若手捜査官である。幸運にも刺されてすぐに目撃者によって病院に搬送されたこと、また傷は急所は外れていたために命に別状はなく、医師によるとひと月も療養すれば問題なく社会復帰できるとの診断だった。
「おれは御子柴さんとは入れ違いだったから詳しくないんですけど、先輩は仲良かったんでしょう? 悔しくないんですか」
「そら腹立つよ。せやけど、ここでジタバタしても御子柴ちゃんの傷が治る訳やないし。僕らは僕らにできること一個ずつ片づけるだけや」
自分自身に言い聞かせるように言い含めた時。入り口がにわかにざわめいた。
「邪魔するよ」
波を割ったモーセの如く室内の刑事達を左右に散らし、ハイヒールを高らかに鳴らしながら現れたのは、
「やあ、神崎クン久しぶりだね。いや、そうでもないかな?」
白い面に妖艶な笑みを湛えた、女狐であった。
「霧雨篠……」
「先輩、誰ですか? この美人さん」
怪訝そうな霜月が小声で訊ねてきた。彼は警察学校を卒業して一年ほどの新米。御崎署に配属される前は交番勤務だったため、特怪の噂も当然耳にしたことがないだろう。今では立派な特怪の捜査員である御子柴も、最初は呆気に取られていたことを思い出す。
神崎はすかさず剥がれかけた道化の仮面を被り直した。
「誰かと思えば特怪の班長さんじゃないですか。どないしたんです、こんな辺鄙なところまでわざわざ足を運んでくださるなんて珍しいこともありますね。槍でも降るんちゃいますか?」
「生憎、今は手足が足りなくてね。率直に、キミの力を借りたい」
「ボクですか? いやー、そうしたいのは山々ですけどね、ボクなんかで特怪の力になれるかどうか」
やんわりと断ったつもりだったが、霧雨篠には通用しない。襟首を掴まれ、力任せに引きずられた。華奢な体躯ながら、意外と力が強い。
「御託はいい、借りていくよ。キミの上司には話は通しているから心配は無用だ」
「はぁー、根回しが早いんですねえ。流石、権謀術数に長けてらっしゃる」
「ちょ、せんぱーい!?」
霜月の慌てる声など気にも留めず、霧雨篠は神崎の首根っこを掴んだまま御崎署を後にした。
そんな彼らを嘲笑うように、通り魔は新たな凶刃を振るった。最新の事件の犯人は未だ捕まっておらず、捜査員達の顔をますます険しくしている。
「自分、許せないっす。通り魔の奴ら、誰でもよかった、魔が差しただなんて……そんな言い訳が通じるとでも思ってるんですかね?」
神崎の隣で、後輩の霜月純二が憤慨していた。彼は御子柴が移動になってから配属された若手の警官で、御子柴と同等――否、それ以上の熱血漢だった。通り魔の身勝手な言い分にカッカと憤る霜月を神崎は宥める。
「まーまー霜月、そないアツくならんといてや。部屋の温度まで暑なってまう」
「なりませんよ! 先輩、明らかにおれ達舐められてますよ。おれは悔しいです」
「まあ、な……」
霜月がいきり立つのも無理はない。新たな凶刃に倒れたのは現職の警察官。警察への挑発としか思えない。
被害に遭った警察官の名は御子柴悟。本庁に設られた特務部署〈特殊怪奇捜査班〉の若手捜査官である。幸運にも刺されてすぐに目撃者によって病院に搬送されたこと、また傷は急所は外れていたために命に別状はなく、医師によるとひと月も療養すれば問題なく社会復帰できるとの診断だった。
「おれは御子柴さんとは入れ違いだったから詳しくないんですけど、先輩は仲良かったんでしょう? 悔しくないんですか」
「そら腹立つよ。せやけど、ここでジタバタしても御子柴ちゃんの傷が治る訳やないし。僕らは僕らにできること一個ずつ片づけるだけや」
自分自身に言い聞かせるように言い含めた時。入り口がにわかにざわめいた。
「邪魔するよ」
波を割ったモーセの如く室内の刑事達を左右に散らし、ハイヒールを高らかに鳴らしながら現れたのは、
「やあ、神崎クン久しぶりだね。いや、そうでもないかな?」
白い面に妖艶な笑みを湛えた、女狐であった。
「霧雨篠……」
「先輩、誰ですか? この美人さん」
怪訝そうな霜月が小声で訊ねてきた。彼は警察学校を卒業して一年ほどの新米。御崎署に配属される前は交番勤務だったため、特怪の噂も当然耳にしたことがないだろう。今では立派な特怪の捜査員である御子柴も、最初は呆気に取られていたことを思い出す。
神崎はすかさず剥がれかけた道化の仮面を被り直した。
「誰かと思えば特怪の班長さんじゃないですか。どないしたんです、こんな辺鄙なところまでわざわざ足を運んでくださるなんて珍しいこともありますね。槍でも降るんちゃいますか?」
「生憎、今は手足が足りなくてね。率直に、キミの力を借りたい」
「ボクですか? いやー、そうしたいのは山々ですけどね、ボクなんかで特怪の力になれるかどうか」
やんわりと断ったつもりだったが、霧雨篠には通用しない。襟首を掴まれ、力任せに引きずられた。華奢な体躯ながら、意外と力が強い。
「御託はいい、借りていくよ。キミの上司には話は通しているから心配は無用だ」
「はぁー、根回しが早いんですねえ。流石、権謀術数に長けてらっしゃる」
「ちょ、せんぱーい!?」
霜月の慌てる声など気にも留めず、霧雨篠は神崎の首根っこを掴んだまま御崎署を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
睿国怪奇伝〜オカルトマニアの皇妃様は怪異がお好き〜
猫とろ
キャラ文芸
大国。睿(えい)国。 先帝が急逝したため、二十五歳の若さで皇帝の玉座に座ることになった俊朗(ジュンラン)。
その妻も政略結婚で選ばれた幽麗(ユウリー)十八歳。 そんな二人は皇帝はリアリスト。皇妃はオカルトマニアだった。
まるで正反対の二人だが、お互いに政略結婚と割り切っている。
そんなとき、街にキョンシーが出たと言う噂が広がる。
「陛下キョンシーを捕まえたいです」
「幽麗。キョンシーの存在は俺は認めはしない」
幽麗の言葉を真っ向否定する俊朗帝。
だが、キョンシーだけではなく、街全体に何か怪しい怪異の噂が──。 俊朗帝と幽麗妃。二人は怪異を払う為に協力するが果たして……。
皇帝夫婦×中華ミステリーです!
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる