陰法師 －捻くれ陰陽師の事件帖－

Case.8 通り悪魔

聴取

　神崎の前に腰掛ける男の名は伊勢崎イセザキ。地味で目立たない風体だが、傷害の容疑で逮捕された通り魔の一人だ。彼は登校中の小学生数名を刃物で切りつけて負傷させ、通報を受けて駆けつけた警察官に現行犯逮捕された。
　所在なげに貧乏ゆすりをする伊勢崎の前にタブレット端末を差し出し、とあるページにアクセスする。繋がった先は殺人依頼のダークウェブ。以前霧雨篠に見せられたサイトだ。
「このサイトに見覚えは？」
「何ですか、それ。知りません」
「とぼけるなや。お前が利用してた証拠は上がっとんねん。魔が刺した言うんは嘘やろ。この書き込み通りに犯行に及んだ。違うか？」
　はったりをきかせて神崎が凄むと、伊勢崎は開き直ったのか自白し始めた。
「全くもって便利な時代っすよね。利害が一致してる奴らが簡単に繋がれるんだ。俺、昔から自分がおかしい奴じゃないかって悩んでて。でも、俺が必要とされてる場所がある。それがすげー嬉しくて。世間に理解されなくても、俺は英雄になれる。誰かの役に立ってるんだ、って思えて勇気が貰えましたよ」
　聞いてもいないことをペラペラと喋る伊勢崎の目が熱を帯びてきた。これで捕まった通り魔全員が例のサイトの利用者だった裏付けが取れた。
「自分、誰でもよかった言うてたやろ。そんならコイツを狙おうとは思わなかったん？」
　神崎がページをスクロールして見せると、伊勢崎は鼻で笑った。
「嫌だなぁ、こう見えて俺ってば堅実なタイプなんですよ。警察なんかに手は出しませんって。返り討ちに遭って捕まるのがオチでしょ」
「あっそ。それ、自分より弱い奴にしか強く出られへんダサい人間や言うてるのと同じやで。そもそも自分、捕まってブタ箱行き確定やし、そんなんでイキってカッコ悪ない？」
「何だと……！　もう一度言ってみろよ！」
　激昂した伊勢崎が掴みかかってくる。調書を取っていた警官が慌てて止めに入り、どうにか事なきを得た。
　神崎は舌打ちした。この男に八つ当たりしたとて仕方がないのは解っている。単純に苛立っているのだ。
「お疲れ様」
　聴取を終えて特怪が陣取る倉庫オフィスに向かうと、霧雨篠の妖艶な笑みが出迎えた。人使いの荒いこの女は、神崎が抱える苛立ちなど微塵も気にしないだろう。
「霧雨さんの言う通り、通り魔の連中は全員サイトの利用者でしたよ。そんで、例の依頼はみーんなビビってやりたがらなかったみたいです。あのサイトの利用者で実行できそうな人間いないんちゃいます？」
　件のサイトに入り浸っていた通り魔連中は大口こそ叩くが小心者ばかりだ、と神崎は感じた。そんな人間が現職の警察官を襲えるとは思えない。