ミスティツインズ 神秘の国の対の魔法使い

レエ

文字の大きさ
10 / 43
少年期 - 魔法使いの卵たち ‐

引っ越し

しおりを挟む
「アリエル様、ヤギがいっぱいいるよ」
「いっぱいだね。あの丸っこいのは何だろう」
 ヤギより大きいふわふわが鎮座している。
「坊や達。あれは地蔵ウサギだよー」
「地蔵ウサギっ。ありがとう、お姉さん」

 アリエルとアッシュは引っ越しの荷物と共に、馬車に乗っていた。
 ミスティアの国境付近の関所を出て、今日で十日だ。

 ミスティアでは浮遊魔法の許可を取ったので早く移動できたが、ミスティアとリリアンクの間にある小国三つでは許可が出ず馬車での移動となった。
 大荷物を浮かせる魔法だけは、高さ制限を守ることを条件にどうにか許可が出た。

 初めての外国。初めての景色。
「素敵な場所だねぇー……」
「風車ぐるぐる」
「水車コロコロ」
 しかし何日も山と森と草原を眺めるのは、さすがに暇である。
 アッシュと二人で手を握り合い、魔力生成の修行に明け暮れた。

「魔法の練習ー? 頑張ってるねっ」
 休憩に入るとお姉さんが飴をくれた。
 お姉さんも魔法使いだ。
 魔力を視ると解析魔法が得意そうなので、ちょっと緊張する。
(アッシュの呪印、見破られないかな)
 解析魔法の話を聞いてみたかったけど、関わるのは避けている。
 でも飴美味しー。

 それとアリエルは儀式魔法の話で出てきた『魔力の保持』について考えていた。
(魔力……魔素の塊の【魔石】でもいいのかな)
 高級な魔法道具には魔石が付いていることがある。
 濃い魔素が近くにあることで、魔力を作りやすくなるのだ。
(でも魔石って人工的に作れないって本に書いてあった。それにそれだと魔法を発動する時は、魔素から魔力を一気に生成することになる。結局その場にいる魔法使いや魔力持ちの能力に縛られるから、超越ってほどの力は出せそうにない気がする)
 【魔石】は主に鉱山や海底で採れる。
 安定状態の魔素が固まった【魔石】ではなく、活性状態の魔力が固まった【魔石のようなもの】がどこかに存在しないのだろうか。
 そして儀式魔法はどうやって人工的に魔力を溜めているのだろうか。

「むー……」
 アリエルだけでは情報不足だ。
 専門書を読んだり、専門家に訊いてみたい。
「どうしたの」
「早くリリアンクに着くといいなあと思って」
 儀式魔法について知ることは、アッシュに掛けられた魔法を解呪するのにきっと役に立つ。
「そうだね。どんな食べ物があるのかなあ」
 農園の果樹に色づく実を眺めながら、アッシュは思いを馳せていた。



 リリアンクの国境の町で馬車から降りた。
「リリアンクでは浮遊魔法の許可出るはずだよー。君、多分相当速いでしょ。じゃあ、私は魔法車に乗るから。バイバイ」
「さようなら」
 お姉さんは大きな荷物を軽々と背負った。
「怪力の魔法だ」
 近くにいたアッシュがその魔力を見分けた。
「さすがリリアンク。早速魔法使いに会っちゃったね」



 リリアンク国に入って一日半。
「わあ。これからここで暮らすんだ」
 オレンジ色の明るい屋根が並ぶ広大な街。
 中でも目を引くのは、紫紺の屋根の建造物群。中央に向かって天高く伸びる姿は、おとぎ話の城のよう。
「あれが魔法学園」
 アリエルとアッシュの新たな学び舎だ。



 リリアンク国の首都は、街の名前も『リリアンク』または『リリアンク市』という。
 遥か昔、この地で都市国家として興ったリリアンク国は、その高い魔法技術で周辺の町村の守護者となり、やがて大国となった。

 一風変わった政治体制で、国の行政機関が学園の敷地内にある。
 さらに学園の最高位研究者【マスター】になると、自動的に国の最高意思決定機関である議会の議員になる。
 他に地区から選挙で選ばれた議員もいる。
 だがおおむね魔法使いの合議で国を治めているといえるだろう。



「リリアンク市へようこそ」
 北の街道から門をくぐってキョロキョロしていると、役人が近づいてきて朗らかに挨拶してくれた。
 門といっても、そもそも街を守る城壁がない。
 どこから街に入ってもいいそうで、アリエル達のように右も左も分からない者にだけ案内しているそうだ。
 市内での魔法制限や、魔法学園の受付への道順を教えてくれた。

「中学から留学だって? すごいなあ。北側はあまり見所がないから、まずは魔法学園で手続きするといい。それから南でしばらくの宿を取るといい」

 見所がないと言われたが、重厚なミスティアとも、通ってきた牧歌的な三国とも違う。
 活気がある豊かな街だ。

「学園行き魔法シャトル、発車します」
 魔法車というものに初めて乗りこんだ二人。
 この魔法車はレールを利用しているので魔法レールというそうだ。
「レールって? あっ」
「道が!」
 車の進行方向の大通り。
 結界がせり上がってきて歩行者の進入を防ぐ。
 その道を一気に魔法車で通り抜けた。

 魔法車は地下を通り、学園の南――正門側へアリエル達を運んだ。
 教えられた地下駅で降り、地上に出る。
「わあ」
「これ、全部学校なの?」
 出た場所は青空がいっぱいに見える大きな広場だった。
 石畳に噴水。芝生に整備された木々。向こうの方には簡素な市場や舞台があり、たくさんの人が行き来している。
 そして広場の北と東西には大きな建物。南には正門と思わしき門がある。
 アリエルは学校案内の簡易図を確認する。
「北の一番大きいのが魔法学園の中心。本課程や研究室群。東が中等部と初等部。西が官庁だって」
「じゃあ東だね」
「北も行ってみたいね」



 中等部の受付で、手続きをお願いする。
「君がミスティアのアリエル・ハロウ君!」
「? はい」
「い、いえ。ではあちらで申請された魔法能力の確認をしますね。あ、大きい荷物は預かります」
「ありがとうございます」
 アリエル達が荷物を置く間、奥の職員が魔法道具らしきものに何やら話しかけていた。
「来たよ! 皆集まって!」


 広い場所に出て、まずはアッシュの魔力生成の確認をした。
 なんだか段々周りに人が多くなっていく。

 次はアリエルの番だ。
 指定された魔法を次々に放っていく。

「雷魔法。……クリア」
「治癒魔法。……クリア」
「嘘だろ……。本当に『初級魔法教本』の二十七種使えるなんて」
「あれって系統でいうといくつ? 複合要素もあるよね」
「知らねえよ。それで論文書けるよ」
 魔法使い達が難しい顔で額を突き合わせている。
「あの、僕何か変ですか」
 おずおずと訊く。

「貴方達。子供を不安にさせないの」
 ふいに女性の声が響いた。

 四十歳くらいだろうか。上品な印象の女性が立っていた。
 シンプルな紺のドレスが、いかにも魔女という風体。
 魔力を視ると感知魔法が得意そうだ。
「はじめまして。学長のダリアです」
「学長さんっ。はじめまして」
「騒がしくてごめんなさい。あの教本の全ての魔法を習得した人なんていないから気になってしまったの」
「えっ。でもあれって『初級魔法』ですよね」
「あれは魔法使いが初めて発動する可能性のある魔法をできるだけ多く載せた本よ。普通はあの中の一つを発動したら、同じ系統の魔法の習得に専念するものなの」
「……?」
「魔法の適性というのはとても貴重なの。ここに集まったのは魔法学園のマスターや研究員。その魔法適性の平均数は、二系統よ」
「二系統……」
 系統というのは、例えば火の魔法でいうと小さな火の玉を出すのと、巨大な火柱を出す魔法は、違う魔法だが同じ系統だ。
「あなたは少なくとも二十の系統の適性があるわ」
「ええっ!」

「さあ、能力の確認はできたのだから、解散」
「えっ。どうしてこんなことが可能なのか聞きたい……」
「この子達は今日市内に着いたのよ。また今度」
 驚きに固まっているアリエルと得意げなアッシュは、事務員に促されて移動する。

 集まった人達はまだアリエルに注目している。
「あのハニアスタさんの孫なんだよな」
「魔法の才能って遺伝しないのに。天才から一つおいて天才ってありえる?」
「去年もノザン先生の子がいたが……」
「神秘の国ミスティアの方に何か秘密があるんじゃない」

『秘密』という声が聞こえてドキッとした。
 覚られないよう様子を窺う。
 アッシュの鎖骨の呪印は、アリエルの魔法で魔力を見抜かれないように隠蔽している。
 だがこんなにたくさんの魔法使いに囲まれながら試験するとは思っていなかった。
(アッシュに注目している人は……いない。よかった)

 可愛いアッシュのリリアンクデビューだから、もっとちやほやしてほしくもあるけど。
 魔法使い相手だ。油断できない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

隊長さんとボク

ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。 エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。 そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。 王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。 きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。 えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

美しい世界を紡ぐウタ

日燈
BL
 精靈と人間が共に生きる世界。  “ウタ”を紡いで調和をもたらす、カムナギという存在がいた。  聖界から追放された一族の末裔である少年、リュエルは、 “ウタ紡ぎ” として独自の活動をする日々の中、思いがけずカムナギを育成する学び舎への招待状を渡される。  意を決して飛び込んだそこは、貴族ばかりの別世界。出会いと波乱に満ちた学生生活の幕が上がった。  強く、大らかに開花してゆくリュエルの傍には、導き手のような二人の先輩。ほころんだ心に芽生えた、初めての想いと共に。  ――かつて紡がれた美しい世界が、永久になるまで。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

姉の聖女召喚に巻き込まれた無能で不要な弟ですが、ほんものの聖女はどうやら僕らしいです。気付いた時には二人の皇子に完全包囲されていました

彩矢
BL
20年ほど昔に書いたお話しです。いろいろと拙いですが、あたたかく見守っていただければ幸いです。 姉の聖女召喚に巻き込まれたサク。無実の罪を着せられ処刑される寸前第4王子、アルドリック殿下に助け出さる。臣籍降下したアルドリック殿下とともに不毛の辺境の地へと旅立つサク。奇跡をおこし、隣国の第2皇子、セドリック殿下から突然プロポーズされる。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【大至急】誰でもいいので、魔王からの求婚を穏便に断る方法を教えてください。

志子
BL
魔王(美形でめっちゃピュア)×聖職者(平凡)のお話。 聖女の力を持っている元孤児ロニーは教会で雑用をこなす日々。そんなロニーの元に一匹の黒猫が姿を現し、いつしかロニーの小さな友人となった。 注意)性的な言葉と表現があります。

処理中です...